マイクロサテライトマーカーによる動脈硬化関連遺伝子および白内障関連遺伝子の全ゲノムスクリーニングと同定(総括研究 報告書)

文献情報

文献番号
200200438A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロサテライトマーカーによる動脈硬化関連遺伝子および白内障関連遺伝子の全ゲノムスクリーニングと同定(総括研究 報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
田口 淳一(東海大学八王子病院循環器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子英俊(東海大学分子生命科学)
  • 田宮元(東海大学分子生命科学)
  • 半田俊之介(東海大学循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人病の主要な原因疾患である動脈硬化性疾患や、老人性白内障に関しては、その国民健康そのもの及び医療費に与える重大な影響のため現在も精力的に研究が進められている。現在のところ多遺伝子疾患である両疾患原因遺伝子候補は多数上がっているが、その重要性に関して全ゲノムを視野に入れた判断が求められるようになってきている。マイクロサテライトマーカーはSNPに比べて、原因遺伝子領域同定に関して圧倒的な有効性を有している。本研究の目的はゲノムワイドに設定した3万のマイクロサテライトマーカーを両疾患の原因遺伝子領域決定に使用して、日本人における動脈硬化と白内障に関する遺伝的検討を全ゲノムに対して行うことにある。
研究方法
1)既知のマイクロサテライトマーカー1万を用いて、冠動脈硬化症、大動脈瘤、白内障患者と健常者で相関解析を行う。2)ヒト全ゲノムドラフトシークエンスを用いて、ゲノム全体に3万のマイクロサテライトマーカーを設定し上記のスクリーニング・相関解析を行う。3)相関のあるマイクロサテライトマーカー近傍の100kb程度に絞り込まれた複数の遺伝子領域内にDNAチップを用いて動脈硬化関連遺伝子、白内障関連遺伝子を検索する。特に疾患対象組織に発現している遺伝子を検索する。関連遺伝子内の単一遺伝子変異(SNP)をDNAチップやシークエンスで検査し、遺伝子同定を行う。具体的には、マイクロサテライトマーカーの組み合わせによるハプロタイプ解析で相関を確認し、続いてその中のSNPに関して相関解析・ハプロタイプ解析を行っている。SNPに関しては既知のものから検討するが、必要に応じてその領域の完全シークエンスにより日本人におけるSNPを決定してから、相関解析・ハプロタイプ解析を行う。また大動脈瘤組織など疾患関連組織における遺伝子発現を、Affymetrix GeneChipを用いてゲノム全体をカバーする6万以上のマーカーを用いて解析を行う。マイクロサテライトマーカーで得られた情報とGeneChipで得られた発現遺伝子情報を組み合わせることにより、単独だけの方法による偽陽性と偽陰性ともに減らせると期待される。4)同定された遺伝子が未知のものの場合には、完全シークエンスによるエクソン構造の解析、RNA発現解析や蛋白構造解析を行う。可能であれば遺伝子導入やジーンターゲッティングなどの発生工学的手法も用いる。(倫理面への配慮)まず、ヒトゲノム・遺伝子研究に関する倫理指針(平成13年3月29日、文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示)に完全に従う。本研究の実施にあたっては、検体をコード番号で記載し、個人情報が第三者から保護されるように細心の注意をはらう。また採血に関しては、病院の担当医師に対して研究の概要およびインフォームドコンセントについては充分に説明済みであり、理解されていることは確認済みである。また手術組織使用を含め本研究すべての倫理的側面に関しては東海大学医学部倫理委員会で承認済みである。
結果と考察
1)我々はマイクロサテライトマーカーを用いたゲノムワイドな遺伝的相関解析を開始した。個々のマーカーのタイピングは、経済性・迅速性を考慮し、Pooled DNA法、すなわち100人程度の集団のゲノムDNAを均等に混合したPooled DNAソースを鋳型としたPCRにて行った。Pooled DNA法の妥当性を検討し精度を確認した。またゲノムワイドな遺伝的相関解析に先立ち、日本人一般集団における既知・新規マイクロサテライトマーカーの多型性有無を検定し、有用なマーカー30000を決定した。直ちに多方面への応用が利くようにそのセットでマイクロプレート化を終了した。2)まず冠動脈硬化症において第7染色体と第17染色体のスクリーニングが終了した。その
