組織工学技術を用いた骨・軟骨再生に関する研究(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200200465A
報告書区分
総括
研究課題名
組織工学技術を用いた骨・軟骨再生に関する研究(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
上田 実(名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科学講座顎顔面外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 畠 賢一郎(名古屋大学医学部附属病院遺伝子・再生医療センター)
  • 鳥居修平(名古屋大学医学部形成外科)
  • 小林 猛(名古屋大学大学院工学研究科生物機能工学専攻生物プロセス工学講座)
  • 高井 治(名古屋大学理工科学総合研究センター)
  • 小林 一清(名古屋大学大学院工学研究科生物機能工学専攻生体材料工学講座)
  • 木全 弘治(愛知医科大学分子医科学研究所)
  • 春日 敏宏(名古屋工業大学工学部材料工学科ハイブリッド機能機構学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民が高度な医療を享受してゆくためには、細胞組織工学(ティッシュエンジニアリング)を基礎としたヒト組織の再生技術とそのための基盤的技術を早急に確立させ、再生医療用製品生産に関わる産業の発展を促進させることが必要不可欠である。近年注目されているティッシュエンジニアリング技術を用い、自家あるいは同種の骨移植にかわりうる、新しい人工骨あるいは軟骨材料を開発し臨床応用に至る道筋を拓くことが本研究課題の主眼である。以下、本研究の具体的目標として、骨、軟骨組織に分けて述べる。
骨:整形外科または顎顔面外科においては欠損した骨の再建を日常臨床として行っている。現在までの研究により骨形成能を有する細胞を培養増殖することが可能となり、これらを用いた人工骨への可能性は高い。したがって本研究課題としては、これらマトリックスの開発を含めた細胞の移植方法の確立が主なテーマである。
軟骨:現在までに軟骨形成能を有したままでの軟骨細胞の大量培養法は確立されていない。これは軟骨細胞の分化と増殖の制御が困難であることに由来する。本研究ではその前半でこれら軟骨細胞の大量培養法を試みる。その方法としてはバイオリアクターを用いた培養や、メカニカルストレス下での培養を試みる。またこれら培養軟骨細胞を種々のマトリックスを用いて生体に移植し、関節軟骨を作成する。
さらに、未分化間葉系細胞を分離し、それらを骨および軟骨に分化させる因子の解明を行っていく。本研究の成果いかんでは、推定1000万人ともいわれる重症骨系統疾患患者の運動機能の回復に大きく貢献すると確信する。また本研究では最終的に臨床応用することを強く意識し、臨床現場で有効かつ使用が簡便な材料形状を念頭に置いた人工骨の開発を目指すことを付言したい。
研究方法
骨髄のMSCに関しては、より効率的かつ大量採取する方法、培養条件下における骨芽細胞への分化促進の方法、移植に用いるマトリックスの検討を加え、より効率的な骨形成率実現させることを目指した。各サイトカイン、機械刺激等による骨、軟骨分化への影響について骨、軟骨マーカーにより生化学的に測定を行った。これらにより、この細胞を用いた組織作成上の指針となるデータが得られるものと考えた。
骨再生に関する研究としては、注入型マトリックスの検討を引き続き行った。臨床的操作性を考えるとブロック状のマトリックスより注入型マトリックスが有利であるが、生きた細胞周囲に密な無機化合物が存在することは、これら細胞の呼吸および代謝を行う上で問題が生じる。これら注入型マトリックスの移植後の組織学的検討を中心に、流動性マトリックスを評価した。その上で多血小板血漿、基材、β-TCP粉末の混合比や移植方法などの検討を行った。同時に、これらの結果を臨床応用に向けて総括し、治療体系を確立した。
軟骨再生に関する研究として、大量培養法の確立を目的に、バイオリアクターおよび種々のメカニカルストレス刺激装置を作成し、軟骨細胞の分化および増殖制御を検討した。軟骨細胞のマーカーを指標に、より多くの組織を作製できるよう超音波刺激による細胞変化について生化学的解析を行った。メカニカルストレスにおいてはストレスの種類やさらに詳細な作用時間、作用回数、培養期間の検討を、移植実験を含めて行った。前年度までの結果をもとにスポンジ型および注入型マトリックスについて最適なものを決定した。
結果と考察
われわれは、これまで動物の骨髄由来細胞から骨形成能を有する細胞を分離培養し、移植実験を行ってきた。その結果移植された培養細胞は十分な骨形成能を有し再生骨を得ることができた。この研究に用いた硬組織マトリックスとしては主にブロック型カルシウム-リン酸化合物を用いており、生分解性材料として興味深い知見を得てきた。本年度の研究結果を骨、軟骨および幹細胞に分けて述べる。
