臓器移植の社会基盤に向けての研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200480A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器移植の社会基盤に向けての研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大島 伸一(名古屋大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成9年10月に「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)の施行され、我が国に脳死下で臓器移植に法律的に途が開かれることとなったが、脳死臓器移植数は未だ平成15年1月までの23例と少数に留まっている。臓器移植法施行以降、献腎移植数は減少の一途にあり平成14年はわずか64例の献腎症例数を数えるのみであった。一方、腎臓移植成績の向上に献腎移植を希望する患者は増え続け、全国で13,000人以上となっており、献腎移植の推進は緊急かつ重要な社会的課題であり、日本臓器移植ネットワークは腎移植数を年間2,000例(提供者数人口100万人比10に該当)まで増加させることを達成目標としている。
これまでの研究で我々は病院における献腎情報の活性化を目的として病院開発標準モデルを開発し、実践的応用により献腎推進に成果があることを確認してきた。その一方で、地域特性に合せた病院開発モデルを作成し、平成13年より全国展開を図るとともに、平成14年4月よりドナー・アクション財団の提供するドナー・アクション・プログラム(商標名、以下DAP)のわが国への導入を開始したところである。
心停止下の献腎でも脳死臓器提供の際に行われる厳密な法的脳死判定が必要との誤解は市民のみならず医療関係者にも見られ、献腎が少ない原因の一つと指摘されているが、本研究の病院開発手法により、献腎情報の活性化ばかりでなく、その過程において献腎について市民、あるいは医療関係者に正しい献腎知識を普及させる効果により、市民、あるいは医療関係者の正しい理解のもとに心停止後の腎臓提供が増え献腎移植数の増加につながり、わが国での真の献腎移植が定着すること、ひいては臓器提供に関する社会的基盤の確立することを期待するものである。
研究方法
(1)病院開発標準モデルの実施
研究グループにおける病院開発モデルの運用実績を病院開発数、開発病院における献腎活動:死亡症例数とその背景調査、死亡症例における献腎の医学的適応条件を満たす症例数、臓器提供の意思確認がなされた症例数、献腎数などで評価する。
(2)病院開発モデルの全国展開
平成13年9月に日本移植学会腎移植推進委員会との合同会議の開催により開始された病院開発モデルの全国展開活動は平成14年度も継続して展開した。その目的は地域特性をふまえた病院開発モデルの提供による献腎情報の活性化ひいては献腎活性化である。活動は各地域の献腎移植の実情を地域移植関係者の聞き取り調査などから標準モデル導入の可能性を検討し、地域移植関係者の意向を聞いた上で導入するというもので、導入したグループには研究班から説明会への資料提供、人的支援などさまざまな支援が行われた。導入県での病院開発数、開発病院における献腎活動、死亡症例数とその背景調査、死亡症例における献腎の医学的適応条件を満たす症例数、臓器提供の意思確認がなされた症例数、献腎数などで評価、検証するというものである。
(3)DAPの導入
本研究班の開発した病院開発モデルの効果を一層高める目的で導入を決定し、平成14年4月にドナー・アクション財団が企画するDAPのtraining courseを本研究班メンバーが履修後、日本語版診断ツールを作成した。静岡県、新潟県、北海道において導入を開始し、今後実施して得られた資料はドナー・アクション財団にのデータベースにも登録され、参加各国間での共同利用がなされ、献腎推進効果の検証が行われる予定である。
なお、倫理面への配慮として本研究がドナーおよび家族の状況が個人票レベルで検討されることがあることから、プライバシーの保護、および目的外使用の禁止など、倫理面への配慮を十分に行うこととした。
結果と考察
(結果)
(1)病院開発モデルの研究
平成14年は北海道、静岡県、新潟県、佐賀県の4研究グループで病院開発研究を行った。その結果、平成14年の個票の獲得と献腎症例数は北海道では144個票、0症例、静岡県97個票、4症例、新潟県201個票、0症例、佐賀県159個票、0症例であり、全国の献腎数の減少と同調し献腎数の減少は著しかった。一方、オプション提示数は静岡県で見る限り平成11年10例(61個票中)、平成12年26例(128個票中)、平成13年31例(125個票中)、平成14年28例(97個票中)と減少は見られていない。以上より、平成14年度は献腎数は減少したものの、献腎情報数あるいはオプション提示数からも献腎推進活動は積極的に行われているものと評価できることから、平成14年度の献腎症例数の減少は全国的な減少の流れに影響されたものであり、何らかの他の要因の関与が推察され、今後の解明が必要と思われた。
