痴呆性高齢者を対象とした新規在宅支援サービスの開発

文献情報

文献番号
200200567A
報告書区分
総括
研究課題名
痴呆性高齢者を対象とした新規在宅支援サービスの開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
今井 幸充(聖マリアンナ医科大学東横病院精神科)
研究分担者(所属機関)
  • 池上直己(慶応大学医学部医療政策管理学)
  • 三浦研(京都大学大学院工学研究科)
  • 長島紀一(日本大学文理学部心理学科)
  • 永田久美子(高齢者痴呆介護研究・研修東京センター)
  • 新名理恵(東京都老人総合研究所精神医学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(痴呆・骨折分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、痴呆性高齢者とその家族に新たな在宅支援サービスを提案するものである。2001年度は、現行の介護保険下で不足するサービスは、均質で柔軟性のあるサービス内容と介護者や被介護者のエンパワメントに視点を置いた心理的サポートが主体の個別サービスであり、これらを満たす痴呆性高齢者のための新規在宅支援サービスの開発が必要であることを報告した。 そこで、これらの結果を踏まえ2002年度の研究は、「心理的サポート」と「個別サービス」をkey wordsに、現状の介護保険下でのフォーマルサービスを有効利用しながら家族介護者の負担を軽減し、そのQOLの維持向上に寄与する援助のあり方について検証し、新規サービス展開の可能について明らかにする。
研究方法
2002年度は、家族介護者の要望に対して即座に対応できる心理的サポートサービスの構築と、被保険者ならびにその家族介護者が必要な時に必要なサービスが受けられる小規模多機能介護施設の可能性について以下の研究方法で実施した。(1)心理的サポートを主体にしたサービスの構築研究: 2002年7月に町田市在住の要介護認定者2,391人を対象に、自記式調査票を用いて在宅介護支援および介護者支援への要望に関する調査を郵送法で実施し、919人の有効回答が得られた。2003年1月には、江戸川区とその周辺地域の介護支援専門員(ケアマネージャー)390人を対象に、心理的サポートを中心とした新しいサービスの展開の可能性について調査し、145人から回答が得られた。在宅介護者53人を対象に専門家による講義および家族懇談会を実施し、介入前後の在宅介護者の主観的QOLについて検討した。さらに、東北地方のI市で、要介護認定者の家族4,567人を対象にサービスニーズおよび心理的サポートに関する郵送法調査を実施した。介護教育に関する研究では、介護施設のケアスタッフを対象として介護ビデオに出演する被介護者に対して予め痴呆の「ある」「無し」の異なる教示をすることにより、ケアスタッフの被介護者に対する診かたにどのような影響を与えるか検討した。(2)新たなサービス実施に関する経済的側面からの研究:北九州市内を3つの介入地区と2つの対照地区に分け、ケアマネージャーが痴呆性高齢者の在宅支援のための介入を行うことで、それに要する直接費用(対応時間・対応回数・介護サービス利用総額)と介入効果(家族介護者の負担感・充実感)について検証し、また有効な介入内容について検討した。(3)小規模多機能介護ホームの可能性についての研究:「通所」に加え「宿泊(夜間通所)」などのサービスを組み合わして利用でき、「短期入所」機能をもつ小規模施設などを「小規模多機能ホーム」と定義し、このようなサービスを展開している全国38ホームの事業者および介護等担当者にインタビュー調査、利用者の行動観察調査、間取り採取調査、日誌や書籍等の文献調査を実施した。
結果と考察
町田市調査で痴呆介護者のストレス軽減に役立つ間接介入や心理的サポートなどの直接介入につながるサービスを検証したところ、介護者が相談や知識、アドバイスなど身近に受けることができる専門スタッフの存在が必要性であることが示された。江戸川区地域のケアマネージャー調査では、一人あたりのケアプラン件数や本来の業務以外の業務が多すぎため、ケアマネージャーが十分な心理的サポートを提供するには、本来の業務と事務業務とを分離させる業務
