自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200200461A
報告書区分
総括
研究課題名
自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
糸満 盛憲(北里大学)
研究分担者(所属機関)
  • 馬渕清資(北里大学)
  • 岩本幸英(九州大学)
  • 石黒直樹(名古屋大学)
  • 越智光夫(広島大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(I)マイクロ波を用いた骨加温技術の開発:マイクロ波を用いた骨加温技術の開発:同種骨は人工骨に比べ骨誘導能に優れているが、ウイルスや細菌などの感染性疾患の伝播の危険を有する。また従来の滅菌処理方法では、骨誘導能を損なう可能性がある。本研究の目的は、マイクロ波加温装置を用いて不定形の骨を均一に加温する条件を検討し、適切な加温技術を確立し、骨誘導能を維持しつつ感染性疾患の伝播の可能性のない同種骨の滅菌法を実用可能とすることである。本年度は工業用マイクロ波加温装置を利用して、(1)加温処理したウシ皮質骨の力学的強度の検討、(2)マイクロ波加温による80℃・10分間の加温処理の殺菌効果の検討をおこなった。
(II)自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立:変形性膝関節症、関節リウマチ,外傷、腫瘍切除術によって生じる骨軟骨欠損を同種あるいは自家骨軟骨組織片移植にて修復する試みがなされているが、いまだ不十分な点が多い。一方自家培養軟骨細胞により補填修復する試みは、関節軟骨から軟骨組織を採取する必要があること、軟骨細胞の単層培養では細胞の形質の維持が困難であること、また移植時に移植細胞が流出する可能性があること、細胞移植部と周囲関節軟骨との間に生化学的および物理学的相違があるなどの問題がある。本研究では、組織工学的手法を用いて適切な鋳型を開発し、この鋳型に軟骨細胞あるいは軟骨細胞の前駆細胞を三次元的に培養し、必要とされる大きさや形状の軟骨組織を作製する。欠損部に軟骨様組織を移植することで自家細胞により軟骨欠損を修復し、かつ長期間再生組織により関節軟骨機能を維持する方法を確立する。本年度は新しい鋳型として感温性ゼラチンpoly(N-isopropylacrylamide)-grafted gelatin(PNIPAAm-gelatin)とII型コラーゲンスポンジの有用性の検討を行った。移植細胞としては、骨髄由来未分化間葉系細胞、臍帯血由来未分化間葉系細胞、軟骨分化誘導能をもつ転写因子SOX9を遺伝子導入した細胞、皮膚繊維芽細胞の有用性を検討した。また軟骨修復にかかわる遺伝子や因子の検討を行った。
研究方法
(I)マイクロ波を用いた骨加温技術の開発:(1)加温処理した骨の力学的検討。工業用マイクロ波誘電加温装置を用い、昨年度までに確立した条件で処理した。静的荷重試験は精密万能試験機を、硬度試験はビッカーズ美称硬さ試験機を用いた。(2)加温処理の殺菌効果の検討。表皮ブドウ球菌、MRSA・Mu50、超球菌γ型、黄色ブドウ球菌、大腸菌の懸濁液を装置内に設置し、(1)と同様の方法で処理した。経時的にサンプリングし、培養し菌コロニー数を計測した。
(II)自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立:(1)新しい鋳型の検討。A) PNIPAAm-gelatinを用いたIn vitro での軟骨様組織の再構築を検討した。B) PNIPAAm-gelatinを用いたIn vivo での関節軟骨修復を検討した。C)II型コラーゲンスポンジを用いた培養による細胞形質維持能及び再分化能の評価と、II型コラーゲン自体の効果を検討した。(2)移植細胞の検討。A) 軟骨分化誘導能をもつ転写因子SOX9を遺伝子導入した骨髄間葉系細胞の応用を検討した。B) 臍帯血由来未分化間葉系細胞の多分化能とその細胞特性を検討した。C)皮膚繊維芽細胞の多分化能を検討した。D)骨髄由来未分化間葉系細胞の適切な培養条件を検討した。(3) 軟骨修復にかかわる遺伝子や因子の検討。胎仔軟骨と成体軟骨の修復機序の相違を分析し、修復に関わる遺伝子、因子を検討した。
結果と考察
