生命科学研究に必須な培養細胞研究資源管理基盤の整備に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200426A
報告書区分
総括
研究課題名
生命科学研究に必須な培養細胞研究資源管理基盤の整備に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
水沢 博(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内昌男(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)
  • 立花章(京都大学放射線生物研究センター)
  • 木村成道(財・東京都老人総合研究所)
  • 原澤亮(東京大学医学部動物実験施設)
  • 難波正義(岡山大学医学部)
  • 安本茂(神奈川県立がんセンター)
  • 田中憲穂(食品薬品安全センター秦野研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国におけるライフサイエンス(医学・薬学・生物学)分野の研究体制を支援するために培養細胞研究資源の保存・管理・分譲システム(細胞バンクシステム)を構築して維持する体制を整備するために必要な研究を実施する。緊急事態の発生等への対応のため、当初の計画とは若干異なる研究が実施されることもある。
研究方法
細胞バンク基盤整備を目的とした研究の実施にあたり課題内容が多岐にわたるため、研究方法も多彩である。細胞培養を基本的な技術として、分子生物学的研究法、免疫染色法、染色体分析法などの実験法を利用して、培養した細胞を保存すると同時に各種性質について検討した。また、細胞バンクの維持管理システムの構築にはLINUXやWindowsシステムを基礎としたコンピュータプログラムの開発が必須であり、PerlやJAVAを使用したCGIプログラムの他、Delphiによる細胞株保存管理プログラムの開発・改修を実施する。さらに、倫理問題に関係する各種資料や情報収集などを行なった。
結果と考察
1、1995年から開始された細胞分譲システム(HS研究資源バンク)の再構築が一段落したことに伴って、2000年度から2002年度の間に150種の細胞を新たに収集する計画を立てた。本研究班の独自収集としてこの目標をほぼ達成したが、発酵研究所細胞バンクの閉鎖に伴い195種類の細胞の委譲を受けた(2000年)。その他、本年度にはファーマコシューティカルコンソーシアム(PSC)研究プロジェクトで作成した健康人に由来する500人ぶんのEBVトランスフォーム細胞株の寄託を受けた。PSCからの細胞は、倫理問題に拘わることから個人情報は入手せず細胞を樹立した女子医大で保管することとした。また、これらの細胞についてはSTR-PCR法によるクロスコンタミの確認は見合わせている。しかし、研究利用には問題が残ることも指摘されるので今後検討する。
PSCプロジェクト以外で収集した細胞については、マイコプラズマ検査とアイソザイム検査を実施し、マイコプラズマ汚染の無かったものについてまず登録した。マイコプラズマ汚染が発見されたものについては、MC210により除去処理を実施し、陰性となったものを一旦保存すると同時にその後除去剤を添加せずに連続して30継代培養を進めた後にもマイコプラズマが再出現しなかったことを確認して除去完了として登録した。今期までに総計30種類以上の汚染除去作業に関するデータが蓄積し、除染処理後30継代の培養で陽性に戻るという例は一例も無かったことを確認した。そこで、今後の作業の効率化をはかるために、除染後、連続培養による確認作業は実施しないことに決定した。
1986年ごろに我々が確立したDNAプロファイリング法はクロスコンタミネーションを確認する良い手法であったが、実験に手間がかかることと放射性標識(32-P)を使う点で細胞バンクにおける常用検査法としては適さなかった。そこで、その後開発されたSTR-PCR法を導入することにした。2002年度末までに収集したヒト細胞のうち450種についての同定作業をおこない、その結果17種の細胞についてクロスコンタミネーションがあることを明らかにした。結果はホームページ上で公開して利用者に注意を促している。
クロスコンタミネーションが比較的多いことについては、バンクに登録した細胞以外にもサンプルを収集し調査を進めているが、一般の研究室においては、想像以上にクロスコンタミネーションが発生しているケースが多いことをうかがわせるデータが蓄積しつつある。今後、この問題について積極的な啓蒙活動を実施する必要があると思われる。
STR-PCR法による検査が染色体の微細領域をターゲットにして分析しているため、染色体のマクロ構造に関する情報を得ることは出来ない。そこで、そこを補完する目的で、2D及び3DFISH法による染色体分析手法の導入の検討を開始した。まだデータを公開するには至っていないが、将来この方法による染色体情報を提供できるようになるものと思われる。これによりマクロな視点で培養細胞の遺伝的バックグラウンドを確認できるようになるであろう。