効率化が必要であることが明らかになった。
在宅介護者の介護教育介入調査では、介入前後のQOL得点に有意差が認められなかったが、痴呆あり群の介護者に介入前後で心理的安定感値が増加する傾向にあった。またI市の調査では、現行フォーマルサービス利用が必ずしも介護者のQOL得点に良い影響を与えるとは限らないことが示され、現行のサービスの見直に在宅介護者の視点を取り入れることの必要性と、サービスに関して十分な情報開示と理解が必要であると考えられた.
ケアスタッフが、被介護者の「痴呆」の情報が予め伝わると、ケアスタッフの視点が当初から「疾病」を診る視点に準備され、些細な言動までも予測された臨床症状とみなされる可能性を示唆した。またケアスタッフは、痴呆性高齢者の理解しがたい言動や行動が意味する背景を探る対応を見せなかった。以上から、ケアスタッフの導入教育では、痴呆の正確な知識と情報がスタッフの初期の介護行動に大きく影響することが示唆された。
介護負担軽減のための介入をケアマネージャーが実施することによる経済効果は、費用分析で効果が無かったが「対応回数」は介入により増大した。また介入による負担感軽減効果も得られず、「痴呆なし・自立群」「痴呆なし・援助群」「痴呆あり・自立群」「痴呆あり・援助群」の4群別に分析をしたところ「痴呆なし・援助群」においてのみ「束縛感」の軽減していたが、「痴呆あり・自立群」「痴呆あり・援助群」において「孤立感」が増大した。介入内容として効果があったのは、「痴呆なし・援助群」のみで、「かかりつけ医との連携」「ヘルパーとの情報交換」「主介護者との話合い」などであった。しかし同じような対応内容を実施した「痴呆あり」の2群においては、マイナスの影響を示した。
サービス提供の適正環境を明らかにするため、小規模多機能介護施設の有用性を検証した。日中のデイサービスと夜間デイサービスとを合せることでショート・ミドルステイ機能、さらに住まい機能を果たすようになり、このような施設はサービスごとに異なる環境へ移る必要がなく、施設利用による人的関係の構築や物理的環境への適応の緩やかなプロセスを可能にし、施設入所時の痴呆性高齢者にみる不安や混乱が抑えられる。さらに自宅に加えて新たな生活の拠点となり、地域とつながりを持ちながら自宅生活が継続できているメリットがあるものの、運営面での苦慮している実態が明らかになった。
結論
痴呆性高齢者の在宅介護を支援することが期待される介護者への心理的サポートは、専門知識と技術を有した身近な専門職員が実施することが望ましい。現行の介護保険制度でその役割を果たすのに適するのがサービス調整を主とする介護支援専門員(ケアマネージャー)であるが、江戸川区調査からケアマネージャーの日常業務は多忙を極め、それらのための時間獲得が困難であると推測された。それ故、ケアマネージャーが在宅介護者に心理的サポートをサービスとして提供するには、日常業務での本来の業務と事務業務とを分離させて、ケアマネージメン業務の効率化を図る必要がある。
在宅介護者の負担感軽減には痴呆の病態や介護に関する正しい知識が欠かせないが、そのための介護教育を実施しても在宅介護者の心理的安定感は十分なものでなかった。この結果は北九州市の調査でも見られ、ケアマネージャーによる教育的介入はむしろ介護者の「孤独感」の増大させた。これは、ケアスタッフに痴呆の「有り」「なし」の教示をあらかじめ行うことにより被介護者へのまなざしが異なる結果から、介入により介護者の「痴呆」に対する陰性感情を増幅させてしまうことが考える。それゆえ、介護者への介入は単に知識を列挙するのではなく、十分な心理的サポートが実施されることが望まれる。
同時に痴呆性高齢者の在宅ケアを充実させるためには、自宅での生活を継続しながら支援が受けられ、また必要に応じて複数のサービスを組み合わせることで対応できるような小規模な多機能介護施設の導入を考える必要がある。むろんこれらの施設は介護者への心理的サポートに十分対応できること必要である。

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