文献情報
文献番号
200200475A
報告書区分
総括
研究課題名
造血細胞の自己修復能力、再生能力を利用した治療法の開発と普及に関する
研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小寺 良尚(名古屋第一赤十字病院)
研究分担者(所属機関)
- 小島勢二(名古屋大学医学部)
- 岡本真一郎(慶應義塾大学医学部)
- 峯石真(国立がんセンター中央病院)
- 一戸辰夫(京都大学医学部)
- 浅野茂隆(東京大学医科学研究所)
- 小池隆夫(北海道大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
血液・骨髄系の細胞はもともと再生能力を有し、その特質を利用した同種並びに自己造血細胞移植療法(同種骨髄、末梢血、臍帯血、自己骨髄、末梢血幹細胞移植並びに同種リンパ球系細胞輸注;DLI)は、それまで不治の病とされてきた各種疾患、病態を有する患者に高い確率で治癒と良好なQOLを齎してきた。本研究はこれら多様な同種、自己造血細胞移植を一体的に捉え、日本人の人種的均質性に支えられた良好な同種造血細胞移植成績に基盤を置きつつ、その更なる成績向上、適用範囲の拡大、ならびにドナーの負担の軽減を、同種又は自己由来の血液・骨髄系細胞の、自己修復、再生能力を最大限に引き出すことにより実践する。
研究方法
以下の7分担研究課題を設定し、相互に情報交換を図りながら研究を進めた。同種末梢血幹細胞移植に関するテーマは、ヒト組織適合抗原の解析と応用に関するテーマとともに、平成14年度は他班に移されたが、日本造血細胞移植学会との共同事業である同種末梢血幹細胞ドナーフォロウアップに関わる研究結果については(附)として当班の本報告書にも収載することとした。
研究課題-1:DLIと細胞治療;分担研究者:小寺良尚、研究協力者:塩原信太郎(金沢
大学医学部)、加藤剛二(名古屋第一赤十字病院)、伊藤仁也(旭川医科
大学)、関根輝明(リンフォテック株式会社)、山本興太郎(東京医科歯科大学)、赤塚美樹(愛知県がんセンター)
研究課題-2:Ex vivo培養T細胞による細胞治療の基盤整備と実施;分担研究者:小島勢二
研究課題-3:自家造血幹細胞移植並びに海外ドナーからの移植の推進;分担研究者:岡本真一郎、研究協力者:小川啓恭(大阪大学医学部)
研究課題-4:HLA不適合移植の基盤整備-成分移植-;分担研究者:峯石真
研究課題-5:HLA不適合移植の基盤整備-母児間移植-;分担研究者:一戸辰夫、研究協力者:玉木茂久(山田赤十字病院)
研究課題-6:骨髄・末梢血系幹細胞のex vivo増幅;分担研究者:浅野茂隆
研究課題-7:膠原病に対する造血細胞移植-対象疾患拡大のモデルとして-;分担研究者:小池隆夫、研究協力者:鳥飼勝隆、江崎幸治(藤田保健衛生大学)
(附) 同種末梢血幹細胞移植;分担研究者:小寺良尚、日本造血細胞移植学会
研究課題-1:DLIと細胞治療;分担研究者:小寺良尚、研究協力者:塩原信太郎(金沢
大学医学部)、加藤剛二(名古屋第一赤十字病院)、伊藤仁也(旭川医科
大学)、関根輝明(リンフォテック株式会社)、山本興太郎(東京医科歯科大学)、赤塚美樹(愛知県がんセンター)
研究課題-2:Ex vivo培養T細胞による細胞治療の基盤整備と実施;分担研究者:小島勢二
研究課題-3:自家造血幹細胞移植並びに海外ドナーからの移植の推進;分担研究者:岡本真一郎、研究協力者:小川啓恭(大阪大学医学部)
研究課題-4:HLA不適合移植の基盤整備-成分移植-;分担研究者:峯石真
研究課題-5:HLA不適合移植の基盤整備-母児間移植-;分担研究者:一戸辰夫、研究協力者:玉木茂久(山田赤十字病院)
研究課題-6:骨髄・末梢血系幹細胞のex vivo増幅;分担研究者:浅野茂隆
研究課題-7:膠原病に対する造血細胞移植-対象疾患拡大のモデルとして-;分担研究者:小池隆夫、研究協力者:鳥飼勝隆、江崎幸治(藤田保健衛生大学)
