小児のけいれん重積に対する薬物療法のエビデンスに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200584A
報告書区分
総括
研究課題名
小児のけいれん重積に対する薬物療法のエビデンスに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 真木子(東京女子医科大学小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 相原正男(山梨医科大学医学部医学科)
  • 泉 達郎(大分医科大学医学部)
  • 大塚頌子(岡山大学大学院医歯学照合研究科)
  • 加藤 郁子(東京女子医科大学 衛生学公衆衛生学教室第2講座)
  • 金子堅一郎(順天堂大学医学部付属順天堂浦安病院)
  • 須貝研司(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 高橋孝雄(慶應義塾大学医学部)
  • 林北見(財団河北総合病院)
  • 萩野谷和裕(東北大学大学院医学系研究科)
  • 松倉 誠(熊本大学医学部)
  • 三浦寿男(北里大学医学部)
  • 皆川公夫(北海道立小児総合保健センター)
  • 山野恒一(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 山内 秀雄(獨協医科大学)
  • 山本 仁(聖マリアンナ医科大学)
  • 浜野晋一郎(埼玉県立小児医療センター)
  • 吉川 秀人(新潟市民病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
43,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児の痙攣重積症と群発状態は、重要な救急状態で直ちに止める必要がある。外国ではロラゼパムを筆頭に、数種の治療指針が提案されている。本邦にはロラゼパムは無く、ジアゼパム(Dz)静注療法を第1選択とし、Dz抵抗例にはフェニトイン(PHT)、フェノバルビタール(PB)、ペントバルビタールなどが保険適応とされている。一方、痙攣重積自体の生体への侵襲に加え、治療薬剤の呼吸、循環への影響も強く、特に第2選択薬では厳重な集中管理が必須で、現場では安全・有効な薬剤が求められている。塩酸リドカイン(Lid)、ミダゾラム(Mz)は本要求に応える薬剤として外国の治療指針に採用されている。一方、本邦ではMzによる治療は、痙攣重積に対する麻酔導入療法との拡大解釈は可能であるが、Mz 、Lidの痙攣発作に対する保険適応承認がなく、適応外使用されている。その為、多数例の情報が蓄積されず、小児への標準的使用法、管理法、安全性に関し合意が得られていない。統一された治療管理基準により多施設、多症例の知見を得ることが、安全・有効な治療確立に必要である。日本小児神経学会評議員への調査で、保険適応承認獲得必要緊急度は同剤が最も高いとされた。本研究班では「本邦小児への痙攣重積のよりよい治療法を確立する」ため、MzとLidの有効性を検討し証拠を得て、同薬剤を保険承認薬申請に漕ぎ着ける事が目標である。本年度は、痙攣重積症および群発状態の実態、同症に対する世界の治療指針、MzとLidの薬理学的特性や効果と副作用を文献展望し、さらに分担研究者(班員)が一丸となり多施設共同後方視的研究を行い現時点での最大限の情報を得る事を目標にした。また、その知見に基づき、前方視的研究の準備を始めた。
研究方法
班員会議は準備会を含め平成14年6月、8月、平成15年1月、3月の計4回開催した。班員に、痙攣重積の疫学、原因、病態、薬物治療指針と治療成績、Mz、Lidの薬効の文献展望、前方視的研究実施時の倫理委員会申請書類原案作成などの課題を分担した。共通調査形式を作り、班員とその関連施設の過去の小児痙攣重積症あるいは群発例に対する調査依頼を9月末に送付、12月初めに回収した。回答不備を訂正し、基礎疾患別に使用効果、副作用を検討した。発作型、基礎疾患、急性症候性に関わらず全てを対象とするが、低血糖など全身性代謝性障害が直接原因の場合は除外した。この後方視的研究を参考に、前方視的研究の準備を始めた。前方視的研究では、倫理的に配慮し、現行の第1選択薬であるDz無効の痙攣重積症に対し、治療計画説明書を用い承諾を得て、統一した治療管理基準に従い、同剤の有効性、安全性を多施設共同でオープン試験として行う。偽薬対照、比較対照薬は置かず単独試験とする。治療計画は、患者の状態改善を優先し、客観性確立法として、第二選択薬として同剤以外の治療例の資料を集積し予後を検討する事を班の方針とした。
結果と考察
大塚
