ツベルクリン検査、BCG等に代わる結核等の抗酸菌症に係る新世代の診断技術及び予防技術の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200598A
報告書区分
総括
研究課題名
ツベルクリン検査、BCG等に代わる結核等の抗酸菌症に係る新世代の診断技術及び予防技術の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 正彦(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 竹森利忠(国立感染症研究所)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所)
  • 小林和夫(大阪市立大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
迅速で簡便なBCGワクチン接種及び結核菌感染の判定を可能にする検査システムを確立する。同時に、この組換ウィルスを呼吸器粘膜免疫をターゲットとした抗結核ワクチンとして利用し、その有効性を検討する。非結核性抗酸菌症迅速鑑別診断法の開発のため、dnaA領域内に同定された種特異的配列の特異性を多菌種を用い解析し、病原性菌と非病原性菌を容易に鑑別する条件を確認した後、さらに臨床分離株を用いその有用性を追求する。M. avium-intracellulare complex(MAC)感染症は抗酸菌感染症の約20%を占める。MACは環境菌であり、ヒトからヒトへ感染しないため、「結核予防法」適応外であるが、多くのMAC患者は抗酸菌塗抹陽性の時点で隔離されているのが実情である。MAC特異的細胞壁表層糖ペプチド脂質(GPL)抗原を用いた迅速・簡便血清診断法を開発する。抗酸菌の病原性を規定している因子を明らかにするため、シャトルコスミドを用いてらい菌ゲノムDNAライブラリを作製し、それぞれのコスミドクローンをM. smegmatisに導入して遺伝子機能解析を試みる。新たな予防・診断および治療の標的とすべき宿主細胞因子の探索を行うために、抗酸菌感染に伴って発現量が変化する宿主遺伝子を明らかにする。ワクチンとして用いられるBCG菌をガンマー線照射処理し、そのワクチンとしての有効性を検討する。抗酸菌特異的リポタンパク(LpK)の樹状細胞活性化能、とりわけ脂質部分とタンパク部分の役割について検討する。抗酸菌はマクロファージに寄生性感染を果たし、生体防御反応を誘導することなく長期細胞内に留まる。抗酸菌感染マクロファージを樹状細胞様細胞に形質転換し生体防御反応を誘導する。
研究方法
コドンをヒト型に改変したAg85aの遺伝子を組み込んだアデノウィルス粒子を作製し樹状細胞に感染させた。またAg85a発現ウィルス様粒子(VLP)を樹状細胞に感作させた。BCG接種マウスより接種後異なった時期にT細胞を精製し、Ag85aアデノウィルス感染あるいはAg85aVLP感作樹状細胞と共培養し、抗原特異的なT細胞の反応を培養上清中のIFN-?産生量を指標に測定した。dnaA遺伝子内の種特異配列27抗酸菌種を用い解析した。M. avium, M. intracellulare, M kansasii及びM. gastri各菌種特異的PCR法の増幅条件の検討を行った。また、粗精製臨床分離株菌体DNAを用い、菌検出安定性を検索した。診断基準に合致した肺MAC感染症、無症候性MAC感染、肺M. kansasii感染症、喀痰培養陽性結核治療前および健常者由来血清を用い、MAC特異的GPL抗原に対するIgG抗体を酵素抗体法により測定した。GPL抗原は11標準菌株のMACから分離・精製した。らい菌シャトルコスミドクローンは配列解析を行いゲノム地図上にマッピングした。それぞれのクローンをM. smegmatisへ導入し、増殖の速度と形態の変化について観察した。遺伝子解析はトランスポゾン挿入変異とデリーション分析により行った。DNAマイクロアレイ解析によって発現量の変化が認められた遺伝子の機能をデータベースから検索しクラスタリングし、その中で感染との関連が示唆される遺伝子に対しプライマーを設計した。種々のマクロファージ培養細胞株に抗酸菌を感染させ、経時的にmRNAを調整し、RT-PCR法にて発現量を解析した。40万ラド照射BCG菌をモルモットに投与後、PPDに対する遅延型過敏反応、BCG菌に対する殺菌作用、TNF-?およびIFN-?産生能を検討した。精製LpKおよびLpK由来truncatedリポタンパクを大腸菌DH5?でクローニングして得た後、正常健常者末梢血単球由来樹状細胞の
