次世代遺伝子治療薬の開発基盤研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200423A
報告書区分
総括
研究課題名
次世代遺伝子治療薬の開発基盤研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
早川 堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中川晋作(大阪大学大学院薬学研究科)
  • 中西真人(産業技術総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、わが国における遺伝子治療の実用化と一層の進展に向けて、安全性が高く、機能面で優れた次世代遺伝子治療用ベクターの開発、及び関連する遺伝子導入・発現技術に関する基盤研究を行うことを目的とする。既存のベクターでは最も遺伝子導入効率が良いとされるアデノウイルス(Ad)ベクターの長所(高効率、高タイターのベクターの調製が可能など)を活かしつつ、①作製法の煩雑さ、②搭載できる遺伝子の数や大きさに関する制限、③標的細胞指向性の制限、④抗原性、⑤核内での安定性の欠如などの課題を克服し、新たな機能を付与した次世代Adベクターの開発基盤研究として、1)単一のベクター内に複数の外来遺伝子を搭載したAdベクター作製システムの開発、2)標的細胞指向性を制御できるAdベクターの開発と応用、3)低抗原性Adベクターの開発を目指す。また、わが国独自に開発が進められている膜融合リポソーム等の安全性が高く、細胞質内への遺伝子導入能に優れた非ウイルスベクターの遺伝子発現効率を飛躍的に上昇させるための基盤研究として、4)導入遺伝子を高効率で核内に送達するための技術開発、5)導入遺伝子を核内で安定化するための技術開発、6)細胞質で安定に遺伝情報を発現するRNAレプリコンの開発研究などを一層推進し、これらの成果を組み合わせたハイブリッドベクターとして、その活用を目指す。
研究方法
遺伝子発現調節能を有したAdベクターシステムの開発:AdゲノムのE3欠損領域にテトラサイクリンによる遺伝子発現制御系の転写活性化因子rtTAを、E4遺伝子と3'ITR配列の間の領域に転写抑制因子tTSを、E1欠損領域にテトラサイクリン応答性プロモーターにより発現制御を受ける目的遺伝子を挿入したAdベクターを作製した。;標的細胞指向性を有したAdベクターの作製:Adゲノムのファイバータンパク質のHI loopをコードした領域にRGD配列を、C末端をコードした領域にポリリジン配列をコードする遺伝子を組み込み、E1欠損領域に目的遺伝子を挿入したAdベクターを作製した。; HI loopおよびHI strand発現ファージミドベクターの作製:ファージライブラリの構築には,Amersham pharmacia biotech社製のリコンビナント抗体発現システムを用いた。;ポリエチレングリコール(PEG)およびRGD-PEG修飾Adベクターの作製:PEGおよびRGD-PEGをAdのヘキソンへ化学修飾することで作製した。;組換えファージの作製:ファージ頭部へ呈示するペプチドを、ファージ頭部主要抗原のDタンパク質との融合タンパク質として大腸菌D1180株で発現させ、目的のペプチドを呈示したファージ粒子を回収した。;核へのDNAのターゲティング活性の検定:ファージ粒子の核への能動的移行活性は、細胞質にファージ粒子をマイクロインジェクションした後、核分画より回収したファージ粒子を感染価で定量する方法で検定した。;TRF1の機能:TRF1を過剰発現したヒト初代培養線維芽細胞の染色体の安定性の解析をTRF1発現ベクターを用いて検討した。
結果と考察
Ⅰ.次世代Adベクターの開発基盤研究:1)遺伝子発現調節能を有したAdベクターシステムの開発:AdゲノムのE1/E3欠損領域、さらにE4領域と3' ITRの間の領域にもin vitroライゲーションで外来遺伝子を導入できるトリプル遺伝子発現系を搭載したAdベクターの開発に成功した。本系を用いて、目的遺伝子をE1欠損領域に、tet-onシステムのための転写活性化因子のrtTA遺伝子をE3欠損領域に、転写抑制因子のtTS遺伝子をE4領域と3'ITRの間の領域に同時に搭載させたAdベクターを開発し、発現誘導能に極めて優れていることを明らかにした。2)標的細胞指向性を制御できるA
