骨髄細胞を用いた形質転換心筋細胞の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200469A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄細胞を用いた形質転換心筋細胞の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
福田 恵一(慶應義塾大学医学部心臓病先進治療学)
研究分担者(所属機関)
  • 梅澤明弘(慶應義塾大学医学部病理学)
  • 中谷武嗣(国立循環器病センター実験治療開発部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
心筋細胞は胎生期には細胞分裂を行なうが、生後間もなく終末分化し、以後は細胞分裂を行わない。このため心筋梗塞等により心筋細胞が壊死した場合には、残存心筋細胞の肥大により代償される。一方、分子生物学の発達により遺伝子操作動物や人工臓器の研究が進歩し、遺伝子操作により細胞の運命を人工的に転換させることも可能となった。多くの研究者が心筋細胞の発生学的研究の手段として、あるいは心不全に対する根本治療の確立を目指して心筋細胞株の樹立や心筋細胞特異的転写因子の研究を行ってきた。心筋細胞において単独の転写因子のみで心筋細胞の形質が獲得できるような強力なあるいは上流の転写因子は見つかっていない。我々はこの常識を覆し、心筋細胞以外の細胞を心筋細胞に転換させる技術を研究開発してきた。本研究を開始するにあたり、未分化で心筋細胞と発生学的に同一あるいは近い細胞を材料にしなければならないと考え、骨髄間質細胞を用いた。骨髄間質細胞は多分化能を持つ中胚葉系の間葉系幹細胞を含有し、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞等に分化することが知られている。本研究の目的は多分化能を有する骨髄間葉系幹細胞に分化誘導を加えることにより、自己拍動能を有する心筋細胞を作成し、その表現形の解析、心筋細胞移植への方法を確立することである。
研究方法
(1)CMG細胞のカテコラミン受容体発現:
最終分化誘導前および5-Azacytidineによる分化誘導後1?6週のCMG細胞よりRNAを抽出した。マウス心臓を陽性対照にカテコラミン?1受容体(?1A、?1B、?1D)および?受容体(?1、?2)のRT-PCRおよびNorthern blotを行った。分化誘導前および誘導後2週のCMG細胞を Phenylephrine(Phe:???agonist)にて刺激し、ERK1/2の活性化を測定した。さらに??拮抗薬プラゾシン(PZ)前処置による抑制効果を観察した。同様にIBMX存在下にisoproterenolにより細胞を刺激し、cAMP生成量を測定した。さらにpropranolol前処置によるcAMP生成量への影響を検討した。
(2)心筋に分化した細胞の単離法の確立:
心筋細胞に分化した CMG細胞を単離するため、ミオシン軽鎖-2vのプロモーターにEGFP遺伝子を組み込む。分化誘導後にFACSによりソーティングし心筋細胞のみを単離する方法を開発する。
(3)再生心筋細胞の移植
再生心筋細胞をアデノウイルスlacZ遺伝子で標識した。麻酔下のマウス心臓に注射した。経時的にマウスを屠殺し心筋を染色した。
(4) CMG細胞のイオンチャネルの発現:
CMG細胞に最終分化誘導を行う前後でRNAを採取した。心筋細胞に発現することが知られているイオンチャネルI Ca,L、If、IK1、IK,Ach、IK,ATP、Ito、IKs、Ikrを形成するサブユニットの発現をRT-PCR法を用いて観察した。具体的にはIK1 (IRK1, IRK2) 、 IKr (MERG) 、 IKs (KvLQT1, minK) 、 Ito (KV1.2, KV1.4, KV2.1, KV4.2, KV4.3)、 IK,ATP (KIR6.1, KIR6.2, SUR2A, SUR2B) 、IK,ACh (GIRK1, GIRK4)、If (HCN1, HCN2, HCN3, HCN4)の発現を解析した。同時にCMG細胞にパッチクランプ法と活動電位を記録することにより遺伝子発現と機能の相関を検討した。
