粘膜ワクチン開発の基礎となるアジュバントに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200600A
報告書区分
総括
研究課題名
粘膜ワクチン開発の基礎となるアジュバントに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
清野 宏(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高木 広明(株式会社プロテイン・エクスプレス)
  • 濱端 崇(国立国際医療センター)
  • 田村慎一(大阪大学微生物病研究所)
  • 駒瀬 勝啓(社団法人北里研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新興・再興感染症の予防に向けて新世代ワクチンとして「粘膜ワクチン」が期待されている。その成功の鍵を握っている新規粘膜アジュバント開発に向けての基礎研究を行う。我々が開発してきた無毒化変異型CT(mCT)や最近開発に成功した、キメラ型mCT-A/LT-B、そして新しい展開が期待される合成ペプチドアジュバントの開発を進め、実用化に向けた基礎研究を推進する。
研究方法
新興・再興感染症の原点に立ち返ると殆どすべての病原微生物は体外と体内環境の接点となっている鼻腔・口腔にはじまり呼吸器、消化器、泌尿生殖器を被っている広大な粘膜面を介して侵入して体内を撹乱する。そこで、当研究班は生体の第一線の防御バリアーとして機能している粘膜免疫機構に注目し、それを有効に応用した次世代ワクチンとして期待されている『粘膜ワクチン』の実現化に向けて粘膜免疫増強効果のある「粘膜アジュバント」開発へ向けて先導的な基礎研究を進めている。本研究計画では粘膜免疫と感染症研究の領域で先導的立場にある東京大学、大阪大学、国立国際医療センター研究所、北里研究所、ヒゲタ研究所(プロテインエクスプレス)からなる産学共同研究開発体制を構築して『粘膜ワクチン』の実用化に向けた基礎研究を推進している。これは、近年期待されている産学共同粘膜ワクチン開発チームの先駆けといえる。
結果と考察
我々が開発した粘膜アジュバントmCTの進化型アジュバントとしてmCT-Aサブユニットと大腸菌由来LT-Bサブユニットからなるキメラ型アジュバントのB. brevis発現ベクターを使った大量培養系の確立を目指し、ヒゲタ・プロテインエクスプレスチームによりその目標が確実に推進されている。工業スケールに適したスケールアップを行う為に、jar培養における正しい1A5B構造を持つchimera分子を生産する培養条件を検討していく。東大チームはキメラ型mCT-A/LT-Bのアジュバント効果をマウスの実験系で検討し、破傷風やインフルエンザワクチン抗原との併用により感染防御効果のある免疫誘導能があること事を阪大、田村班との協力で確認している。さらに、東大チームは無毒化毒素型各サブユニットのアジュバント効果への関与を検討するために、各種キメラ分子(LT-A/CT-B, CT-A/LT-B)を作成し比較検討した。CT-A/LT-B投与群では、粘膜免疫関連組織、脾臓にTh1型とIL-4非依存性 Th2型反応を誘導するLT様のCD4+T細胞応答が検出された。一方、LT-A/CT-B投与群ではCT様のIL-4依存性Th2型反応を誘導するCD4+T細胞が誘導されたことを示していた。つまり、Bサブユニットの部分にTh1型・Th2型依存的アジュバント効果の方向性を規定する作用がある事が示唆された。阪大チームは粘膜アジュバント併用インフルエンザワクチンにより誘導される分泌型IgAが交叉防御の責任抗体である事実をpIgR欠損マウス実験系により証明した。野生型(pIgR+/+)マウスにおいて、A/PR8ワクチンを免疫したマウスで完全な防御が、また、A/Yamagata及び A/Beijingワクチン免疫マウスで部分的な防御が認められたのに、pIgR-/-マウスでは、A/PR8ワクチン免疫マウスで防御が不完全になり、また、A/Yamagata及び A/Beijingワクチン免疫マウスでは交叉防御能が低下した。平行して、ワクチン免疫マウスの鼻洗浄液中にA/PR8のHA分子と交叉反応するIgA抗体の出現の抑制が認められた。以上の結果から、変異ウイルスの感染に対する交叉防御能が、上気道の分泌型IgA抗体に依存していることが直接的に示された。国立国際医療センターチームはmCT改良型と新
型開発に向けて一連の欠損変異mCT遺伝子の作成と発現を進めている。そして、各種欠損変量mCTの 適可溶化条件などの設定が確立しつつあり、今後の精製・分離法の確立の指標となる結果が得られている。北里研究所チームはmCTの大腸菌での大量発現系開発を進めてきたが、mCT遺伝子のシグナル配列をLT遺伝子に置換することで、小スケール培養において高濃度での回収が可能になった。さらに、粘膜アジュバント効果があることも確認されている。この様に、各チームが連携しながら、無毒化変異型mCTと無毒化キメラ型mCT-A/LT-Bを中心として実用化に向けて、発現系から生物活性まで多面的な研究を展開している。
結論
ヒゲタ・プロテインエクスプレスグループ: B. brevis の宿主-ベクター系を用いて、chimera(mCT-A, LT-B)を分泌生産することに成功した。単離精製したchimra分子は粘膜アジュバントとしての活性を充分に有していた。工業スケールに適したスケールアップを行う為にchimera生産菌株の安定化を行い安定株を得た。この菌株を用いてスケールアップを行う為に、jar培養条件の検討を進めている。
東京大学グループ: LT-A/CT-BとCT-A/LT-Bの2種のキメラ型毒素を作成し、その免疫増強効果を検討したところ、両者ともLT, CTと同様にアジュバント活性が保たれ、エンテロトキシンのBサブユニットがCD4+Th細胞のTh1型・Th2型誘導とそれに関連する抗原特異的IgGサブクラスとIgA抗体産生に重要であることが示唆された。mCT-A/LT-BにおいてもLT様のTh細胞とIgGとIgA抗体応答が示唆されている。
大阪大学グループ: pIgR-/-マウスを使用して個体レベルで上気道の粘膜上に分泌される分泌型IgA抗体が、変異ウイルス株の感染(流行)に対する重要な交叉防御因子であることを証明した。
国立国際医療センターグループ: CTのアジュバント活性部位を特定する目的で、mCT-Aの一連の欠損変異遺伝子を作製した。それらはほぼ良好かつ高純度な発現を示したが、封入体を形成したため変性条件で精製し、巻き戻しのため中性バッファーに対し透析すると大部分が凝集・沈澱した。可溶性画分として精製するため種々の発現・精製の条件検討を行った。結局、巻き戻しのためのバッファー条件を最適化することで回収の効率が比較的改善された。今後動物実験によりそれらのアジュバント効果の比較検討を行う予定である。
北里研究所グループ: 昨年度構築したpTrCLT02プラスミドを持つ大腸菌は、リッタースケールのジャー培養においてもmCTを量産した。また、この系から精製されたmCT は高度に弱毒化されていたがアジュバンド活性を保持していた。この大腸菌による大量産生系は、粘膜ワクチンの実用化に有用であろう。

公開日・更新日

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