小児期発症のミトコンドリア脳筋症に対するL-アルギニンおよびジクロロ酢酸療法の効果判定と分子病態を踏まえた新しい治療法開発に関する臨床研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200587A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期発症のミトコンドリア脳筋症に対するL-アルギニンおよびジクロロ酢酸療法の効果判定と分子病態を踏まえた新しい治療法開発に関する臨床研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
古賀 靖敏(久留米大学)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤雄一(国立精神神経センター)
  • 二瓶健次(国立成育医療センター)
  • 桃井真里子(自治医科大学)
  • 杉江秀夫(浜松市発達医療総合センター)
  • 内藤悦雄(徳島大学)
  • 萩野谷和裕(東北大学)
  • 田辺雄三(千葉県立こども病院)
  • 中野和俊(東京女子医科大学)
  • 松岡太郎(市立豊中病院)
  • 馬嶋秀行(鹿児島大学)
  • 石井正浩(久留米大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
40,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ミトコンドリア病は、ミトコンドリアエネルギー産生系の異常により発症する遺伝病であり、現在ではヒトの遺伝性疾患としては最も頻度の高いものと考えられている。そのほとんどは小児期に発症するため、本症は小児科医が日常診療の中で遭遇する病気である。その遺伝的および生化学的異常は、これまでの多くの研究により明らかにされてきている。しかしながら、本症が小児の難病であるにもかかわらず、我が国における本症の診断基準は未だ確立されたものは無く、また効果的な治療方針も決められてはいない。このような状況の中で、本症の効果的診断法を確立し、有効な治療指針を決定する事は、病気に苦しむ患者に光明を与え、後遺障害を予防出来、ひいては日本国の医療費削減に寄与できるものであり、一日も早いミトコンドリア病の治療環境の整備が必要である。申請者らは、脳卒中を来す病型でジクロロ酢酸が症状の軽減につながる事を見出し報告した(Saitoh S. et al. Neurology 50:531-534, 1998)。また、申請者は、ミトコンドリア病では、スーパーオキサイドが蓄積しそれが酸化的ストレスとなり、血管内皮機能の障害とmtDNA障害を来たすことを見いだした。血管内皮機能の改善のために抗酸化剤を投与したところ、患者の血管内皮機能の改善のみでなく、けいれんの消失と共に患者のQOLが有意に改善する事を見いだした。また、脳卒中を来すミトコンドリア病の急性期にL-アルギニンを投与し、速やかに脳卒中症状が改善したことを報告した(Koga Y. et al. Neurology 58:827-828, 2002)。この治療法は、脳卒中を来すミトコンドリア病の急性期治療に特効的な効果があり、Orphan drugとして承認申請予定である(平成15年5月)。今までに、ジクロロ酢酸、各種ビタミンなどミトコンドリア病の治療に様々な薬物が試みられているが、未だはっきりした効能評価を受けていない。本研究は、新しい治療法の研究開発が主たる目的であるが、我が国における小児期発症のミトコンドリア病患者の実数を把握し、臨床症状を標準化した上で、その診断基準および治療指針を作成し、小児慢性特定疾患対象疾病としての治療環境を整備することも付随した目的である。この研究は、病気で苦しむ多くの患者の医療環境の整備に直接つながり、患者およびその家族の福祉の向上に寄与できるものである。
研究方法
1)全国規模でのミトコンドリア病患者数の把握。入院200床以上の2236カ所の病院にアンケート調査を実施した。2)MELAS患者急性期発作におけるL-アルギニン療法の有効性の検討。L-アルギニン療法のOrphan申請にむけて小規模治験ネットワークの整備と小規模治験の実施、MELAS患者急性期発作におけるL-アルギニン療法の国際特許申請、3)種々の治療方法の解析、臨床的、生化学的根拠の検討、4)患者における血管内皮機能解析、および抗酸化剤の負荷による反応の解析、5)我が国におけるミトコンドリア脳筋症の効果的診断技術の確立へ向けたミトコンドリア研究リサーチセンター整備の実施。