(5) GFP発現およびLacZ発現トランスジェニックマウスの骨髄細胞を採取し、致死量の放射線を照射したNOD-SCIDマウスに骨髄移植をおこなった。1カ月後にマウスを麻酔開胸し心筋梗塞を作成した。経時的に心臓を摘出し、組織切片を作成した。
(6) GFPトランスジェニックマウスの骨髄細胞を採取し、致死量放射線照射後の同系マウス(C57BL/6)に骨髄移植した。2月後マウスの末梢血を採取し、血球系細胞をFACS解析した。血球系細胞のキメラ率が90%を超えるマウスに関して、麻酔開胸し左冠動脈結紮により心筋梗塞を作成した。梗塞作成の翌日より10日間G-CSF、GM-CSFを投与した。生存率を観察するとともに、2ヶ月後心エコーにて心機能を評価後に心臓を摘出した。レーザー顕微鏡により抗心筋アクチニン抗体、抗平滑筋アクチン、抗von Willebrand Factor(vWF)抗体とDAPI(核染色)の共染色により心筋組織再生について解析した。
(成体体性幹細胞樹立に関する研究: 梅澤明弘担当部分)
(7) 慶應義塾大学病理学教室において樹立したマウス骨髄間質由来の細胞株を用いて、マウスに細胞移植を行い細胞分化能の検索を行った。FACSを用いて細胞株及び軟骨分化能を有するヒト骨髄間質細胞の細胞表面マーカーの検索を行った。
(8)ヒト骨髄間葉系細胞を限外希釈法でサブクローニングをして得られた細胞に、レトロウィルスを用いてTERT、E6、E7、およびBmiを遺伝子導入した。得られたヒト寿命延長骨髄間葉系幹細胞をGFPで標識し、マウス胎児心筋細胞と共培養することで心筋へ分化させ、さらに免疫組織化学を用いて抗心筋トロポニン抗体で評価した。また、免疫不全マウスの心筋にヒト寿命延長骨髄間葉系幹細胞を注射し、心筋への分化を免疫組織化学により評価した。
(国立循環器病センター実験治療開発部: 中谷武嗣担当部分)
(9) 心臓への細胞療法を臨床へ応用するために必要な情報を得るために、以下の研究を行なった。①細胞標識法の比較―GFP遺伝子組み替えマウス由来細胞:GFPマウスを用いて細胞標識率をin vitroおよびin vivoにおいて検討した。②心筋細胞との共培養システムによる骨髄細胞の心筋分化の解析:骨髄細胞が生体内で心筋へ分化する証拠の報告が散見される。この現象を、in vitroで模擬化するため、環境因子による骨髄細胞の分化誘導の解析を行なった。③GFP-キメラモデルによる骨髄細胞の遊走、心筋再生の研究:最近の報告で、障害心内での心筋の自己再生の現象の報告が見られるようになった。その再生像を示す細胞の由来が心臓自体なのか、骨髄からなのかは不明である。心臓の自己心筋復生能を検討した。④ミニブタを用いた細胞移植による急性期副作用関する研究:細胞移植を臨床応用化するための課題として、細胞移植手技自体による影響に関する研究がある。適正な投与量や投与法を決定する場合に、まず、薬効を期待できる方法の開発は当然であるが、一方で副作用が発現する投与量を知ることもまた重要な課題である。世界的に全般で行なわれている細胞数・液を投与した場合の、特に急性期の心機能に対する影響を検討した。さらに、投与量の増大により、心機能にいかなる影響が出るのかを検討した。
(10) ①C57b6マウス〔8週〕に対して900cGy全身放射線照射を行ない、GFP-BMCを尾静脈から移植した。4週間後脾臓摘出し、心筋梗塞を作成した。ヒトG-CSF(10ug/kg/day,ip)を8日間投与した。コントロール群には生食を投与した。4週間後、犠牲死させ、組織学的検査を行なった。
②NIBSブタを全身麻酔下左前下降枝を直視下ケッサツし、心筋梗塞を作成した。1ヵ月後、骨髄細胞(108個)を梗塞部へ直接注入した。移植1ヶ月後、犠牲死させ、組織学的検討を行なった。血流分布(Myocardial perfusion:MP)をSONOS 5500 system(PHILIPS)にて測定した。側壁〔正常部〕、中隔(境界部)、中隔前壁(非移植梗塞部)、左室前壁(移植梗塞部)に関して、MP及び組織学的に毛細血管密度を測定し比較検討した。
結果と考察
(1) CMG細胞のカテコラミン受容体発現:
CMG細胞は分化誘導前より?1A、?1B、?1D受容体mRNAを発現し、分化後にも発現は持続していた。?1受容体、?2受容体は誘導後1週から発現がみられた。CMG細胞はphenylephrineにより分化誘導前後ともERK1/2が活性化されたが、その程度は分化誘導後の細胞で著しく強かった。このERK1/2活性化はprazocineにより抑制された。isoproterenol投与によりCMG細胞はcAMPの上昇を認め、propranololにより抑制された。
