小児科診療における効果的薬剤使用のための遺伝子多型スクリーニングシステムの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200585A
報告書区分
総括
研究課題名
小児科診療における効果的薬剤使用のための遺伝子多型スクリーニングシステムの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小崎 健次郎(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 百々秀心(国立成育医療センター)
  • 山岸敬幸(慶應義塾大学医学部)
  • 菅谷明則(都立清瀬小児病院)
  • 高橋孝雄(慶應義塾大学医学部)
  • 熊谷昌明(国立成育医療センター)
  • 長谷川奉延(慶應義塾大学医学部)
  • 緒方勤(国立成育医療センター)
  • 奥山虎之(国立成育医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①薬物代謝酵素の遺伝子検査を、臨床現場で利用するためには、迅速・正確・低コストに、遺伝子検査を実施しうるシステムを構築する必要がある。遺伝子多型の効率的な解析法である、熱変性高速液体クロマトグラフィー法(DHPLC法)を用いて代表的な薬物代謝酵素であるチトクロームCYP2D6、CYP2C9、CYP2C19の遺伝子多型をタイピングする方法を開発することを目的とした。②CYP2C9*1*3多型ヘテロ接合体の成人患者群におけるワーファリンの一日投与量は*1*1ホモ接合体の患者群における一日投与量に比して低値であることが6論文報告されている。これらの論文のデータを統合したメタ解析を行うことを目的とした。③CYP2C8, CYP2C19の第4エクソンの共増幅を排するPCRプライマーを設計した上で、日本人におけるCYP2C9の第4エクソンの多型分布を検討した。④血中濃度・薬効に対しては、投与量以外にも、年齢・体重などの共役変数が大きな影響を与える。統計モデリングの手法を用いると、これらの共役変数から、血中濃度・薬効を予測するモデル式を作成することができる。ワーファリン投与後のINR値およびバルプロ酸投与後のINR値を予測する統計モデル式を導くことを目的とした。⑤日本人においてチオプリンメチル転移酵素の活性を低化させる既知の多型は,*3Cであり、ヘテロ接合体頻度は1/50程度であることが知られている。6MPによる副反応の発生頻度は1/50より高いことから,日本人においては未発見の多型が副反応の発症に寄与していると推測される。日本人におけるTPMT遺伝子のハプロタイプ構造を決定することを目的とした。またエストロゲンα受容体の多型とテストステロンへの反応性について検討を行うために、日本人における、エストロゲンα受容体近傍のSNPの分布、連鎖不平衡の程度の評価、ハプロタイプ構造を試みた。⑥テストステロンの効果は,TEが5α還元酵素2型により変換されたジヒドロテストステロンがアンドロゲン受容体に結合して発現することから,5α還元酵素2型遺伝子(SRD5A2)のV89L多型とアンドロゲン受容体遺伝子(AR)のCAGリピート多型長とテストステロンによるミクロペニス対する治療の効果の相関を検討した。⑦ アミノグリコシド系抗生物質のなかで、ストレプトマイシンによる難聴がはじめて報告されたが、小児科領域で現在でも広く使われているゲンタマイシンにも同様の聴力毒性が指摘されている。薬剤感受性難聴の予防に対するミトコンドリア1555遺伝子の変異スクリーニングの有用性を検証し、その実施における問題点を指摘するための系統的な文献検討を行った。
研究方法
①RFLP などの従来法を用いて薬物代謝酵素の遺伝子多型のジェノタイピングが終了している検体を熱変成高速液体クロマトグラフィー法(DHPLC法)により再解析し、DHPLC法分析条件を最適化した。②ワーファリンの遺伝子多型と臨床的エンドポイントの関連についての研究を網羅的に文献検索し、2000年から2002年で、欧米成人患者を対象とした研究6論文について検討した。固定効果モデル、混合効果モデルに基づき、2群における平均値の差について推定を行った。③日本人におけるCYP2C9遺伝子第エクソン4遺伝子多型を検討した。CYP2C9, CYP2C8, CYP2C19の第4エクソン周辺のゲノム配列をNIHゲノムデータベースより入手し、整列した。Leungらが発表
したPCRプライマー対の特異性に付いて検討した。各エクソンを特異的に増幅するPCRプライマー対を設計した。これらのプライマー対を用いて、日本人15名に付いて第4エクソンを増幅し、直接シーケンシング法により遺伝子配列を決定した。④ワーファリンの投与量とINR値の相関についてのノモグラムを作成した。小児循環器外来に受診し、ワーファリンの単剤投与をうけている人工弁弛緩術後患者のうち、内服量が3ヶ月以上不変である3から33歳の24名について、診療録から、INR値、投与量、体重を抽出した。非説明変数をINR、説明変数を投与量と体重とした多重回帰モデルを作成した。おなじ手法を用いて、バルプロ酸の投与量と血中濃度の相関についてのノモグラムを作成した。小児神経外来に受診し、バルプロ酸の単剤投与をうけているてんかん患者のうち、内服量が6ヶ月以上不変である者(8ヶ月から32歳)について、診療録から、血中濃度(トラフ)、投与量、年齢を抽出した。非説明変数を血中濃度、説明変数を投与量と年齢とした多重回帰モデルを作成した。投与量および年齢を3節の3次スプライン関数で補間し、ノモグラムを作成した。