文献情報
文献番号
200200457A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト肝組織からの肝幹細胞分離・同定及び分化誘導と肝不全治療(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山岡 義生(京都大学)
研究分担者(所属機関)
- 塩田浩平(京都大学)
- 三高俊広(札幌医科大学)
- 永尾雅哉(京都大学)猪飼伊和夫(京都大学)
- 廣瀬哲朗(京都大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
正常機能を持つヒト肝細胞の供給源の開発とその臨床応用をめざし、ヒト肝組織から小型肝細胞や肝幹細胞を分離・同定し、これらの細胞を成熟肝細胞へ分化誘導させ、肝不全の治療に有効であるかを検討することを主たる研究目的とする。本研究2年目の当該年度は実験動物での検討を中心として、ラット小型肝細胞の分化誘導、凍結保存方法の確立、マウス成体肝に存在する肝幹細胞の同定・分離・精製、およびヒト正常肝組織からのヒト小型幹細胞・肝幹細胞の同定・分離を目標とした。
研究方法
(1)ラット小型肝細胞コロニーコラーゲンスポンジ上で培養し、培養液中に分泌されるアルブミンなどの血清タンパク質をELISA法やWestern blot法を用いて検討し、アンモニア代謝能や尿素産生を測定する。コラーゲンスポンジ中に形成される組織の構成細胞を免疫染色や電子顕微鏡にて検討する。また、小型肝細胞のコロニーを10日間培養後、細胞外基質マトリゲルの投与を行い、マトリゲルにより成熟化誘導・各種薬剤投与後の小型肝細胞のチトクロームP450アイソザイムの誘導を検討する。(2)ヒトへの応用を考え、マトリゲルの代替となる新しいscaffoldを、ヒト正常肝切片より分離された細胞の培養における類肝組織の構築の有無を形態学的・機能的に検討した。(3)GFPトランスジェニックマウスの肝臓から採取された肝幹細胞と成熟肝細胞とからmRNAを抽出し、cDNAライブラリーを作成する。2つのcDNAライブラリーをcDNAサブトラクション法を用いて肝幹細胞特異的cDNAのみを増幅する。増幅されたcDNAをクローニングし、DNAシーケンサーを用いて塩基配列を解読して肝幹細胞遺伝子を同定する。(4)胎児肝幹細胞を分離し、残りの分画から血液系細胞を除いた分化した間葉系細胞を分取する。胎児肝幹細胞と分化間葉系細胞との関係を共培養することで検討する。さらに、胎仔肝幹細胞分離に利用している細胞集塊に含まれる細胞群をその表面抗原で詳細に検討する。
(倫理面への配慮)ヒト検体を用いた実験は「京都大学医学部医の倫理委員会」の承認のもとに、動物実験は京都大学動物取扱規程および札幌医科大学動物取扱規程に則とり、大学の実験許可を受けて実施している。ヒト正常肝組織は、京都大学医学部「医の倫理委員会」の承認の上、京都大学医学部付属病院で手術を施行された症例で本研究のため肝組織の提供についてインフォームドコンセントを得た症例から、手術時に腫瘍と同時に摘出された肝臓から正常肝組織を採取した。
(倫理面への配慮)ヒト検体を用いた実験は「京都大学医学部医の倫理委員会」の承認のもとに、動物実験は京都大学動物取扱規程および札幌医科大学動物取扱規程に則とり、大学の実験許可を受けて実施している。ヒト正常肝組織は、京都大学医学部「医の倫理委員会」の承認の上、京都大学医学部付属病院で手術を施行された症例で本研究のため肝組織の提供についてインフォームドコンセントを得た症例から、手術時に腫瘍と同時に摘出された肝臓から正常肝組織を採取した。
結果と考察
(1)コラーゲンスポンジ上の培養では、小型肝細胞は増殖速度は落ちるが、時間とともに形態的に大型の成熟肝細胞へと変化し、成熟肝細胞のマーカー陽性となった。さらに、一部にサイトケラチン19が陽性の胆管管腔構造の形成を認めた。透過型電子顕微鏡観察からも、大型細胞の細胞質中に見られるミトコンドリア、粗面小胞体、タイト結合、毛細胆管形成などから成熟化を確認した。アルブミンやトランスフェリン、ハプトグロビン、フィブリノーゲンなどの血清蛋白質の分泌や尿素窒素合成能なども増加し、コラーゲンスポンジが小型肝細胞の成熟化を促進することが機能的にも確認された。マトリゲルを投与した小型肝細胞では、誘導薬剤により誘導さるチトクロームP450アイソザイム発現量や酵素活性、さらに尿素合成能も増加した。以上より、ラットではMatrigelが小型肝細胞の成熟化に有用であることが示唆された。(2)ヒト小型肝細胞を含むヒト正常肝切片より分離された細胞をコラーゲンシート上で約30日培養すると、胆管上皮が表層を覆いその下層に肝細胞及び腺管構造(胆管、血管)を伴う三次元類肝組織構築を示し、アルブミン分泌も単層培養に比し著明に増加した。類肝組織中の胆管細胞や肝細胞は高率のPCNA 発現を認めることから、小型肝細胞が関与している可能性が高いと考えられた。(3)GFPトランスジェニックマウスの肝臓から採取された成体肝幹細胞と成熟肝細胞とをcDNAサブトラクション法を用いて肝幹細胞特異的cDNAのみを増幅したところ、約500クローン中に約300遺伝子が同定できた。そのうち肝幹細胞特異的と考えられる遺伝子が約30同定され、このうち3つは膜蛋白ドメインを有しており、特異的表面抗原として利用できる可能性が高いと考えられた。ため、現在これを確認中である。(4)細胞集塊として分離されるマウス胎仔肝幹細胞の単独培養群と、その際に除外される内皮細胞・クッパー細胞などの分化した間葉系細胞との共培養群を比較すると、共培養群では肝幹細胞単独培養群に比べ成熟肝細胞マーカー遺伝子であるtryptophan 2,3-dioxigenase (TO) とtyrosine aminotransferase (TAT) の遺伝子発現が低下し、明らかに肝幹細胞の成熟化が阻害されている結果が得られた。また、細胞集塊として採取される肝幹細胞の詳細な表面抗原解析から、これまでほぼ単一な細胞集団と思っていた肝幹細胞のほかにも、わずかに間葉系未分化細胞と血球系細胞が含まれることが判った。この肝幹細胞単独では成熟肝細胞への分化は誘導されないが、間葉系未分化細胞と共培養することで成熟肝細胞マーカー遺伝子発現が誘導されることが確認された。
結論
マトリゲルで成熟化させたラット小型肝細胞は初代培養された成熟肝細胞と同等の薬物代謝酵素の誘導が可能であった。ラット小型肝細胞およびヒト小型肝細胞を含むヒト正常肝切片より分離された細胞はコラーゲンシート上での培養により、三次元類肝組織構築および成熟肝細胞機能の発現・維持が可能であった。cDNAサブトラクション法を用いて成体マウス肝幹細胞特異的発現遺伝子が同定されたことから、ヒト肝幹細胞特異的表面抗原の同定が期待される。マウス胎仔肝幹細胞と間葉系細胞との共培養により、胎仔肝幹細胞の未成熟化維持と分化誘導とのスイッチングができる可能性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
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