子宮内膜症病態解明を目的とした罹患同胞対連鎖及び患者・対照群相関解析を用いた遺伝学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200442A
報告書区分
総括
研究課題名
子宮内膜症病態解明を目的とした罹患同胞対連鎖及び患者・対照群相関解析を用いた遺伝学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
田中 憲一(新潟大学医学部産科婦人科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 谷上信(大塚製薬株式会社藤井記念研究所)
  • 岡村均(熊本大学医学部産科婦人科学教室)
  • 伊熊健一郎(宝塚市立病院産科婦人科)
  • 杉並洋(国立京都病院産科婦人科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子宮内膜症は、生殖年齢女性の3~10%に認められる頻度の高い疾患であり、平成9年の本邦の受療患者数は12万人以上にものぼり近年増加傾向にある。また本疾患は、月経困難症のため患者の日常生活に著しく支障を来すばかりでなく、不妊症や卵巣癌発生との関与も知られており,現代女性の健康を脅かす重要疾患の一つである。その病因については未だ不明な点が多いが、家族内発生を認めること、患者の第一度近親者における罹患率が一般人口の6~9倍であることなどから遺伝的要因の存在が推定されている。欧米では、罹患同胞対解析や,病態のみから推測した候補遺伝子の解析などが行われているが,未だ疾患感受性遺伝子の限定には至っていない。
本研究は、1)家系集積の必要がなくゲノムワイドでの候補遺伝子限定が可能な3万マイクロサテライトマーカーを用いた患者・対照群相関解析、および2)正常子宮内膜と子宮内膜症組織を対象としたDNA chipでの12,000遺伝子の発現解析を同時に行うことで、子宮内膜症発症に関与する疾患感受性遺伝子を同定し、発症メカニズムの解明、発症予防、新たな治療法の開発に貢献することを目的とする。
研究方法
1)検体収集:研究参加施設において、下記対象となる患者及び対照症例より文書による同意を取得し、検体収集(患者・対照群相関解析には全血10ml,DNA chipには卵巣子宮内膜症性嚢胞組織および対照症例の正常子宮内膜を使用)を行う。
(子宮内膜症症例)
1)腹腔鏡検査あるいは開腹手術下にて診断されたR-AFS分類 III・IV期の子宮内膜症症例
2)画像診断にて測定可能な2あるいは3方向の平均値が3cm以上の卵巣子宮内膜症性嚢胞を認める臨床的子宮内膜症症例
(対照症例)
1)高度の月経困難症を認めずまた不妊治療の既往のない2回経産の健常婦人
2)開腹手術あるいは腹腔鏡下手術にて子宮内膜症病変を認めなかった症例
(2)実験,解析方法
1)患者・対照群相関解析
全染色体にわたり100kb間隔,3万個のマイクロサテライトマーカー設定を行う。末梢リンパ球よりDNAを抽出,PicoGreen定量キットを用いてDNA濃度の微量測定を行い,患者群・対照群各200例のDNAが等量ずつ混合したPooled DNAを作成。Pooled DNAを鋳型としPCRを行った後,キャピラリーシークエンサー(ABI3100)にて電気泳動を行い,GeneScan(ABI)より得られた波形データからアリル頻度を求める。患者・対照間でFisherの直接確率P<0.05を有意基準として陽性マーカーの限定を行う。陽性マーカーにおいては,別の患者・対照群で作成したPooled DNAを用いて同様に2次スクリーニングを行う。
2)DNA chip卵巣子宮内膜症性嚢胞組織と正常子宮内膜組織各9例よりRNAを抽出し、Affymetrix社のgene chip(U95A)を用いて、12,000遺伝子の発現量の比較検討を行う。T検定を行い、両群の各遺伝子で3倍以上の発現量差を有意とする。有意であった癌関連遺伝子につき、RT-PCRにて確認実験を行う。
結果と考察
患者・対照群相関解析では,現在までに 23,277マイクロサテライトマーカーの設定が終了し,その内の20,271マーカーにつき1次,2次スクリーニングの解析が終了した。1次スクリーニングでは1,434マーカー(7.1%)がP<0.05を示した。その1,434マーカーにて2次スクリーニングを行った結果,349マーカー(24.3%)がさらに陽性を示した。
一方,DNA chip12000遺伝子の内、増殖期と分泌期の比較では、正常内膜組織で133遺伝子に、内膜症組織では47遺伝子の発現差を認めた。両者に共通した遺伝子は3遺伝子のみであった。また、正常内膜組織と内膜症組織の比較では、増殖期で262遺伝子、分泌期で330遺伝子の発現差を認めた。性周期の影響を除外して正常内膜組織と内膜症組織の比較をしたところ、294遺伝子の発現量の変化を認めた。これらの遺伝子を機能別に分類すると、細胞増殖因子やアポトーシス関連因子、癌関連因子など癌化に関係する因子の発現が38遺伝子(12.9%)認められていた。これらのうち癌関連遺伝子につき、RT-PCRを行い、5遺伝子につき有意な発現差の確認が終了している。また,相関解析で限定された候補領域内からの候補遺伝子の選定には、東海大学で開発された egMAPを利用することで,相関解析で陽性を示したマーカーとDNA chipで発現差を認めた遺伝子との染色体上の位置関係を把握することが可能となり,発現差を認めた294遺伝子のうち、11遺伝子が2次スクリーニング陽性マーカーの近傍100kb以内に位置することが示され,これらが疾患感受性遺伝子である可能性が示唆された。以上より、患者・対照群相関解析とDNA chip発現解析の併用により、真の疾患感受性遺伝子の限定が可能と考えられた。
結論
現在までに23,277マーカーの設定が完了, 20,271マーカーにつき1次スクリーニングの解析が終了し、うち1,434マーカーが陽性を示した。2次スクリーニングでは、そのうち349マーカーが陽性を示し,同マーカー近傍に疾患感受性遺伝子の存在が示唆されている。現在、さらに候補領域を限定するため3次スクリーニングを行っており、また,DNA chipでの発現解析では,正常子宮内膜と内膜症組織の比較で294遺伝子が3倍以上の発現差を認めている。今後は、相関解析で限定された候補領域とDNA chipを用いた発現解析の結果を照らし合わせることにより,候補領域から真の候補遺伝子の選定を行い、遺伝子内のSNPsマーカーを用いて患者・対照群相関解析を行うとともに,親子ペアを用いたTDTを行い,疾患感受性遺伝子の同定と発症への関与の確認を行う方針である。

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