(附) 同種末梢血幹細胞移植;分担研究者:小寺良尚、日本造血細胞移植学会
結果と考察
1.DLIと細胞治療:DLIはEBV-LPDやCML移植後再発例に対し有用であることが明らかになっており、健康保険の適用も受けているが、GVHDなどの合併症もあり、AL(急性白血病)には効果が少ない。そこでドナーのCD-4陽性T細胞をIL-2を含む固相培地で6~8日間に1000倍に増幅した活性化T細胞による移植後再発急性白血病の治療を行った。現在までに約59例が蓄積されその解析によれば、重篤なGVHDを併発する事無く寛解を得る事が出来、急性白血病にも有用であり、DLIより効果的でより安全な細胞治療法になる可能性が示された。ウイルス感染症における同治療例は37例が蓄積され、従来致命的であったアデノウイルス感染の救命例等が確認された。
2.抗原特異的ex vivo培養T細胞による細胞治療の基盤整備と実施:HLA-A24拘束性マイナー抗原を認識する幹細胞ドナー由来CTLを2株樹立した。これらCTLは患者白血病細胞を含む血液系細胞を認識し傷害するが、患者非血液系細胞並びにドナー細胞は障害せず、移植後再発白血病に対する特異的細胞療法に用いることが可能と考えられた。
以上1、2は、これらを第二世代のDLIとして位置づけ、プロトコールスタディーを組むことにより確立と普及を図る予定である。問題点は、細胞.組織由来製剤に関わる規制を、これら臨床上緊急必要性を有するものがどこまで受けるかということであろう。
3.自家造血幹細胞移植並びに海外ドナーからの移植の推進:自家造血幹細胞移植並びに海外ドナーからの移植の推進は、自己修復能力に基づく再生医療のモデルであり、今までに我が国において行われた5214例の自家造血幹細胞移植例を後方視的に解析した。その結果白血病、悪性リンパ腫瘍など血液系腫瘍で骨髄、末梢血幹細胞移植間で差が無いこと、乳癌では末梢血幹細胞移植が優れる事が明らかになった。しかし移植後の2~3年をピークとして二次性のMDSやAMLが2~3%に発症すること、それは骨髄移植よりも末梢血幹細胞移植において多く認められることが分かってきたので、その因果関係につき検討中である。既に多数例が実施されているこの領域では化学療法など他の治療法と背景因子を併せた後方視的検討を厳密に行ない、本治療法の位置を確立する予定である。海外ドナーからの移植に関しては、異人種ドナーの選択にはClass-ⅡHLA抗原の一致が重要で、人種は必ずしもドナー選択に重要な要因ではないことが示された。自家造血細胞移植で治療できるものはそれで行うというエビデンスを作ること、それと海外ドナーの利用度と合わせて、わが国の非血縁ドナープールサイズを確定することが今後の目標となろう。
4.HLA不適合移植の基盤整備-成分移植-:班員単一施設においてClini-MACSを用いた精製CD34+細胞移植が略安全に行なえることを明らかにし、共同研究プロトコールを定めた。その結果は後述の母児間移植や臍帯血移植の結果と比較されることになろう。
5.HLA不適合移植の基盤整備-母児間移植-:非遺伝HLAがマイクロキメリズムとして存在していることを免疫学的寛容の指標とした、HLA不一致(1~3座)血縁者間T細胞非除去造血細胞移植が72例において実施され、スタンダードリスク(25例)の1年生存率79.4%、ハイリスク(46例)のそれは40.4%と、少なくともこれらドナーが所謂サルベージドナーとして許容範囲内にあることが示された。移植可能なドナーが従来のHLA適合性の枠を超えて存在することが明らかになってきたので、移植医療の供給率が高まり、これを受けて適正な非血縁ドナープールサイズが確定されることが期待される。
