脊髄小脳変性症の新規遺伝子の同定と治療法の開発

文献情報

文献番号
200200431A
報告書区分
総括
研究課題名
脊髄小脳変性症の新規遺伝子の同定と治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
水澤 英洋(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石川欽也(東京医科歯科大学)
  • 横田隆徳(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、本邦に存在する原因不明の遺伝性脊髄小脳変性症のうち最も頻度が高いと思われる病型、すなわち第16番染色体長腕に連鎖する常染色体優性遺伝性皮質性小脳萎縮症(16q-linked ADCCA)の原因遺伝子を同定することである。具体的には昨年度遺伝子変異が存在する候補領域を限定化したことに基づいて、ポジショナル・クローニングの最終的な段階である遺伝子変異の検索を進める。すなわちその候補領域内に存在する遺伝子について逐次患者での変異の有無を解析し、遺伝子変異を同定する。本研究の必要性は、本病型が現在のところ原因不明でかつ有効な治療法がない神経難病であることからも明らかであるが、さらにこの病型の頻度が我々の統計では全優性遺伝型失調症の約15%程度を占めるほど高いことからもその重要性が明らかである。なお、本病型は同様な症候を呈する脊髄小脳失調症6型(SCA6)を含め脊髄小脳変性症の中で最も高齢で発症することが特徴である。
研究方法
候補領域を限定化することにより、より早く変異の同定に至ることができる。このため、今年度は他施設からの協力を得て、北海道から九州に至るほぼ全国に分布する11施設より類似する患者家系のDNAを供与いただいた。その患者DNAを解析し、昨年度までに報告した共通ハプロタイプの有無を解析した。遺伝子変異のスクリーニングについては、5Mb長の物理地図を元に、この染色体領域のDNA塩基配列情報をNCBI(National Center for Biotechnology Information) (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/)やEnsembl(http://www.ensembl.org/) などから取得した。最終的な変異同定のための戦略には脳に発現する遺伝子内の点変異などの静的変異(static mutation)を想定した探索と、これまでの優性遺伝性失調症に共通するCAGなどの繰り返し配列が異常伸長する動的変異(dynamic mutation)を想定した探索の2種類を行った。
静的変異の探索:候補領域に存在する全ての遺伝子について、各exon毎にPCRで患者および健常者のDNAをそれぞれ増幅し、その塩基配列を直接蛍光自動シークエンサー(ABI PRISMTM 377 Sequencer)で解析した。実験によって得られた塩基配列をデータベースと照合し、点変異などの変異の有無を解析した。
動的変異の検索:CAGを含む三塩基配列はもちろん、二塩基配列、四塩基配列、五塩基配列などの反復配列(リピート)について、患者に特異的な異常伸長変異の有無を検索した。反復配列の同定には、ソフトウエアーRepeatMasker (http://ftp.genome.washington.edu/cgi-bin/RepeatMasker) やTandem Repeat Finder(http://c3.biomath.mssm.edu/trf.hyml)を用いた。この方法によって同定した反復配列について、逐次健常日本人での遺伝的多型性(heterozygocity)を解析した。次に全てのマーカーについて患者家系でのハプロタイプ解析を行った。
結果と考察
候補領域の限定化:これまでに合計30を越す家系および家族歴を有する患者を集積し、共通ハプロタイプの有無を検索したところ、1Mb領域以下に相当する領域にのみハプロタイプが共通することが分かった。逆にその他の領域ではハプロタイプが少数の家系では異なっていた。この共通するハプロタイプは健常者では認められず、このハプロタイプの同定により、かなり高い確率で遺伝子診断が可能であると考えられる。
静的遺伝子変異の検索:今年度多数の遺伝子内の点変異を含む遺伝子変異のスクリーニングを行った。現在までのところ、明らかな変異の同定には至っていない。しかし、この過程で患者にのみ共通し、一般健常者には全く認められない遺伝子多型を呈するマーカーを2つ見いだした。すなわち16q-linked ADCCAの原因遺伝子は本候補領域内に存在することは間違いないと考えられる。現在、可能な限り登録されている遺伝子のスクリーニングを行うと共に、未公表の遺伝子についても解析を進めている。
動的遺伝子変異の検索:合計99個の反復配列を同定し63個について患者と健常者DNAでの繰り返し回数の違いを検討した。これまでのところ患者に特異的な異常伸長は認められず、現在のところ本疾患の発症機序に繰り返し配列の異常伸長が関連している可能性は肯定できない。一方、検索した範囲で新たに多型性DNAマーカーを7個同定し、これらのマーカーでのハプロタイプを加えることにより、候補領域を限定化することができた。
これまでの優性遺伝性失調症の原因はいずれも繰り返し配列の異常伸長であることから、これまで我々が可能な限り同定した繰り返し配列は、その異常伸長の有無を患者DNAで解析してきた。しかし検索した範囲内では異常伸長は認められなかった。残された繰り返し配列に異常伸長がある可能性は否定はできないが、これらについては繰り返し回数が小さいものがほとんどで、多型性すら示す可能性が低く本疾患の原因となる可能性は非常に低いと考えられた。すなわち、本疾患の原因となる変異には繰り返し配列の異常伸長以外の新しい変異パターンが関与している可能性がますます高くなり、ユニークな疾患機序を秘めている可能性が挙げられた。
結論
本年度は、日本の各地域から患者家系を集積し候補領域を確実に限定化し、その領域内の綿密な遺伝子変異のスクリーニングを直接シークエンスと、PCRによる繰り返し配列の異常伸長の有無の解析の両面から行った。16q-linkedADCCAの原因遺伝子は未だ同定できていないが、確実に候補を絞り込んでおり、近い将来同定が可能と予測している。本疾患の原因には繰り返し配列の異常伸長以外のユニークな機序が関連している可能性が考えられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-