器官・組織の形成不全症の責任遺伝子から発症機能の解明と再生医療への応用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200432A
報告書区分
総括
研究課題名
器官・組織の形成不全症の責任遺伝子から発症機能の解明と再生医療への応用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山田 正夫(国立成育医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 宮下俊之(国立成育医療センター研究所)
  • 東範行(国立成育医療センター病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児に見られる各種の組織や器官の形成不全症について、責任遺伝子を探求し、患者に生じた変異を同定し、遺伝子と病態との対応付けを図る。発生時期に作動する転写因子は変異(特にミスセンス変異)によって様々な病態を呈することを明らかにしてきた。PAX6(眼形成不全症)とWT1(腎形成不全症)を中心に、正常型および変異型の機能を解析し、形成不全を生じる分子機構を明らかにする。また、CAGリピート伸長病による伸長ポリグルタミンやアポトーシス関連遺伝子を手段として活用し、形態形成におけるアポトーシスの役割を明らかにする。
研究方法
眼・腎臓・肝臓・四肢などの形成不全症の患者ゲノムDNAについて、候補遺伝子アプローチ、関連疾患アプローチによって変異を同定する。PAX6やWT1などの疾患責任遺伝子およびアポトーシス関連遺伝子の機能を培養細胞系および試験管内反応によって解析する。電気穿孔法によって、疾患責任遺伝子(変異型を含む)やアポトーシス関連遺伝子の発現ベクターを動物胚に導入して形態形成能を直接解析する。
結果と考察
[眼・泌尿生殖器・肝臓・四肢などの形成不全症の遺伝子追求と変異解析]患者ゲノムDNAについて、候補遺伝子アプローチ、関連疾患アプローチによって変異を同定し、疾患と遺伝子変異との対応つけを図った。眼の形成不全症について大きな進展が見られ、PAX6、EYA1、SHH遺伝子変異などを検出してきた。[眼形成不全症とPAX6]ヒトPAX6は無虹彩症の責任遺伝子として1991年に単離され、各種の研究から眼の形成に関与することが確立している。我々は無虹彩症に限定せず、広範な眼形成不全症についてPAX6変異を解析し、これまでに多数の変異を同定してきた。PAX6のハプロ不全(haploinsufficiency)によって無虹彩症となり、一方、PAX6のミスセンス変異によって、黄斑低形成症、白内障、Peter奇形など、様々な病態を呈する不全症となるという概念を確立してきた。この延長として、視神経形成不全症7例でPAX6のミスセンス変異を同定した。ミスセンス変異が存在したのはDNA結合部位であるホメオドメインの近傍、および転写活性化機能を有するPTS領域で、従来からPAX遺伝子群を通じてほとんど変異が同定されていない領域であった。[PAX6変異型の転写調節能]PAX6遺伝子産物は転写調節因子であるが、ペアドドメインのN末側、C末側およびホメオドメインの計3個のDNA結合部位を持ち、また選択的スプライスによってエキソン5aを含む、または含まない2種類のアイソフォームが存在するなど複雑である。患者で同定したミスセンスを持つ合計12種類のPAX6発現ベクターを構築し、各コンセンサスDNA結合部位に対する転写調節能を解析した。各種の培養細胞株の内在性PAX2およびPAX6の発現レベルを解析し、PAX6発現による内在性PAX2発現レベルの変動を解析した。これらの結果から、視神経低形成症患者で見られた変異はホメオドメインを介するDNA結合に大きく作用し、また別の因子との相互作用を介してペアドドメインのDNA結合にも関与することを見出した。[PAX6のエクソン5aの機能]我々は以前に、孤立性黄斑低形成症の患者で、PAX6のペアドドメインC末端半分にミスセンス変異を見出し、報告した。無虹彩症では眼の外部の形成不全に加え網膜部位にも症状が見られ、一方、PAX6のペアドドメインN末半分に位置するミスセンス変異は眼の外部のみの異常を伴うPeter奇形となることから、ペアドドメインN末半分のDNA結合によって眼の外部の形成が制御され、一方、C末半分のDNA結合によって眼の内部(網膜)の形成が制御
