感染症診断・検査手法の精度管理並びに標準化及びその普及に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200605A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症診断・検査手法の精度管理並びに標準化及びその普及に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤一夫(福島県衛生公害研究所)
  • 今井俊介(奈良県衛生研究所)
  • 林皓三郎(神戸市環境保健研究所)
  • 田中智之(堺市衛生研究所)
  • 荻野武雄(広島市衛生研究所)
  • 兒嶋昭徳(名古屋市衛生研究所)
  • 井上博雄(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 宮崎豊(愛知県衛生研究所)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所)
  • 田代眞人(国立感染症研究所)
  • 宮村達男(国立感染症研究所)
  • 渡辺治雄(国立感染症研究所)
  • 倉根一郎(国立感染症研究所)
  • 佐多徹太郎(国立感染症研究所)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所)
  • 遠藤卓郎(国立感染症研究所)
  • 牧野壮一(帯広畜産大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年感染症は国民の健康にとり益々大きな脅威となっている。感染症の発生情報を正確に把握しその結果を国民や医療関係者に的確に提供することは感染症の制圧に向け最も重要な方策の一つである。新たに施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」においては、73疾患について報告が義務づけられている。診断にあたっての臨床所見の重要性は言うまでもないが、血清および病原体診断の確定診断における持つ意義は大きい。血清や髄液中の特異抗体を調べる方法としてELISA、HI法、中和法等が用いられるし、一方病原体診断においても病原体分離やPolymerase chain reaction(PCR)等種々の方法が用いられる。しかし診断方法の選択は施設ごとに異なっている場合が多い。さらに同様の方法を用いていたとしても多くの場合全国的に標準化されたものではなく、精度、特異性やレファレンスは施設ごとに異なっていることが多い。このことは種々の感染症の発生に関する情報の信頼性を損なうことにもなりうる。本研究においてはこのような問題を解決するために上記73疾患を中心として以下を目的として行うものである。1)各感染症に対する血清および病原体診断法を確立、あるいは再検討する、2)広く行われている診断・検査法については標準化、精度管理のシステムを構築する、3)診断・検査法を全国的に普及させるための基礎資料を作製する、4)検査法マニュアル作製の基礎資料を作り一部のマニュアル(第1版)を作成した。以上のように本研究は感染症の診断・検査をとおしてその制圧に直接的に関わるものである。従って国民の保健・医療の向上に大きく貢献する。
研究方法
本研究は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に含まれる疾患及び新たな感染症のうち診断・検査法の開発、精度管理と標準化が遅れているものを対象として次の点を目的として行うものである。1)各感染症の血清、病原体診断法を確立する、2)診断・検査法について標準化、精度管理のシステムを構築する、3)診断・検査法を全国的に普及させるため技術研究会のシステムを構築する、4)診断・検査法については感染研、地方衛生研究所、病院検査室、大学医学部、民間検査機関で共通の方法で検体が扱えるよう技術の普及をはかる、5)上記の検査法の開発、改良に基づいて感染症の診断・検査マニュアルの作製に役立てる。
1)感染症患者・病原体サーベイランスについて:サーベイランス情報の収集、まとめてその還元を行っているが、情報としてより有益な出し方等について検討し、また検査法に関する講習会(感染症危機管理研修会、診断技術向上連絡会議)実施を効率的に有効に行う。
2)診断・検査法の開発、再検討に関する研究:感染研、地研の担当者により病原体診断法、血清診断法(感染症新法に含まれるもの、含まれないもの)の確立、また従来法の再検討を行う。対象ウイルスはエンテロウイルス(分子生物学的診断)、単純ヘルペスウイルス(角膜ヘルペス)、アデノウイルス(血清診断、核酸診断法比較)、エーリキア(血清診断と遺伝子解析)、デングウイルス(中和法の確立)、チクングニヤ、セントルイス脳炎、西・東部ウマ脳炎、ベネズエラウマ脳炎〔IgM捕捉ELISA法の確立〕、プリオン(血中の抗プリオンモノクローナル抗体との反応物質の確認、測定法の確立、CJD患者材料での検出系の確立)、ノーウォーク様ウイルス(EIAに用いる反応性の強い単クローン抗体を選択する)、レンサ球菌(遺伝子を用いたM型分類の現場での応用可能性を検討する)
3)検査法の標準化と普及:研究成果を全国関連機関に普及すべき試みる。①感染性下痢症病原体検査法の標準化②炭疽菌検査法の標準化
倫理面への配慮:ヒト検体を使用する場合は、研究の目的、方法、研究対象者の不利益、危険性とその排除について十分説明し、インフォームドコンセントを得た上で行う。
結果と考察
1)血清型が異なる15種類のノーウォークウイルス中空粒子を作製し抗体及び抗原検出系を構築した。
2)E型肝炎ウイルス及びBKウイルスの中空粒子を作製し抗体及び抗原検出系を構築した。
3)無菌性髄膜炎患者検体から分離された型別困難ウイルスをRT-PCRによる増幅産物VPIの遺伝子解析を行い、その結果からEcho-13とのホモロジーを得、中和試験で同定しえた。これにより検査の迅速化が促進しえた。
4)コクサッキーB5による無菌性髄膜炎から分離されたウイルス20株をPCR法とRFLP法の組合せによりこれらが同一遺伝子配列で構成されていることを明らかにした。
5)広島市でアデノウイルス22型が21株分離されたがそれらは当初8,19,37型と誤同定、あるいは同定困難であったが遺伝子解析により一部分がいずれもリコンビナント株であることを明らかにした。
6)エーリキア症診断に必要な抗原を得るためE.murisの培養系を確立した。またPCR法で媒介ダニからE.murisを検出した。
7)包括的感染性胃腸炎病原体検査プロトコールを提示し、それにない検査結果を得、有意な疫学情報となることがわかった。
8)手足口病及びヘルパンギーナ患者から分離されたエンテロA群ウイルス53株の構造蛋白遺伝子翻訳開始部から400塩基の系統樹解析を行いそれぞれの血清型と一致したグループに分類した。
9)麻疹IgM抗体の簡易測定法を開発した。
10)インフルエンザHI抗体測定法をWHO方式による表示に変更し普及したが、用いる赤血球により凝集性が大きく異なりその標準化も今後必要である。
11)ウエストナイル熱診断のためのPCR用プライマー、IgM捕捉ELISAを作製し特異性を確認した。この2つを組み合わせることにより発症からの時期によらず実験室診断が可能になった。
12)レンサ球菌の型別に約160bpのemm遺伝子部分をPCRで増殖させ塩基配列を決定したところemm遺伝子の多様性が見られた。凝集反応で決めた型別と遺伝子配列で決めたM型別が一致した。
13)テロ用に炭疽菌を培養した現場洗浄液からPCR法で菌遺伝子を検出した。
結論
病原体の検出とその解析技術は日進月歩の状態であることは上記の結果をみても一目瞭然である。かなり完成度の高い状況の診断法については次々とマニュアル化し、全国で同一基準で測定した結果を抗体、遺伝子等につき比較可能となるようにする必要がある。今後は病院の診断の大部分を分担している民間検査センターを含めて検査法を標準化し、普及させる必要がある。また時代の技術の進歩に応じマニュアルを改定するべきである。

公開日・更新日

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