文献情報
文献番号
200200453A
報告書区分
総括
研究課題名
再生医療を利用した難病の治療 ─ 新しい骨髄移植方法を用いて ─(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
池原 進(関西医科大学病理学第一講座 教授)
研究分担者(所属機関)
- 福原資郎(関西医科大学内科学第一講座 教授)
- 稲葉宗夫(関西医科大学病理学第一講座 助教授)
- 安水良知(関西医科大学病理学第一講座 助教授)
- 足立 靖(関西医科大学病理学第一講座 講師)
- 比舎弘子(関西医科大学病理学第一講座 講師)
- 土岐純子(関西医科大学病理学第一講座 講師)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(生命倫理分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
研究方法
研究要旨
申請らは、革新的な骨髄移植方法(“灌流法"と骨髄内骨髄移植:IBM-BMT)を開発した(特開2001-172188,特願09/531891)。この方法により、多能性造血幹細胞(P-HSC)だけでなく、間葉系幹細胞(MSC)もドナーの正常な細胞に置換できるため、ほとんどの難病が治療可能と考えられる。
実際、これまで、通常の静脈内の骨髄移植(IV-BMT)では治療できなかった骨粗鬆症,感音難聴,肺気腫等がIBM-BMTにより治療できることが明らかになった(印刷中)。さらに、臓器移植もIBM-BMTを併用することによってmildなconditioning regimen(4.5Gy x 2の分割照射)でも、皮膚,膵等の移植にも成功している。このように、免疫抑制剤を使用せずにmildなconditioning regimenで、臓器移植が可能となれば、あらゆる難病の治療に応用できる。さらに、ヒトへ応用するため、モンキーを用いたトランス・レーショナル・リサーチを開始した。マウスと違って、モンキーではヒトと同様に消化管の放射線に対する感受性が強いため、よりmildなcondintioning regimen(4Gy x 2以下の分割照射)が必要であることが明らかになった。それ故、rejectionを防ぐため、ドナー・リンパ球輸注(DLI)が不可欠となり、IBM-BMT + DLIによって、モンキーの造血系をdonor側の造血系に置き換えることに成功した(投稿予定)。
申請らは、革新的な骨髄移植方法(“灌流法"と骨髄内骨髄移植:IBM-BMT)を開発した(特開2001-172188,特願09/531891)。この方法により、多能性造血幹細胞(P-HSC)だけでなく、間葉系幹細胞(MSC)もドナーの正常な細胞に置換できるため、ほとんどの難病が治療可能と考えられる。
実際、これまで、通常の静脈内の骨髄移植(IV-BMT)では治療できなかった骨粗鬆症,感音難聴,肺気腫等がIBM-BMTにより治療できることが明らかになった(印刷中)。さらに、臓器移植もIBM-BMTを併用することによってmildなconditioning regimen(4.5Gy x 2の分割照射)でも、皮膚,膵等の移植にも成功している。このように、免疫抑制剤を使用せずにmildなconditioning regimenで、臓器移植が可能となれば、あらゆる難病の治療に応用できる。さらに、ヒトへ応用するため、モンキーを用いたトランス・レーショナル・リサーチを開始した。マウスと違って、モンキーではヒトと同様に消化管の放射線に対する感受性が強いため、よりmildなcondintioning regimen(4Gy x 2以下の分割照射)が必要であることが明らかになった。それ故、rejectionを防ぐため、ドナー・リンパ球輸注(DLI)が不可欠となり、IBM-BMT + DLIによって、モンキーの造血系をdonor側の造血系に置き換えることに成功した(投稿予定)。
結果と考察
研究結果の概要
難病の新しい治療方法を確率するために、骨髄内骨髄移植(IBM-BMT)を用いて次のような新知見が得られた。
I. 骨髄内骨髄移植(IBM-BMT)の難病の予防並びに治療に対する効果─小動物を用いて
i) 自己免疫性感音難聴のモデルマウス(MRL/lpr)を用いて
感音難聴は、骨髄内骨髄移植(IBM-BMT)によって予防(Bone Marrow Ttransplantation 26:887,2000)並びに治療できる(投稿予定)。
ii) 老化促進マウス(SAM)を用いて
①SAMP1マウスの老化に伴って発症するamyloidosisは骨髄移植と胸腺移植によって予防できる(投稿予定)。
②IBM-BMTによるSAMP6マウスの骨粗鬆症の発症が予防できる(Stem Cells 20:542,2002)だけでなく、治療もできる(投稿中)。
iii)肺気腫を自然発症するTskマウスに正常マウスの骨髄細胞をIBM-BMTすることによって、肺気腫が治療できる(投稿中)。
