都市部における一般対策の及びにくい特定集団に対する効果的な感染症対策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200595A
報告書区分
総括
研究課題名
都市部における一般対策の及びにくい特定集団に対する効果的な感染症対策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
石川 信克(財団法人 結核予防会結核研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 下内昭(大阪市健康福祉局医務監兼大阪市保健所保健主幹)
  • 前田秀雄(東京都健康局医療サービス部感染症対策課長)
  • 豊田恵美子(国立国際医療センター呼吸器科医長)
  • 和田雅子(結核予防会結核研究所疫学研究部長)
  • 田川斉之(結核予防会結核研究所対策支援部企画科長)
  • 小林典子(結核予防会結核研究所対策支援部保健看護学科長)
  • 大森正子(結核予防会結核研究所疫学研究部統計解析科長)
  • 高橋光良(結核予防会結核研究所基礎研究部細菌学科長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本の都市部において高い治療成功率と患者発見率を得る効果的な結核対策であるDOTSのモデル開発を目指すものである。また間接的には、本研究の成果が都市部における他の感染症対策のあり方に寄与することも目指す。
研究方法
本研究は、文献的分析、行政分析、事例分析、疫学・社会学的調査、介入試行等を総合的に用いて行う公衆衛生学的研究である。具体的には、A)先進諸国の経験や成功事例の分析、B)日本の諸地域での現行の対策や成功事例の比較検討、C)大阪市、東京都特別区の特殊地区ないしリスク集団における積極的な介入モデル試行、D)病院における入院及び外来DOTSの確立、E)上記C、Dを支援するための疫学的情報の分析や評価法の開発、F)地方分権や健康日本21の進む保健医療システムにおける結核対策のあり方の検討、G)上記を総合した効果的な都市結核対策のあり方大綱の作成である。分担は、A、B、F、Gは主任研究者が主催して分担研究者全員が関わり、課題により分担研究者がそれぞれの領域の研究を個別ないし連携して進める。このためには年4回程度の研究会議を持つ。初年度は、A(初年度でほぼ終了)、Bを行い、C、Dを行う準備(研究体制づくり)と開始、E、FはA~Dに関わりながら独自に行う。Gは研究会議で行う。初年度の最終の会議では、成果の整理、次年度への課題、計画を明確にする。次年度は、A(部分的追加)、B(継続・研究会の開催)、CおよびDは本格的な活動の実施と継続、E、FはA~Dに関わりながら独自に継続して行う。Gは研究会議で行う。最終年度はA(部分的追加とまとめ)、C、Dの成果を確認し、できれば地域の拡大を試みる。これはBと連動し、他地域へも適用を呼びかける。開発された方式の妥当性を検討しつつ、その後の拡大に相応しい方式を確立する。Gとしては、本研究の全体に関する概念的整理、最終拡大ワークショップを開催し、成果の共有、広報を行い、以降の展望を検討、勧告をまとめる。できれば小規模でも国際会議を目指す。
結果と考察
全体としては、研究体制の確立、諸地区での調査や積極的な介入試行が開始され、初年度の計画に添った着実な進展と様々な成果が見られた。1)文献分析や米国やオランダへの直接訪問により先進諸国の経験や成功事例の分析がなされた。特に手抜きを行ったため都市を中心に結核の逆転上昇を来した米国の事例は貴重で多くの示唆に富む。DOTの徹底的な適用、治療評価会、結核対策責任者の任命などは重要な成功要因である。日本の諸地域での試行や成功事例の比較検討より日本式DOTSのあり方に関する基本情報が得られた。2)大阪、東京における特殊地区および住所不定者等のリスク集団に対する実態調査や介入的試行では、a)自治体内、外部研究者、民間組織などを連携する研究体制が出来上がり、研究活動を通して、既存の業務が活性化・連携化してきている、b)対策評価会がルチーンに開かれるようになった、c)大阪市では、①介入研究のための現状調査として、愛隣地区等における調査、治療脱落患者の追跡と検討、②対策評価のための疫学研究として、結核菌精度管理、路上生活者患者の分子疫学的調査、③院内感染対策ガイ
