痴呆性高齢者の権利擁護

文献情報

文献番号
200200565A
報告書区分
総括
研究課題名
痴呆性高齢者の権利擁護
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 正彦(慶成会老年学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 松下正明(東京都立松沢病院院長)
  • 田山輝明(早稲田大学教授・副総長)
  • 松田修(東京学芸大学助教授)
  • 中嶋義文(社会福祉法人三井記念病院部長)
  • 水野裕(高齢者痴呆介護研究・研修大府センター研究部長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(痴呆・骨折分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この研究班は、痴呆性高齢者の自律を尊重し、可能な限り自立した生活を援助するための具体的な方策を医学的な見地から示すことである。3年間の研究終了時には、早期に正確な診断を受け、高齢者自身がその診断と予後を知り、可能な治療や支援を受けながら、成年後見制度、地域福祉権利擁護制度、介護保険制度などを活用して自分の希望する生き方を実現し、意思能力が失われる痴呆性疾患終末期には、必要十分な医療と介護を受けながら、安らかな最期を迎えるまでの全プロセスにわたり、高齢者の人権を守るための具体的な方法を明らかにし,医療福祉分野における専門家のための指針を作成することを目指している。
研究方法
以下の分担研究が独自の方法で遂行された。①全体の総括(研究の総括)、②痴呆性高齢者の終末期医療の標準化に関する研究(レトロスペクティブ調査)、③ドイツにおける高齢者介護システムおよび施設における処遇システムに関する研究(文献的調査)、④高齢者の自己決定に関する精神医学的研究:(ア)地域福祉権利擁護事業利用者の能力判定の実態に関する研究(介入的プロスペクティブ研究)、(イ)医療同意能力に関する実態調査(文献調査、調査票による調査)、⑤成年後見制度、地域福祉権利擁護事業発足後の実情と課題に関する法律的行政的研究:(ア)調布市等における調査(介入的プロスペクティブ研究)、(イ)医療同意、任意後見等に関する海外の実情に関する法的研究(文献研究)、(ウ)成年後見に関する国際シンポジウム、⑥痴呆性疾患における心理アセスメントと社会活動能力に関する研究:(ア)社会生活機能と神経心理学的検査成績との関連(統計手法を用いた定量的研究)、(イ)金銭管理能力に関する評価尺度の開発(統計手法を用いた研究)、(ウ)痴呆症による生活障害を緩和するための介入プログラムの開発(臨床介入的プロスペクティブ研究)、⑦介護情報共有を疎外・促進する因子に関する実証的研究(介入的プロスペクティブ研究)、⑧痴呆医療とインフォームドコンセントに関する実情調査(インタビューによる情報収集)
結果と考察
②痴呆性高齢者の終末期医療の標準化に関する研究:老人病院で死亡した約300例の死亡前2年間の医療情報の推移をデータベース化し、高齢者の慢性疾患終末期の医療状況を明らかにした。③ドイツにおける高齢者介護システムおよび施設における処遇システムに関する研究は資料収集の段階にとどまり分析を次年度に持ち越した。④高齢者の自己決定に関する精神医学的研究:(ア)地域福祉権利擁護事業利用時に、契約締結審査会で審査を受けた25例について精神医学的検討を行い、現状では定量的な意思能力判定基準による選別ではなく、制度利用意思の明示、援助の必要性、他の有効な援助手段の有無等を考慮して契約締結の可否が判定されていることが明らかになった。(イ)医療同意能力に関する実態調査では、欧米における同意能力判定基準を調査すると同時に全国1500カ所の高齢者福祉施設入居者を対象に医療同意に関する実態調査を開始した。⑤成年後見制度、地域福祉権利擁護事業発足後の実情と課題:(ア)調布市および周辺5市の行政、東京都社会福祉協議会による成年後見、地域福祉権利擁護事業への取り組みについて調査した。(イ)医療同意、ドイツ、アメリカの任意後見、グループホームのあり方などに関する調査を行い、現状と問題点を整理した。(ウ)ドイツ、韓国から研究者を招いて成年後見に関するミニマム・スタンダードに関するシンポジウムを行
った。⑥痴呆性疾患における心理アセスメントと社会活動能力:(ア)社会生活に必要な能力と、神経心理学的検査成績との関連を定量的に解析した。(イ)金銭管理能力に関する評価尺度を開発した。(ウ)痴呆症による知的機能の欠陥が引き起こす生活障害を緩和するための介入プログラムを開発し効果評価を開始した。⑦介護情報共有を疎外・促進する因子に関する実証的研究:新設の特別養護老人ホームにおいて職員相互、職員と家族の情報共有のためのハード、ソフト両面で工夫しその効果を判定した。情報共有を推進するにはIT機器のリテラシーを向上させる誘導が不可欠であることを明らかにした。⑧痴呆医療とインフォームドコンセント:痴呆性高齢者の身体医療におけるインフォームドコンセントの現状を調査した。治療費の支払い、その後の介護等について家族に負うところが大きいために家族の意向が重視されること、施設入居や単身の痴呆性高齢者は、家族が同居している高齢者に比較して代理同意者が得にくく医療から疎外される傾向があることなどの問題点が明かになった。
結論
本年度は、最終年度における具体的な提言を目指して、現状の分析を行った。痴呆性高齢者の生活を支援する地域福祉権利擁護事業、成年後見制度は、これまでのところ、十分に活用されているとは言い難く、その原因の一つは、これらの制度が十分に社会的理解を得ていないこと、家族のいない高齢者が利用できる後見機関が確立していないことなどが明らかになった。これらの制度に関連して、高齢者の意思能力判定に関する精神医学的な検討がなされ、地域福祉権利擁護事業利用者の契約締結能力判定に関しては、本人の意思能力ばかりでなく、契約によって得られる援助の有効性等も勘案して判断されるべきことを示した。痴呆性高齢者の医療同意についても家族による代理が重視されるあまり、本人の意思が十分反映されなかったり、家族のいない高齢者が医療から疎外されている可能性があることが明らかになった。日本の医療現場では、インフォームドコンセントの本質に関する理解が不十分であることが明らかになり、その対応策として、海外における医療同意能力判定基準に関する研究が行われた。施設における情報共有は家族や高齢者が主体的に参加する介護に関する意思決定の前提であるが、今回の調査では、こうした情報共有の困難さが明らかになった。対応策として情報提供システムの充実だけでは効果が期待できず、システムのリテラシー向上のための教育、啓発活動が重要であることが示された。痴呆性高齢者の終末期医療においては、医師の判断の根拠となるべき十分なデータが存在しなかったが、今年度までの研究で痴呆性高齢者約300例の終末期医療情報がデータベース化された。これらの結論に基づき、最終年度は、痴呆性高齢者の生活から、介護を経て死に至るまでの権利擁護のあり方について具体的な提言を行う。

公開日・更新日

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