dベクターの開発と応用:ファイバーノブのHIループ領域だけでなく、C末端領域にも1ステップのin vitroライゲーションに基づいたプラスミド構築を利用して外来ペプチドコード遺伝子を挿入できるAdベクターシステムを開発した。さらに、RGDペプチドとポリリジンペプチドの両者をファイバーに付与したAdベクターが、種々の細胞(ヒト、マウス、ラット由来細胞)において従来型Adベクターの10-1000倍の遺伝子導入活性を示し、極めて効率良く遺伝子導入可能なことを明らかにした。また、ターゲッティング能を有したAdベクターの開発を目的に、ファイバーノブやペントンベースを改変することでAd受容体(CAR)やインテグリン(αv)と結合しないAdベクターの開発を行った。一方、AdファイバーノブのHI ループ領域とその両端のβ-strandを含む領域を発現するファージライブラリを作製し、Adベクターのファイバーに挿入して特定の標的分子に結合し得るリガンドペプチドを検索するためのスクリーニングシステムを構築した。3)低抗原性Adベクターシステムの開発:AdをPEGでハイブリッド化することにより、中和抗体による遺伝子導入の低下が抑制され、血中滞留性の向上並びにCARを介した非特異的遺伝子導入が回避出来ることを見いだした。また、RGDモチーフを付与したPEGを用いて作製したRGD-PEG修飾Adベクターは、RGDペプチドをファイバーに付与したAdベクターと同等の高い遺伝子発現能を示し、さらに中和抗体存在下では、より優れた遺伝子発現能を有することを明らかにした。II.次世代非ウイルス(ハイブリッド)ベクターの開発基盤研究:4)導入遺伝子を高効率で核内に送達するための技術開発:ラムダファージディスプレイシステムを用いて、DNA内封粒子に核移行活性を付与するために必要なペプチド側の条件を検討し、minimum NLS とimportin alphaとの結合がDNA内封粒子表面で起こることが核移行に必須であること、ペプチドのC末端側はこの相互作用が起きるようにminimum NLSを粒子表面から一定の距離だけ離すためのstemとして機能していること、一方、N末端側はこの相互作用と直接の関係は無い(少なくとも促進する活性はない)ことを確認した。5)導入遺伝子を核内で安定化するための技術開発:テロメア配列がTRF1との相互作用を通じて染色体を安定化する能力を評価し、TRF1とテロメア配列を使って人工染色体を安定化するということはヒト不死化細胞では可能性があるがヒト正常体細胞では難しいという結論に達した。一方、この現象の発見は、細胞癌化のメカニズムの解明と新たな癌治療の分子標的の同定につながることが期待される。
結論
次世代Adベクターの開発基盤研究として、1)単一のベクターで遺伝子発現を効率良く制御可能なAdベクターを開発した。2)Ad受容体を持たない細胞にも遺伝子導入可能なファイバー改変AdベクターとしてRGDペプチドとポリリジンペプチドの両者をファイバーに付与したベクターを開発し、その有用性を示した。また、CARやインテグリンとは結合できないAdベクターを開発し、ターゲッティング能を有したベクターの開発のための基礎を確立した。3)PEGで化学修飾することにより安全面を高めたAdベクターの作製に成功した。また、RGDモチーフを付与したPEGを用いて作製したRGD-PEG修飾Adベクターの有用性を示した。次世代非ウイルス(ハイブリッド)ベクターの開発に関する研究としては、4)導入遺伝子を高効率で核内に送達させるための基盤技術として、ラムダファージディスプレイシステムを用いて、DNA内封粒子に核移行活性を付与するために必要なペプチド側の条件を詳細に検討した。また、5) 非ウイルスベクター系において導入遺伝子を核内で安定化するための技術開発に向けた基礎研究として、テロメア配列がTRF1との相互作用を通じて染色体を安定化する能力に関して評価した。以上、次世代Adベクターおよび次世代非ウイルス(ハイブリッド)ベクターの開発研究を進め、わが国独自の独創的で安全性の高い次世代遺伝子治療薬の基盤技術の確立に向けた十分な成果を得た。

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