氏は、てんかん重積状態(SE)の疫学を文献展望した。米国では、小児の新たなSEの年間発症率は24.1-約40人/100,000、発症年齢の頂点は小児と老人で、発症年齢により、原因、死亡率などが異なっていた。小児対象の地域調査では、40%以上が2歳未満で、原因に発熱または急性症候性が多かったが、年長群では器質性脳損傷例などが多かった。SEは小児で頻度が高く、本邦の疫学情報を得る事、適切な治療指針の策定が急務と報告した。高橋氏は、原因と病態生理を展望した。皆川氏は、Mzの薬理学的特性を文献検討し、強力な痙攣抑制作用を有し、速効性で、希釈して持続静注投与が可能で、代謝産物に生物学的活性が殆どなく、半減期が短く中止後の覚醒が速いなどの利点を有し、Mz持続静注治療は小児の痙攣重積に極めて有用と結論した。松倉氏は、抗痙攣剤として持続使用時の有効血中濃度は200?400ng/mlとし、MzはPHT代謝を促進するので、一定濃度を保つにはPHT投与量増加が必要とした。本知見は痙攣重積時の薬物療法上重要である。三浦氏は、簡便で感度、精度の高い血中濃度測定系をHPLCで確立した。林、浜野氏はMzの薬効、安全性、薬理学的背景などを文献検討した。林氏は、小児例では比較対照1、前方視的2、後方視的研究7の10文献、148例、191発作機会の、成人では前方視的1、後方視的5の6文献、85例の静注療法を検討した。有効率は79?100%で、全身麻酔療法としての導入例、脳症例などを除けば、重篤な副作用を認めないとする報告が主であったという。浜野氏は小児例を検討し、9文献の165例,225機会のMz投与で186機会,83%と高い有効性を認めた.初期投与量は0.02-0.90 mg/kg,維持持続静注量は0.06-1.08 mg/kg/hr,静注時間は計12-288時間だった.報告毎の差が大きく、標準的用法用量の確立が急務という.副作用は225機会中11%に認め、人工呼吸管理を要した4機会の一文献を認めたが,原疾患の重症度の影響も大きかった。他の副作用は血圧,酸素飽和度低下,分泌物増加などで,対症療法で改善し重篤なものはなかった。また,筋肉注射,頬粘膜/点鼻投与の報告もあり、小児救急診療,在宅医療での同剤の有用性は高いと報告した。吉川氏は、テオフィリン(T)関連痙攣と、非関連痙攣の治療効果を比較した。T関連痙攣では、Dz使用例で47%、Mzでは73%で頓挫でき、Dzの有効性は低かったが、Mzでは有意差はなかった。T関連痙攣とMzに関する情報がなく、今後検討が必要と結論した。
多施設から、Mzの静注および持続静注療法499発作機会の情報が集積され,林氏が分析した。平均年齢48カ月。原因はてんかん(Epi)276、急性症候性223機会であった。初回静注の364機会中192機会で発作消失、無効例での持続静注後の消失は65機会。持続静注のみでは135機会中71機会で消失し、発作消失率は61%であった。脳炎脳症例を中心に、109機会で呼吸管理などがされたが、Mz関連、または判定困難の副作用は、呼吸抑制31、眠気興奮など29、消化器症状10、運動症状10計74機会15%で、内容は日本医薬品集掲載のそれと同様であった。今回の有効性の結果は、従来の文献に比し低く、副作用の率も高かった。この差が母集団の規模の違いによるのか、他要因によるのかを更に分析する。
相原、山本氏は、Lidの43文献を解析し、痙攣重積・群発例に対し、新生児から高齢者まで使用され、その有効率は80%、副作用は6%と報告した。方法は2mg/kg/dose 静注後、2~4mg/kg/hrで維持静注し、1~5μg/mlを有効濃度とする報告が多かった。主な副作用は神経・循環器系症状があるが、重篤なものは大量投与、粘膜処置時、併用薬との関連性が確認された。今後用量、用法と併用薬剤との相互作用に留意する必要があると報告した。Lidの後方視的研究の調査票は236例回収され、林氏が情報整理、山野氏が分析した。3歳以下(66%)が多かった。Epi140例と非Epi96例であり、発症から初診までは、1時間以内が47%、24時間以上が10%あった。基礎疾患を110例に認め、出生前因子が多く(72%)、Epi分類は局在関連性Epiが多かった(60%)。発作型は、全身強直間代、二次性全般化、複雑部分発作が多数を占め、誘因は発熱が多かった。同剤の初回投与量平均は1.97mg/kg、継続投与開始量平均は2.39mg/kg/hrであった。初回投与時に痙攣が消失/減少する場合には、継続使用でも消失する割が高かった。全体の有効性は68%で、循環/呼吸抑制などの副作用を17%に認めた。発症後使用開始の時間や同剤の選択順位、Epi、非Epiにより有効率に差はなく、痙攣重積症に対し有用であった。腸炎に伴う群発例には全例有効で、第1選択になり得る。従来、効果が乏しいとされていた側頭葉Epiなどでも有効性は劣っていなかった。加藤氏は、効果的分析法を検討し、金子、山内、萩野谷氏は、前方視的研究の倫理委員会申請書類原案を作成した。須貝氏は痙攣重積治療手順原案を作成、泉氏は重症ミオクロニーEpiのそれを考察した。
結論
痙攣重積症は、乳幼児に多い救急状態で、現行保険承認薬剤のみでは不十分であり、安全かつ有効な薬剤の保険承認追加その治療指針確立は緊急課題である。Mz、Lidの多施設共同後方視的研究では、過去に類のない多数例の情報が全国規模で収集された。共に痙攣重積症に対し有用な薬剤と思われたが、有効性は、過去の文献例より低値であった。原因によっては、薬剤の使用順序を別途考慮する必要もある。多施設調査のため情報不足で分析困難な点もあり、項目追加、情報確認し、精度を上げる。倫理的検討を加え、前方視的研究の第一案を作成した。今後、後方視的研究の結果を踏まえ、前方視的研究に何を求めるかを検討する。学会とも協議し小児用治療指針を作成して行く。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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