文献情報
文献番号
200200458A
報告書区分
総括
研究課題名
幹細胞からの膵β細胞分化誘導に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
清野 裕(京都大学)
研究分担者(所属機関)
- 山田祐一郎(京都大学)
- 武田純(群馬大学)
- 安波洋一(福岡大学)
- 中村直登(京都府立医科大学)
- 荒木栄一(熊本大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
糖尿病は過去40年間に70倍に激増し、690万に達した。糖尿病に伴って生じる合併症も深刻な問題となっており、糖尿病による透析導入や後天的な失明もそれぞれ年間約12,000人、4,000人と原因の第1位である。糖尿病の治療として、インスリン注射などを用いた厳格な血糖コントロールが行われているが、このような対症療法では血糖の制御を行うことは不可能で、かつ重篤な低血糖の増加やQOLの低下を招くため、根本的な治療法の確立が望まれている。膵島移植は、可能性は秘めているが、免疫抑制薬を継続投与する必要性があること以外に、ヒトでは十分な量の膵島を得ることが困難であること、ブタでは異種間感染の可能性など解決すべき問題が多い。最近の発生工学・細胞生物学の進展により、膵β細胞の分化増殖機構が明らかにされてきた。そこで、これらの知見を応用して、幹細胞から膵β細胞を作製して供用しようとする膵β細胞の再生療法は、糖尿病の根治治療法として期待されている。本研究は、膵β細胞の幹細胞を、in vitroで増殖させ膵β細胞を分化させることを目的としている。
研究方法
神経細胞の幹細胞で発現が報告されているintermediate filamentであるネスチンに着目し、ネスチン遺伝子のプロモータの下流にEGFP(enhanced green fluorescent protein)遺伝子を結合させたトランスジェニックマウス(ネスチンEGFPマウス)から、膵β細胞の幹細胞の単離を試みた。まず、ネスチンEGFPマウスから膵ランゲルハンス島をコラギナーゼ法で単離した。次に、トリプシン処理を行うことにより、個々の細胞に分散させた。分散した細胞を用いてナイロンメッシュを通した後、fluorescence-acitivated cell sorting法(FACS法、Beckman Coulter社、ALTRA)により、EGFP強度が高い分画の細胞を単離した。5匹のネスチンEGFPマウスより、約1万~5万個のEGFP陽性細胞を分取することが可能となった。EGFP陽性の細胞からmRNA purification kit を用いてmRNAを抽出し、SuperscriptⅡを用いて、cDNAを合成した。得られたcDNAをrealtime PCR法(Taqman)を用いて、種々の遺伝子発現量を検索した。EGFP陽性細胞においては、インスリン遺伝子の発現が低下しているのみならず、膵β細胞の機能維持に必須であることが報告されているPdx-1遺伝子発現も低下、逆に膵内分泌細胞に特異的な転写因子BETA2の発現は亢進、膵外分泌細胞に特異的な転写因子p48の発現も亢進しており、本細胞が膵内分泌細胞のみならず、膵外分泌細胞の幹細胞であることが強く示唆された。ヒトインスリノーマEST解析で見出された256種類の転写因子を用いて独自に作成したマイクロアレーを用いて、膵β細胞・肝臓・小腸で発現の変化する(ないしは共通である)転写因子を同定するなど、DNAマイクロアレイを用いた幹細胞同定への分子資源の準備を順調に進めている。
結果と考察
膵ランゲルハンス島より、ネスチンプロモータによって活性化されるEGFP強度を指標として、単離することが可能となった。単離した幹細胞は、膵β細胞の機能維持に重要と考えられる転写因子Pdx-1の発現も低下していた。一方、膵内分泌細胞に特異的な転写因子BETA2や膵外分泌細胞に特異的な転写因子p48の発現は亢進しており、本細胞は膵内分泌のみならず、膵外分泌の幹細胞であることが強く示唆された。
結論
ネスチン遺伝子のプロモータにEGFPを結合したトランスジェニックマウスから、膵β細胞の幹細胞の単離およびその特性の解析に成功した。幹細胞の表面抗原の探索が急務である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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