(2)全国展開の評価
平成13年9月に日本移植学会腎移植推進委員会との合同会議の開催により開始された病院開発モデルの全国展開活動により、東日本では秋田県、西日本では富山県、京都府、山口県、福岡県、熊本県、長崎県、沖縄県で、これらのうち多くが個票の回収を始めており、個票数は51病院から総計1,824個票にのぼり、うちオプション提示例も24例あった。先行の4研究グループの成果には至らないものの3例の献腎症例があり、献腎推進活動の全国展開が献腎情報の活性化に効果があるものと期待される。
(3)DAPの導入
平成14年4月、横浜でドナー・アクション財団が企画するDAPのtraining courseを本研究メンバーが履修し、日本における本プログラムの導入に着手した。現在日本で利用が可能な形でMRRとHASの日本語版を作成し、静岡県、新潟県、北海道で導入を開始したところである。現在までに、HA Sについては北海道、新潟、静岡の3県で合計2,779人から回答が寄せられ、MRRについてはHAS実施16病院から症例が発生次第報告がなされる体制が構築された。
平成15年3月9日、東京でドナー・アクション・プログラム中間検討会が開催され、中間検討会を行うとともに、研究班以外の全国展開に参加する7県16名の参加を求め、短期研修会を同時開催した。この会では導入県でのHASの中間結果が紹介されたが、今後これらの結果は正式に集計し次第、誌上発表などを通じて救急現場へ情報提供し、献腎への理解を深めていくことが提案された。一方、新たに参加した県でのDAPの導入に向けて検討することになった。
なお、本会に参加したドナー・アクション財団の責任者から最新の改訂版DAPの紹介があった。
(考察)
日本で未だ有効なドナー・アクションプランは開発されていない。諸外国では・臓器提供方式としてopting-inからopting-outへの変更、・臨死・死亡患者のOPO(Organ Procurement Organization)への通報義務、・患者家族への意思確認の制度化、・臓器提供希望者のコンピューター登録等の方法が試みられており、特に・・・は有効であると報告されているが、日本の現状ではこれらはいずれも困難であり、日本の状況に適した病院開発モデルの開発が必要であると思われる。本研究の基となる標準モデルは静岡県の方式を参考にし作成されたものである。主任研究者らの平成11年、平成12年、平成13年の先行研究では徐々にその運用により献腎数の増加が見られるなどの成果が見られたが、平成14年には全国献腎数の減少を反映して研究グループでも献腎症例数は減少した。しかし、平成14年度の献腎情報は減少しておらず、病院開発モデルが献腎情報活性化に有望であることが示唆された。献腎数減少については今後原因の解明が必要と思われる。
平成13年度には平成13年9月に日本移植学会臓器提供推進委員会との合同会議で始まった本研究班と日本移植学会との協力体制のもとに、本病院開発標準モデルの全国展開が行われ、研究に参加した県での献腎情報活性化の成果が見られた。献腎数の増加には直接につながっていないものの、今後全国展開の継続的取り組み、活動の強化、展開地域の拡大などにより献腎数の増加が見込まれる。
また、研究班でドナー・アクション財団の提供するDAPのわが国への導入を図るにあたり、研究班スタッフの研修教育プログラムへの参加、あるいは診断的ツールの日本語版の作成などを行い、静岡県、新潟県、北海道の施設に導入を行った。これらの施設では現在、献腎に関する潜在能力の診断がようやく終り、その分析に入ったところであり、今後プロトコールの作成へと作業を進めていく予定となっている。
献腎情報の活性化において救急医療の現場での職員の献腎意識は重要な要素であり、これらのDAPの意識調査はこれを知る貴重な資料となると思われるが、一方で救急現場での献腎意識の向上に向けて、救急医学会、保健行政との密接な協力体制の構築についても取り組む必要があると思われ、現在対応を検討しているところである。
なお、DAPは病院におけるドナー候補者の認識過程を向上し、結果的に献腎推進効果があるといわれており、これまでに献腎情報の活性化を目指し開発を進めてきた病院開発手法をDAP的手法により改善し、わが国独自の質の高い病院開発手法として確立したいと思っている。
結論
本病院開発モデルは献腎情報を活性化とそれによる献腎推進効果があることがこれまでの研究で確認された。現在全国展開を進め、ドナー・アクション財団の提供するDAPの導入をも行っており、今後これらの研究で得られた知見をもとに本モデルを改善し、わが国独自の質の高い病院開発モデルの作成し、その運用によるわが国の献腎活性化ひいては献腎移植の推進を図る予定である。

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