腎疾患機能遺伝子の同定及びゲノム創薬(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200436A
報告書区分
総括
研究課題名
腎疾患機能遺伝子の同定及びゲノム創薬(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 敏男(東海大学医学部内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 深水昭吉(筑波大学先端学際領域センター)
  • 南学正臣(東京大学医学部内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では末期腎不全透析患者数は現在20万人を超え、透析医療費は年間1.3兆円に至る。しかし、未だに腎疾患の診断は侵襲的な腎生検が中心であり、治療薬もステロイドや一部の腎保護作用が確認された降圧剤以外には皆無である。 
本研究では、腎炎発症に重要なメサンギウム細胞のゲノミクス、トランスクリプトーム解析から、新規メサンギウム細胞機能遺伝子群を単離同定し、これら遺伝子のポストゲノム研究 [機能解析、相互作用する蛋白質群の解析(プロテオミクス)]を展開し、診断・治療に有用な標的分子の提供を目的とした。さらに、特異的抗体を用いた腎疾患診断法の開発、メグシン蛋白の活性抑制中和抗体の開発、メサンギウム細胞特異的遺伝子発現システムの解析を行った。
研究方法
I.腎臓特異的高発現新規遺伝子群の単離・同定:メサンギウム細胞のゲノミクス、トランスクリプトーム解析から、新規メサンギウム細胞高発現機能遺伝子群を単離同定した。  
II.腎臓特異的高発現新規遺伝子群の機能解析: PP4Rmeg, meg-2, meg-3, meg-4に対するトランスジェニックマウスを作製・解析した。また、メグシン, meg-3, meg-4の遺伝子欠損マウスを作製した。これらマウスと他の腎炎関連遺伝子改変マウスとの交配による多重遺伝子改変マウスなどを作製・解析した。
III.これら遺伝子群と相互作用する蛋白質群の解析:酵母2ハイブリットスクリ?ニング法にて、腎特異的高発現新規遺伝子と相互作用する蛋白質群を解析した。4種類の蛋白質(メグシン、PP4Rmeg, meg 3, meg 4)について、ベイトをそれぞれ15種類、10種類、12種類、11種類の計48種類設計した。転写活性化ドメイン融合型cDNAライブラリーとしては、ヒト腎臓ライブラリー、ヒト肝臓・小腸・脂肪組織ライブラリーを混合したライブラリー、そしてヒトメサンギウム細胞ライブラリーの3種類を使用した。
IV.メサンギウム特異的抗体を用いた診断法の開発:これら遺伝子群のリコンビナント蛋白や合成ペプチドを作製し、ポリクローナル抗体、単クローナル抗体の作製を試みた。得られた抗体で、正常人及び腎疾患患者(糖尿病、慢性腎炎)腎組織を免疫組織学的に解析し、障害時の蛋白発現及びその局在を検討した。また、サンドイッチELISA法を組み、患者尿・血液に応用して、腎疾患診断システムとしての可能性を検討した。
V.メグシン蛋白活性を抑制する中和抗体の開発:メグシンリガントとなるセリンプロテアーゼの単離・同定を試み、その結合を指標に、活性を阻害する中和抗体を探索した。
VI.メサンギウム特異的遺伝子発現システムの解析:メグシンのメサンギウム特異的発現機構を明らかにするためメグシン転写開始点上流シス領域のエンハンサー/プロモーター活性、および結合転写因子の単離・同定を試みた。また、各種のメグシン転写領域(メグシン転写上流域約4kbp、第Iイントロン付近6-10kbp、メグシンゲノム全長とその近傍を含む150kbp遺伝子断片)を導入したトランスジェニックマウスを作製し、in vivoにおける転写活性を検討した。
結果と考察
I.腎臓特異的高発現新規遺伝子群の単離・同定
メグシン、PP4Rmeg, meg-2, meg-3, meg-4の5つの新規遺伝子が単離・同定された。メグシンはセリンプロテアーゼインヒビターでリガントはプラスミンである。PP4Rmegは、セリン/スレオニンプロテインフォスファターゼ4の調節サブユニットであり、これと複合体を形成するPP4Cは、細胞質、核と中心対に局在し、微小管構築に関与する。実際、細胞骨格系蛋白質との相互作用が確認された。meg3の生理機能については不明であるが、N末端付近のPHドメインとC末端付近のプロリンリッチドメインが存在し、シグナル蛋白質であると推測される。meg4は、ミトコンドリア内膜に局在するAAA依存型メタロプロテアーゼである。
II.腎臓特異的高発現新規遺伝子群の機能解析:
