小児肉腫に対する至適治療確立を目指した臨床試験とその基盤整備に関する 研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200586A
報告書区分
総括
研究課題名
小児肉腫に対する至適治療確立を目指した臨床試験とその基盤整備に関する 研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
牧本 敦(国立がんセンター中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 秦順一(国立成育医療センター研究所)
  • 浦島充佳(東京慈恵会医科大学臨床研究開発室)
  • 金子道夫(筑波大学臨床医学系小児外科)
  • 角美奈子(国立がんセンター中央病院放射線治療部)
  • 河野嘉文(鹿児島大学医学部小児科)
  • 熊谷昌明(国立成育医療センター特殊診療部小児腫瘍科)
  • 細谷亮太(聖路加国際病院小児科)
  • 土田嘉昭(群馬県立小児医療センター小児外科)
  • 杉本徹(京都府立医科大学小児科学教室)
  • 原純一(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 草深竹志(大阪大学大学院医学系研究科小児外科)
  • 麦島秀雄(日本大学先端医学講座細胞再生・移植医学部門)
  • 横山良平(国立病院九州がんセンター整形外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
欧米に比して立ち遅れている我が国の小児がん臨床試験体制を改革し、ヘルシンキ宣言を遵守し、ICH-GCPに沿った臨床試験を行える環境を構築すべく、二つの研究目的を掲げた。
1. 横紋筋肉腫等の小円形細胞肉腫に対する標準および新規治療法の開発および普及
2. 質の高い小児がん多施設共同臨床試験を実施しうる基盤の構築
なお、1. に関しては、(1)分担研究者と協力して、倫理性と科学性が保証され、かつ独創性の高い臨床試験を企画、実践し、各疾患に対する世界の標準治療法を確立すること、(2)新規適応外薬剤を対象とした医師主導治験を企画、実践し、再発肉腫症例に対する新規治療法の開発を目指すと同時に、適応拡大申請に耐えうるデータを提供し、医療行政への還元を図ること、の二点を小目標とした。
研究方法
1.横紋筋肉腫等の小円形細胞肉腫に対する標準および新規治療法の開発および普及
(1) 標準的治療方の確立:倫理性と科学性が保証され、かつ独創性の高い臨床試験を企画、実践し、各疾患に対する世界の標準治療法を確立すること。この目標を達成するための臨床試験として、以下の①②の研究計画を立案した。
① 進行性・難治性横紋筋肉腫に対する自家造血幹細胞救援療法を併用した大量化学療法の第II相試験
② 進行性神経芽腫に対する自家造血幹細胞救援療法を併用した大量化学療法の第II相試験(2) 再発肉腫を対象とした新規適応外薬剤の医師主導治験:再発肉腫症例に対する新規治療法の開発を目指すと同時に、適応拡大申請に耐えうるデータを提供し、医療行政への還元を図ること。この目標を達成するための臨床試験として「小児小円形細胞肉腫に対する塩酸イリノテカンの第I-II相試験」を医師主導治験として企画した。
2.質の高い小児がん多施設共同臨床試験を実施しうる基盤の構築
既に高い実績をあげている日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の組織を参考に、小児がん臨床試験の基盤となる三本柱「データセンター」「臨床試験審査委員会」「効果安全性評価委員会」を確立した。さらに分担研究者を中心に、小児臨床試験のための倫理指針、トランスレーショナルリサーチ基盤、臨床試験の国際協力基盤等の整備活動を推進した。
結果と考察
1-(1) 小児肉腫に対する標準的治療の開発および普及