ドライン素案の作成、④保健所と医療機関の密接な連携によりDOTSの拡大が可能になり脱落・中断率の減少が見え始めた。d)東京都特別区では、①研究組織づくりにより従来行政的に分離している東京都と特別区間、特別区間の連絡・連携が強化された、②様々な地区における生活不安定者(ホームレス、精神疾患患者、高齢者等)への医療実態調査により、著しく高い結核罹患率が示されるとともに、医療機関、福祉、地域の民間組織、薬局など様々な社会医療資源との連携の必要や可能性の示唆、③新宿区ホームレス患者の結核菌RFLP分析のための菌収集の開始、④病院等における結核患者の事例分析、⑤山谷地区における生活実態と結核医療に関する調査、NGO/NPO等の社会資源の活用に関する検討等が行われた。3)施設治療のあり方や治療方式の開発では、a)病院の入院および外来DOTSの強化システムの試行が保健所との連携下で開始された。特に新宿区の患者を最も多く受け入れている国立国際医療センターにおける入院期間短縮と外来DOTSシステムの試行開始、b) 看護職主導による治療支援システム構築(入院および外来DOTS)の試行開始、c)調剤薬局を用いた週2回服薬法による間欠療法の開発が行われた。4)疫学的情報の分析方法の開発では、a)発生動向調査情報を用いた対策の簡易評価法シートを試作と情報の質の検討、b)菌の収集によりRFLPによる分子疫学的分析のシステム化の開始が行われた。5)在日外国人の保健医療の実態に関する調査および外国人の母国語による服薬手帖の開発が進められた。6)結核対策(感染症対策)と保健医療システムに関するシステム的分析が始められた。特に地方分権の流れおよび保健政策としての「健康日本21」が進められる中で、感染症対策のあり方、中央政府の役割等の検討が始められた。感染症対策の技術的・予算的分権化は国全体として危険が大きいことが示唆された。「健康日本21」の推進される中、感染症対策の位置づけの意義は大きいと考えられる。健康転換という模式図の中で、危機管理としての古くからあるそして新たに発生するかもしれない感染症の位置づけが必ずしも明確にされていなかったからである。特に厚生労働省結核感染症課が掲げる日本版DOTS戦略の実践方法は概念的にも具体的にも検討されねばならない。都市結核の持つ課題は、一時的あるいは局所的なものではなく、将来日本社会が抱える課題の縮図と考えられる。7)都市結核研究の方法論のあり方や整理がされた。即ち、歴史的(文献)研究、政策論的研究、経費効果分析、疫学的調査、介入実験的研究、症例研究、人類学的研究などである。特に母集団が把握できないリスクグループへの接近法として、従来の疫学的研究法の限界のなかで、事例分析(ケーススタディ)や人類学的手法による分析の意義が示された。8)本研究の性格上行政に密着した研究であるため、研究の実行に伴う様々な問題、自治体の持つ特性や福祉行政との連携の困難さ等いくつかの壁も経験された。しかしそれらの壁の経験とその克服こそが本研究の主題に迫るものであり、今後の研究の成果が期待されるところである。9)初年度の終わりに元ニューヨーク市結核局長Fujiwara博士を招待し、大阪・東京両地区の研究活動への評価と貴重な助言が得られた。
結論
本研究は、テーマの性格上多岐にわたり様々な方法論を用いてなされているが、問題の分析や指摘に止まらず、新しい行動や介入による新しい方策の探索が目指されており、初年度にふさわしい様々な成果が得られた。都市結核の持つ課題は、一時的あるいは局所的なものではなく、将来日本社会が抱える課題の縮図とも考えられる。先進諸国の経験や諸都市における先行的経験から、感染症の中では最も重要な結核対策を諸都市でいかに構築するか、患者数は減少していく可能性が高いが、複雑な都市の社会機構の中で、空気感染によって伝搬する感染症の危機管理を誤れば、多剤耐性菌の流行を引き起こす可能性が高い。「健康日本21」に見られる今後の健康政策構想の中で、いかなる結核対策を作ってゆくべきか、概念構築をしつつ、大阪市と東京都特別区を中心に、DOTS推進拡大のた
めのいくつかの前向きな試行が始められた。この研究活動がきっかけや刺激になって、現場の活動が盛んになってきている。各論的には院内DOTS、外来DOTSの推進、調剤薬局あるいはNGO/NPOなどの社会資源の利用、対策評価法やDOTSノートの試作、RFLPを用いた感染経路解明への一歩等がなされた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)