心不全の病態解明と原因遺伝子の同定(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200430A
報告書区分
総括
研究課題名
心不全の病態解明と原因遺伝子の同定(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小室 一成(千葉大学大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 森崎隆幸(国立循環器病センター研究所)
  • 竹島浩(東北大学大学院医学系研究科)
  • 望月直樹(国立循環器病センター研究所)
  • 廣田久雄(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 高野博之(千葉大学大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
心不全の病態解明のために、転写因子、サイトカイン、核酸代謝、Ca2+調節、シグナル伝達に関与する分子の遺伝子改変マウスを作成し、心臓の形態や機能に対するこれらの分子の役割を解析する。またこれらのマウスを用いて心肥大モデルや心筋梗塞モデルを作成した際の、心不全の発症・進展に対する効果も検討する。さらに心不全モデルラットであるダールラットの心臓における遺伝子の発現パターンを薬剤投与群間で比較検討し、心不全の病態形成に関与している遺伝子を同定する。
研究方法
I. 遺伝子改変マウスの作成―以下の5つの分子の遺伝子改変マウスを作成する。・心臓の発生、分化に必須な転写因子であるCSX、・心肥大や心保護のシグナル伝達に重要な受容体であるgp130の下流にある転写因子のSTAT、・ATPやアデノシンの調節に関わる核酸代謝の関連酵素であるAMPDのうち心筋型アイソザイムであるAMPD3、・心筋細胞のCa2+シグナリングに重要な分子であるジャンクトフィリンとNa+/Ca2+交換体 (NCX)、・心肥大の形成に重要な役割を果たす低分子量G蛋白質のRasに拮抗するRap1。
II. 作成した遺伝子改変マウスの心臓の形態や機能を解析し、さらにこれらのマウスを用いて圧負荷心肥大モデルや心筋梗塞モデルなどの心疾患モデルを作成した際の心不全の発症・進展に対する効果を解析する。
III. ダール食塩感受性ラットに高食塩食を与えて心不全モデルを作成する。11週齢よりアンジオテンシン変換酵素阻害薬 (ACE-I) またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB) を浸透圧ポンプを用いて持続投与する。20週齢の各群の心臓からRNAを抽出し、DNAチップを用いて遺伝子発現を解析する。
結果と考察
I. 遺伝子改変マウスの作製―・CSXの過剰発現マウスおよびCSXのdominant negative分子の過剰発現マウス、・STAT3の遺伝子欠損マウス、・AMPD3の遺伝子欠損マウス、・ジャンクトフィリンの遺伝子欠損マウスおよびNCXの遺伝子欠損マウス、・Rap1の水解促進因子であるRap1GAPIIの過剰発現マウス、の全ての遺伝子改変マウスの作製に成功した。
II. 遺伝子改変マウスの解析―・CSXの過剰発現マウスではANP、BNP、CARPなどの心筋特異的遺伝子の発現が亢進していた。また心毒性を有するアドリアマイシンの投与による心機能の低下は野生型マウスに比べ軽度であった。CSXのdominant negative分子の過剰発現マウスでは心筋線維の疎少化や毛細血管の増加が認められた。アドリアマイシンの投与によりapoptosisを呈する心筋細胞が野生型マウスに比べ多かった。・gp130の遺伝子欠損マウスは圧負荷に対して多くの心筋細胞がapoptosisを呈し、心不全で死亡した。STAT3の遺伝子欠損マウスは心拡大と心筋間質の線維化が認められた。また心臓におけるTGF-_1、3およびangiotensin IIの発現が増強していた。・AMPD3の遺伝子欠損マウスはヘテロ、ホモともに正常に発育し外見上大きな変化は見られなかった。また他のAMPD遺伝子の代償的な発現の亢進も認められなかった。しかしAMPD2およびAMPD3遺伝子のヘテロ欠損マウスを交配し、AMPD2/AMPD3遺伝子複合変異マウスを作製したところ、生後約3週で死亡し、骨格筋、肝臓、腎臓で細胞変性像が認められた。・ジャンクトフィリンは細胞膜と結合し筋小胞体膜を貫通することにより結合複合体の形成に寄与している。ジャンクトフィリンの遺伝子欠損マウスは受精後9.5日に心臓の拍動が微弱化し、その翌日には死亡した。胎児の心筋細胞では結合複合体の構造が減少し、収縮反応に必須なCa2+トランジェントが減弱あるいは消失していた。NCXの遺伝子欠損マウス(ヘテロ)の心臓は機能・形態ともに野生型と変化がなかった。 圧負荷により著明な心肥大と左室拡張障害を認めたが収縮能は正常であった。・Rap1GAPIIの過剰発現マウスでは心臓における活性型のRap1、Rap2はともに減少しており、ERKの活性化や心肥大は認められなかった。
III. ダール食塩感受性ラットは高食塩食負荷により高血圧、心肥大、心不全を呈した。ACE-I投与群、ARB投与群ともに心不全を改善したが、両群における遺伝子発現パターンは大きく異なっていた。
結論
CSX、STAT3、AMPD3、ジャンクトフィリン、NCX、Rasなどの分子の心臓形態・機
能における役割を解明することができた。また心不全の発症・進展におけるこれらの分子の関与についても解析することができた。DNAチップを用いた遺伝子の解析は心不全の原因遺伝子の同定に役立つと考えられた。   

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