文献情報
文献番号
200200455A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子解析研究、再生医療等の先端医療分野における研究の審査および監視機関の機能と役割に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
白井 泰子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
- 丸山英二(神戸大学大学院法学研究科)
- 徳永勝士(東京大学大学院医学研究科)
- 吉田輝彦(国立がんセンター研究所)
- 甲斐克則(広島大学法学部)
- 土屋貴志(大阪市立大学大学院文学研究科)
- 佐藤恵子(和歌山県立医科大学)
- 武藤香織(信州大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(生命倫理分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
平成13年3月に施行された「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」においては、各施設の倫理審査委員会に対して、被験者および試料提供者等の人権尊重とプライバシー保護という観点から研究の事前審査とその監視という重大な責務を課している。本研究では、倫理審査委員会システムのあり方に関する提言策定の一助として、平成13年度に引き続いて、「日本の倫理審査委員会の役割および機能の分析」ならびに「三省指針に基づく研究審査を円滑に進めるために必要となる資料の作成」についての検討を行う。
研究方法
「研究課題1:日本の倫理審査委員会の役割および機能の分析」では、(1)2002年3月-4月に実施した実態調査の解析に基づく日本の倫理審査委員会の運営状況や問題点等の把握・分析および倫理審査委員会の聴取り調査の実施、(2)倫理委員会設置要綱等の資料からみた委員会の役割の分析、(3)オランダ及びドイツの実地調査等による被験者保護法制と倫理委員会の機能の検討、(4)アメリカの施設内審査委員会の現状と課題、について検討を行う。また、「研究課題2:三省指針の下での研究審査と研究の実施」では、(1)三省指針の下での国際共同研究に対する研究審査のあり方の検討、(2)国立がんセンターの試みを通してみた試料提供における包括同意の意義の検討、(3)ヒト由来試料の研究利用に関する審査の経験を通じて明らかとなった問題点の指摘及び検討、(4)倫理審査委員会のためのガイドブックの必須項目の検討、を行う。
結果と考察
「研究課題1:わが国の倫理審査委員会の役割および機能の分析」について:
(1) 全国の医学系研究機関、総合大学医学部、医科大学および病院など2, 248施設を対象とした郵送調査を2002年3月~4月に行い、538施設から回答を得た(回答率24.2%)。有効回答527の分析を通じて、本調査実施時点での倫理(審査)委員会未設置率は53.3%であることが判明した。一方、倫理(審査)委員会を設置している施設においても、委員会本来の役割と機能を果たすためのインフラ整備の立ち後れによる種々の問題が生起していることが示された。なお、2002年11月には「調査結果概要版」を作成し、調査結果の報告希望のあった協力施設等210に送付した。また、倫理審査委員会の聴取り調査では11施設を訪問し、半構造化面接法によるインタビューや委員会の傍聴を行った(医学部・医科大学=6、病院=3、研究所=2)。聴取り調査は現在継続中であるため、詳しい報告は次年度に譲る。
(2)実態調査の際に収集した文書等から規定上の検討対象に従い倫理委員会を分類し、倫理委員会の役割について検討した。唄孝一氏の先行研究に倣い、「人間を直接対象とする医学研究」に明確に限定しているもの(A型)、「人間を対象とした医学の研究」に「医療行為」を並列させるもの(B型)、「人間を対象とした医学の研究」に「臨床応用」を並列させるもの(C型)、「先進医療」を「人間を対象とした医学の研究」に並列前置させるもの(D型)の4類型を立て、これをアンケート調査の施設別分類と組み合わせて検討した結果、B型が、全83施設のうち45施設、43の市中病院のうち26病院と半数以上を占め、市中病院をも対象としたにもかかわらず、唄氏調査と同様の結果が見られた。
(3)日本における被験者保護法制と倫理委員会の役割を考察するために、オランダとドイツの被験者保護法制と倫理委員会に関する文献収集と解読の実施に加えて、8月にはオランダとドイツで実地調査を行った。とりわけオランダの倫理委員会制度は法的基盤に裏付けられたものとなっており、日本における今後の被験者保護制度および倫理委員会システム構築のモデルとして参考に値するものと評価できる。
