小児・新生児におけるフェンタニルの用法・用量の確立と、有効性・安全性の評価(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200582A
報告書区分
総括
研究課題名
小児・新生児におけるフェンタニルの用法・用量の確立と、有効性・安全性の評価(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中村 秀文(国立成育医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮坂勝之(国立成育医療センター)
  • 尾原秀史(神戸大学)
  • 木内恵子(大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 中村知夫(国立成育医療センター)
  • 越前宏俊(明治薬科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
54,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の主目的は、フェンタニルの小児適応取得の核となる治験(あるいは質の高い臨床試験)をデザイン・実施し、同時に、今後の本領域での臨床試験を実施するためのインフラを整備することにある。本年度は特に、参加予定施設におけるフェンタニルの使用実態調査、プロトコール案の作成、医師主導型治験として実施するための情報収集と各種インフラの整備などを行った。
研究方法
フェンタニルの使用実態調査やプロトコール案の作成は、分担研究内容、公表論文、他の医薬品の承認申請資料や審査報告書などを参考に行われた。作成には、主任・分担研究者、生物統計専門家、臨床薬理学専門家、CRC、各参加予定施設の医師と若手医師などが参加した。インフラの整備、クオリティコントロールについては、国立がんセンター研究所にデータセンターを置くJCOG、医師主導の臨床試験の支援を行っている日本臨床研究支援ユニット、フェンタニルの発売元である製薬企業の開発担当者からの情報などをもとに検討した。また、海外との情報収集、情報交換も行い、将来的な国際共同臨床試験実施に向けての問題点と解決法などについても検討を行った。
結果と考察
フェンタニルは教科書的には、手術中の麻酔補助やさまざまな手技(骨髄穿刺、挿管、髄液穿刺など)の際の鎮痛に用いられているが、本邦においてはその使用方法にかなりの施設間格差があることが明らかとなった。討議の結果、「術中におけるフェンタニル静脈内投与」が、最も一般的かつ頻回に行われており、現場での適応取得の要望も高いであろう、という結論に達した。このことから、本研究の中心となる臨床試験では、「術中におけるフェンタニル静脈内投与」について、その用量・有効性の確認と、安全性の評価を行うこととした。フェンタニルは海外では新生児に対しても有効で安全であると評価されているが、本邦では2歳以下に対して禁忌とされていることから、本試験の対象患者を、1)新生児・低出生体重児、2)新生児期を越えて2歳以下、3)2歳を超えて6歳以下、と3群に分けて、群間において安全性の比較も行うこととした。各群20-40症例をエントリーする予定である。術中の安全性の評価は血圧、心拍等の変動を中心に行い、有効性の評価は、痛覚刺激に対する反応等で行い、同意の得られた患者においては薬物血中濃度の評価を行うこととした。ICUにおける小児・新生児の鎮痛については、すべての施設でフェンタニルが使用されているわけではないものの、国際的に見ると頻用されており、一部施設では臨床試験の実施が可能であると判断された。このことから来年度には別にプロトコールを作成して、評価を行うこととした。
分担研究者の越前はチトクロームP450(CYP)分子種特異的な発達変化に関する文献的及びに理論的な検討を行った。特に1歳以下のデータは少ないが、分子種によって発達の影響が異なることが明らかとなった。新生児から6歳までの小児について、フェンタニルの薬物動態を評価し、同時に代謝酵素であるCYP3A4の活性・発現等を評価することは、CYP3A4の発達変化を評価するために有効であると考えられた。
インフラ整備の一環として、国立成育医療センター治験管理室の体制整備を行った。平成15年1月に病院側の全面的な理解と支援のもと、地下から12階へ治験・臨床試験管理室を移転し、総面積約120平米のスペースを今後の治験およびに臨床試験の支援のために確保・整備した。プロトコール作成については、日本臨床研究支援ユニットを介して経験豊富な生物統計家を紹介いただき、プロトコール作成支援、CRF作成支援、統計支援等を行っていただいている。データマネジメントについては、自前のスタッフ養成と体制整備が、今回の臨床試験実施には間に合わないと判断し、外部委託を行うこととした。モニタリング、監査については、医師主導型治験として実施する場合には、モニタリング・監査を行う部門は、治験を行う施設と独立しておかねばならないと考えられることから、今回は外部委託し、監査については承認申請を行う製薬企業が担当することとした。医師主導型治験を実施するためには、製薬企業との連携が不可欠であり、今回は治験薬の製造及びに提供、治験薬概要書の準備、CRF作成の際のアドバイス、監査、などについて可能な限り支援いただき、また治験終了後の承認申請も行っていただけることとなっている。プロトコールが完成ししだい医師主導型治験として、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構の治験相談を行ってアドバイスを受け、各施設の審査委員会での承諾を得た上で、開始する予定である。
啓発活動も積極的に行ったが、特に医薬安全総合研究事業大西班「小児等の特殊患者群に対する医薬品の用法及び用量の確立に関する研究」と日本公定書協会による普及啓発事業「Therapeutic Orphanからの脱却の道」を共催し、中村がプログラム作成、事務局などを担当した。約250名が出席し、適応外使用通知に則った承認申請、医師主導型治験、米国における治験の現状と国際共同治験への動き、小児多施設臨床試験への取り組みと問題点(シンポジウム)、小児臨床試験における生命倫理(パネルディスカッション)などについて、活発な議論が行われた。
海外の情報収集としては、フランス、パリのHopital Robert-Debreおよびスウェーデン、ストックホルムのKarolinska Instituteにおいて視察及び情報交換を行った。また、ベルギー、リエジュで行われた欧州発達薬理学会において情報収集およびに国際共同臨床試験実施のための情報交換を行った。欧州においては小児治験はさほど進んでいないものの、医師主導の臨床試験の支援体制は本邦より整備されている印象をうけた。リエジュでは、欧米の小児臨床薬理学者と国際共同臨床試験実施を実現するために解決するべき問題点について討議を行った。またこれとは別に、今年度来日された海外の専門家とも情報交換を行った。これらの情報収集・情報交換により、小児の多施設大規模臨床試験を実施するためには、データマネジメント、効果安全性評価委員会などの中央機能の存在が重要であること、小児のアセント取得の際の説明内容については、米国においても施設間や地域間での格差が大きく、今後検討されていくべき問題であること、国際共同臨床試験に向けて欧米との話し合いが必須であること、などが明らかとなった。日本においても欧米と同時に小児医薬品が開発されるようになるためには、国際共同臨床試験のインフラを整備することが肝要である。このために、すでに欧米の専門家との間で意見交換を開始しているが、今後もこの意見交換を継続し、近い将来、本研究で確立したインフラを使用して、国際共同臨床試験を行えるようにできればと願っている。
結論
今年度は、フェンタニルの使用実態調査、プロトコール案の作成、臨床試験実施に必要な国内外の情報収集、文献調査、各種インフラの整備、医師主導型治験に向けての対応準備などを行った。中心となる臨床試験は、医師主導型治験として実施するべく、プロトコール案作成を行い、また体制整備等を行っている。さらに、ICUにおける小児・新生児の鎮痛については、別立てのプロトコールで臨床試験を実施する予定である。インフラとしては、中央機能としての国立成育医療センター治験管理室の体制整備、データマネジメント・モニタリングの外部委託、統計支援・CRF作成支援とプロトコール作成支援の委託などを行い、今後さらに体制整備を継続する。また、本研究で整備する臨床試験のインフラを将来国際共同臨床試験のプラットフォームとしても利用できるように、海外の研究者との意見交換も開始している。

公開日・更新日

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