再興感染症としての結核対策確立のための研究

文献情報

文献番号
200200608A
報告書区分
総括
研究課題名
再興感染症としての結核対策確立のための研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
森 亨(財団法人結核予防会結核研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 坂谷光則(国療近畿中央病院)
  • 高鳥毛敏雄(大阪大学医学部)
  • 御手洗聡(結核予防会結核研究所)
  • 山岸文雄(国療千葉東病院)
  • 川城丈夫(国療東埼玉病院病院)
  • 山下武子(結核予防会結核研究所)
  • 高松 勇(大阪府立羽曳野病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
52,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
結核対策の抜本的な見直しが検討されている現時点にあって、結核の21世紀早期の根絶を達成するための具体的な方策を立案するための基礎となる所見を得ることを目的として以下の点について研究を行う。①社会経済弱者における結核対策の強化、②地域類型別日本版DOTS普及のための基礎研究、③結核菌検査の精度管理、④結核診療の向上、⑤結核患者管理制度・発生動向調査事業の今後のあり方、⑥BCG接種の精度管理、⑦国立病院・療養所呼吸器ネットワークを利用した多剤耐性結核に対する標準治療方式の確立、⑧結核菌の薬剤耐性全国サーベイ。さらに今年度は最終年度として、平成14年3月の厚生科学審議会結核部会報告(結核対策の包括的見直しに関する提言)をより具体的なものにする方向で総合的な検討を行う。
研究方法
厚生科学審議会提言の具体化にあたっては分担研究者及び研究協力者による2日間のブレーンストーミングを開催。個別の分担課題については以下の通り.○社会経済弱者:研究協力者として主要都市・県・保健所等の結核対策担当者を招き、それぞれの実践を批判的にまとめ、一部介入的研究を実施、一部の市では患者の結核菌RFLP分析を実施。○日本版DOTS:先進的に実施している地域の成績の検討といくつかのモデル地域での試行と検討。全国県市の結核担当者による全国結核対策推進会議を開催。○結核菌検査精度管理:文献調査及び識者面談。○結核診療の向上:3国療の患者の調査・解析。胃切除の結核リスクに関して症例対照研究を実施。結核感染診断について新たな細胞免疫診断法(第二世代QuantiFERON)を全国5病院、4看護学院・大学の協力の下、患者及び学生を対象として試行。○患者管理制度・発生動向調査事業:発生動向調査年報報告ファイルの再集計、および発生動向調査事業保健所担当者の意見調査。○BCG接種精度管理:いくつかの市町村・保健所のBCG接種担当者による調査と検討。集団感染の実例にもとづく詳細な疫学的検討。○国立病院・療養所呼吸器ネットワーク:傘下施設54病院で治療中の多剤耐性結核患者の実態を調査、主要12施設からは個別の問題に関する検討。宿主要因に関し、このような施設から求めた患者血液検体を用いた免疫学的研究。○薬剤耐性サーベイ:結核病床保有全400施設に呼びかけ、うち90施設から積極的な参加を得た。収集した菌株は結核研究所で同定を行い、標準的方法で薬剤感受性検査を行う。
結果と考察
厚生科学審議会提言の具体化については、その検討結果を研究班「中間報告」として厚生労働省に提出した。個別の分担課題の結果は以下の通り。○社会経済弱者:(1)今年度はホームレスを越えてより広範な都市の貧困者層(建設労働者等)について実態と対策を検討した。いくつかの大都市部では特別検診(建設作業員の飯場検診、冬季臨時宿泊施設検診、第2種社会福祉施設検診、要保護傷病者検診など)が取り組まれ、1~8%という非常に高発見率を挙げている。 (2)都市社会経済弱者の結核分子疫学から、彼らの結核菌株のクラスター形成率は特に高くなく、感染伝播が現今の患者多発には直結していないようである。ある市の地域結核分子疫学から、複数の風俗営業店で目下進行している大規模な結核発生が集団感染による部分が大きいことが示された。○日本版DOTS普及:医療による直接服薬確認(DOT)およびその他の方策も援用して患者の規則的受療を確保する体制づくり(日本版DOTS)を具体化すべく、定式化した。これは結核感染症課長通知(結核対策