II. IBM-BMTと臓器移植の併用による難病の治療
i) マウスの皮膚移植において、低線量の放射線照射(4.5Gy x 2の分割照射)後、PV-BMT(門脈よりのBMT)ではアロの皮膚は60%しか生着しないが、IBM-BMTによって100%アロの皮膚が生着する(投稿予定)。
ii) Streptozotocinで誘導した糖尿病ラットにおいても、IBM-BMTの方が、PV-BMTよりも、膵島の移植成功率が高い(投稿予定)。
iii)ラットの下肢移植では、4.5Gy x 2の分割照射とFludarabine(50mg/kg)の投与後にIBM-BMTを行うことによって、ラットのアロ下肢移植に成功している(投稿中)。
III. 新しい難病のモデル動物の作製方法の開発
ヒトの細胞をマウスに移植するにはSCIDマウス(T細胞とB細胞を欠如した免疫不全マウス)が用いられて来た。これまで、ヒトの造血系細胞は、SCIDマウスに静脈より注入し、SCID/huキメラマウスを作製していたが、ヒト細胞の生着率(キメリズム)は 数%程度であった。我々の開発したIBM-BMTの方法を用いて臍帯血をSCIDマウスに 移植すると10%から50%にもヒト由来の細胞が生着することが判明した(Blood 101:2924,2003)。それ故、IBM-BMTを用いれば、種々のヒトの難病をマウスにtransferし、モデル動物を作製することが可能となり、難病の遺伝子や病体レベルの異 常を解析する上にも多大な貢献をするものと考える。
IV. トランス・レーショナル・リサーチ ─ 主としてモンキーを用いて
i) Conditioning regimensの一つとして、放射線照射が動物でもヒトでも用いられているが、マウスを用いた実験からBMTの前日に4時間間隔で6Gy,2回分割照射するのがfullchimerismを形成するために最善である(Bone Marrow Transplantation 30:843, 2002)。但し、モンキーでは、4Gy x 2以下(IBM-BMTの前日)の分割照射が最適である(投稿予定)。
ii)カニクイザルを用いてHvGR(rejection)を防ぐには30mg/kgのTacrolimus(FK506)やsteroid hormones(40mg/3kgのmethyl predonisolone)のpulse療法が有効である。
iii)骨髄細胞(BMC)をサイトカインで培養して、経時的にBMCを補充すると造血系の回復が速やかにである。
iv)donor lymphocyte infusion(DLI)を頻回に反復することにより、HvGRを防ぎ、donorの造血細胞の生着を促進する。
V. 癌の新しい治療方法の開発
ドナー・リンパ球輸注(DLI)は、白血病や悪性リンパ腫のみならず、固形癌の治療にも、最近、ヒトで広く用いられ、かなりの効果をあげているが、移植片宿主病(GvHD)の予防方法と治療方法がないため、DLIを頻回に行えず、根治には至っていない。我々は、DLIの際にIBM-BMTを併用することによってGvHDを予防並びに治療できること(投 稿中)、それ故、頻回のDLIによってgraft-versus-tumor reaction (GvHD)を誘導し、腫瘍が根絶できることを発見した(特願中)。この方法の有効性と安全性をマウス、ラットで確かめ、モンキーで最終的な確認をして、ヒトへ応用する。
VI. 難病患者における樹状細胞(DC)の変動と疾患との関連(福原ら)
樹状細胞(Dendritic cell: DC)はナイーブT細胞を活性化する唯一の抗原提示細胞であり、ミエロイド系DCとリンパ球系DCに大別される。DCは骨髄幹細胞から分化し、生体局所への移動・分布の過程で成熟し、免疫応答を誘導する。DCにより誘導されるT細胞応答は、DCの系統によって規定されることが提唱されているが、その成熟段階やサイトカインなどの微小環境によっても大きく修飾される。また、DCはToll-like receptorsを介して自然免疫と獲得免疫をlinkする細胞として認識されるようになった。一方、末梢血にはDCの前駆細胞が存在し、各種難病においてDCの実数が大きく変動することが明らかになった。この変動は、Th1とTh2バランスの異常による免疫病態と密接に関連することが示唆された(J.Exp.Med. 195:1507,2002)。
難病の新しい治療方法を確率するために、骨髄内骨髄移植(IBM-BMT)を用いて次のような新知見が得られた。
I. 骨髄内骨髄移植(IBM-BMT)の難病の予防並びに治療に対する効果─小動物を用いて
i) 自己免疫性感音難聴のモデルマウス(MRL/lpr)を用いて
感音難聴は、骨髄内骨髄移植(IBM-BMT)によって予防(Bone Marrow Ttransplantation 26:887,2000)並びに治療できる(投稿予定)。
ii) 老化促進マウス(SAM)を用いて
①SAMP1マウスの老化に伴って発症するamyloidosisは骨髄移植と胸腺移植によって予防できる(投稿予定)。