(4)アメリカでは現在、被験者保護システムは、コモン・ルール及び連邦政府関連の研究費を受けた研究に対する施設内倫理審査委員会の審査だけに限られている。しかし、従来の批判にこたえて、あらゆるスポンサーを取り込んだ総合的なシステムが構想され、その信任プログラムが動き始めた。このプログラムでは、各研究施設が自主的に被験者保護プログラムについて第三者機関から信任を受けるという方策が考えられている。しかし、被験者保護システムの信任プログラム構想は、倫理審査に関わるシステム変更に留まらず、社会からの信頼を獲得して新たな研究文化の創出を目指すという戦略的志向に基づいていることにも留意する必要がある。
「研究課題2:三省指針の下での研究審査と研究の実施」について:
(1) 徳永らが経験したタイ、中国の研究者との共同研究について、倫理審査委員会への研究計画の申請と承認、および研究成果に示された国際共同研究の意義について検討した。また、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に対するアジア諸国の研究者の見解の予備的調査では、三省指針の英語訳が公表されていない段階であるが、アジアの研究者数人にその概要を伝えて見解を求め、種々の観点からのコメントを得た。
(2) 国立がんセンター中央病院では、2002年1月1日より初診患者を対象として、診療で集められた試料の残りや各種検査情報を保管し、将来の研究のために利用することをあらかじめ説明し同意を得ておく「包括的同意」手続きを開始した。これは、試料等の提供を受けるのみの研究に該当し、個別の研究計画については改めて倫理審査委員会の審議に付されることになっている。包括的同意の運用状況を調べたところ、ほぼ半数の患者から同意を得ていることが明らかにされた。また、「包括的同意」手続きで用いる文書と三省指針で定める説明文書との整合性について検討したところ、説明項目としてはほぼ対応していることが判明した。
(3)人間に関する資料が、遺伝子解析研究などの先端医療研究や,細胞・組織バンクへ提供される計画の審査における経験を通じて明らかとなった問題点を提示し,倫理審査委員会に関わっている諸兄姉の参考に供すると共に,それらについて批判・意見を求めた。取り上げた問題は「研究対象とされる遺伝子、疾患の特定性の程度」、「将来の研究利用についての同意」、「遺伝情報の漏洩による危険」、「セルライン化、細胞株樹立、不死化」、「包括同意」、「バンクへの提供―同意の撤回の可能性」、についての説明と同意のあり方である。
(4) 作成を予定しているガイドブックの構成・内容の検討を行った。各施設の倫理審査委員会の抱えている問題に対処するためには、「倫理審査委員会の役割や機能」、「医学研究における研究審査の意義と手続き」、「財政的ならびに人的資源の確保」などの諸点を考慮した内容や提案を含めて、研究者と審査委員の両方が利用可能なものを作成することが肝要であることを確認した。
(1) 全国の医学系研究機関、総合大学医学部、医科大学および病院など2, 248施設を対象とした郵送調査を2002年3月~4月に行い、538施設から回答を得た(回答率24.2%)。有効回答527の分析を通じて、本調査実施時点での倫理(審査)委員会未設置率は53.3%であることが判明した。一方、倫理(審査)委員会を設置している施設においても、委員会本来の役割と機能を果たすためのインフラ整備の立ち後れによる種々の問題が生起していることが示された。なお、2002年11月には「調査結果概要版」を作成し、調査結果の報告希望のあった協力施設等210に送付した。また、倫理審査委員会の聴取り調査では11施設を訪問し、半構造化面接法によるインタビューや委員会の傍聴を行った(医学部・医科大学=6、病院=3、研究所=2)。聴取り調査は現在継続中であるため、詳しい報告は次年度に譲る。
(2)実態調査の際に収集した文書等から規定上の検討対象に従い倫理委員会を分類し、倫理委員会の役割について検討した。唄孝一氏の先行研究に倣い、「人間を直接対象とする医学研究」に明確に限定しているもの(A型)、「人間を対象とした医学の研究」に「医療行為」を並列させるもの(B型)、「人間を対象とした医学の研究」に「臨床応用」を並列させるもの(C型)、「先進医療」を「人間を対象とした医学の研究」に並列前置させるもの(D型)の4類型を立て、これをアンケート調査の施設別分類と組み合わせて検討した結果、B型が、全83施設のうち45施設、43の市中病院のうち26病院と半数以上を占め、市中病院をも対象としたにもかかわらず、唄氏調査と同様の結果が見られた。
