文献情報
文献番号
200200466A
報告書区分
総括
研究課題名
ハイブリッド型人工血管の作成(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
野一色 泰晴(横浜市立大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
患者自身の治癒力を最大限に引き出すことによって、血管壁組織の自己形成を誘導する技術を開発し、この手法を活用して治癒力の低下した高齢者にも有利な治癒をもたらす小口径人工血管を開発することを、3年計画の本プロジェクトの目標としてとらえ、最終年度である本年は、2年度に開発した手法である血管壁を患者自身の治癒力で形成させる方法、すなわち自然治癒力の人為的な誘導による血管の創成を心筋内で行い、臨床的に最も需要が高い虚血性心筋障害に使用可能な血管の開発を研究目標とした。我々の基本的考え方は、「生体内環境」を活かし、幼弱で好奇心の旺盛な活動的細胞を用いて「生体内細胞培養」を行い、患者自身の体内で血管壁を創成させることである。世界中の研究者は幹細胞の使用を行っている。しかし、我々は生体内で大多数を占める成熟細胞に刺激を与えることによって、「成熟細胞の幼弱化現象Blastogenesis」を起こさせ、組織修復を行わせた。この時に細胞外マトリックスの形状を工夫することで、細胞の修復活動の方向性を誘導する、という、新しい考え方を導入した。
ハイブリッド型人工血管を創成するには、内皮細胞を組み込む必要がある。そこで、研究のスタート時点では骨髄や胎盤など、内皮細胞を多く含む、もしくは内皮細胞に分化する幹細胞を多く含む臓器の活用を考えたが、発想の転換を行うことで、心臓壁の内皮細胞を用いる事にした。心筋組織は心筋細胞と毛細血管の塊であり、心筋細胞は分裂、増殖が不可能であるが内皮細胞はそれが可能であるため、心筋内では心筋細胞に邪魔をされることなく内皮細胞を活用する事が可能であろう、というのが、新しいアイデアである。そこで心筋に刺激を与えることによって、そこに存在する内皮細胞に幼弱化現象Blastogenesisを惹起させ、心筋組織内でハイブリッド型の血管を創成することを研究の目的とする。
ハイブリッド型人工血管を創成するには、内皮細胞を組み込む必要がある。そこで、研究のスタート時点では骨髄や胎盤など、内皮細胞を多く含む、もしくは内皮細胞に分化する幹細胞を多く含む臓器の活用を考えたが、発想の転換を行うことで、心臓壁の内皮細胞を用いる事にした。心筋組織は心筋細胞と毛細血管の塊であり、心筋細胞は分裂、増殖が不可能であるが内皮細胞はそれが可能であるため、心筋内では心筋細胞に邪魔をされることなく内皮細胞を活用する事が可能であろう、というのが、新しいアイデアである。そこで心筋に刺激を与えることによって、そこに存在する内皮細胞に幼弱化現象Blastogenesisを惹起させ、心筋組織内でハイブリッド型の血管を創成することを研究の目的とする。
研究方法
前述の研究思想に従って、我々は心筋組織内に血管を創ることを行った。具体的方法は、心筋組織内に16ゲージから14ゲージ程度の太めの静脈内留置用のエラスター針を挿入し、それを介して心筋組織内へ、ヒアルロンサンで作成したゲルの紐を挿入した。このゲルを留置すると、ゲル周囲に管腔が形成され、その管腔壁の自己修復にかり出される細胞は、前述のコンセプトに則ると内皮細胞である。
この時に ヒアルロンサンのゲルの中にヘパリンを混在させ、それを徐放出させるように設計しておくことで、管腔内での血栓形成を阻止する。心筋組織は収縮弛緩を繰り返しているので、ゲル周囲には絶えず新鮮な血液が入れ替わることとなる。このような流動的血液に面した部分の創傷治癒は内皮細胞によって行われることが、外傷性の動静脈瘻などの内壁の治癒等で知られているので、管腔内面は内皮細胞によって自然治癒の一過程として行われる。したがって自然に血管腔ができるという設計である。しかしながら、この時の血管内皮細胞の活動を阻害することなく、管腔形成を行うために、ヒアルロンサンの持つべき性質を定め、さらに血管内皮細胞によって管腔形成が完成した後には、ヒアルロンサンのゲルが消失するような条件設定も行った。