6.膠原病に対する造血細胞移植:膠原病を対象疾患拡張のモデルとして捉え、膠原病における造血細胞移植療法の対象疾患(病態)の検討、同種移植、自家移植の選択に関する検討、情報収集を行なうとともに適応があると思われる膠原病を対象とした自家移植を実施更に適応が在ると思われる膠原病を対象とした同種移植を実施する。現在までに全国164施設において行われた8,667例の造血幹細胞移植の内、18例の膠原病の転帰について調査がなされ、移植後7例が軽快、8例が不変、3例が悪化、5例が不明、との結果を得た。これら調査を背景に成人強皮症患者3例、小児若年型関節リウマチ3例を対象に自家精製CD-34+末梢血幹細胞移植が実施され、6例中5例において症状の著明な改善が得られた。膠原病を造血細胞移植の健康保険適用疾患とするために、当面高度先進医療認定施設における症例の蓄積を目指している。
附.同種末梢血幹細胞移植:日本造血細胞移植学会との共同作業により同移植法が2000年4月健保適用を受けてから行われた全国の症例を、ドナー及び患者の短、中、長期安全性を100%フォロウアップするシステムは略順調に稼動しており、3年間に2150例の同種末梢血幹細胞採取.移植がなされ、ドナーの比較的重篤な短期有害事象は34例(1.7%)報告されたが生命予後に関るものは今のところ見られない。中長期有害事象は773例において検討され、2例(0.3%)の血液病罹患例が補足された(1例は骨髄増殖性疾患、1年前末梢血幹細胞動因のためのG-CSF投与前から罹病していることが判明、他の1例は提供後1年目に急性骨髄性白血病を発症、入院後1週間目に死亡、G-CSF等との因果関係は現時点では不明)。患者においては骨髄移植に比べ血液学的回復が速く感染症等のリスクが減る一方、GVHDの頻度が高まること、生存率は等しい事が後方視的な解析で示された。更に、本法を非血縁者間移植にも応用可能かどうかを検討するため、骨髄採取と末梢血幹細胞採取とのドナー有害事象の頻度、重篤度の後方視的比較等に関する検討を行ない、有意差は無いとする中間結果を得た。本法を非血縁者間移植に適用するに当たっては、安全性にかかわる総括的結論を構築することが必要であろう。
2.抗原特異的ex vivo培養T細胞による細胞治療の基盤整備と実施:HLA-A24拘束性マイナー抗原を認識する幹細胞ドナー由来CTLを2株樹立した。これらCTLは患者白血病細胞を含む血液系細胞を認識し傷害するが、患者非血液系細胞並びにドナー細胞は障害せず、移植後再発白血病に対する特異的細胞療法に用いることが可能と考えられた。
以上1、2は、これらを第二世代のDLIとして位置づけ、プロトコールスタディーを組むことにより確立と普及を図る予定である。問題点は、細胞.組織由来製剤に関わる規制を、これら臨床上緊急必要性を有するものがどこまで受けるかということであろう。
3.自家造血幹細胞移植並びに海外ドナーからの移植の推進:自家造血幹細胞移植並びに海外ドナーからの移植の推進は、自己修復能力に基づく再生医療のモデルであり、今までに我が国において行われた5214例の自家造血幹細胞移植例を後方視的に解析した。その結果白血病、悪性リンパ腫瘍など血液系腫瘍で骨髄、末梢血幹細胞移植間で差が無いこと、乳癌では末梢血幹細胞移植が優れる事が明らかになった。しかし移植後の2~3年をピークとして二次性のMDSやAMLが2~3%に発症すること、それは骨髄移植よりも末梢血幹細胞移植において多く認められることが分かってきたので、その因果関係につき検討中である。既に多数例が実施されているこの領域では化学療法など他の治療法と背景因子を併せた後方視的検討を厳密に行ない、本治療法の位置を確立する予定である。海外ドナーからの移植に関しては、異人種ドナーの選択にはClass-ⅡHLA抗原の一致が重要で、人種は必ずしもドナー選択に重要な要因ではないことが示された。自家造血細胞移植で治療できるものはそれで行うというエビデンスを作ること、それと海外ドナーの利用度と合わせて、わが国の非血縁ドナープールサイズを確定することが今後の目標となろう。