骨再生に関する研究
流動型マトリックスを用いた注入型人工骨作製研究では、イヌ下顎骨へ骨欠損を作成し新たな担体としてフィブリン糊、添加する因子としてPRPを調製し、それぞれを組み合わせることで評価を行ってきた。家兎の上顎洞底部にアルギン酸、あるいはβ-TCP、フィブリン、および独自に開発したリン酸カルシウム製剤(CPC)などと骨芽細胞に分化させたMSCの組み合わせで、従来行ってきたヒト腸骨海面骨移植に匹敵する骨密度の再生骨を得ている。これらの結果をもとに、倫理委員会に注入型人工骨の臨床応用に関する申請を行い、平成14年度に3名の患者に注入型人工骨による骨再生治療を行った。人工歯根周囲に骨の再生を認めており、現在長期経過の観察中である。
培養骨膜を用いた骨再生では、イヌ下顎骨の歯周病モデル(歯根分岐部の骨欠損)に対して有意な骨再生を認め、第5回国際組織工学会にて報告を行った(Mizuno et al., 2002)。培養骨膜を用いた歯周病患者への骨再生治療については平成14年度に倫理委員会での審査を終えた。その後平成15年度になって、口唇口蓋裂患者に最初の臨床応用が行われた。
軟骨再生に関する研究
自動加圧およびビーズを用いた大量自動培養装置(バイオリアクター)の開発を行ってきたが、平成14年度は引き続き機械的刺激によるMSCの軟骨細胞への分化誘導促進の可能性について検討を行った。ペレット状に培養したMSC由来細胞に、増殖因子による分化刺激の後超音波刺激を与えたところ、再生軟骨中のアグリカン量が上昇した。条件の最適化を行い、1日10分間、30 mW/cm2の出力でアグリカン量は約2.2倍に上昇することが明らかとなった。
一方、流動型をはじめとした新たな再生軟骨用担体の開発では、3Dスポンジ型ではPGA、poly lactate-e-caprolactoneの共重合体のほか、流動性担体を用いて軟骨再生の可能性について検討を行ってきた。PGA, caprolactoneでは良好な軟骨形成が認められたため、本年論文化を行った(Honda et al., Biomatrial in press)。
骨髄由来ヒト間葉系幹細胞の細胞機能研究
これまで未分化間葉系幹細胞(MSC)の採取および培養方法を確立するために、培養中のMSCの各種生理活性物質に対する反応性を評価してきた。また、各種物理的刺激因子、特にメカニカルストレスに対するMSCの挙動変化を検討してきたが、平成14年度にはメカニカルストレスによる分化誘導のメカニズムを解析し、NF-κBを介する細胞内のシグナルトランスダクションが活性化されることを明らかとした。この事実は、今後未分化間葉系幹細胞の大量培養における至適条件設定に役立つものと考えている。
一方、臍帯血、末梢血中に存在するごく少量の間葉系幹細胞の採取、分離、培養技術の確立を目指して実験を試みた。骨髄より培養されたMSCから、その細胞の特異的細胞表面マーカーを、FACSにより検討を行ってきた。CD29, 44, 73, 105, 166 positive抗体として,CD14, 34, 45をnegative抗体として使用することにより、MSC分画が認識されることを示したが、それらの細胞からの十分な増殖や骨芽細胞への分化能が得られていない。そのため、平成14年度には表面マーカーによる選択培養のみでなく、高密度培養による幹細胞の増殖を検討した。マグネタイトリポソームを細胞に取り込ませて磁石を用いて未分化間葉系幹細胞の高密度培養を行い、通常の培養法と比較して約5倍の速度で増殖することを見いだした。
近年組織工学的技術を用いた製品開発が世界的に行われているが、本研究分野の製品は未だ開発途中であり、完成品と言われるような製品は創出されていないのが現状である。今後、1000万人ともいわれる重症骨系統疾患が対象となることを考慮すると、本研究の成果は新たな骨再生治療の創出につながると期待しており、ひいては世界的な製品市場の開拓も見込まれる。今後は症例を増やすことで、適応の拡大を目指すとともに長期予後について検討をおこなうことで、治療法としての確立が期待される。
結論
本研究課題では、自家あるいは同種の移植に代わりうる、新たな骨、軟骨の再生医療の実用化について研究成果が得られた。注入型人工骨および培養骨膜シートを用いた骨再生は、顎顔面外科領域で臨床応用の段階に達している。軟骨についても、メカニカルストレスによる分化誘導を併用することで、より確実な再生治療の可能性が示された。今後は臨床例の増加とともに長期経過についても観察し、安定した治療につながるものと期待される。また,歯科用インプラント治療の治癒期間短縮や歯周病患者など、幅広い応用を進めることとしている.

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