この時に ヒアルロンサンのゲルの中にヘパリンを混在させ、それを徐放出させるように設計しておくことで、管腔内での血栓形成を阻止する。心筋組織は収縮弛緩を繰り返しているので、ゲル周囲には絶えず新鮮な血液が入れ替わることとなる。このような流動的血液に面した部分の創傷治癒は内皮細胞によって行われることが、外傷性の動静脈瘻などの内壁の治癒等で知られているので、管腔内面は内皮細胞によって自然治癒の一過程として行われる。したがって自然に血管腔ができるという設計である。しかしながら、この時の血管内皮細胞の活動を阻害することなく、管腔形成を行うために、ヒアルロンサンの持つべき性質を定め、さらに血管内皮細胞によって管腔形成が完成した後には、ヒアルロンサンのゲルが消失するような条件設定も行った。
結果と考察
心筋内にヒアルロンサンのゲルの紐を挿入すると、ヒアルロンサンは2週間以内に完全に生体内で吸収され、挿入された位置に、ゲルの太さ、長さ、形状などに応じた管腔が形成された。造影剤を注入して血管造影法に基づくレントゲン撮影を行うと、造影剤は創られた管腔から周辺の冠動脈や冠静脈の中に流れ込んだ。採取した心臓壁をスライスして光学顕微鏡で検討した結果、作成した管腔の内面には内皮細胞が張りつめており、更に周辺の多くの血管との交通が認められ、その中には血液細胞が多く存在していた。さらに、その管腔の中には血栓はみられなかった。
この結果を考察すると、創られた管腔は形態的にも機能的にも血管であることが判る。但し、それが冠動脈として働いていたのか、静脈として働いていたのか、あるいは単に動静脈瘻として働いていただけなのか不明である。しかしながら、この管腔に血液を導入することで、虚血部分に血液を送り込むことが出来る可能性が出てきた。
この結果を受けて、我々は新しくパイロットスタディーを組んだ。それはこのようにして作成する管腔の一部に、心臓の外部から血液を導入する方法である。具体的には、動物の頸動脈を周囲組織からはずし、その先端をヒアルロンサンのゲルの紐を挿入する部位の一部に縫い込んだ。この操作によって、ゲルの周囲に血液が流れ込むこととなった。このパイロットスタディーによって、血液を導入すれば、その血液は冠動脈にも静脈にも流れるであろうが、血液量が十分にあれば、目的とした部位に、血液を確実に送り込むことが出来ることを示してくれた。
この手法は、冠動脈バイパス手術を行っても、バルーンを用いた冠動脈形成術によっても血流の増加を望むことが出来ない領域に、新鮮な血液を確実に送り込む方法として、臨床的に有用であると期待される。以上の結果、私どもは組織内の細胞の持つ特殊性を活用して血管を創成する方法を考案し、世界に先駆けて、心筋組織内に人為的に血管を創成するための基本的考え方を作り上げることができた。
この方法は主義的には単純であるが、心筋に孔を穿つと管腔が出来るという話ではない。ここには、自然治癒を効率よく誘導するための設計が行われている。もしも無秩序に内皮細胞が動いていては、血栓が形成され、その血栓の修復として瘢痕組織への治癒と言う道筋にそって組織修復が進む。つまり血管はできない。そこで、私どもは、この動きを制御して、血管壁を作らせる方法を、ハイドロゲルの活用で実現させた。これは自然治癒の人為的誘導による血管組織の創成である。これによって、心筋組織内に、自由自在に、内径1mmから4mm程度の血管を創成させる原理をうち立てることに成功した。
我々はこのプロジェクトでヒアルロンサンのゲルの紐を使用した。この処置によって、ヒアルロンサンが1週間ほどで分解され吸収される過程において、ヒアルロンサンの周辺に遊走してきた内皮細胞が管腔の内面を覆って、新たな血管ができた。実際にイヌを用いた実験では、意図したとおりの血管腔を作らせることに成功した。
世界中の主な研究者の考え方は、生体の外で、細胞培養技術を駆使して、組織や臓器を創り上げる事に研究の方向性をおいている。しかしながら、我々は生体内という、細胞にとって極めて有利な環境を活用することで、生体内での組織や臓器の創成を行う工夫を行ってきた。一般に、生体内では、生体外に比べて種々の条件の設定が難しい。したがって、人為的に環境を操作するには、生体外の細胞培養が容易である。しかしながら、生体内環境は体外では今日の科学技術では得られない特殊で安定した状況を創り出しているので、我々はそれを積極的に活用し、生体現象を人為的に誘導する事を考えている。これがin vivo tissue engineeringである。このような考え方の創成によって、それが広く一般的に使用可能と思われる。そして我々はその考え方が如何に素晴らしいかを見せつけるためにも、この度のプロジェクトで、優れた成果を世のヒトに見せつける予定である。
本プロジェクトでは、当初の計画ではハイブリッド型の「人工血管を創る」であったところを、「人工的に血管を創る」に発想の転換を行った。しかし基本的考え方、手法、その他には変更はない。その基本はin vivo tissue engineeringである。