成熟化に及ぼす影響を検討した。細胞表面抗原およびIL-12p70産生能で樹状細胞の成熟度を評価した。CD40リガンドを用いて成熟樹状細胞様細胞に形質転換した。この細胞の抗原提示能は自己T細胞の刺激能で測定し、抗酸菌特異的キラーT細胞に対する感受性はLDH放出反応で検索した。
結果と考察
1) BCG菌・結核菌共通遺伝子Ag85a組み込みアデノウィルス感染樹状細胞をLPS刺激で成熟させBCG接種マウス由来のT細胞と共培養すると、強いT細胞反応を誘導した。抗原非組み込みアデノウィルス感染樹状細胞ではT細胞反応は陰性のため、抗原特異的反応が誘導されたことが示唆された。しかし樹状細胞とT細胞との共培養で中程度のT細胞反応が惹起されることから、検査のためには更に改良を必要とすることが明らかとなった。
2) 設計した種特異増幅プライマーにより、これまで迅速鑑別困難であったM kansasiiとM. gastriの鑑別およびM. aviumとM. intracellulareの鑑別が可能となった。臨床分離株を用いても、いずれの菌種でも特異的な増幅が可能であった。今後キット化の可能性が示唆された。
3) GPL抗原を用いた迅速・簡便血清診断法の肺MAC感染症に対する感度は92.3%、特異度は98.5%であり、良好な成績を示した。また、陽性予測力は90.0%、陰性予測力は97.5%であった。また、血清抗GPL抗体の変動はMAC感染症の疾患活動性を反映した。
4) 約200のコスミドクローンでらい菌全ゲノム領域の98%以上をカバーするクローンセットが得られた。らい菌のtrxB/A遺伝子上流からrpmH遺伝子上流までの約9kbの領域が非病原性M. smegmatisの増殖を著しく遅延させた。
5) インスリン様成長因子受容体(IGFR)の発現量が、感染後の時間経過に従い増加した。抗酸菌感染によりIGFやインスリンに対する感受性が増大することが考えられた。IGFRは、細胞増殖や分化を促進するとともに細胞機能の維持に重要なシグナルを伝達する。そのシグナルは受容体のチロシンリン酸化を経て、大きくRas/MAPキナーゼの経路とPI3キナーゼ/Akt経路があるが、MAPキナーゼの発現量もIGFRと同様に増加した。一方、甲状腺ホルモン受容体などRT-PCRでは変化が明らかではないものもあり、ノーザン解析など、より定量的な評価が必要と考えられた。
6) ガンマー線照射BCG菌を免疫すると10週後に有意な抗BCG菌殺菌活性およびサイトカイン誘導活性が観察された。しかし、その後経時的にその作用は低下した。
7) 精製LpKリポタンパクは樹状細胞を成熟化させ、IL-12p70の産生を誘導した。さらに、LpKパルス樹状細胞は自己T細胞を活性化させ、大量のIFN-?を産生させた。Truncated LpKを用い検索した結果、脂質付加を受けるアミノ酸領域に活性および特異性中心があり、脂質はLpKの樹状細胞成熟化作用を増強させた。
8) 抗酸菌感染マクロファージから分化させた樹状細胞様細胞は、抗酸菌菌膜抗原を細胞表面に発現し、自己とCD4陽性及びCD8陽性T細胞を刺激し活性化させ、IFN-?の産生を誘導した。さらに、抗酸菌感染マクロファージに比し、抗酸菌特異的キラーT細胞に対
する感受性が増強した。少量の抗酸菌が感染したマクロファージに対する生体防御反応を誘導することが可能となった。
結論
新しい結核感染診断法開発のためにAg85a組み込みアデノウィルス粒子を作製し、これを用いてT細胞反応を惹起させることに成功した。よって結核菌遺伝子組み込みアデノウィルスベクターは抗原特異的な細胞性免疫反応診断の技術として有用である可能性が示唆された。しかし、検査法への利用のために非特異反応の減少のための改良を必要とする。構築した菌種特異的PCR法により、新たな迅速鑑別診断の開発が可能となった。臨床分離株を用いても安定した結果が得られた。MAC特異的GPL抗原を用い、MAC感染症の診断や疾患活動性の評価に有用な迅速・簡便血清診断法を開発した。らい菌のシャトルコスミドライブラリを作製し、約200クローンでらい菌ゲノムの98%以上をカバーするクローンのセットが得られた。クローンの解析の結果、M. smegmatisの増殖遅延を引き起こすらい菌DNA領域が明らかとなり、らい菌の分裂・増殖に関与するDNA領域が初めて示唆された。抗酸菌特異的LpKは、タンパク部分でその特異性を与え、脂質部分が樹状細胞を活性化する全く新しいタイプのワクチンとなり得る可能性が示唆された。抗酸菌感染マクロファージを樹状細胞様に形質転換することで、抗酸菌に対する生体防御反応を高め、抗酸菌症に対する免疫療法の開発が可能となった。

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