日本人の薬物動態に関連する遺伝子の多型及びタンパク質等の機能の解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200440A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人の薬物動態に関連する遺伝子の多型及びタンパク質等の機能の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
隅野 靖弘(武田薬品工業株式会社)
研究分担者(所属機関)
  • 鎌谷直之(東京女子医科大学)
  • 石川智久(東京工業大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
・ 日本人の標準的な人たちの細胞と遺伝子の試料を倫理問題に十分配慮した体制で作成し、研究者が利用できるようにすることと、それを用いて薬物動態に関連する遺伝子の多型の頻度解析を行うことである。さらに変異・組換えの少ない安定な試料(DNA、セルライン)を得、本研究に利用するとともに研究資源バンク化を図り、日本でヒト組織を有益に用いるための環境を整えることも大きな目的とした。
・ 薬剤応答性に関連する遺伝子を解明し、最適な薬物療法の実現等を推進すること、即ち薬が効く患者と効かない患者の遺伝子の塩基配列を比較することにより、遺伝子多型と薬の効果・副作用との関連を解明する。特に、薬物輸送に関係するトランスポーターの発現系の構築、および基質特異性測定用スクリーニング系を構築する。そして、アミノ酸が変異するSNPを持つ薬物トランスポーターの機能解析を行い、薬物動態に影響すると予想されるSNPを同定するとともに、SNPによって影響を受ける薬物を発見する
研究方法
1)試料等ドネーションの標準的手法の研究と検証(鎌谷、隅野)
ホームページを作成してボランティアを募り、東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターで採血を行って、性別、年齢などの個人非識別情報を収集した後、セルライン作成のために単核球を凍結する。凍結した細胞は、少しずつ融解し、EBウイルスによるセルライン化を行った。作成したセルラインは順次公的バンクに寄託することにより、多くの研究者に貴重な試料として有益に使われ、将来の薬剤開発や日本人の健康維持に貢献する。
2)既知SNPsの変異型タンパク質の発現と機能解析(石川、隅野)
ヒトABCトランスポーター遺伝子、ABCB1, ABCC1, ABCC3, ABCC4, ABCC5, ABCG2の完全長cDNAをクローニングした。そして次に、site-directed mutagenesis法によりABCB1およびABCG2 cDNAにSNPを導入した。そのcDNAを哺乳類細胞または昆虫細胞に発現させるにはpcDNA3.1ベクターを用い、Sf9昆虫細胞に発現させるにはpFastBacベクターを用いた。後者の場合、ベクターから発現用バキュロウイルスを作成した後、昆虫細胞にウイルスを感染させてトランスポーターのタンパク質を発現させた。タンパク質の発現は特異的抗体をもちいたウエスタンブロットで確認した。また、pcDNA3.1ベクターを用いてトランスポーターを発現させる場合は、形質転換した哺乳類細胞(例えばHRK293細胞)のサブクローニングを行い、安定発現細胞を得た。薬物輸送能を細胞レベルで観測する一方、動力学的解析は基質認識能、ATPase活性(ABCB1, ABCG2等)、膜ベジクル系(ABCG2等)での輸送測定によって行った。
倫理面への配慮=
厚生省の「遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針」を遵守して開始された。それは、開始時には三省による倫理指針が発表されていなかったからである。三省による倫理指針が発表されてからは三省による倫理指針にも適応して進められている。しかし、三省の倫理指針より、厚生省による指針の方が厳しく、前指針に従って問題が無い場合はそのまま前指針に従って行った。
東京女子医科大学と、PSCの倫理審査委員会の承認を得た。研究計画に変更があった場合には、直ちに倫理審査委員会に計画の修正を申請し、許可を得た後に実行した。