4.HLA不適合移植の基盤整備-成分移植-:班員単一施設においてClini-MACSを用いた精製CD34+細胞移植が略安全に行なえることを明らかにし、共同研究プロトコールを定めた。その結果は後述の母児間移植や臍帯血移植の結果と比較されることになろう。
5.HLA不適合移植の基盤整備-母児間移植-:非遺伝HLAがマイクロキメリズムとして存在していることを免疫学的寛容の指標とした、HLA不一致(1~3座)血縁者間T細胞非除去造血細胞移植が72例において実施され、スタンダードリスク(25例)の1年生存率79.4%、ハイリスク(46例)のそれは40.4%と、少なくともこれらドナーが所謂サルベージドナーとして許容範囲内にあることが示された。移植可能なドナーが従来のHLA適合性の枠を超えて存在することが明らかになってきたので、移植医療の供給率が高まり、これを受けて適正な非血縁ドナープールサイズが確定されることが期待される。
6.膠原病に対する造血細胞移植:膠原病を対象疾患拡張のモデルとして捉え、膠原病における造血細胞移植療法の対象疾患(病態)の検討、同種移植、自家移植の選択に関する検討、情報収集を行なうとともに適応があると思われる膠原病を対象とした自家移植を実施更に適応が在ると思われる膠原病を対象とした同種移植を実施する。現在までに全国164施設において行われた8,667例の造血幹細胞移植の内、18例の膠原病の転帰について調査がなされ、移植後7例が軽快、8例が不変、3例が悪化、5例が不明、との結果を得た。これら調査を背景に成人強皮症患者3例、小児若年型関節リウマチ3例を対象に自家精製CD-34+末梢血幹細胞移植が実施され、6例中5例において症状の著明な改善が得られた。膠原病を造血細胞移植の健康保険適用疾患とするために、当面高度先進医療認定施設における症例の蓄積を目指している。
附.同種末梢血幹細胞移植:日本造血細胞移植学会との共同作業により同移植法が2000年4月健保適用を受けてから行われた全国の症例を、ドナー及び患者の短、中、長期安全性を100%フォロウアップするシステムは略順調に稼動しており、3年間に2150例の同種末梢血幹細胞採取.移植がなされ、ドナーの比較的重篤な短期有害事象は34例(1.7%)報告されたが生命予後に関るものは今のところ見られない。中長期有害事象は773例において検討され、2例(0.3%)の血液病罹患例が補足された(1例は骨髄増殖性疾患、1年前末梢血幹細胞動因のためのG-CSF投与前から罹病していることが判明、他の1例は提供後1年目に急性骨髄性白血病を発症、入院後1週間目に死亡、G-CSF等との因果関係は現時点では不明)。患者においては骨髄移植に比べ血液学的回復が速く感染症等のリスクが減る一方、GVHDの頻度が高まること、生存率は等しい事が後方視的な解析で示された。更に、本法を非血縁者間移植にも応用可能かどうかを検討するため、骨髄採取と末梢血幹細胞採取とのドナー有害事象の頻度、重篤度の後方視的比較等に関する検討を行ない、有意差は無いとする中間結果を得た。本法を非血縁者間移植に適用するに当たっては、安全性にかかわる総括的結論を構築することが必要であろう。
結論
難病に高い確率で治癒をもたらしつつある造血細胞移植は近年更に多様化し、この治療を受ける機会も高くなってきているが、それでも尚その供給率は移植の潜在需要の5割にも満たない。又、その成績も移植関連合併症や移植後白血病再発等によりここ数年あまり向上を阻まれている。本研究はこれら現在の問題が相互に関連しているとの認識に立ち、テーマ相互間の情報交換を密にして研究を進めるものであり、その成果は既に、母児間移植のサルベージ移植としての定着、活性化T細胞によるDLIの実施や、自家末梢血幹細胞移植による膠原病の治療等において現れてきている。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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