結果と考察
1)全国規模でのミトコンドリア病患者数の把握。入院200床以上の2236カ所の病院にアンケート調査を実施し、46.7%の回収率を得た(小児科51.2%、神経内科38.2%)。そ
の結果、日本では719症例のミトコンドリア脳筋症患者が存在し、その408例は、小児科で残りは神経内科でフォローされている事が判明した。小児科では、MELAS、Leigh脳症が多く、神経内科では、PEOが最も頻度が多く、ついでMELASとなっている。また、Leigh脳症のほとんどは小児期に死亡し成人期に達しないことが判明した。現在2次調査を送付し、小児期発症のミトコンドリア脳筋症のうち、MELASおよびLeigh脳症の2病型に関し、診断基準策定および重症度分類を作成している。以上、世界で初めてミトコンドリア脳筋症のNation-wide surveyを行ったので、日本における本症の発症頻度に関して現在国際紙に報告中である。2)MELAS患者急性期発作におけるL-アルギニン療法の有効性の検討。ミトコンドリア病に対する薬物治療に関して、申請者らは、脳卒中を来す病型でL-アルギニン(Koga Y. et al. Neurology 58:827-828, 2002)が、ミトコンドリア病の病状進展防止に効果があることを見出した。今年度は、MELAS患者の対象症例を増やし、L-アルギニン療法に関して日本でのOrphan申請に向けて、インフラ整備を行った。具体的には、全国でMELAS患者をフォローアップしている基幹病院の協力を得て、小規模臨床治験ネットワークを組み、治験症例を増やし、現在Orphan申請へ向けて症例を蓄積している。MELASの急性期の治療薬として特効的に有効なL-アルギニン療法は、日本の古賀靖敏医師をプロジェクトリーダーとして、味の素株式会社製造元、スウエーデンのヤンセンオーファン社を発売元として、日本、米国、イタリアの3カ国でOrphan drug申請を前提とした国際共同治験研究として発展している。また、本治療に関して「ミトコンドリア機能異常に起因する疾患における臨床症状発現の予防・治療的組成物」出願番号:特許2002-299575として特許を取得した。3)種々の治療方法の解析、臨床的、生化学的根拠の検討。生化学的に治療薬として可能性がある薬物(L-アルギニン、ジクロロ酢酸ナトリウム)に関する治験ネットワークを整備中である。4)患者における血管内皮機能解析。現在までの30例以上の血管内皮機能検査を施行し、ミトコンドリア脳筋症において、著明な機能低下を確認した。現在、報告中である。5)我が国におけるミトコンドリア脳筋症の効果的診断技術の確立へ向けたミトコンドリア研究リサーチセンター整備の実施。日本におけるミトコンドリア病治療研究センターに関し、国立精神神経センター神経研究所疾病研究第二部(後藤雄一部長)および、久留米大学医学部小児科(古賀靖敏助教授)の2カ所で、筋生検解析、ミトコンドリア機能の生化学的解析、原因遺伝子の検索システムを整備した。また、ミトコンドリア病の診断に関して、世界的に各々の国で認定されたものはなく、この点、世界的に標準化した診断・治療法を策定するために、日本、米国、ヨーロッパを中心に、国際的に統一した診断基準・検索方法を決定するためのカンファレンスを計画している。
結論
小児期発症のミトコンドリア脳筋症に対するL-アルギニンおよびジクロロ酢酸療法の効果判定と分子病態を踏まえた新しい治療法開発に関する臨床研究の班研究活動は、実質半年間の活動期間であった。しかしながら、日本におけるミトコンドリア病の効果的診断技術の確立として、2カ所のミトコンドリア病リサーチセンターを設定し、全国に公示することで、有効な診断を提供できるように整備中である。また、有効な治療法の確立としてMELASにおけるL-アルギニン療法をOrphan申請として行い、大規模治験ネットワークとして進め、国際的には日本、米国、イタリアの3カ国でOrphan drug申請を前提とした国際共同治験研究として発展している。また、本治療に関して「ミトコンドリア機能異常に起因する疾患における臨床症状発現の予防・治療的組成物」出願番号:特許2002-299575として特許を取得した。今後は、日本におけるミトコンドリア病の診断基準、重症度分類、治療指針を策定するべく研究を進める予定である。また、常に国際基準に照らした標準化した診断基準、診断方法、重症度分類を念頭に進めていく予定である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-