②IBM-BMTによるSAMP6マウスの骨粗鬆症の発症が予防できる(Stem Cells 20:542,2002)だけでなく、治療もできる(投稿中)。
iii)肺気腫を自然発症するTskマウスに正常マウスの骨髄細胞をIBM-BMTすることによって、肺気腫が治療できる(投稿中)。
II. IBM-BMTと臓器移植の併用による難病の治療
i) マウスの皮膚移植において、低線量の放射線照射(4.5Gy x 2の分割照射)後、PV-BMT(門脈よりのBMT)ではアロの皮膚は60%しか生着しないが、IBM-BMTによって100%アロの皮膚が生着する(投稿予定)。
ii) Streptozotocinで誘導した糖尿病ラットにおいても、IBM-BMTの方が、PV-BMTよりも、膵島の移植成功率が高い(投稿予定)。
iii)ラットの下肢移植では、4.5Gy x 2の分割照射とFludarabine(50mg/kg)の投与後にIBM-BMTを行うことによって、ラットのアロ下肢移植に成功している(投稿中)。
III. 新しい難病のモデル動物の作製方法の開発
ヒトの細胞をマウスに移植するにはSCIDマウス(T細胞とB細胞を欠如した免疫不全マウス)が用いられて来た。これまで、ヒトの造血系細胞は、SCIDマウスに静脈より注入し、SCID/huキメラマウスを作製していたが、ヒト細胞の生着率(キメリズム)は 数%程度であった。我々の開発したIBM-BMTの方法を用いて臍帯血をSCIDマウスに 移植すると10%から50%にもヒト由来の細胞が生着することが判明した(Blood 101:2924,2003)。それ故、IBM-BMTを用いれば、種々のヒトの難病をマウスにtransferし、モデル動物を作製することが可能となり、難病の遺伝子や病体レベルの異 常を解析する上にも多大な貢献をするものと考える。
IV. トランス・レーショナル・リサーチ ─ 主としてモンキーを用いて
i) Conditioning regimensの一つとして、放射線照射が動物でもヒトでも用いられているが、マウスを用いた実験からBMTの前日に4時間間隔で6Gy,2回分割照射するのがfullchimerismを形成するために最善である(Bone Marrow Transplantation 30:843, 2002)。但し、モンキーでは、4Gy x 2以下(IBM-BMTの前日)の分割照射が最適である(投稿予定)。
ii)カニクイザルを用いてHvGR(rejection)を防ぐには30mg/kgのTacrolimus(FK506)やsteroid hormones(40mg/3kgのmethyl predonisolone)のpulse療法が有効である。
iii)骨髄細胞(BMC)をサイトカインで培養して、経時的にBMCを補充すると造血系の回復が速やかにである。
iv)donor lymphocyte infusion(DLI)を頻回に反復することにより、HvGRを防ぎ、donorの造血細胞の生着を促進する。
V. 癌の新しい治療方法の開発
ドナー・リンパ球輸注(DLI)は、白血病や悪性リンパ腫のみならず、固形癌の治療にも、最近、ヒトで広く用いられ、かなりの効果をあげているが、移植片宿主病(GvHD)の予防方法と治療方法がないため、DLIを頻回に行えず、根治には至っていない。我々は、DLIの際にIBM-BMTを併用することによってGvHDを予防並びに治療できること(投 稿中)、それ故、頻回のDLIによってgraft-versus-tumor reaction (GvHD)を誘導し、腫瘍が根絶できることを発見した(特願中)。この方法の有効性と安全性をマウス、ラットで確かめ、モンキーで最終的な確認をして、ヒトへ応用する。
VI. 難病患者における樹状細胞(DC)の変動と疾患との関連(福原ら)
樹状細胞(Dendritic cell: DC)はナイーブT細胞を活性化する唯一の抗原提示細胞であり、ミエロイド系DCとリンパ球系DCに大別される。DCは骨髄幹細胞から分化し、生体局所への移動・分布の過程で成熟し、免疫応答を誘導する。DCにより誘導されるT細胞応答は、DCの系統によって規定されることが提唱されているが、その成熟段階やサイトカインなどの微小環境によっても大きく修飾される。また、DCはToll-like receptorsを介して自然免疫と獲得免疫をlinkする細胞として認識されるようになった。一方、末梢血にはDCの前駆細胞が存在し、各種難病においてDCの実数が大きく変動することが明らかになった。この変動は、Th1とTh2バランスの異常による免疫病態と密接に関連することが示唆された(J.Exp.Med. 195:1507,2002)。
結論
公開日・更新日
公開日
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更新日
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