の推進強化について.健感発第0220001号、平成15年2月21日)として全国に通知された。○結核菌検査精度管理:結核菌検査を担う民間検査所における結核菌検査に対する公的な外部精度管理を導入し活用するための方法論と中心とした基礎研究を行った。○結核診療の向上:(1)標準治療終了後の再発・再治療に関する専門病院の症例の臨床疫学的観察から、最近の治療終了後の再発率は決して高くないが、再発患者は多く初回治療不規則治療、生活の乱れといった社会的関連要因をもつ。今後かかる問題をもつ者が増加することに鑑み、規則的治療の確保がますます重要となる。発病リスク要因の一つとされる胃切除既往の発病リスクは2~6倍であった。(2)結核感染の診断に関し第二世代QuantiFERON-TBは感度89%、特異度98%という優れた診断特性をもっており、すでにいくつかの集団感染事例において、BCG接種歴に影響されない結核感染診断の手段としての有効性を示唆する。○患者管理・発生動向調査:履歴情報のあり方、登録後非結核と判明した登録者の扱い、登録経過中他の治療区分が変更になった者(悪化のため治療方式を変更、治療終了後再発、マル初後発病等々)のシステム上の扱い、業務監査資料を作成する機能の付与やビジブルカードの完全代替の可能性などを含め、システム改訂に向けた提言を作成した。○BCG接種の精度管理:BCG接種前のツベルクリン反応の強さと接種直後の局所反応は相関するが、接種後8週でほとんど一様になり、この点では直接接種の安全性が示唆される。瘢痕個数による接種技術評価を東京都内22地区で実施したところ地域差が大きく、接種医を固定している地区では技術は優れていた。最近の小児結核85例の65%で感染源が特定でき、また30%が予防可能例であった。○国立病院・療養所呼吸器ネットワーク:ネットワークに登録されている多剤耐性結核患者368人中62人が入院していないことが知られ、管理上の問題を提起している。たまたま3施設にわたり発生した多剤耐性結核の院内感染とあわせ、かかる患者の管理に関して検討を行った。患者の宿主要因に関して既に本研究で明らかにされたリンパ球グラニュライシン活性の低下に関して遺伝学的な解析を進めた。さらに結核患者の血清中のKsp37(killer secretary protein 37)について解析中である。○薬剤耐性全国サーベイ:1960年代からの継続サーベイを1997年に引き続き実施した。全国90結核施設が参加し、患者3,813人が登録され、うち2,467株が結核研究所に送付され、目下薬剤感受性検査が進行中。
結論
これまでの本研究の知見を厚生科学審議会の提言に対応させて整理した「中間報告」は直接国の対策立案に還元できた。その他の主要分担課題の結論は以下の通りである。○社会経済弱者:今後の対策強化のため大都市部保健所が公衆衛生機関として事業計画・推進能力を向上させることが最重要課題。同様に保健所管轄域を超えた都市圏単位の結核対策の推進が重要。結核感染の連鎖を遮断するため発見患者への確実な治療とともに結核菌株情報に基づく措置(接触者対応と発病予防治療など)が必要。○結核診療の向上:短期化学療法時代の「再発」の問題が明らかになり、その適切な予防(DOTSの推進)、対応(不要な治療終了後管理の廃止や再治療開始時の正確な薬剤感受性など)の強化が重要。結核感染診断法としてQuantiFERONの価値が本研究で証明された。○BCG接種の精度管理:既接種者の瘢痕観察による接種技術評価は十分ひろく実施可能である。小児結核症例の検討や集団発生例の分析結果は接触者対応のあり方(ガイドライン)の補強の根拠とすることができる。再接種を廃止したフィンランドの経験に関する文献調査結果は関係先に配布の予定。○国病・国療ネットワーク:外来管理中の多剤耐性結核患者が少なくないことと併せて、かかる患者の収容に関する従来の方針を見直す必要がある。MDR結核の宿主要因に関しては、末梢血グラニュライシン定量が患者の予後指標となる可能性がある。

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