動物由来感染症対策としての新しいサーベイランスシステムの開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200601A
報告書区分
総括
研究課題名
動物由来感染症対策としての新しいサーベイランスシステムの開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 喜田 宏(北海道大学)
  • 辻本 元(東京大学)
  • 神山恒夫(国立感染症研究所)
  • 渡邉治雄(国立感染症研究所)
  • 倉根一郎(国立感染症研究所)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所)
  • 高山直秀(都立駒込病院)
  • 井上 智(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
21,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会の高齢化に伴い、伴侶動物の重要性が強調されており、高齢者における動物飼育が増すことが予想される。一方、開発に伴う自然生態系の変化やアウトドアブームなどにより、野生動物や節足動物とヒトとの接触の機会が増してきている。また感染症法で挙げられている感染症の多くが動物由来感染症であるにもかかわらず、これらの感染症の動物における実態は不明な点が多い。本研究では、これら動物由来感染症の実態を把握するためのサーベイランス体制を構築する基礎として、サ-ベイランスモデルシステムを作成し、運用することによりその実効性を検証することを目的とする。
研究方法
動物を伴侶動物、産業動物、展示動物及び野生動物に大別し、それぞれの動物群について動物由来感染症対策のあり方を検討した。伴侶動物では免疫機能の低下したヒトに対してインパクトのある感染症のモデルとしてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を対象とした獣医診療病院でモニタリングを行った。同様に小規模獣医診療所において黄色ブドウ球菌に関する調査を行った。展示動物に関しては動物園等の施設における衛生管理ガイドラインを動物園水族館協会の協力を得ながら作成した。野生動物では港湾地区で捕獲されたイヌより血清を得、狂犬病ウイルスに対する中和抗体かを測定した。また、狂犬病が疑われるイヌが摘発された場合における対応について検討した。レプトスピラの侵淫状況把握のための抗原検出法の開発ならびに鼠族、アライグマにおけるレプトスピラの保有状況を菌分離とPCRならびに血清学的に行った。ウエストナイルウイルスの国内侵入に備えて、サーベイランス手法を検討し、カラスにおける死亡数調査が優れていることが判明したので、国内で試験的にサーベイランスを開始した。
結果と考察
平成13年度に開始した本研究により平成14年度までに得られた成果は以下のとおりである。本研究では動物を伴侶動物、展示(動物園)動物、産業動物、野生動物に大まかに分類し、各群に相応しいサーベイランスのあり方を検討し、必要に応じて、診断法の開発あるいはモデルサーベイランスの実施を行った。ただし産業動物については本研究の対象とはしていない。
1)伴侶動物:イヌ、ネコのようなヒトとの共存の歴史の長い小動物では公衆衛生上の視点からサーベイランスの対象とすべき疾患は少ない。しかし、近年の医療の目覚しい進歩あるいは社会の高齢化に伴って、免疫機能の低い人々が増加する傾向を鑑みると、これらのペット動物から感染する日和見的な感染症のモニタリングは重要である。本研究ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に着目し、獣医病院の患畜あるいは獣医師におけるMRSAの定着の有無を検討した。その結果獣医領域でも高度な医療を提供する機関ではMRSAの病院内での定着が明らかとなった。ペット動物から飼い主への感染の有無は現時点では明確ではないが、今後調査対象を増やすなどにより、対策への足がかりを得ることができると考えられる。
2)展示動物:動物園等で飼養される動物は多くは野生由来であるが、長期飼育により繋留検疫を継続していると同等と考えることもできるが、健康な動物で維持される病原体が従業員あるいは来園者に対して健康上の危害となる可能性は否定できない。実際、平成13年には2箇所の動物展示施設で、クラミジアを原因とする集団感染が発生した。これらの事例は展示施設内での衛生管理並びに感染症のサーベイランスを徹底することにより発生を未然に防止する、あるいは拡大を阻止できると考えられる。そこで日本動物園水族館協会の協力を得ながら、これら事例の疫学的解析を行うとともにその成果に基づき、感染症対策ガイドラインを作成した。
3)野生動物:野生動物を介するレプトスピラ症:レプトスピラ症は感染症法の届出対象疾患になっておらず、その発生状況は把握されていないが、国内での発生があることは疑いない。今回首都圏及びその近傍のドブネズミ並びに野生化アライグマについてレプトスピラの保有状況を調査したところ、これらの動物がかなりの効率で病原体を保有していることが明らかとなった。一方、早期診断法を確立することは治療方針の決定に極めて重要であることから、抗原捕捉ELISAあるいは競合ELISAの開発を行っている。
港湾地区における狂犬病:わが国から狂犬病が駆逐されて久しいが、近隣諸国はいまだに狂犬病の流行国である。近年北海道あるいは日本海側の港湾に外国船が寄港し、その際検疫を受けていないイヌが乗員とともに上陸するケースが増加しているといわれている。狂犬病の国内侵入を防ぐためにはイヌでの抗体保有率が70~80%であることが必要であるとされている。本研究ではこれらの港湾地区の所謂放浪犬における抗体調査を行った。その結果調査頭数は充分とはいえないものの、現時点でたかだか23%のイヌが抗体を保有しているに過ぎないことが判明した。
カラスの死亡数調査に基づいたウエストナイルウイルス(WNV)のサーベイランス:1999年にニューヨークで発見されたWNVはその後も拡大を続け、2002年には北米大陸西海岸にも到達した。アメリカではカラスの感受性が高く死亡数調査がウイルスの活動を早期に把握する手段として有効であることが報告されている。わが国へのWNVの侵入を早期に検出するために、本研究では東京、神奈川の複数の公園並びに全国の検疫所の協力を得て、カラスの死亡数調査を開始した。2003年3月現在異常は報告されていない。
結論
動物由来感染症のサーベイランスが必要とされるのは展示動物における施設内サーベイランスおよび、野生動物における動物由来感染症のサーベイランスであろうと考えられる。前者に関してはガイドラインの作成ができたので、これに従って、施設内サーベイランス体制の整備が望まれる。後者ではウエストナイルウイルスをモデルにしたサーベイランスを開始したが、他の疾患については費用対効果についても視野にいれ考察する必要がある。

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