結果及び考察=(I)マイクロ波を用いた骨加温技術の開発:(1)加温処理した骨の力学的検討。圧縮強度・最大歪・ヤング率は未処理群と比較し差を認めなかった。ビッカース硬さは未処理群と比較し4.1%低下した。これらの結果は従来の家兎を用いた実験結果とほぼ同様であり、マイクロ波による80℃・10分間の加温が力学的強度に与える影響は少ないと考えられた。(2) 加温処理の殺菌効果の検討。すべての菌において完全に殺菌された。マイクロ波加温による殺菌効果は、従来の外部加熱と同様の結果であり、過熱によるたんぱく質の変性が主な作用であると考えられた。
(II)自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立:(1)新しい鋳型の検討。A) 単層培養により一旦脱分化傾向にあった軟骨細胞は、PNIPAAm-gelatin内で培養することにより再分化し、また継続して軟骨の形質を維持した。B) PNIPAAm-gelatinを用いて作製した軟骨様組織を移植し、移植部が硝子軟骨として再生され関節面として機能していること、PNIPAAm-gelatinが生体適合性を持つことが確認された。C)II型コラーゲンスポンジを用い培養することで、軟骨細胞はその形質を維持し、脱分化した軟骨細胞は再分化する傾向を示した。浮遊培養系にII型コラーゲンを投与すると、脱分化した細胞の再分化が促進された。(2)移植細胞の検討。A) 完全長SOX9 cDNAを骨髄由来未分化間葉系細胞に遺伝子導入し、この細胞が軟骨に分化し軟骨の細胞外基質を産生することを確認した。この分化軟骨様細胞をウサギ骨軟骨欠損モデルに移植し、良好な軟骨組織の再生を確認した。また肥大軟骨、骨への過分化は起こらず、関節軟骨細胞の性格を保つことが示された。B) 臍帯血由来未分化間葉系細胞が単層培養にて、また特別な分化誘導因子を加えなくても軟骨細胞様細胞に分化しうることを確認した。C) ヒト正常皮膚由来の繊維芽細胞株NB1RGBは各分化誘導条件により、脂肪細胞様細胞、骨芽細胞様細胞、軟骨細胞様細胞へ分化することを確認した。D)骨髄由来未分化間葉系細胞から軟骨細胞様細胞に分化誘導する際には、単層培養下でのFibroblast growth factor添加後、三次元培養下でTrasforming growth factor-β, dexamethazone添加することが良好な硝子軟骨様組織の作製に有効であることが示された。(3) 軟骨修復にかかわる遺伝子や因子の検討。成体に対し胎仔軟骨ではc-fos遺伝子発現の持続時間が長いこと、この遺伝子発現のトリガーはATPであることが示された。またこのATPにより細胞内カルシウムイオン濃度が上昇し、周囲の軟骨細胞に刺激が伝播されることが明らかとなった。
現在臨床応用されている方法の問題点としては以下のことがあげられる。i)ドナーとして健常な関節軟骨を採取する必要がある。臨床的には軟骨の採取手術と移植軟骨様組織の移植手術と2回の手術が必要となる。ii)採取できる軟骨細胞には限りがあるため、広範囲の軟骨欠損には対応できない。iii)移植軟骨様組織と周囲の関節軟骨の生化学的及び力学的特性は必ずしも一致していない。iv)移植軟骨様組織と周囲の関節軟骨との境界の融合が認められないことが多い。v)移植軟骨細胞自身の細胞活性が重要であるため、高齢者への適応は困難である。これらの問題を解決するために、上記の新しい鋳型の開発は有用であると考えられた。移植細胞としては、上記の細胞が軟骨細胞にかわり応用できる可能性が示された。また軟骨修復に関わる因子が明らかとなり、細胞や組織に適した環境や培養条件の理解に役立つものと考えられた。
結論
(I)マイクロ波を用いた骨加温技術の開発:80℃・10分間のマイクロ波加温が骨の力学的強度に与える影響は少ないことが確認された。80℃・10分間のマイクロ波による加温処理条件により、移植骨は殺菌処理が可能であることを確認した。
(II)自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立:新しい鋳型として、PNIPAAm-gelatin、II型コラーゲンスポンジの有用性が示された。骨髄由来未分化間葉系細胞、臍帯血由来未分化間葉系細胞あるいはSOX9を遺伝子導入した骨髄細胞、皮膚繊維芽細胞が軟骨欠損の修復に活用できる可能性を示した。軟骨の修復に関わる因子とそのメカニズムを検討した。

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