細胞組織工学を応用した培養皮膚の開発に関する研究(H12-再生-010)

文献情報

文献番号
200200472A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞組織工学を応用した培養皮膚の開発に関する研究(H12-再生-010)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
黒柳 能光(北里大学医療衛生学部人工皮膚研究開発                    センター)
研究分担者(所属機関)
  • 熊谷憲夫(聖マリアンナ医科大学医学部形成外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、同種(他家)培養真皮の臨床研究を展開してきた黒柳研究班と自家培養表皮の臨床研究を展開してきた熊谷研究班のこれまでの技術的な実績を基盤として新しい治療法の確立を目指すことでスタートした。自家培養表皮に関しては、米国では1987年に企業化に成功しており、数年前から我が国でもベンチャー企業が製造認可に向けて臨床試験を展開している。自家培養表皮については、技術面で特段に進展させる余地は見られない。そこで、米国で市販されている同種培養真皮に対抗する国産品の開発に軸足を移動させることにした。北里大学医療衛生学部人工皮膚研究開発センターで開発した同種培養真皮の多施設臨床研究を全国規模で推進することにより産業化への基盤づくりを研究の目的とした。本研究は、厚生労働省から発表されたガイドラインに準じて安全性を確保した同種培養真皮の製造と供給体制の確立が基本であり、それを用いた多施設臨床研究の成果を学会発表をとおして医療従事者に情報提供をすることを最終目的とした。
研究方法
 同種培養真皮はヒアルロン酸とアテロコラーゲンから成る2層構造のスポンジ状シートに線維芽細胞を播種して培養する方法により製造する。北里大学医療衛生学部人工皮膚研究開発センターでは、分担研究機関である聖マリアンナ医科大学から輸送されたウイルス検査陰性の皮膚小片から線維芽細胞を採取し、大量培養してマスターセルとワーキングセルを作成する。このマスターセルについて、専門機関に依頼して再度ウイルス検査を行い陰性であることを確認する。ワーキングセルを順次解凍して継代培養して同種培養真皮を製造する。製造の際、マイコプラズマ検査ならびに細菌・真菌検査を行い陰性であることを確認する。製造した同種培養真皮を一時的にー152℃の超低温フリーザーで凍結保存し、順次、医療機関に冷凍状態で供給するシステムを確立している。実際には発泡スチロールの箱に凍結同種培養真皮を入れドライアイスを詰めて冷凍宅配便で輸送する。各医療機関では、ー85℃の低温フリーザーに収納し、適宜、解凍して臨床使用する。ここで、皮膚提供に関しては、聖マリアンナ医科大学倫理委員会の承認をうけ、皮膚提供者から文書による同意をうけた。一方、同種培養真皮の適用に関しては、各医療機関の倫理委員会の承認をうけ、患者から文書による同意をうけた。
結果と考察
米国で製品化された同種培養真皮(ダーマグラフトおよびトランスサイト)と本研究で開発した同種培養真皮の相違点は、マトリックスである。線維芽細胞が産生するサイトカインや細胞外マトリックスは、創傷治癒に有効に作用するので、マトリックス自身の創傷治癒促進能力が相乗的な効果を発揮して同種培養真皮の性能を決定すると考えられる。コラーゲンやヒアルロン酸は、創傷治癒を促進する生体材料であり本研究で開発した同種培養真皮は優れた生物学的創傷被覆材として期待できる。