(3)日本における被験者保護法制と倫理委員会の役割を考察するために、オランダとドイツの被験者保護法制と倫理委員会に関する文献収集と解読の実施に加えて、8月にはオランダとドイツで実地調査を行った。とりわけオランダの倫理委員会制度は法的基盤に裏付けられたものとなっており、日本における今後の被験者保護制度および倫理委員会システム構築のモデルとして参考に値するものと評価できる。
(4)アメリカでは現在、被験者保護システムは、コモン・ルール及び連邦政府関連の研究費を受けた研究に対する施設内倫理審査委員会の審査だけに限られている。しかし、従来の批判にこたえて、あらゆるスポンサーを取り込んだ総合的なシステムが構想され、その信任プログラムが動き始めた。このプログラムでは、各研究施設が自主的に被験者保護プログラムについて第三者機関から信任を受けるという方策が考えられている。しかし、被験者保護システムの信任プログラム構想は、倫理審査に関わるシステム変更に留まらず、社会からの信頼を獲得して新たな研究文化の創出を目指すという戦略的志向に基づいていることにも留意する必要がある。
「研究課題2:三省指針の下での研究審査と研究の実施」について:
(1) 徳永らが経験したタイ、中国の研究者との共同研究について、倫理審査委員会への研究計画の申請と承認、および研究成果に示された国際共同研究の意義について検討した。また、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に対するアジア諸国の研究者の見解の予備的調査では、三省指針の英語訳が公表されていない段階であるが、アジアの研究者数人にその概要を伝えて見解を求め、種々の観点からのコメントを得た。
(2) 国立がんセンター中央病院では、2002年1月1日より初診患者を対象として、診療で集められた試料の残りや各種検査情報を保管し、将来の研究のために利用することをあらかじめ説明し同意を得ておく「包括的同意」手続きを開始した。これは、試料等の提供を受けるのみの研究に該当し、個別の研究計画については改めて倫理審査委員会の審議に付されることになっている。包括的同意の運用状況を調べたところ、ほぼ半数の患者から同意を得ていることが明らかにされた。また、「包括的同意」手続きで用いる文書と三省指針で定める説明文書との整合性について検討したところ、説明項目としてはほぼ対応していることが判明した。
(3)人間に関する資料が、遺伝子解析研究などの先端医療研究や,細胞・組織バンクへ提供される計画の審査における経験を通じて明らかとなった問題点を提示し,倫理審査委員会に関わっている諸兄姉の参考に供すると共に,それらについて批判・意見を求めた。取り上げた問題は「研究対象とされる遺伝子、疾患の特定性の程度」、「将来の研究利用についての同意」、「遺伝情報の漏洩による危険」、「セルライン化、細胞株樹立、不死化」、「包括同意」、「バンクへの提供―同意の撤回の可能性」、についての説明と同意のあり方である。
(4) 作成を予定しているガイドブックの構成・内容の検討を行った。各施設の倫理審査委員会の抱えている問題に対処するためには、「倫理審査委員会の役割や機能」、「医学研究における研究審査の意義と手続き」、「財政的ならびに人的資源の確保」などの諸点を考慮した内容や提案を含めて、研究者と審査委員の両方が利用可能なものを作成することが肝要であることを確認した。
結論
倫理審査委員会による「ヒト被験者を伴う医学研究」の倫理審査が意味するところは、「被験者ないし試料提供者の人格尊重と人権保護を保障するための手続き」および「研究審査の透明性を確保するための手続き」を担保することに他ならない。こうした視点から研究審査のあるべき姿と適正システムについての提言を行うために、本年度の研究を行った。「研究1」の成果は、日本の倫理審査委員会の適正かつ円滑な運営を図るための方策の提言として結実させる予定である。また。「研究2」の成果は、アジア諸国との国際共同研究における共通指針策定に関する提言に向けて活用すると共に、日本における適正な研究審査実現のための倫理審査委員会ガイドブックとして結実させる予定である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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