(2)心筋に分化した細胞の単離法の確立:
ミオシン軽鎖-2v遺伝子とレポーター遺伝子を組み替えた遺伝子を遺伝子導入した細胞は分化誘導により強い蛍光を発色し、FACSにより単離することが可能となった。
(3)再生心筋細胞の移植:
移植された再生心筋細胞はレシピエントの心臓で生着し、レシピエントの心筋細胞と同期して収縮していた。移植心筋細胞は少なくとも2カ月以上、レシピエント心で生着することが確認された。
(4) CMG細胞では5-アザシチジンによる最終分化誘導をかける前よりIRK1 とMERGの発現が観察され、最終分化誘導前に静止膜電位を呈することが示唆された。洞結節型の活動電位を呈する分化誘導後2週頃よりHCN4、Ca?1c、KV1.4の発現が観察された。これはこの時期にペースメーカー電位を生じるIf電流とI ca,L電流が記録されることを示唆していた。心室筋細胞型を呈する4週以後にはHCN1, KV2.1、KV4.2、IRK2、KIR6.1、KIR6.2、SUR2Aの発現が観察された。これはCMG細胞がIK,ATP、Ito電流を発現することを示し、この時期に心室筋細胞型活動電位を呈することを説明し得る現象と考えられた。分化誘導後6週までの時点ではKV1.2、KV4.3、KvLQT1、minK、GIRK1、GIRK4の発現は認めなかった。これはIKs、IK,Achを発現しないことを示し、CMG細胞が心房筋の表現型を取らないことと一致していた。
(5) 骨髄移植マウスでは心筋梗塞作成後梗塞部位に骨髄からの細胞が遊走し、梗塞巣に多数の細胞浸潤が観察された。梗塞作成後1カ月の時点で多くの浸潤細胞のほとんどは消失していたが、一部の細胞が血管壁周囲の平滑筋細胞として、またさらに少ない頻度であるが心筋細胞に分化していると考えられた。
(6)梗塞後2ヶ月の時点での生存率は生食投与群では約60%、G-CSF投与群で約90%であり、著明な生存率の改善を認められた。一方、GM-CSF投与群では生食投与群に比し急性期の死亡率の増加が観察された。心エコーによる解析ではG-CSF投与群では生食投与群に比べて左室駆出率(EF)の上昇、左室拡張末期径(LVEDD)の短縮が観察され、心機能の改善を認められたが、GM-CSF投与群ではEFの低下、LVEDDの拡大を認め、心機能の増悪が観察された。梗塞後2ヶ月の時点での組織では梗塞部位に一致してGFP陽性細胞が多数観察され、その一部は心筋、血管内皮、平滑筋細胞の抗体と共染色され、骨髄幹細胞により組織再生がなされていること、G-CSF投与によりこのGFP陽性細胞が著しく増強することが観察された。心筋梗塞急性期にG-CSFを用いると梗塞部位に骨髄幹細胞が動員され、心筋細胞、平滑筋細胞、血管内皮細胞が分化誘導されることを明らかにした。また、この治療法は心機能の改善、梗塞後リモデリングの防止、予後の改善につながるものであった。 
(成体体性幹細胞樹立に関する研究: 梅澤明弘担当部分)
(7) マウス骨髄間質細胞株KUM2、KUM9、 KUSA0、 KUSA/A1の細胞移植を試行した。KUM2は心筋・骨格筋・骨に分化し多分化能を有する中胚葉系幹細胞と判明した。KUM9は骨格筋・骨・脂肪に分化し間葉系幹細胞と、KUSA0は骨・脂肪に分化するため骨脂肪前駆細胞と判定し、KUSA/A1は骨のみの分化能を有していたため骨前駆細胞と考えられた。これらの細胞表面マーカーは、未熟な幹細胞においてCD34、CD117が陽性であり、分化能が制限される前駆細胞に行くに従いCD117、CD34の発現は消失していた。また、幹・前駆細胞全般にCD140aの発現が認められた。軟骨分化能を有するヒト骨髄間質細胞においては、CD34、 CD117の発現は認めず、マウスでは陰性であったCD90、CD105の発現を認めた。
