遺伝子治療・再生医療等の探索的臨床研究における審査・実施支援体系の開発と標準化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200451A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子治療・再生医療等の探索的臨床研究における審査・実施支援体系の開発と標準化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小俣 政男(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川義弘(東京大学)
  • 大橋靖雄(東京大学)
  • 山崎力(東京大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(生命倫理分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療・再生医療等の探索的臨床研究が動き始めている。しかしながら、これらに対する審査体制や実施支援体制の整備は遅れているのが現状である。本研究では、探索的臨床研究を審査・支援する上での指針となる体系を実地に則して開発・試行し(あるいは基盤を実地に則して整備し)、また、他機関との多角的な交流を通じてその標準化を図ることを目的とする。平成14年度は、探索的臨床研究の基盤整備の前段階として、東大病院での試行をもとに一般的臨床研究(医師主導の臨床試験:東大病院では自主臨床試験と称している)の基盤整備(指針・手引き等の整備と支援体制の構築)を行う。
研究方法
自主臨床研究の現状と問題点を探り、また、研究者間の啓蒙を図るため、全国の臨床試験関係者を対象としたセミナーを開催する。東大病院をモデルとして、支援体制の試行を開始する。平行して、指針や手引き等の整備を図る。セミナー等を通じてネットワークを形成し、指針や支援体制の普及、標準化を目指す。
結果と考察
自主臨床試験の質の向上を図り、世界に通用するエビデンスを生み出すことができるような支援体制を整備するためには、アメリカ等の現状を考慮し、グローバルスタンダードであるICH-GCPを準用することが適当であるとの基本方針を設定した。東大病院での臨床研究の現状を調査したところ、薬物治療に関する研究と、ヒトゲノム解析に関する研究が多く、その数は近年急速に増加していた。また、臨床研究の多くは、医学部倫理委員会で審議されているものの一部は病院治験審査委員会で審議されており、その区分は明確でなかった。そこで、自主臨床試験の品質向上を図る上で、定型的な扱いにより品質向上が可能な薬物治療に関する臨床試験および倫理的検討を要する未承認薬等の臨床使用について、治験審査委員会で審議を行い、他は倫理委員会にて審議することとした。東大病院臨床試験部では、治験審査委員会で審査する臨床試験等を支援の対象として支援の試行を開始することとした。支援を開始するにあたって、平成14年3月22日に臨床試験部主催で開催した第2回臨床試験セミナー「臨床試験のすすめ」で実施したアンケートの結果、すなわち、自主臨床試験で今後必要とされる項目として、プロトコール作成支援、臨床研究実施支援、被験者補償制度、財政支援等が高いスコアであったことを参考とした。臨床試験部では、まず平成14年5月にコンサルテーション部門を新設し、プロトコール、同意説明文書および申請書の作成支援を開始した。また、実施支援を開始するにあたり部内で検討したところ、被験者の健康被害の補償制度が確立していなければ、実施の支援は困難であるとの結論に至り、補償・賠償について識者を招聘して勉強会を開催し、一方、院内の医事課と具体的方策について検討を行った。その結果、現行の校費負担患者規定を運用し、健康被害の医療費もその対象とすることで案を作成し、東大病院の規定として定めた。臨床試験実施支援も順次開始し、未承認薬等の臨床試験部での管理・調剤、試験薬のマスク化(コード化)、安全性情報報告支援、一部の臨床試験での同意説明補助などの支援を開始するとともに、実施状況管理として、同意書の回収・保管、有害事象報告、定期的実施状況報告(年1回)、終了・中止報告などを開始した。これらの支援を試行しながら、下記の指針、手順書、手引き等の整備を行った。1.自主臨床試験および未承認薬等の臨床使用の指針、2.自主臨床試験および未承認薬等の臨床使用の手順書、3.自主臨床試験および未承認薬等の
臨床使用に関する様式、4.自主臨床試験の実施計画書作成の手引き、5.自主臨床試験等の同意説明文書作成の手引き。策定においては常に最新版を実地に適用し、適用可能性について検討を行いつつ改良を行った。さらに、第2回臨床試験セミナー参加者およびGCP会議のメーリングリストを通じてこれらを公開し、広く意見を募った。特に「実施計画書作成の手引き」は他に類似のものがなく、多施設で実施される可能性があるため、ファイルを送付して意見を求めた。その結果、幾人かの専門家からのご指摘をいただき、治験審査委員会での指摘事項と合わせて修正し、委員会の承認を得た。また、「自主臨床試験および未承認薬等の臨床使用の指針」についてはさらに病院の規則として定められた。これらは、東大病院臨床試験部のホームページ(http://www.h.u-tokyo.ac.jp/gcp/home/index.htm)に掲載し、公開している。一方、臨床試験の置かれている環境の著しい変化への対応策を探り、臨床試験の啓蒙と更なるネットワーク形成を目指して、第3回臨床試験セミナー「グローバリゼーション時代の治験・臨床試験」を開催した(平成15年3月14日)。参加者は東京大学内60名、他の国公私立大学病院65名、国立病院29名、その他の医療機関23名、厚生労働省15名、製薬企業80名、CRO等23名の約300名であった。セミナーでは自主臨床試験について、様々な立場からご発表いただき、質の向上にそれぞれ貢献されている様子が紹介された。東大病院での試みも紹介し、普及拡大の一助とした。薬事法改正、医師主導の治験制度の制定、臨床研究の倫理指針等の各種指針の制定など、臨床試験の置かれている環境は急速に変化している。当研究の方針に基づき東大病院をモデルとした臨床試験の質の向上の試みは、ICH-GCPを準用したものではあるが、医師主導の治験として適用するには、モニタリング・監査の方法、安全性情報の取扱いなど従来製薬企業が行っていたことなどさらに多くを取り決める必要がある。一方、臨床研究の倫理指針にはほぼ適合したものとなっている。また、東大病院での試みは公開されていることから、多くの施設より注目を得ており、一部ではすでに取り入れて適用している施設もあると聞いている。今後さらに普及を図るとともに、対象とする臨床試験の枠も拡大して行きたい。一方、自主臨床試験の支援を開始して明らかとなったことは、臨床試験を実施する者の教育体制や教科書の欠如であり、今後この点についても改善を図っていきたい。臨床試験の高質化には、指針等の制定だけでは不十分であり、教育体制の整備、審査・実施の支援体制の整備、財政支援の充実などどれも欠くことができないものであると考えている。
結論
探索的臨床研究の審査・実施支援体系の開発と標準化を目指した基盤整備の前段階として、一般的な臨床試験の基盤(指針・手引き等の整備と支援体制の構築)を東大病院をモデルに開発し、普及を図った。今後教育体制の整備や対象とする臨床試験の拡大について検討していく予定である。

公開日・更新日

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