平成13年度からは、下記の医療機関の協力を得て臨床研究を展開した。北海道大形成外科、秋田大皮膚科、慶應大形成外科、東京女子医大形成外科、日本医大形成外科、順天堂大皮膚科、聖マリアンナ医大形成外科、北里大形成外科、北里大皮膚科、横浜市立大形成外科、横浜市立大皮膚科、名古屋大形成外科、愛知医大形成外科、金沢医大形成外科、京都大皮膚科、和歌山県立医大皮膚科、近畿大形成外科、大阪医大形成外科、川崎医大形成外科、岡山大皮膚科、鳥取大皮膚科、香川医大形成外科、福岡大形成外科、九州大皮膚科、湘南鎌倉総合病院形成外科、国立京都病院皮膚科、香川県立中央病院形成外科、北九州総合病院形成外科が臨床研究に参加した。
再生医療の普及の一環として、国内の学会で臨床研究発表を積極的に行った。第45回日本形成外科学会(平成14年4月長崎):6演題、第28回日本熱傷学会(平成14年6月大阪):5演題、第32回日本創傷治癒学会(平成14年12月福岡):13演題、第2回日本再生医療学会(平成15年3月神戸):8演題、第46回日本形成外科学会(平成15年4月神戸):3演題の発表を行い、第102回日本皮膚科学会(平成15年5月浦安):3演題の発表を行う。地方会を含めて多施設臨床研究の発表は70演題にのぼる。
これまでの臨床研究実績は264症例であり、有効症例255症例(プロトコール外の参考症例9症例)中、「極めて有用」163例、「有用である」77例、「普通」13例、「有用でない」2例であった。なお、全ての臨床研究記録書は、北里大学医療衛生学部人工皮膚研究開発センターに保管してあり、厚生労働省の要請があれば全てを開示することにしてある。
結論
角化細胞を用いた自家培養表皮(エピセル)は米国で製品化されているが再生医療として本格的に普及する情勢ではない。自家培養表皮が再生医療として確立されるためには、良好な移植床の形成が重要なポイントであり、米国では凍結保存屍体皮膚の併用により移植床を形成してから自家培養表皮を適用することが推奨されている。しかし、国内では凍結保存屍体皮膚の入手量に制約がある。それゆえ、本研究の一つの課題である同種培養真皮の適用による移植床の形成は重要である。同種培養皮膚代替物(培養表皮、培養真皮、培養皮膚)は永久生着は不可能であるが、細胞が産生する種々のサイトカインや細胞外マトリックスにより創傷治癒を顕著に促進する。それゆえ、「生物学的創傷被覆材」として分類される。角化細胞は創傷治癒を促進する種々のサイトカインを産生する。一方、線維芽細胞はサイトカインの他に細胞外マトリックスを産生する。それゆえ、浅達性の皮膚欠損創には同種培養表皮、深達性の皮膚欠損創には同種培養真皮が有効である。浅達性皮膚欠損創の治療であれば安価な創傷被覆材が利用できるため同種培養表皮の製品化は現実性に乏しい。実際に、米国では同種培養表皮の製品化は行われていない。従来の創傷被覆材では治療の困難な深達性皮膚欠損創には、勿論、角化細胞と線維芽細胞の両者を利用した同種培養皮膚が性能的には勝っていると思われるが、製造コストの軽減を考慮すると同種培養皮膚よりも同種培養真皮が実用的と考えられる。以上の分析から本研究で進める同種培養真皮の開発は再生医療としての実現性が最も高いと判断できる。実際に、同種培養真皮に関しては、米国でダーマグラフトとトランスサイトが製品化されている。同種培養真皮の性能は線維芽細胞の産生するサイトカインや細胞外マトリックスが重要であるが、それと同様に線維芽細胞の足場となるマトリックス自身の創傷治癒能力が重要である。国産初の製品開発においては、知的所有権を取得することが最も重要な問題である。細胞を利用する手法に関しては、その多くが公知であり、焦点となるのは細胞の足場となるマトリックスの特性と製法である。そこで、本研究で開発中の同種培養真皮については、線維芽細胞の足場となるマトリックスとして治癒促進能力の高い生体材料を使用し、細胞環境に好適な構造体を設計した。同種培養真皮の製法に関する特許を2000年12月7日に申請した(発明の名称:組織再生用基材、移植用材料及びそれらの製法 特願2000-373116)。

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