神経幹細胞を用いた神経変性疾患の治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200470A
報告書区分
総括
研究課題名
神経幹細胞を用いた神経変性疾患の治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
高坂 新一(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岡野栄之(慶應義塾大学医学部)
  • 中福雅人(東京大学大学院医学系研究科)
  • 中村 俊(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 和田圭司(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 伊達 勲(岡山大学医学部)
  • 高橋 淳(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
83,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究要旨=本年度においては、神経幹細胞の分離培養に関しては、1)ES細胞より神経幹細胞を効率的に分化誘導するシステムを開発し、ドーパミンニューロンやコリン作動性ニューロンを得ることに成功した。2)発生期の脊髄における神経幹細胞からニューロンとグリアが分化する過程につき、各種ホメオドメイン型HLH型転写因子に焦点を当て解析を行った。その結果、発生期の脊髄腹側においては、Olig2, Nkx2.2, Pax6, Ngn1/2/3, Mash1が、それぞれ特異的な組み合わせで時期・部位特異的に発現し、その組み合わせで神経幹細胞からのニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイトの発生が制御されていることが明らかとなった。3)ヒト由来神経幹細胞の性質を検討する研究においては、胎児脳を前脳、間脳、中脳、後脳に分けてニューロスフェアーとして培養を行い、ドーパミンニューロンへの分化を検討した結果、特に間脳、中脳から2~3%の割合でドーパミンニューロンが認められた。またエストロジェンを加えることによりドーパミンニューロンが増加することも明らかになった。内在性神経幹細胞の分化増殖に関する研究に関しては以下の成果が得られた。1)ラット胎児の初代培養細胞およびスライス培養を用い、神経幹細胞の分化・成熟過程におけるNMDA受容体の機能を検討した結果、NMDA受容体は神経幹細胞の増殖制御、もしくは細胞の移動を含む分化速度の制御に関わることがわかった。2)マウス胎児の神経上皮培養細胞を用いG蛋白質共役型受容体(GPCR)遺伝子の発現を網羅的に解析したところ、神経幹細胞で発現するGPCRを同定できた。さらにGPCRに対する特異的リガンドを神経上皮の培養系に添加して生理作用を解析したところ増殖抑制ならびに分化を誘導するGPCRリガンドを同定することが出来た。神経幹細胞が形成する神経回路網の維持を図るための基礎研究として、マウス胎児脳初代培養細胞あるいはスライス培養を用い、黒質―線条体間の相互作用について解析を行った。その結果、黒質から分泌されるドーパミンは線条体および大脳皮質抑制性神経細胞の分化と移動の制御に関わることが示唆された。
研究目的=
神経変性疾患の代表例であるパーキンソン病では、黒質ドーパミンニューロンが変性脱落することにより重篤な機能障害が生じることが知られている。このパーキンソン病の治療として胎児黒質ドーパミンニューロンの脳内移植が欧米を中心に行われているが、ドナー数の制限や倫理的な問題もあり、更に治療効果にも限界があるのが現状である。
このような状況下で、ニューロンやグリア細胞の共通の前駆細胞である神経幹細胞を用いた脳内移植療法の開発が注目を集めつつある。最近の研究により、この神経幹細胞は胎児のみならず成体の脳内にも広く存在することが明らかとなった。胎児・成体より単離した幹細胞を移植することにより、パーキンソン病において失われた黒質ー線条体神経回路網を再生させるという新規の治療法の開発が望まれる。しかしながら、これまでの研究では増殖、分化、特異性といった神経幹細胞そのものに関する基本的な理解がほとんどなされていないし、またモデル動物を用いた幹細胞の移植実験でも移植細胞の挙動あるいは宿主の応答等に関する充分な評価がなされない。
