遺伝子導入の時間・空間・量を制御できる次世代型ベクターの分子設計と遺伝子導入デバイスの総合開発

文献情報

文献番号
200200450A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子導入の時間・空間・量を制御できる次世代型ベクターの分子設計と遺伝子導入デバイスの総合開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中山 泰秀(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 裕(京都大学大学院医学研究科)
  • 斯波真理子(国立循環器病センター研究所)
  • 山下 潤(京都大学大学院医学研究科)
  • 中山敦好(独立行政法人産業技術総合研究所関西センター)
  • 西 正吾(高槻赤十字病院脳神経外科)
  • 植田初江(国立循環器病センター)
  • 大屋章二(国立循環器病センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(遺伝子治療分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
-円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、新しい合成高分子系のベクターの開発、ならびにそれらを有効に病変部に誘導、徐放できるデバイスを開発することを研究目的とする。合成高分子ベクターの基本骨格として、ナノレベルの厳密な幾何学的設計を行い、次いで機能化設計として光反応性を有する光機能性分子を組み込み、遺伝子とのコンプレックス形成過程、ならびに解離過程を任意に制御しうる光操作型材料の基盤分子設計を行い、遺伝子導入の時間・空間・量を厳密に制御できる高い安全性と発現効率を併せ持つ次世代型の高機能性ベクターを開発する。さらにベクターと遺伝子との複合体を体内で誘導できる金や磁性ナノ粒子を遺伝子の支持担体として開発し、また、局所送達のために血管内治療デバイスや気管内投与デバイスを応用して遺伝子導入に特化した新しいデバイスを開発する。その際デバイスの材料や遺伝子の包埋担体材料として生分解性高分子材料を支援材料として開発する。また、導入する遺伝子の探索研究を併せて行う。難治性の原発性肺高血圧症や原発性高コレステロール血症、または内膜肥厚や阻血病変への遺伝子治療をめざして疾患動物モデルを作製し、臨床化研究を進め、商品化をめざす。
研究方法
ベクターの骨格設計:多イニファタとして、イニファタ基を1,3,4,6個有するベンゼン誘導体を合成し、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのリビングラジカル重合により、分岐数ならびに鎖長を厳密に制御したカチオン性高分子を合成した。DNA との複合体形成能を調べ、遺伝子発現をCOS-1細胞を用いたルシフェラーゼ活性の測定により評価した。機能設計:昨年度開発した光カチオン発生型高分子を金ナノ粒子の表面にチオール結合形成によって複合化させる。DNAとの複合体形成能を動的光散乱測定によって調べる。遺伝子開発:古典的サブトラクション法による探査に加え、DANチップを用いたコランスクリプトーム解析とRNAiを用いた遺伝子機能阻害実験を組み合わせて行う。遺伝子導入デバイスの作成:ストラット周囲に薄膜でカバー化させ、エキシマレーザーにて多孔化することで多孔質カバーステントを作製し、同時併行で開発している生分解性マトリックス材料をもちいて、カバー材の内外面に遺伝子を包埋させたゲル層を固定化させる。また、気管内投与器を用いてマウス気管内への噴霧法により肺への局所送達を行い、発現量をルシフェラーゼ法にて評価する。臨床研究:循環器疾患のモデルとして、モノクロタリン投与ラットおよびアポEノックアウトマウスを作成し、遺伝子治療を行う。静脈片の動脈へのグラフト化による吻合部狭窄モデルを作成し、CNP遺伝子導入の効果、内皮再生の程度を調べる。また、下肢阻血モデルによるCNPプラスミドによる遺伝子導入効果を調べる。
結果と考察
遺伝子導入の高効率化をめざして、分岐数ならびに鎖長を厳密に制御したスター型高分子を分子設計した。合成はイニファタリビングラジカル重合法を用いた。イニファタ基数を1, 3, 4, 6個有するベンゼン誘導体をそれぞれ相当するハロゲン化メチル基導入体のジチオカルバミン酸塩との脱塩反応から得られ、これらをメタノール溶液中での紫外光照射により、3-(N,N-dimethylamino)propyl acrylamideを光重合させると、直鎖ならびに分岐数3, 4, 6の分岐型高分子(