細胞の質を高めるためにはウイルスの混入についての調査検討を実施することがかねてより求められているが、残念ながら今期もその体制を確立するには至らなかった。ウイルスの確認はその知識が豊富な人材が必要である。ウイルスの拡散等を防止するシステムの構築を考えながら品質管理項目に追加する必要があるので、安易な検査体制を作ることはできない。この不備を部分的ながら改善することを目的に血清に由来すると考えられているぺスティウイルスの一つであるウシ下痢症ウイルス(BVDV)の検査システムを導入したがこれは外部への委託検査として実施するに留まっている。それでも、BVDVフリー血清を導入することが重要であることが明らかにとなったので、バンクで使用する血清は購入前に必ずBVDV検査を実施することを義務付けた。
2、新規細胞株の樹立:ヒト正常細胞の積極的な資源化を目的に、分担研究者を中心に新しいヒト正常細胞株の樹立を実施した。今期は成人の肺に由来する正常2倍体細胞の新規寄託ならびに、それらをSV40やTERT遺伝子などの導入による不死化細胞の樹立を試みた。これらの細胞は一部品質管理が遅れているので、2003年度以降正式登録する運びとなる。3、細胞の個別識別に関する研究:ヒト細胞相互のクロスコンタミネーションを防止する目的で、2000年度当初よりSTR-PCR法を日常業務として実施することとし、これに職員1名を専任に充てることとした。これにより年間100種類程度のヒト細胞を検査する体制が確立した。その結果、3年間で450種類の細胞に関する調査を完了し、そのうち17種(約4%)の細胞がクロスコンタミネーションであることを明らかにした。
4、コンピュータによる細胞識別検索システム:STR-PCR実験により得られるデータをデータベース化して自動識別システムとしてWEB上で試験的に公開していた。しかし、このシステムはデータベースファイルの保護が不十分だったので改善し、STR-PCRデータの登録をDelphiを使用したデータベースシステムに移行した。一旦登録した後に、出力しなおして一般の研究者向けに公開するよう変更した。
5、細胞バンクコンピュータシステムの改良:少人数で細胞バンクを運営するには、電子機器の有効な活用は欠かせない。そのため、細胞バンク設立(1984年)時に構築した培養細胞保存管理データベースシステムについて見直しを実施し、現在のWindowsシステムに適合したプラグラムへの改修作業を1999年までに実施した。今期はそれを基礎に画像データや動画データの登録・管理・出力などが容易に行えるように改良を進めた。その結果、WEB上にも細胞の画像データや動画データをほぼリアルタイムで提供できるようになった。このような改良作業を通じて、情報の公開を進めている(http://cellbank.nihs.go.jp/)。今期は、さらにWEBサーバ上にビジターセンターを開設して、一般市民向けの培養細胞に情報を整備した。
結論
2000年から2002年の間に約150種の培養細胞株を収集する目標をたて、2000年には約50種の細胞を新たに収集し、品質管理実施後登録して分譲体制を確立した。マイコプラズマ汚染の除去については、MC210処理を検討し、ほぼ完全に除去できる条件を確立した。ヒト細胞についてはSTR-PCR法によるクロスコンタミネーションを調査し、収集した細胞のうち約4%にクロスコンタミがあったことを明らかにした。STR-PCR法による個別識別を補完するものとして、2D、3D-Fish法を導入した新しい染色体分析技術を細胞の品質管理に取り入れることを目指した研究を進めている。細胞の培養や品質管理実験の結果発生する様々なデータについては、随時データベースに入力し、いつでも情報提供が出来るよう整理して保存するシステムを確立した。また、STR-PCR法を導入したことに伴い、そのデータを記録するためのデータベースの構造について検討を行いつつ修正作業も随時実施している。データベースに記録された情報を公開するために、データを変換して出力するシステムを構築した。これにより画像情報と文献情報を添付した細胞情報をWEB上に提供しているが、今期は動画データの検討も開始し、撮影、編集、変換作業の流れを作った。これにより約30本の動画を撮影してWEB上にも公開した。なお、PSCで樹立したEBトランスフォーム正常血液細胞が500人分を受け入れたが、遺伝的背景を指標にする品質管理は、倫理的な問題を検討してから実施することとし現状では実施しないこととした。

公開日・更新日

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更新日
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