他の染色体はゲノムドラフトの不完全さのために、マイクロサテライトマーカーのカバーする領域に隙間が出来るため、いくつかの候補領域を挙げて解析を進めた。第7染色体では1053のマイクロサテライトマーカーを使用した。マーカー間の平均距離は155kbであった。そのうち対照群との間に有意差を生じたマーカーは145(13.8%)であった。中でも特に有望なマーカーに関してSNPs解析を進めた。一つは7q32-36のマーカー142C05近傍において特に女性冠動脈疾患と強い相関が観察された。同部位には既知の遺伝子は無く、ESTのみ存在するが、そのESTにおる既知のcSNP, gSNPの判定では相関が発見されず、新たに5'側上流領域および10kb以内の近傍における新たなgSNPを用いては相関解析及びハプロタイプ解析を施行した。他の候補領域のうち有望な結果が得られたものは、HLA領域(6p21.3)である。同部位に使用したマーカー密度は平均88kbであり、結果HLAクラスI内にあるマーカーC5-3-1とC3-4-13にはさまれた110kbにやはり女性に特異的な相関が認められた。この領域内の遺伝子TRIM39およびFLJ22638はともに大動脈瘤組織における発現がAffymetrix GeneChipを用いた検討で証明された。またTRIM39のエクソン1におけるSNP解析でも相関が認められ、機能解析も進めている。(Human Molecular Genetics 投稿中)また11q22.2 (MMP cluster: MMP-7, 20, 27, 8, 10, 1, 3, 12)においてマイクロサテライトマーカーの組み合わせによるハプロタイプ解析では、471 kb離れたD11S1339とD11S4108の間で形成されるハプロタイプにおいて強い相関を認めた。この間にはMMP-27とMMP-20が存在し、その領域の20個以上のcSNPに関して相関解析・ハプロタイプ解析を施行した。またAffymetrix GeneChip解析ではMMP27の存在が確認された。(BBRC投稿中)大動脈瘤組織など疾患関連組織における遺伝子発現を、Affymetrix GeneChipでゲノム全体をカバーする6万以上のマーカーを用いて解析を行った。結果動脈硬化組織においては、既知の遺伝子の中ではsickle cell beta-globin mRNA、osteopontin mRNA、apolipoprotein E mRNA、type IV collagenase mRNA、metalloproteinase (HME) mRNA、 skin collagenase mRNA、metalloproteinase (HME) mRNAをはじめとして約4600の遺伝子が発現していることが判明した。またESTに関しては現在進行中である。また改めて最新のHuman Genome U133セット(染色体上の物理的配列を考慮したもの)を使用し、これで得られた情報とマイクロサテライトマーカーで得られた情報を組み合わせて解析した。白内障は当初、老人性白内障を取り上げたが遺伝傾向より年齢要因の方が強いことが判明したため、皮質白内障に変更した。現在17番染色体の解析が終了したところである。今後ゲノムシークエンス情報の精度が高まれば、マイクロサテライトマーカーを追加し、より包括的なセットを作成して他の染色体の完全スクリーニングが可能となる。当初の目標は全ゲノムスクリーニングであったが、ゲノムシークエンス情報が不完全であるために、30000のマーカーを設定するも、目標とした平均100kbでのマーカー密度が得られず、マーカー間のギャップが大きいことが判明した。そのための追加マーカー設定に思ったよりも時間がかかってしまった。しかしながら、他のグループの論文では染色体あたり約20から50のマーカーでスクリーニングしているのみであり、われわれのマーカー密度はその20倍以上という当初の目標は達成されている。また染色体あたりの、候補遺伝子領域は100以上もあり、当初に予想したとおり候補領域が多すぎて一つずつ充分に検討することが出来ない危惧がある。候補領域は疾患あたり2000から3000出てくると考えられ、今後は複数の研究施設と共同しその解析を進めてゆく。またこのマイクロサテライトマーカープレートはどのような疾患群にも応用が利き、また患者群を層別化して再検討する際にも簡便である。この点からも、日本における統合共同患者データベース作りをすることが望ましいと考える。
結論
マイクロサテライトマーカーおよびGeneChipを用いた、全ゲノムサーベイは有望な手
法であり、今後も引き続き迅速に進めて行く必要がある。また多施設共同研究が望ましい。
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