インフォームドコンセントは、本計画に使用するための許可、今後の他の遺伝子研究に用いるための許可、セルライン化のための許可を別個に取得した。それを厳密に適用して研究を推進した。例えば、セルライン化の許可が得られなかった試料等については、セルライン化しなかった。
薬物トランスポーター遺伝子のSNP機能解析研究においては、健常人または患者由来の血液、組織サンプルを用いたヒト遺伝子解析研究を一切行わず、市販のcDNAパネルを使用するのでヒト遺伝子倫理規定に反しない。ヒトABCトランスポーター遺伝子の哺乳類細胞およびSf9昆虫細胞における発現実験については、東京工業大学組み換えDNA実験安全委員会に実験計画を2000年4月に提出して承認を得た。
結果と考察
1)試料等ドネーションの標準的手法の研究と検証(鎌谷、隅野)
平成14年度は主として凍結した細胞からセルラインを作成することに費やされた。既に970人分以上のセルラインが作成されているおり、研究の終了までに目的とするすべてのセルライン(998人分)の作成が終了する予定である。
このセルラインは次々にヒューマンサイエンス財団に寄託されている。
本研究によって得られた成果は大きい。まず、日本人を対象として行われる医学、医療研究のコントロール試料が達成されたこととなる。しかも、その試料の取得方法や手続きが完全に公開され、倫理的指針やガイドラインに則している事が極めて重要である。本研究における試料採取については読売新聞などでも好意的に大きく報道され、記者自身が試料等提供者となったと報道されている。このように、国民に公開された上での試料採取であったので、もし問題があればそれは明示されており、改善できることになる。
現在、日本の多くの大学、研究所、企業で疾患などを対象としたケース・コントロール研究が数多く行われているが、ケースの試料は得られてもコントロールの試料が得られないというのが現状である。その意味で、本研究により得られた試料は極めて多くの研究に貢献するであろう。すでに、ヒューマンサイエンス財団からの研究者たちへの試料の配布が開始されている。
さらに、本研究で得られた試料を用いれば、どのような遺伝子の多型研究にも用いることができる。しかも、それによって倫理問題などの大きな問題が生じる事を細心の注意により防止していることが重要である。
2)トランスポーター変異型のタンパク質の発現、機能解析
アミノ酸変異をもつABCB1およびABCG2発現ベクターを構築し、昆虫細胞に発現させた。ABCB1については、次のアミノ酸変異蛋白を発現させた:N21D, N44S, F103L, V185G, S400N, A893S, A893T, M986V。また、ABCG2については次のアミノ酸変異蛋白を発現させた:V12M, Q141K, Q166E, F208S, S248P, E334stop, R482T, R482G。これらのアミノ酸変異型トランスポーターについて、SNPの基質特異性に及ぼす影響をスクリーニング系で調べ、データを収集した。
本研究プロジェクトにおいて示されたように、遺伝子多型と薬物動態との関連性を包括的に研究することは重要であり、その結果は医薬品の薬理効果/副作用における個人差の解明に広く応用されるものと考えられる。薬物動態関連遺伝子、特に吸収・分布・排泄に関与するトランスポーター等のSNPとその機能を解明することにより、遺伝子多型と薬の効果・副作用に関連する知見が得られ、薬剤の有効性の向上、副作用の低減、レスポンダー/ノンレスポンダー、海外データのブリッジングの参考等、画期的新薬の研究開発の基盤整備が確立されると考えられる。
結論
標準的日本人の細胞と遺伝子のサンプルを1000人以上から収集し、セルライン化し、公的バンクに寄託する作業を終了しつつある。薬物動態関連多型解析のためのDNA精製と理化学研究所への送付もすべて終了した。
薬物輸送に関与するABCトランスポーターの基質特異性スクリーニング系が確立し、SNP機能解析のスピード化が可能になった。機能解析の標準的手法(SOP)が確立した。ABCトランスポーターの基質特異性スクリーニング系を構築した。また、トランスポーターの遺伝子多型と機能、薬物動態との関連を解明する国内における研究基盤の整備ができた。

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研究報告書(紙媒体)

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