(8) in vitroでGFP陽性細胞は2日後に筋管細胞様に延長し、7日後には拍動する細胞を認めた。免疫組織化学では抗心筋トロポニン抗体陽性であった。また、in vivoにおいても抗心筋トロポニン抗体と抗β2ミクログロブリン抗体陽性の移植細胞が認められた。心筋細胞への分化を示す、寿命を延長させたヒト骨髄間質細胞は、マウス骨髄間質細胞の細胞表面マーカーとは、多くの点で差異を認めた。マウス骨髄間質細胞における未分化能を示す指標としてCD34、CD117が挙げられる。しかし、ヒト間質細胞においてはいずれも陰性となりこれらは有効な指標となりえなかった。ヒト骨髄間質細胞においてはCD34-、CD90+、CD105+、CD117-の細胞群は、少なくとも心筋分化能を有する細胞であると考えられる。
(国立循環器病センター実験治療開発部: 中谷武嗣担当部分)
(9)GFPマウス由来細胞を用いた場合に、細胞追跡が最適であることが判明した。GFPマウス由来骨髄細胞とラット新生児心筋細胞とを共培養することで、骨髄細胞の同期収縮および筋原性タンパクの発現を経時的に観察した。その結果、心筋細胞との直接接着が骨髄細胞の心筋分化に重要な環境因子の一つであることが判明した。また、GFPマウス由来骨髄細胞を用いてキメラマウスを作成し、心筋梗塞モデルに対して、骨髄細胞の遊走能・分化能を検討した。さらに、ブタ心筋梗塞モデルを作成し、骨髄単核球細胞や間質細胞を直接注入法で移植した。細胞移植手技による、急性期における心機能に対する影響を、圧―容積曲線を用いて解析したところ、有意な心機能の低下は認められなかった。
(10) ①ブタ心筋梗塞モデルに対する骨髄細胞移植による血管新生効果の検討:移植後全例生存した。MPと毛細血管密度の間に、正の相関を認めた(R2=0.81)。多くの毛細管の直径は10um以下であった。移植梗塞部のMPと毛細血管密度は、非移植梗塞部のものよりも有意に増加した。
②ドキソルビシン不全心に対する骨髄単核球移植による心機能改善効果の検討:心エコー:第1群の心筋壁厚は有意に維持され、心筋壁厚/内腔比は高値であった(P<0.05)。Langendorff潅流装置:第1群は、 他群に比しDeveloped pressureが有意に高値(P<0.0001)で、EDPが低値であった。心重量:第1群が有意に大きかった(P<0.05)。腹水量:第1群が有意に少量であった(P<0.05)。
考察:
本研究プロジェクトの成果より、①骨髄中の多分化成体幹細胞を用いることにより心筋細胞が分化誘導できること、②この現象はマウスのみでなく、ヒトの骨髄成体幹細胞を用いても再現できること、③骨髄由来の心筋細胞は胎児期心室筋の表現型を取ること、④分化当初は洞結節型の活動電位を呈するが、分化とともに心室筋型の活動電位を呈すること、⑤交感神経α1受容体を発現し、心肥大作用を伝達すること、⑥交感神経神経β受容体を発現し、陽性変時作用、陽性変力作用を伝えること、⑦副交感神経ムスカリンM2受容体を発現すること、⑧蛍光色素GFPと心筋特異的プロモーターを使用することにより、心筋細胞のみを単離出来ること、⑨単離した再生心筋細胞を心臓内に移植すると、心臓内で長期間生着出来ること、⑩このような幹細胞は心筋梗塞などの心筋の壊死炎症がある状況では梗塞部位に移動し、心筋やほかの細胞に分化する能力を持つこと、⑪ある種のサイトカインは骨髄から幹細胞の移動に積極的に働くこと、⑫幹細胞と心筋細胞の共培養は幹細胞の心筋分化を誘導する可能性のあること、⑬心筋分化能のある骨髄成体幹細胞の表面抗原はヒトとマウスで異なること、⑭ヒトの骨髄成体幹細胞はin vitroで長期間培養するとテロメアの長さの関係で細胞増殖できなくなるが、いくつかの遺伝子導入を行うことにより、細胞増殖できるようになることなどが明らかとなった。このことは骨髄成体幹細胞から分化誘導した心筋細胞は生体内の心筋とほぼ同等の性質を持ち、心筋細胞移植が一歩現実に近づいたことを意味するものである。また、骨髄中の如何なる細胞を利用すればよいかも明らかとなり、今後は臨床にむけたさらなる研究が行うべきであろう。
結論
骨髄成体幹細胞を分化することにより心筋細胞を得ることが可能となった。骨髄由来の再生心筋細胞は自己拍動能を持ち、心臓への細胞移植が可能であった。再生心筋細胞はマウスのみでなく、ヒトの骨髄からも得ることが可能であり、近い将来臨床応用可能であると思われる。今後は如何に迅速に成体幹細胞を骨髄から単離するか、細胞株化するか、特異的な分化誘導系を見出すかにかかっている。今後のさらなる研究が望まれる。

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