本研究ではこれらの点に鑑み、神経幹細胞に関する分子細胞生物学的理解を飛躍的に発展させ、神経変性疾患の中でも特にパーキンソン病への 臨床応用へ向けた研究を展開することを目的とする。具体的には、1)神経幹細胞の分離技術を開発・確立し、2)神経幹細胞の増殖・分化機構を解明するとともに、3)ドーパミンニューロンへの分化誘導技術を開発する。更に、4)神経幹細胞が形成する神経回路を検出する技術を開発し回路網の維持を図るとともに、5)神経幹細胞の移植技術をサルを含む動物において確立することをめざす。また6)過去2年間における研究を通じ重要性が認識されてきた内在性神経幹細胞の分化増殖機構も検討する。
研究方法
本年度の研究に関しては、主にラットおよびマウス脳由来の神経幹細胞を用い研究を進めたが、ヒト神経幹細胞を用いた研究は京都大学医学研究科における医の倫理委員会の承認によって行われた。下記に記載する個々の研究方法に関しては、添付した分担研究報告書を参照されたい。
結果と考察
本年度は神経幹細胞の分離技術の開発、神経幹細胞の分化機構の解明、さらにヒト胎児由来神経幹細胞の培養などのテーマにつき以下のような成果を挙げることができた。まず、神経幹細胞の分離培養に関しては、1)ES細胞より神経幹細胞を効率的に分化誘導するシステムを開発し、そこから様々なタイプの機能ニューロン、すなわちドーパミンニューロンやコリン作動性ニューロンをin vitroおよびin vivoで得ることに成功した。2)発生期の脊髄神経管における神経幹細胞からニューロンとグリアが分化する過程につき、各種ホメオドメイン型HLH型転写因子に焦点を当て解析を行った。その結果、発生期の脊髄腹側においては、Olig2, Nkx2.2, Pax6, Ngn1/2/3, Mash1が、それぞれ特異的な組み合わせで時期・部位特異的に発現し、その組み合わせで規定される遺伝子の活性に従って、神経幹細胞からのニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイトの発生が制御されていることが明らかとなった。3)ヒト由来神経幹細胞の性質を検討する研究においては、胎児脳を前脳、間脳、中脳、後脳に分けてニューロスフェアーとして培養を行い、ドーパミンニューロンへの分化を検討した結果、特に間脳、中脳から2~3%の割合でドーパミンニューロンが認められた。またエストロジェンを加えることによりドーパミンニューロンが増加することも明らかになった。
内在性神経幹細胞の分化増殖に関する研究に関しては、以下の成果が得られた。1)ラット胎児の初代培養細胞およびスライス培養を用い、神経幹細胞の分化・成熟過程におけるNMDA受容体の機能を検討するため、NMDA受容体の阻害剤であるAPVの影響を調べた。その結果胎児期のNMDA受容体は、神経幹細胞の増殖制御、もしくは細胞の移動を含む分化速度の制御に関わることがわかった。さらに、このD-APVの作用はニューロンに発現しているNMDA受容体を介して神経幹細胞に働きかける間接的なものであり、そこに何らかのNMDA受容体依存的な分化・成熟に関わる二次的なメカニズムが存在する可能性が考えられた。ventricular zoneにおけるHes1、Hes5mRNAの発現が亢進していることから、その候補の一つとしてNotchシグナル系の関与が示唆された。2)マウス胎児の神経上皮培養細胞を用いG蛋白質共役型受容体(GPCR)遺伝子の発現を網羅的に解析したところ、神経幹細胞で発現するGPCRを同定できた。さらにGPCRに対する特異的リガンドを神経上皮の培養系に添加して生理作用を解析したところ増殖抑制ならびに分化を誘導するGPCRリガンドを同定することが出来た。
神経幹細胞が形成する神経回路網の維持を図るための基礎研究として、マウス胎児脳初代培養細胞あるいはスライス培養を用い、黒質―線条体間の相互作用について解析を行った。その結果、黒質から分泌されるドーパミンは線条体および大脳皮質抑制性神経細胞の分化と移動の制御に関わることが示唆された。
結論

公開日・更新日

公開日
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更新日
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