この結果を考察すると、創られた管腔は形態的にも機能的にも血管であることが判る。但し、それが冠動脈として働いていたのか、静脈として働いていたのか、あるいは単に動静脈瘻として働いていただけなのか不明である。しかしながら、この管腔に血液を導入することで、虚血部分に血液を送り込むことが出来る可能性が出てきた。
この結果を受けて、我々は新しくパイロットスタディーを組んだ。それはこのようにして作成する管腔の一部に、心臓の外部から血液を導入する方法である。具体的には、動物の頸動脈を周囲組織からはずし、その先端をヒアルロンサンのゲルの紐を挿入する部位の一部に縫い込んだ。この操作によって、ゲルの周囲に血液が流れ込むこととなった。このパイロットスタディーによって、血液を導入すれば、その血液は冠動脈にも静脈にも流れるであろうが、血液量が十分にあれば、目的とした部位に、血液を確実に送り込むことが出来ることを示してくれた。
この手法は、冠動脈バイパス手術を行っても、バルーンを用いた冠動脈形成術によっても血流の増加を望むことが出来ない領域に、新鮮な血液を確実に送り込む方法として、臨床的に有用であると期待される。以上の結果、私どもは組織内の細胞の持つ特殊性を活用して血管を創成する方法を考案し、世界に先駆けて、心筋組織内に人為的に血管を創成するための基本的考え方を作り上げることができた。
この方法は主義的には単純であるが、心筋に孔を穿つと管腔が出来るという話ではない。ここには、自然治癒を効率よく誘導するための設計が行われている。もしも無秩序に内皮細胞が動いていては、血栓が形成され、その血栓の修復として瘢痕組織への治癒と言う道筋にそって組織修復が進む。つまり血管はできない。そこで、私どもは、この動きを制御して、血管壁を作らせる方法を、ハイドロゲルの活用で実現させた。これは自然治癒の人為的誘導による血管組織の創成である。これによって、心筋組織内に、自由自在に、内径1mmから4mm程度の血管を創成させる原理をうち立てることに成功した。
我々はこのプロジェクトでヒアルロンサンのゲルの紐を使用した。この処置によって、ヒアルロンサンが1週間ほどで分解され吸収される過程において、ヒアルロンサンの周辺に遊走してきた内皮細胞が管腔の内面を覆って、新たな血管ができた。実際にイヌを用いた実験では、意図したとおりの血管腔を作らせることに成功した。
世界中の主な研究者の考え方は、生体の外で、細胞培養技術を駆使して、組織や臓器を創り上げる事に研究の方向性をおいている。しかしながら、我々は生体内という、細胞にとって極めて有利な環境を活用することで、生体内での組織や臓器の創成を行う工夫を行ってきた。一般に、生体内では、生体外に比べて種々の条件の設定が難しい。したがって、人為的に環境を操作するには、生体外の細胞培養が容易である。しかしながら、生体内環境は体外では今日の科学技術では得られない特殊で安定した状況を創り出しているので、我々はそれを積極的に活用し、生体現象を人為的に誘導する事を考えている。これがin vivo tissue engineeringである。このような考え方の創成によって、それが広く一般的に使用可能と思われる。そして我々はその考え方が如何に素晴らしいかを見せつけるためにも、この度のプロジェクトで、優れた成果を世のヒトに見せつける予定である。
本プロジェクトでは、当初の計画ではハイブリッド型の「人工血管を創る」であったところを、「人工的に血管を創る」に発想の転換を行った。しかし基本的考え方、手法、その他には変更はない。その基本はin vivo tissue engineeringである。
結論
組織内の細胞の持つ特殊性を活用して心筋組織内にあらたに血管を創成する方法を考案した。具体的には、冠動脈をそのターゲットとして選び、血管を創成させる場としては心筋を選択した。心臓の特異的な構造として、心筋の内部に於いて最も多い細胞である心筋細胞が再生しないことに着目し、心筋細胞周囲にある毛細血管を構成する血管内皮細胞を組織修復に動員させた。心筋を人為的に傷をつけることによって、内皮細胞のBlastogenesisが惹起させ、心筋組織の構造的特異性を活用することで結果的に自然に血管壁を作らせる方法を開発した。これによって心筋組織内に、自由自在に、内径1mmから4mm程度の血管を創成させる原理をうち立てることに成功した。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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