横紋筋肉腫および神経芽腫に対する二つの臨床試験プロトコールを立案・作成し、研究組織の構築、プロトコール治療の妥当性の検討、プロトコール治療に必要な医療技術の開発を行った。また、その他の肉腫に対する新たな臨床試験計画のための予備研究を行った。進行性横紋筋肉腫を対象とした臨床試験デザインに関しては、平成14年9月に日本横紋筋肉腫研究グループ内の承認を受け、さらに「臨床試験審査委員会(当時は日本小児がん学会の臨床研究評価委員会)」の検討を経た後、プロトコールおよび症例報告書(CRF)の作成を進めた。これらの作業行程はデータセンター、作業部会、委託業者であるNPO日本臨床研究支援ユニット、および研究代表者となる原純一医師の間のpeer reviewを通して行われた。現在、プロトコールおよびCRFはほぼ完成し、平成15年5月を試験開始の目標に、国立がんセンター内のデータセンターにおけるデータベース構築を進めている。
進行神経芽腫を対象とした臨床試験に関しては、研究代表者となる金子道夫医師を中心に試験デザインの確定作業が進んでいる。
1-(2) 小児肉腫に対する新規適応外薬剤(塩酸イリノテカン)の医師主導治験
分担研究者である土田、麦島らにより、小児肉腫患者を対象とした塩酸イリノテカンの第I相試験が行われ、この結果を受けて自主研究としての第II相試験が進行中である。ただし、これらの臨床試験が行われた当初は、新GCPを重視した臨床試験体制が存在せず、薬剤安全性情報の収集の精度も十分ではないため、適応拡大申請に耐えうるデータとはならないと判断し、新たに新GCP対応医師主導治験を企画した。
プロトコール作成に先立ち、製造販売元であるヤクルト社および第一製薬株式会社との会合を繰り返し、秘密保持契約、白箱提供と各種情報提供を確認した。
現在検討中のプロトコールデザインを以下に示す。対象を小児小円形細胞肉腫とした「効能拡大」に第一目標を置き、用量に関しては成人での適応用量である40mg/m2の3日間投与、2週間繰り返し、1週間休薬というレジメンを基本とした第I-II相試験を計画した。一日投与量30mg/m2からの増量試験による推奨投与量の決定に引き続き、有効性評価のために推奨投与量への患者リクルートを継続し、全20例を登録、評価する予定である。
本臨床試験を新GCP準拠「医師主導治験」として実施するために、NPO法人日本臨床研究支援ユニット、大橋靖雄代表と協議を繰り返し、治験薬概要書、各種手順書草案の作成を進めている。実際に参加を予定する施設における治験管理室等の協力体制の確認作業も開始した。
2. 小児がん領域の多施設臨床試験を実施する基盤の整備
臨床試験の基盤整備に関しては、当該研究班が目指す方向性を確認する目的で「牧本班の活動原則」を策定した。それを基に、5名の研究者を中心として、臨床試験の基盤整備、作業部会の結成、 トランスレーショナル・リサーチ基盤の整備、小児がん倫理委員会の設置、国際協力体制の構築という5つのプロジェクトを推進した。
我が国では、基礎研究のレベルに比べて臨床研究のレベルが低い、といわれて久しい。小児がんの領域では、1970年の前半から「多施設共同臨床研究」を謳った研究グループが複数活動を行ってきたが、治療法や研究法を客観的に評価するための臨床試験審査委員会や倫理委員会の介入はなく、有害事象をリアルタイムに汲み上げ、安全性を保証する正確なシステムもなかった。いわば「多施設共同臨床実践」から得られたデータを持ち寄り、独学で学んだ統計学的手法を用いて解析したデータを発表していたに過ぎない。
このような背景を持つ小児がん研究において、質の良いエビデンスを創り出し、それを将来の患者に還元するためには、優れた試験デザイン、それを記載したプロトコールを客観的に評価するシステム、エラーの少ないデータ収集、品質管理の行き届いたデータマネージメント、および生物統計学者による解析といったプロセスの改善が必須である。
当該班研究では、モデルケースとなりうる3つの具体的な臨床試験の計画と実行を通して小児がん領域全体のための臨床試験の共通基盤の整備を進めるために、多くの分担研究者の協力を仰ぎ、既に述べたような多方面の改革を推進していく。今後、各々の分担研究の進行に伴って、より具体的かつ実践的な活動が行われ、成果があげられるものと期待している。
結論
小児肉腫を対象として、具体的な3つの臨床試験プロトコールを立案し、それらを実行する過程において必要な各種基盤整備を行った。平成15年度より、これら具体的臨床試験を開始する予定である。

公開日・更新日

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