インフルエンザ予防接種のEBMに基づく政策評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200596A
報告書区分
総括
研究課題名
インフルエンザ予防接種のEBMに基づく政策評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
廣田 良夫(大阪市立大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 森満(札幌医科大学)
  • 大久保一郎(筑波大学)
  • 秦靖枝(牛久市民福祉の会)
  • 山口直人(東京女子医科大学)
  • 大塚宣夫(医療法人社団慶成会青梅慶友病院)
  • 鈴木幹三(名古屋市厚生院附属病院)
  • 清水弘之(岐阜大学)
  • 渡邊能行(京都府立医科大学)
  • 大日康史(大阪大学)
  • 田中隆(大阪市立大学大学院)
  • 尾形裕也(九州大学大学院)
  • 田中恵太郎(佐賀医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
32,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
疫学専門家を中心に、医療経済学、社会学、老人医療などの専門家、および市民団体代表からなる研究班を組織する。そして、顧問グル-プ(呼吸器内科、小児科、呼吸器系ウイルス学の専門家で構成)の意見を聞きながら、インフルエンザ予防接種の有効性、適応性、社会認容性などを調査研究し、EBMに基づいた客観的評価を行う。
なお、インフルエンザの流行期は毎年12月から翌年の4月に及ぶため、平成14年度の研究は現在継続中である。従って、ここでは平成14年度のこれまでの研究経過を「仮報告書」の形で中間的に報告する。平成14年度の研究成果は、平成15年の秋を目途に「本報告書」として提出する予定である。
研究方法
インフルエンザ予防接種制度全般に関しEBMに基づいた総合評価を行なうため、以下の班構成のもとに研究を進めた。
1)有効性評価分科会(第1分科会) 豊富な実績を有し、且つ感染症研究の経験がある疫学者で構成する。各々が地元の高齢者施設などと協力しながら、実施可能な最善の研究計画(コ-ホ-ト研究、症例対照研究、生態研究など)を企画して、インフルエンザワクチンの有効性を調査する。
2)情報調査評価分科会(第2分科会) 若手の疫学者で構成する。第1分科会や顧問グル-プの指導のもとに、インフルエンザワクチンの有効性や有用性に関する文献調査を行ない、セミナ-形式により共同で内容を評価し要約する。
3)適応評価分科会(第3分科会) 老人医療の専門医、医療経済学者、市民団体代表などで構成し、高齢者への接種に関する費用効果や社会認容性などの調査研究を行なう。また高齢者への接種に関し、接種者・非接種者、施設職員などの考え方を調査する。これらの調査結果をもとに、インフルエンザ予防接種の目的および適応のあり方を総合的に評価する。
4)顧問グル-プ インフルエンザの疾病特性、およびインフルエンザウイルスに関する専門知識を上記1)~3)の分科会に提供するため、呼吸器内科、小児科、呼吸器系ウイルス学の専門家からなる顧問グル-プを組織する。
結果と考察
1)有効性評価分科会(第1分科会) インフルエンザワクチンの有効性評価に関しては、施設入所者を対象とした研究(8施設)と、地域住民を対象とした研究(2地域)が進行中である。いずれの場合も高齢者における接種率が高いため、接種群と非接種群の間で発病率を比較するという基本的な研究デザインによっては、鮮明な結果を得ることに困難が予想される。各自が研究デザインや解析方法を工夫しながら検討を進めている。
これらの研究の総てで、交絡因子に関する情報収集がなされている。観察研究において交絡因子を考慮することは当然のことである。しかし、従来、そして現在においても、主として臨床家によって行われるインフルエンザワクチンの有効性研究は、観察研究であるにもかかわらず交絡因子を考慮していない。この分野におけるわが国の研究が、急速に発展することが期待される。
2)情報調査評価分科会(第2分科会) インフルエンザワクチンの有効性は、従来、主に臨床家とウイルス学者によって論じられることが多かった。
しかしながら、臨床家やウイルス学者にとっては、ワクチン有効性に関する近年の高度に洗練された研究デザインや解析手法を理解することは容易でない。他方、EBMの確立に主要な役割を果たすべき疫学者のほとんどは、がん、循環器疾患など慢性疾患を研究対象としており、感染症に関心を示さない。その結果、インフルエンザワクチンの有効性に関し、諸外国で行なわれた上質の研究論文を理解し評価できる研究者は、わが国に極めて少ないのが現状である(これは、低質の論文を批判できる研究者が少ないことをも意味する)。
若手疫学者を中心に構成した本分科会は、初年度34編の文献を抄訳し、研究報告書の別冊としてまとめた。何よりも、この作業を通して、また開催したワ-クショップを通して、インフルエンザ研究に関心を持つ疫学者の裾野が拡がることを期待できるのは意義深い。次年度は本分科会のメンバ-をさらに増やし、抄訳論文数の増加を図る。
3)適応評価分科会(第3分科会) 住民調査と施設職員調査で、ワクチン非接種者の約30%が「副作用」を非接種理由にあげている。また非接種の理由として、住民調査では約35%が「必要ない」、施設職員調査では約15%が「罹らない」と答えている。高齢者におけるインフルエンザという疾患の重要性、施設職員が入所者への感染源となり得ることの重要性について、啓発が必要である。
インフルエンザワクチン接種の費用効果分析、インフルエンザ流行期の超過死亡推定についても、研究が進みつつある。また、個々人の医療内容から医療費を詳細に計算して、ワクチン接種の費用効果分析を行う研究も開始した。一般の費用効果分析が最適・最善の仮定に基づいて行われるのに対し、individual levelで実際の費用と効果に関するデ-タを積み上げていく本研究を是非とも成功させたい。
結論
平成14年度の研究は継続中であるので、平成15年秋を目途に提出予定の「本報告書」にて最終成果を報告する。
インフルエンザワクチンの有効性評価に関しては、施設入所者(8施設)と、地域住民(2地域)を対象に調査を行っている。高齢者における接種率が高いため、接種・非接種群間で発病率を比較することに困難が予想される。各自が研究デザインや解析方法を工夫しながら検討を進めている。
若手疫学者を中心に18人の班員が34編の文献を抄訳した。まず、ワークショップを開催し、論文紹介、および必要事項に関する勉強と意見交換を行った。ワークショップにおける討論を基盤として、インフルエンザワクチンの有効性評価に関する論文と医療経済に関する論文を、研究デザイン、対象集団、結果指標などの観点から類型化した。これらの論文抄訳を平成14年度研究報告書の別冊としてまとめた。
住民調査と施設職員調査で、ワクチン非接種者の約30%が「副作用」を非接種理由にあげている。また非接種の理由として、住民調査では約35%が「必要ない」、施設職員調査では約15%が「罹らない」と答えている。
費用効果分析では、現行の公費補助制度は保険診療費の節減効果につながり、かつ費用効果的(1YOLSあたりの費用は66.1万円)であることが推計された。また超過死亡の推定において、Stochastic Frontier Estimation は従来の死亡推定モデルより優れていると考察された。

公開日・更新日

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