薬用生物資源の種子保存法確立における研究基盤整備に関する総合的研究  

文献情報

文献番号
200200425A
報告書区分
総括
研究課題名
薬用生物資源の種子保存法確立における研究基盤整備に関する総合的研究  
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
関田 節子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐竹元吉(日本薬剤師研修センター・お茶の水女大)
  • 渕野裕之(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 柴田敏郎(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 香月茂樹(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 飯田 修(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 酒井英二(岐阜薬科大学)
  • 正山征洋(九州大学大学院薬学研究科)
  • 水上元(名古屋市立大学薬学部)
  • 神田博史(広島大学医学部総合薬学科)
  • 下村講一郎(東洋大学生命科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬用生物資源の種子保存法確立における研究基盤整備に関する総合的研究の最終年度として,寒冷地植物、温帯植物、亜熱帯植物、熱帯植物を国内外から導入し、それらの種子、栄養体、細胞、組織による保存方法を検討した。薬用植物は生薬として、その有効成分は合成医薬品のリード化合物として重要な役割をはたしており20世紀においては多くの優秀な医薬品が輩出され医療の場に大きく貢献している。ゲノム創薬全盛の昨今においても、これらの資源に含有される個々の化合物の構造の新奇性と成分の多様性は生体に顕著な薬理活性を示し今後も創薬における一翼を担うものと予想される。特に、熱帯地域の植物資源の大部分は薬効、成分の化学的研究が未着手の状態にあり、創薬のシーズを求めた先進国が乱獲することで環境を破壊し、資源保有国との新たな問題を提起している。このような状況から世界規模で薬用植物資源の保存保護の機運が高まっており、我が国は望ましい保存法と利用法をリードすべく注目されている。このような背景から、貴重な薬用植物の種子・植物体の保存法を確立し、発芽能や有効成分の生合成能の維持を確保することを目的に研究を行った。更に、化学的、遺伝子学的手段により有効性と安全性の検証方法を検討した。特に、砂漠化防止により採取の禁止された麻黄については国内栽培法の確立に向けての検討を継続して行った。これらの下に管理された有用資源は、生薬、生薬製剤(漢方製剤)として、また、新薬開発の資源として医療に大きく貢献することが期待される。同時に、これらの研究を通じて知的財産を保護するための新たな基盤が築けるものと期待される。
研究方法
本年度検討の国内産薬用植物は、北海道、東北,関東、種子島等の野生薬用植物の種子、苗を採取し学名の同定後試験条件にそって保存を行なった。発芽試験は、蒸留水または催芽処理溶液で湿らせたろ紙を敷いた発芽床を15℃、12時間の明暗サイクルを設定した発芽チャンバー内に置き、種子30粒を1区として播種した。催芽処理は、播種前の砂処理法、蒸留水洗浄法、0.05%ジベレリン酸法、0.2%硝酸カリウム法、濃硫酸法で行った。長期保存は、温度条件と通気条件を組み合わせて行っている。栄養繁殖体を長期間保存する条件は、植物の植付け方法、光、温度、植え替え期による影響を検討することにより行った。栽培後の評価の指標として薬用部位のMeOHエキスをHPLCに付し目的化合物を分取しNMR等のデータから化学構造を確認した。配糖体の糖鎖部分をNaIO4で開環しキャリアータンパクを結合後マウスへ免疫し、脾臓細胞の単離、ミエローマ細胞との融合、セレクション、クローニングを経てMAb産生細胞を単離・増殖し、大量培養により得たMAbを用いて競合法によるELISAを確立した。バイオ技術による保存法の研究として、種子を75 % EtOH及び2 %次亜塩素酸ナトリウム(0.1 % v/v Tween 20添加)で殺菌後、素寒天培地(0.5 % sucrose、0.5 % agar)に植え付け無菌培養系を確立した。次いで、暗所、25℃、MS培地にて1ヶ月間培養した各シュートの頂芽を3 mmに切り出し、前培養、loading solution(2 M glycerol, 0.4 M sucrose含有MS培地)処理後PVS2(30 % w/v glycerol, 15 % w/v eth