ヒトメグシン遺伝子導入マウスがヒトに類似のメサンギウム増殖性腎炎を自然発症する。他の腎炎関連遺伝子改変マウスとの交配による多重遺伝子改変マウスなどの作製を一部完了し、自己免疫疾患モデル動物(MRL/lpr)との交配や、片腎摘出による人為的腎負荷によって腎炎の発症が加速した。meg-2, meg-3, あるいはmeg-4遺伝子高発現マウスを検討したが、腎炎発症は認められなかった。また、これらマウスは腎負荷により腎病変の増悪は認められなかった。メグシン、meg-4のヘテロ欠損マウスの作製に成功した。
III.これら遺伝子群と相互作用する蛋白質群の解析: メグシンと相互作用する蛋白9種類、PP4Rmeg 59種類、meg3 11種類、meg4 13種類を同定した。陽性確認テスト、偽陽性排除テストを実行した結果、13種類蛋白質が偽陽性と判断された。それらの情報に基づいて蛋白相互作用を解析し、メグシンと相互作用する蛋白群とメサンギウム細胞におけるメグシン、PP4Rmeg, meg-3, meg-4のネットワークを推測した。
IV.メサンギウム特異的抗体を用いた診断法の開発:メグシン, PP4Rmeg, meg-3, meg-4全てに対して特異的抗体を得た。特に、メグシンは尿中でも安定で存在することが証明され、腎障害を呈するメグシン高発現マウス/ラットの尿中からメグシンを検出した。これまで得られたメグシン抗体により数ng/mlオーダーのメグシン検出を可能にするELISA系が確立され、正常人・患者濃縮尿からメグシン蛋白が検出できた。メグシン, meg-3の抗体の中には、ヒトメサンギウムを検出可能なものがあり、免疫組織染色用の抗体もいくつか取得した。
V.メグシン蛋白活性を抑制する中和抗体の開発:約100クローンの抗ヒトメグシン単クローン抗体から、幾つかの中和抗体が取得出来た。この中和抗体の認識部位もペプチドマッピングにより決定し、メグシン活性中心部位内にあるプロテアーゼ切断部位近傍6アミノ残基であった。
VI.メサンギウム特異的遺伝子発現システムの開発:メサンギウム細胞特異的遺伝子発現に関しては、メグシン転写上流域約4kbp内に存在するcis-acting element (-240 bpから-70bp)の存在を示し、その活性の一部はAP-1によって制御されていた。さらに、解析範囲を広げ、第Iイントロン付近6-10kbp、メグシンゲノム全長とその近傍を含む150kbp遺伝子断片を導入したマウスを作製し検討を行っているが、これまでのところ新たな正の転写活性領域は同定出来ていない。
結論
メグシン、PP4Rmeg, meg-2, meg-3, meg-4など腎臓特異的高発現新規遺伝子群に対するポストゲノム研究を施行した。また、これら分子のリコンビナント蛋白、特異的抗体(メグシン、PP4Rmeg, meg-3, meg-4)、遺伝子高発現(メグシン、PP4Rmeg, meg-3, meg-4)・欠損マウス(メグシン、meg-4)、新規遺伝子群の蛋白相互作用解析(プロテオミクス)を予定通り終了した。
メグシンはセリンプロテアーゼインヒビターである。PP4Rmegは、セリン/スレオニンプロテインフォスファターゼ4の調節サブユニットであり、これと複合体を形成するPP4Cは、細胞質、核と中心対に局在し、微小管構築に関与する。実際、酵母2ハイブリット(Y2H)スクリーニングにて、細胞骨格系蛋白質との相互作用が確認された。meg3の生理機能については不明であるが、N末端付近のPHドメインとC末端付近のプロリンリッチドメインが存在し、シグナル蛋白質であると推測される。meg4は、ミトコンドリア内膜に局在するAAA依存型メタロプロテアーゼであることが明らかとなった。
これら腎特異的高発現新規遺伝子と相互作用する蛋白質群を解析し、メグシンと相互作用する蛋白群とメサンギウム細胞におけるメグシン、PP4Rmeg, meg-3, meg-4のネットワークが推測された。
メグシンについては、腎疾患診断・治療に有用な標的分子であることを示唆する一連の知見と研究材料を充分に得ることが出来た。一方、PP4Rmeg, meg-2, meg-3, meg-4は研究材料の充溢に時間が予想以上に掛かり、病態生理学的意義の解析は充分に施行できず、腎疾患診断・治療に有用な標的分子であることを示すに至っていない。
メグシンに対する100以上のモノクローナル抗体を取得し、この中には免疫組織学的にメサンギウムを中心とした領域に強く反応する抗体(メグシン, meg-3抗体)、尿中からメグシンを検出する抗体(数ng/mlオーダーのメグシン検出を可能にするELISA系が確立され、正常人・患者濃縮尿からメグシン蛋白が検出できた)、さらにはメグシンの活性を阻害する中和抗体(認識部位はペプチドマッピングにより、メグシン活性中心部位内にあるプロテアーゼ切断部位近傍6アミノ残基)が含まれており、診断・治療上有用性が期待出来る抗体が取得された。ただ、実用化には、まだ不十分であり、最適化が不可欠と考えられる。

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