⑤公開されている日本人のSNPsデータベースであるJSNPを利用して、TPMT遺伝子近傍の多型性の高いSNPsを選択し、SNPタイピングを行った。得られたジェノタイプデータに対してhaplo.scoreプログラムを利用してハプロタイプ解析を行った。推定されたハプロタイプデータに対してGoldプログラムを利用して当該遺伝子近傍における連鎖不平衡を定量化した。⑥ミクロペニスにおけるアンドロゲン受容体および5α還元酵素2型の遺伝子多型とエナルモン治療効果の連関を検討した。ミクロペニス日本人患者58例(年齢0-14才,中央値7才)を対象とした。対照群として、親のインフォームドコンセントが得られた特発性低身長男児50人と成人男性50人を解析した。直接シークエンス法・キャピラリー電気泳動法によりタイピングした。エナルモン25mgあたりの陰茎長増加量を各患者において算出し,陰茎長増加量とSRD5A2遺伝子のV89L多型およびAR遺伝子のCAGリピート数多型との相関を統計解析した。⑦ミトコンドリア1555変異と家族性難聴について文献的考案を行い、その原因や予防法などに関する研究の現状を把握し、ミトコンドリア1555遺伝子変異のスクリーニングの臨床に即した技術的問題について検討した。
結果と考察
①CYP2D6、CYP2C19、CYP2C9遺伝子について、フランス国立保健衛生研究所においてRFLP解析に用いられているプライマー対を用いて、DHPLC解析条件の最適化を行った。上記の解析条件下で、変異アレルのヘテロ接合体が表中のカラム最適温度下で二峰性または三峰性のDHPLCクロマトグラムを示し、ホモデュプレックスとヘテロデュプレックスを分離することが可能であった。② 混合効果モデル(DerSimonian-Laird法)によれば、*1*1ホモ接合体(野生)と*1*3ヘテロ接合体におけるワーファリンの平均投与量の差の推定値は2.20mg/日(95%信頼限界1.46~2.96)であった。ベイズの原理にもとづくREML法によれば、*1*1ホモ接合体(野生)と*1*3ヘテロ接合体におけるワーファリンの平均投与量の差の推定値は2.20mg/日(95%信頼限界1.49~2.90)であった。効果サイズが、標準偏差の大きさと相関していることから、公表バイアスは小さいと判断された。
③ Leungらが発表した561CAG>CCG(Gln192Pro)および608TTG>GTG(Leu208Val)はCYP2C9座位の多型ではなくCYP2C8およびCYP2C19遺伝子を観察していると考えられた。527ATT>CTT(Ile181Leu)はCYP2C9の遺伝子多型であり、日本人15人の検討の結果、1人がヘテロ接合体であった
④ 投与量と年齢からワーファリン服用後のINR値を予測する統計モデル式および投与量と年齢からバルプロ酸の血中濃度を予測する統計モデル式を作成し、ノモグラムの作成が可能であることを示した。
⑤ チオリンメチル転移酵素のハプロタイプ構造 熊谷昌明
日本人におけるTPMT遺伝子およびエストロジェンα受容体のハプロタイプ構造を明らかにした。
⑥ 陰茎増加量は,SRD5A2遺伝子V89L多型とは相関しなかったがAR遺伝子CAGリピート数とは有意の負の相関を示した。また,エナルモン25mgあたりの陰茎長増加量は,患児の年齢や体表面積に変わりなくほぼ同等であったが,エナルモン25mgあたりの陰茎長増加量は,標準偏差の年齢差を反映して患児の年齢や体表面積と逆相関していた。
⑦ ミトコンドリア1555変異と家族性難聴について文献的考案を行い、その原因や予防法などに関する研究の現状を把握した。
結論
① DHPLCを用いて3種類の薬剤代謝酵素CYP2D6、CYP2C19、CYP2C9、6種類の遺伝子多型を迅速にタイピング可能であることが示された。②6論文のメタ解析によりCYP2C9遺伝子の*1*3多型ヘテロ接合体の成人患者群と*1*1ホモ接合体の患者群における一日投与量の平均値の差は2.2mg(95%信頼限界1.46~2.97)と推定された。③CYP2C9遺伝子第4エクソンの遺伝子多型の検討においては、CYP2C8遺伝子およびCYP2C19遺伝子の共増幅に充分に注意する必要がある。CYP2C9遺伝子第4エクソンを特異的に増幅するPCRプライマーを用いて、日本人において未報告であるアミノ酸置換Ile181Leuが存在することを示した。④投与量と年齢からワーファリン投与後のINR値を予測する統計モデル式および投与量と年齢からバルプロ酸の血中濃度を予測する統計モデル式を作成し、ノモグラムの作成が可能であることを示した。⑤日本人におけるTPMT遺伝子のハプロタイプ構造を明らかにした。遺伝子全域について強い連鎖不平衡を認めた。日本人におけるエストロジェンα受容体遺伝子のハプロタイプ構造を明らかにしたリガンド結合部位において強い連鎖不平衡を認めた。⑥エナルモン25mgあたりの陰茎長増加量(cm/doseとSDスコア/dose)とアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート数多型との相関を解析したところ、有意の負の相関を示した。アンドロゲン受容体遺伝子CAGリピート多型は薬剤応答規定多型であると考えられる。⑦小児科領域におけるアミノグリコシド系抗生物質の使用は比較的多く、特に新生児期の使用頻度が高い。薬剤使用前に遺伝子診断を行い、易罹患性の高い患者を同定できれば、難聴の発症を未然に防ぎうる。

公開日・更新日

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