大規模感染症発生時における行政機関、医療機関等の間の広域連携に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200594A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模感染症発生時における行政機関、医療機関等の間の広域連携に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 健文(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤本眞一(県立広島女子大学生活科学部)
  • 岩崎惠美子(仙台検疫所)
  • 望月靖(新潟検疫所)
  • 丸山浩(関西空港検疫所)
  • 嶋津岳士(大阪大学大学院医学系研究科生体機能調節医学)
  • 村田厚夫(杏林大学医学部救急医学)
  • 青木節子(慶應義塾大学総合政策学部)
  • 谷口清洲(国立感染症研究所感染症情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」という)は、5年後に見直しを行うこととなっており、現在、平成16年の見直しに向けての検討が開始されている。輸入感染症や生物テロを含む大規模な対応を要する感染症への対応等、行政区域を越えた広域対応の必要性も指摘されており、この観点から、現状の感染症対策に置ける問題点の把握、改善点などの検討を行い、感染症法見直しの際の検討の基礎資料とする。
研究方法
8名の分担研究者よりなる研究班を組織し、それぞれの立場から、アンケート調査や文献情報調査等による国内外の感染症に関する対応状況の情報収集、シミュレーションの実施、症候群別サーベイランスの実施・評価等を行い、今後の感染症行政の広域対応について幅広く検討を進める。
結果と考察
1.地方自治体の大規模感染症対策に関する研究。地域における大規模健康危機発生時に、関係機関等と連携して円滑な保健所危機管理活動が実施可能かどうか、対応マニュアルの実効性も含め検証することを目的として、警察、消防、行政、医療等関係機関合同による実践的な模擬訓練を実施した。その結果、①危機発生現場には関係機関相互の活動を有機的に機能させるための協議・調整の場が必要であること、②対応マニュアルの作成にあたっては原因が解明されるまでの対応に重点を置くべきこと、③対応の遅れが必要以上に被害を拡大させるため、24時間365日対応の情報連絡体制を確保する必要があること、などの知見が得られた。
2.検疫所を中心にした大規模感染症対策に関する研究。2-1.ブロック単位での広域連携のあり方に関する研究。現状での体制を支援し、ブロックでの感染症対策体制の構築を考えた。その中で、感染症対策に直接関係する、感染症対策部局、食品担当部局、救急部門からなる、「東北感染症危機管理会議」を厚生局と検疫所とで設立し、東北地域の感染症対策の支援を行う事とした。また、食中毒としての扱い以外、その原因菌の動向を掴む事も大切になってきており、東北地域での食品由来感染症の病原体サーベイランスを実施する事によって、実態を把握し、東北ブッロクでの食品衛生行政に反映させる事を考えた。
2-2.新潟地域を中心にした広域連携のあり方に関する研究。新潟地域を中心として、文献に基づく海外渡航者の渡航経路の調査、近隣の一類感染症等の対応状況のアンケート調査、及び地理情報システムについての情報収集を実施し、課題及び対策についての検討を行った。その結果、自治体の感染症指定医療機関の指定や移送体制、自治体と医療機関の間の連携等に課題が認められ、対策として海外渡航の頻繁化、渡航先の多様化等を踏まえ、従来の地方自治体を越える広域的な対応が必要であり、そのための、特に調整機能を有する体制の構築が必要と考えられた。
2-3.空港検疫所と地方自治体との広域連携のあり方に関する研究。関西国際空港において一類感染症の発生を前提とした訓練を実施し、感染症発生に係る健康危機管理の効果的な実施方法に関する検討を行った。また、地方自治体の感染症対策担当者へアンケートを行い、更に、オーストラリア及びシンガポールの検疫システムについて文献的に検索を行った。健康危機管理訓練については、机上では想定し得なかったマニュアルの不備等が見受けられその改定に役立つとともに、マニュアルの習熟方法についてリフィル形式のマニュアルによる効果が検証された。また、一類感染症への対策強化、広域的な患者搬送手段の確保及び相談できる専門家リスト等が求められている。更に、諸外国においても検疫システムのあり方をめぐって検討が積み重ねられている。
3.バイオテロリズム対応に関する研究。3-1.バイオテロリズムに対する国内外の対応システムに関する研究。バイオテロ固有の医学的問題に限定せず、災害時における対応体制、特に組織間の連携体制という観点(All-Hazards Approach)から情報収集と検討を行った。米国、英国、日本の災害対応計画の比較検討からは、米国では国-州-地域(郡、市)-医療機関のそれぞれのレベルにおいての災害対応計画が系統的に整備されており、バイオテロリズムへの対応もその対応計画の一環として位置付けられていることが明らかとなった。また、英米いずれにおいても、緊急事態への対応の重要性が広く認識されており、地域レベルにおける具体的な対応計画が策定されていた。大阪府北摂地区において生物化学テロが発生した場合の机上シミュレーションを行い、それぞれ組織の対応能力と課題、あるいは組織間の連携上の問題点を認識することができた。
3-2.バイオテロリズム対応に関する国内外の資料収集に関する研究。インターネットや携帯用データベース機器を用いて、CBRNEテロ対策に関する知見を如何にして入手するかについてまとめることとした。我が国で信頼できる情報源だけでなく、欧米におけるCBRNEテロ対策のホームページは実に豊富であり、またその多くが無料で提供されること、登録することで電子メールを介して情報が配信されることなどから、特に有用であると思われるサイトについて解説を加えて紹介する。
3-3.バイオテロリズム規制の国際法と国内法。国際法はバイオテロリズム犯罪を規制するために特別の工夫がなされている。最も重要なのは、テロ関係条約の1つでありバイオテロを直接に規制する1997年の「爆弾テロ条約」を国際的に活用することである。同条約は生物兵器や化学兵器の使用を含む一定の行為について、締約国に犯罪化義務を課し、犯人の身柄を拘束する場合に犯人の国籍国や犯行地国に引き渡さないのであれば自国で訴追することを義務づける。これに関連して、二国間の犯罪人引渡条約や犯罪人引渡の国内法が重要である。爆弾テロ条約を批准するために日本は生物兵器禁止法や化学兵器禁止法をはじめとするいくつかの国内法の改正を行った。また、国内措置により、一国の領域内で生物剤の管理を厳格にすることおよび国際連合やWHOなど関係国際組織の紛争解決機能や基準設定機能を活用することが要請されている。
4.症候群サーベイランスの実施とその評価に関する研究。2002年5月、6月に開催されたワールドカップサッカー大会に際して、11参加自治体と87の医療機関の協力により、症候群サーベイランスを施行した。5つの症候群の定義を用い、ウェブによる報告還元システムを通して各医療機関より毎日報告された症例について解析を行い、グラフや表、コメントなどによって情報還元した。特別な措置を必要とするような異常な感染症の発生は報告されず、本サーベイランス上も探知はされなかったが、成人麻疹の報告数が多いこと、エコー13型による無菌性髄膜炎の流行を把握することができ、「何らかの感染症の集団発生が疑われる」情報を迅速に探知する目的において有用であることが示された。また、アンケート評価においては、バイオテロ対策の重要性の認識度は高く、また本システムのバイオテロ対策における有用性は評価されていたものの、運用上の業務負担が大きいことが示された。
結論
大規模感染症発生時の行政機関、医療機関等の間の広域連携に関する基礎資料を収集整理した。

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