されるという仮説を提唱した。PAX6のエクソン5a有無による2種類のアイソフォームの転写量比を解析した。ステージ12は眼胞が形成される時期であるが、それ以降、各組織を通じて、基本的にエクソン5aの無いアイソフォームが主要な転写物であった。しかしステージ36-45では、網膜の視神経乳頭に近い位置ではエクソン5a付きのアイソフォームの発現が増加し、場合によってエクソン5a無しのアイソフォームの量を超えることがわかった。エクソン5a付きの転写産物の増大の見られた部位では視神経への分化が進み、視細胞が蓄積してやがて黄斑が形成される部位に一致する。したがって、エクソン5aの付いたアイソフォームは視神経の分化=黄斑形成に関与する可能性があることが本解析によっても確かめられた。[電気穿孔法によるニワトリ胚への発現ベクターの導入による眼形成変化]発現ベクターをニワトリ胚に電気穿孔法で導入して発現させ、その形態形成に及ぼす効果を解析した。本年度、PAX6のエクソン5a有無による2種類のアイソフォームの発現ベクターをニワトリ胚の眼部に注入し、発現させ、形態への影響を精査した。ステージ14-16のニワトリ胚の眼(原器)部位に発現ベクターを導入したところ、導入後1-2日に導入部位を中心に細胞分裂が活発化し、特に網膜層の限定された部位に肥大化が認められ、孵化時には大きな眼が形成されていた。この効果はどちらのアイソフォームでも見られ、ほとんど差が無かった。しかし、眼の内部構造には著しい差が認められた。すなわち、エクソン5aの無いアイソフォームでは、網膜層の限定された部位に肥大化が認められ、一定時期持続するが、やがて網膜層の肥大化は顕著でなくなった。一方、エクソン5aの有るアイソフォームでは、網膜層の限定された部位に肥大化が認められ、それが次第に拡大し、紐状構造が眼腔内へ伸長している像が多く得られた。場合によっては壁状構造が突出していた。紐あるいは壁状構造は、病理学的解析から網膜と同様の層構造をとり、また視細胞に分化した細胞が密集していた。したがって、エクソン5aの付いたPAX6は網膜にある視細胞前駆体からの分化を促進し、網膜の眼球に沿った伸展を促進したが、眼球内の表面に限りがあるため、伸展した網膜が眼腔内に突出したと推定した。この結果からもエクソン5aの付いたアイソフォームは視神経の分化=黄斑形成に関与することが示された。[アポトーシス関連研究]アポトーシス実行プロテアーゼであるカスペースは、アポトーシスの刺激に応じて、先ず上流のカスペース(カスペース2, 9, 10)が活性化され、次に、下流のカスペース(カスペース3, 6, 7)を活性化する。カスペース8, 10にあるDeath effecter domain(DED)のみをもつアイソフォームはドミナント・ネガティブ変異体として働くことを報告した。グルココルチコイド(GC)は幼若なリンパ球や白血病細胞に細胞周期の停止とアポトーシスを誘導することが知られており、これが抗がん剤としての作用機序と考えられる。今年度、GCでアポトーシスを起こす白血病細胞株を用いて、遺伝子発現プロフィールの変化をDNAマイクロアレイ法で解析し、GCによって発現量の増加する遺伝子93個と減少する遺伝子28個を同定した。[アポトーシス誘導による形態形成不全症モデル構築]電気穿孔法によってニワトリ胚の肢芽に、アポトーシス関連遺伝子や伸長ポリグルタミン鎖の発現ベクターを導入し、アポトーシスを誘導し、形態形成に及ぼす影響を解析した。後足肢芽部位に導入し、導入部位と時期に応じた、足の形態変形を誘導した。[DRPLA遺伝子の機能解析とヒトにおける形態形成への関与の検討]DRPLA遺伝子はトリプレットリピート伸長により神経変性疾患を生じる。最近、ショウジョウバエのDRPLAホモログは転写制御因子をコードし、初期胚におけるパターン制御に関与し、変異体では眼や羽の形成異常を呈することが示された。ヒトDRPLAが形態形成に関与するか否かを明らかにするために、まず発生時期における発現様式を検討した。RT-PCR法により、9.5日マウス胚以降で検出された。In sitハイブリッド法により、予想通り、神経管を中心に強
い発現が認められたが、それに加えて、肢芽で高い発現を認めた。転写調節因子の可能性を検討するため、まずDRPLA蛋白のリン酸化状態を検討した。DRPLA蛋白質ではセリン残基がリン酸化を受けていることを見出した。リン酸化過程にJNKキナーゼが関与することをin vitro反応で確認し、また主たる標的残基を特定した。
結論
発生時期に作動する転写因子は変異(特にミスセンス変異)によって様々な病態を呈することを明らかにしてきた。転写調節能を試験管内反応で解析し、また発現ベクターをニワトリ胚へ電気穿孔法によって導入し、形態形成を直接解析し、両者に基づいて、形成不全症の発症機構を解析した。

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