ylene glycol, 15 % w/v DMSO, 0.4 M sucrose含有MS培地)処理し、液体窒素中で3日間保存後、急速解凍、洗浄、再培養を行った。4週間後に新葉を展開したものを再生したと判断し再生率を算出した。同時に、シュートに形成された含有成分の定量分析を行った。別に、3段階の温度条件、各温度について明所と暗所の合計6条件で培養シュートを冷蔵保存し、染色体観察と形態を調査し、根茎に含まれる成分をGC法、TLC、GC-MSによって分析した。麻黄については、全研究期間を通じて検討を行い、今年度も、共通株を北海道、筑波、種子島で植栽した植物について8?12月に経時的な生育度を調査し同時に成分変化をHPLCにより測定した。また、原産地の中国で生育環境を調査しすると共に中国以外の麻黄資源についても成分定量により評価した。これらの起源種の遺伝子解析による同定法として、DNeasy Plant Mini Kitを用いて乾燥麻黄からDNAを調製しデータベース上に登録されているEphedra altissimaのchlB遺伝子塩基配列(Accession No. U21316)に基いて、chlBのほぼ全長が増幅できるようなプライマーを設計した。このプライマーセットを用いて、数ヶ所の薬草園で栽培しているEphedra属植物から調製したDNAを鋳型としてchlBの領域を一部が重複した約500bpの4つの領域に分けてPCRを行い、約1.5kbと予想されるサイズを有する断片の増幅を行った。次いで、PCR反応液にexonucleaseとalkaline phosphataseの混合液を加えて37℃で15分間反応させることによりPCRプライマーとdNTPを分解してからシークエンスを行った。
結果と考察
昨年度に引き続き、種子の保存方法の条件設定とその有効性について発芽率、発根率、再生率、成分の変動を検討した。ゲンノショウコは催芽処理としての砂による研磨や濃硫酸処理は不適であったが低温プラズマ処理で吸水障害が改善され,短期間での発芽が観察された。サラシナショウマの平均発根日数は108日であり、発芽は砂処理を施した種子を赤玉土の苗床に播種後室外遮光下に放置したものは320日後より子葉が、350日後には本葉が観察された。したがって、サラシナショウマの子葉の展開には発根の後、冬を経験することが必要であることが推測された。栄養体での保存を目的に検討した多くの外来植物のうち南米植物は高温多湿の条件設定が困難で、個体は維持されるものの順調に生育するとは言い難く今後更なる条件の検討が必要である。一方、ヨーロッパ植物の一年草植物は11月から12月に栽培圃場を高温処理後、翌年2月まで数回起耕し3月に施肥、畝立てを行い直播で栽培を行い順調な生育を示している。多年草薬用植物は、冬期に追肥のための施肥を施した後植えたままの状態で良いが少なくとも栽培3年後には新たな圃場に移植するなどの処置が必要である。しかし、突然枯死することもあり、様々な繁殖手段での植物体の確保は必要不可欠である。ハシリドコロの培養シュート由来株を2年間栽培したところ昨年度に比べて薬用部である根茎が非常に大きくなり、植物の高さおよび根茎中のスコポラミン含量が対照群に対して優位に大きかった。その他の形質については、対照群との間に有意な差は認められず、また、染色体数は対照株、冷蔵株ともに2n=88 で日本各地で採集されたハシリドコロの染色体数と一致しており、変異は認められなかった。ムラサキは発芽率が低いため培養シュートの作成が必要で、東北各県、長野県、韓国から種子を集めて検討した。仙台市産以外はいずれもシュートの生育が良好であったが、超低温保存後の再生率は産地、cloneによって違いが認められた。条件を再検討すると多くが約50 %以上に向上したが、再生後の向上にはcloneごとに詳細な検討が必要である。更に、長野県産培養ムラサキシュートは液体窒素内1年間保存後でも再生率は約40 %を維持していた。マオウ栽培は4年目になるが、前年度と同様にエフェドリン含量は十分に保たれていた。
結論
種子・種苗の採取を行い、長期保存条件の検討を行った。発芽、発根試験を行い、保存温度、保存容器等の条件により種に与える影響を観察した。同方法により条件を検討したキクカ、ヒナタイノコズチは指標
成分を分離、精製後HPLCで定量測定することにより化学評価を行った。また、これらの成分測定の迅速化のため柴胡、大黄、芍薬等の薬理活性成分に対するモノクローナル抗体(MAb)を作製し、それらを用いた高感度アッセイ系を構築した。また、大黄のsennoside A、 Bに対するMAbを用いて両者を一度に検出可能なキットの開発に成功した。培養シュートは冷蔵保存あるいは超低温保存により、保存前後で成分含量等の特性に影響を与えず有効な保存法と考えられたが、再生率は植物種により大きな差が認められた。また、昨年度に引き続き,筑波薬用植物栽培試験場の保存株を北海道、種子島に配布し栽培実験を行っているマオウ種苗について経時的な生育度とHPLCによる成分定量を行った結果試験的国内栽培法を確立した。また、外部形態だけでは同定が困難であるので、マオウ属植物のさく葉および生薬標本由来のDNAを鋳型としてchlB遺伝子を増幅して、その遺伝子塩基配列情報と内部形態学的な情報とを組合わせ新しい同定法を開発した。

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