血管新生と血管保護療法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200468A
報告書区分
総括
研究課題名
血管新生と血管保護療法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(東京大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 宮田哲郎(東京大学大学院医学系研究科)
  • 山崎 力(東京大学大学院医学系研究科)
  • 佐田政隆(東京大学大学院医学系研究科)
  • 森下竜一(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 室原豊明(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 上野 光(産業医科大学医学部)
  • 松原弘明(関西医科大学第二内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血管新生は、虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症、癌、糖尿病性網膜症などの病態形成に密接に関与する。近年、この考えを基にして、血管再生や血管新生の面から難治性疾患に対する治療法が提唱されるようになった。血管新生・再生だけでなく、血管内皮保護も動脈硬化予防と循環障害改善に重要である。そこで本研究は、血管新生・再生・保護を制御する血管医学の展開をはかり、これを応用した虚血性心疾患、血行再建術後再狭窄、閉塞性動脈硬化症、心筋症、癌などに対する新しい治療法の開発を目的とする。本研究の成果は、虚血性疾患の患者の生命予後、QOLを改善すると考えられる。また、従来から行われてきたバイパス手術や経皮的血管形成術といった高額医療の代替療法として普及し、医療費の削減に貢献すると期待される。
研究方法
1)動脈硬化病変を構成する細胞の由来 
移植後動脈硬化、血管形成術後再狭窄、粥状動脈硬化のマウスモデルを用いて病変を構成する細胞の由来を検討する。
2)自家骨髄移植による血管再生と新生療法 
末梢動脈疾患患者への自家骨髄移植療法の臨床治験を行う。さらに動物実験を経て、内科的・外科的血行再建術が困難であり狭心症を頻発する重症虚血性心臓病患者にNOGAシステムを利用して自家骨髄細胞を心筋に移植する。胸痛回数、心肺運動試験、心筋シンチ、心エコー、CAG、NOGAシステムにより心機能を評価した。
3)遺伝子導入ならびに薬物による血管新生の促進と抑制療法  
a)閉塞性動脈硬化症およびビュルガー病患者にヒトHGFプラスミドDNAを超音波下で直接筋肉内投与を行った。投与量は、ステージ1(6人)では2mgのみで、ステージ2(16人)では低容量(2mg)及び高容量(4mg)の設定で実施した。b)bFGFを発現する自己線維芽細胞をウサギの虚血下肢に注入し、血流改善作用をVEGFと比較検討する。c)HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)の治療的血管新生への効果を検討する。 d)可溶型CD44、可溶型TGF-β受容体の遺伝子導入による血管新生抑制作用を皮下腫瘍モデルにて検討する。
4) 遺伝子およびアンチセンスを用いた血管保護療法 
転写因子KLF5/BTEB2の心血管リモデリングにおける役割をノックアウトマウスを用いて解明する。さらにKLF5のsiRNAによる再狭窄防止法を開発する。また、KLF5の蛋白構造を決定後、分子デザインによりKLF5拮抗薬を開発する。老化関連遺伝子klothoの作用機構の解明とこれに類似した作用をもつ低分子化合物の開発も行い、血管障害治療薬としての可能性を検討する。
結果と考察
1)動脈硬化病変を構成する細胞の由来
マウスモデルにて移植後動脈硬化、機械的傷害後新生内膜、粥状動脈硬化病変に骨髄由来の平滑筋様細胞が同定された。骨髄細胞が血管前駆細胞として流血中に動員され、平滑筋細胞もしくは内皮細胞へ分化し、傷害後血管修復と血管病変形成へ寄与する機序が示唆された。
2)自家骨髄移植による血管再生と新生療法 
a)ヒト虚血肢に対して自己骨髄細胞移植による血管新生療法を2000年1月より開始し現在まで90人の虚血下肢(Fontaine 3-4度)に対して自己骨髄細胞移植を実施し、二重盲検試験で効果を確認した。b)さらに、動物実験で有効性と安全性を確認後、重症虚血性心臓病患者2例に、自家骨髄単核球を経カテーテル的に移植した。10日以内に狭心痛は全く消失し、左心室収縮率は43%から52%へと増加した。1年間、24時間Holter心電図フォローにて不整脈の出現は認めなかった。このように世界に先駆けて、骨髄細胞移植による血管新生療法の臨床試験を行い、安全で有効であることが明らかとなった。今後、長期成績を検討する一方、多施設での二重盲検試験を行い有効性を確認する。
3) 遺伝子導入ならびに薬物による血管新生の促進と抑制療法
a) HGF導入療法第一ステージの成績では、血管造影で有意な血管陰影の増強が確認される一方、全例で0.1以上のABI改善もしくは疼痛の改善においてもVASスケールで1cm以上の改善を認めている(Efficacy rate = 100 %)。一方で、VEGF遺伝子治療で見られた投与部位の浮腫は認められなかった。6ヶ月の時点でも、より改善を示した症例が認められるなど、有効性が持続していることが明らかになった。また、第二ステージに関しても、現在最終患者のデータを解析中であるが、ほぼ同様の結果を示しているb) ウサギ虚血肢モデルに bFGF遺伝子、VEGF遺伝子または両者を導入した自己線維芽細胞を投与したところ、側副血行コンダクタンスにおいてはbFGFの方がVEGFを上回っていた。c)スタチンの投与は虚血肢への血流回復を著明に増強した。これはeNOSの活性化を介した毛細血管の拡張に起因すると考えられた。さらに癌の血管新生の促進は認められなかった。d) 血管新生制御法として今年度は可溶型CD44とTGFβ受容体を開発し、それらは癌転移(肝および肺)を約60%抑制したが、両者を併用すると転移は90%以上抑制されることを示した。可溶型CD44、可溶型TGF-βは腫瘍内血管新生も阻害した。CD44およびTGFβはそれぞれ別の機構でがん細胞内に信号伝達を惹起し浸潤能や増殖さらには血管新生を誘導しており、その連関を阻害することで治療効果が得られることを動物レベルで確認した。
4) 遺伝子およびアンチセンスを用いた血管保護療法
ノックアウトマウスを用いた検討により転写因子KLF5が個体において、再狭窄・動脈硬化のみならず、心肥大や、虚血や腫瘍における血管新生にも重要な働きを持つことを明らかにした。KLF5の機能を抑制・活性化する薬剤の同定に成功し、これらの薬剤が心血管系リモデリング、血管新生に対して個体で強い作用を持つことを確認した。今後KLF5を標的とした治療法を開発していく。
老化関連遺伝子Klothoが内皮機能の保持に働く機能を解析し、Klotho投与による血管内情報伝達を明らかとした。
結論
虚血疾患の新規治療法として血管新生療法、血管保護療法を考案し、下肢虚血患者に対して臨床試験を行った。有望な成績を得ており、今後の研究の進展が期待される。さらに、虚血性心疾患治療への応用も良好な初期治療結果を得ており、今後さらに症例を増やす予定である。

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