スター型高分子)が得られた。分岐数はイニファタの存在量によって、また鎖長は溶液条件(モノマー濃度と仕込み比)ならびに照射条件(強度と時間)によって調節可能であった。分子量を約2万に調整した各スター型高分子を合成すると、これらはいずれもDNA (pGL3-control)と混合すると、ポリイオンコンプレックスを形成した。コンプレックスの粒径はカチオン(ベクター)とアニオン(DNA)との比(C/A比)が5以下では約250nmであり、C/Aが5以上で 約150nmとなった。 また、z電位はC/A比が4以下ではやや負電荷を有していたが、C/A比4以上で約+5mVにほぼ収束した。分岐数が変化しても、生成するコンプレックスの粒径や表面電位に大きな差はなかった。一方、コンプレックスを培養COS-1細胞に作用させ、遺伝子発現量をLuciferase活性で評価すると、発現量のおおよその相対比は、直鎖:3分岐:4分岐:6分岐=1:2:4:10となり、分岐数の増加に伴う大幅な発現量の増加を認めた。分子構造のナノ幾何学的設計は遺伝子発現の高効率化を獲得する有力な設計手段に成り得ると考えられる。可視光照射によってカチオンを生成し,遮光条件下で元に戻る性質を持つホトクロミック分子として知られているマラカイトグリーンのアルカンチオール化誘導体:MG-SHを新規に合成した。次にMG-SHの紫外光照射に対するカチオン体への異性化挙動を紫外可視吸光スペクトルを測定すると、水-DMSO系溶媒中ではまずカチオン体への光異性化はおよそ45秒で飽和し、40℃におけるロイコ体への熱異性化は75%ほどにまで戻ることがわかった。MG-SH修飾金コロイドでも水-DMSO系溶媒中ではカチオン体への光異性化が起きることから、MG-SH修飾金コロイドはDNA存在下ではDNAとポリイオンコンプレックスを形成した後遺伝子キャリアーとして細胞内へDNAを輸送し、熱異性化によりポリイオンコンプレックスが崩壊することによってDNAを効率的に放出することが期待される。ステントストラットをステンレス棒にマウントし、ポリウレタン溶液への浸漬、乾燥を繰り返すと、ポリウレタンエラストマーの薄膜が形成された。フォトマスクで照射領域を制限してエキシマレーザーを照射すると、直径100umの微細孔が厳密に配置された多孔質カバーステントが作製できた。カバー材の表面に、本研究で開発した光硬化性のゼラチンと遺伝子を混合して光照射すると、カバー表面に生成したゼラチンゲル内に遺伝子を包埋できた。カバー材は遺伝子を含む薬物の担持徐放担体として有用と考える。アデノウイルスベクターを用いた血管壁へのCNP遺伝子導入により、血管平滑筋細胞の過剰増殖を抑制することができた。さらに障害内皮の再生が促進され、抗血栓機能等内皮機能を回復でき、血管保護作用が発揮されることが示された。更にCNPプラスミドを虚血疾患モデル兎に筋注すると、血管再生が促進されることを明らかとした。また、他の循環器疾患のモデル動物としてモノクロタリン投与ラットならびにアポEノックアウトマウスを作製し、ポリエチレンイミンやSurfactantを組み合わせて原発性肺高血圧症や原発性高コレステロール血症の治療の有用性を示した。前臨床研究のモデル系が作製され、本ベクターとの比較系が確立されたといえる。
結論
分岐型カチオン性高分子は、分岐数の増加に伴って飛躍的に遺伝子発現効率を増大させることができた。ベクターの基本骨格には6分岐型のカチオン性高分子鎖が最適といえる。また、マラカイトグリーンは光照射によってカチオンを可逆的に発生させることができたため、金ナノ粒子表面に修飾することで、DNAと金ナノ粒子との複合体形成が可能であった。同時併行で進めている磁性ナノ粒子との複合化により、体外からの体内動態の磁気誘導能が獲得される。遺伝子開発においては、ES細胞in vitro分化系、DNAチップによる網羅的遺伝子解析、siRNAによるin vitro遺伝子機能解析の3つを組み合わせることで、細胞分化の分子機構に新たな可能性を与える有力な新手法を提供できた。また、遺伝子導入デバイスとしてカバーステントを提案し、開発した生分解性マトリックス材料を用いてモデルとした薬物の包埋放出能が獲得され
、動脈瘤治療への適用を可能とした。遺伝子の局所送達が可能な新規デバイスといえる。さらに、アデノウイルスを用いた系ではあるが、血管壁へのCNP遺伝子導入により、血管平滑筋細胞の過剰増殖が抑制されるのみならず、障害内皮の再生を促し、血管保護作用が発揮させることが示された。さらに、CNPプラスミドの虚血部への筋注によって血管再生の促進を明らかとした。本研究で開発したベクターを用いることで更なる有効性の向上が期待される。

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