文献情報
文献番号
200200418A
報告書区分
総括
研究課題名
びまん性汎細気管支炎等、遺伝素因を有する慢性呼吸器疾患の疾患感受性遺伝子の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
慶長 直人(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 工藤翔二(日本医科大学)
- 徳永勝士(東京大学)
- 大橋 順(東京大学)
- 田宮 元(東海大学)
- 中田 光(国立国際医療センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
びまん性汎細気管支炎は、厚生労働省特定疾患のひとつであり、一連の研究により、ヒト白血球抗原 (HLA) と疾患と強い関連が見られることが報告されている。我々は未知のDPB感受性遺伝子がHLA-A座とB (C) 座との間に位置し、DPBに感受性を示す遺伝子の変異がHLA B54-Cw1-A11を保有する祖先染色体に生じたという仮説の下に、HLA関連感受性遺伝子座の候補領域を分子遺伝学的に推定してきた。本研究では、さらに推定された 候補領域内のエクソンと予測される部位を中心に詳細な検討を行い、最終的に疾患感受性遺伝子の同定を試みた。また、それ以外の慢性、難治性呼吸器疾患についても、同様な検討を行った。
研究方法
厚生省班診断基準に基づき、診断された症例を選択した。びまん性汎細気管支炎の感受性遺伝子の候補領域となる200 kbの領域について、昨年来、コンピュータ予測されるエクソン部を中心にPCR増幅し、直接シークエンス法によりSNPを同定したが、本年度は、最終的に、合計で100個以上のSNPsについて、全タイピングを行った。また、新規遺伝子のクローニングに関しては、遺伝子予測プログラムで推測されるエクソン位置に基づき、RACE法を利用して行った。さらにムチン遺伝子群のプロモーター領域の多型について、SSCP法を利用したハプロタイプの直接決定法を開発した。
サルコイドーシスについては、昨年度、マイクロサテライトマーカーと疾患との関連解析によって、Th1免疫に関わる候補遺伝子のスクリーニングを行ったが、本年度は、マイクロサテライトと遺伝子座周辺のSNPsとの連鎖不平衡について検討した。また、STAT4遺伝子に、新規SNPを同定し、関連解析を行った。
新たな多施設共同研究として、非定型抗酸菌症のマイクロサテライトマーカーを利用したゲノムワイド相関解析のための試料集積が進行している。
基盤的研究としては、多因子疾患の関連解析にとって問題となる、階層化の問題を補正する方法と連鎖不平衡構造に応じたマーカーの立て方についての理論的検討を行った。
(倫理面への配慮)本研究における遺伝子解析に関しては、いずれも三省合同の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に準拠した当センターの遺伝子解析に係わる倫理委員会の承認を受けている。
サルコイドーシスについては、昨年度、マイクロサテライトマーカーと疾患との関連解析によって、Th1免疫に関わる候補遺伝子のスクリーニングを行ったが、本年度は、マイクロサテライトと遺伝子座周辺のSNPsとの連鎖不平衡について検討した。また、STAT4遺伝子に、新規SNPを同定し、関連解析を行った。
新たな多施設共同研究として、非定型抗酸菌症のマイクロサテライトマーカーを利用したゲノムワイド相関解析のための試料集積が進行している。
基盤的研究としては、多因子疾患の関連解析にとって問題となる、階層化の問題を補正する方法と連鎖不平衡構造に応じたマーカーの立て方についての理論的検討を行った。
(倫理面への配慮)本研究における遺伝子解析に関しては、いずれも三省合同の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に準拠した当センターの遺伝子解析に係わる倫理委員会の承認を受けている。
結果と考察
1.候補領域におけるSNPsの同定とタイピング、関連解析
予測されたエクソン部位を中心にプライマーをデザインし、PCR増幅し、塩基配列を決定し、昨年同定したものと合わせて、100以上のSNPsを同定したため、引き続きタイピングを施行した。関連解析の結果、200 kbの候補領域のうち、前半の80 kbの複数のSNPsが疾患と関連性を示した。
2. 候補領域におけるSNPsの連鎖不平衡構造
200 kbの候補領域のうち、関連解析で疾患と関連性を示すSNPが多かった前半の80 kbは強い連鎖不平衡の島状構造を呈していた。
3. 候補領域における新規遺伝子の同定
80 kbの強い連鎖不平衡の島状構造の中に、遺伝子予測プログラムによって、エクソンと予測される部位に新規遺伝子がクローニングされた。気管支上皮細胞に発現しており、構造上、新規の膜型ムチン様遺伝子と推測された。
4. 既知のムチン遺伝子のプロモーターハプロタイプの直接決定法の開発と関連解析
SSCPを利用した方法により、1 kb以上のプロモーター領域にある5個のSNPsからなるハプロタイプを直接決定した。その特定のハプロタイプとびまん性汎細気管支炎との関連が示された。
5. 候補遺伝子周辺のマイクロサテライトマーカーを用いた候補遺伝子のスクリーニング法
昨年、サルコイドーシスの疾患感受性遺伝子検索のため、Th1免疫関連遺伝子座より、100 kb以内の領域にあるマイクロサテライトマーカーを同定し、疾患との関連性を検討したところ、STAT4のマーカーとサルコイドーシスとの関連を示した。そこで、本年は、さらに連鎖不平衡の及ぶ範囲について検討を加えることにより、STAT4遺伝子内に存在する、疾患関連SNPを同定した。
6. 多因子疾患の関連解析における階層化の問題を補正する方法と連鎖不平衡構造に応じたマーカーの立て方に関する理論的検討
多因子疾患の関連解析における疾患感受性変異同定の妨げとなる階層化の問題を補正する方法と、連鎖不平衡領域におけるマーカー設定の選択基準に関する検討を行った。
7. 非定型抗酸菌症の疾患感受性遺伝子同定のための多施設研究の進行
マイクロサテライトマーカーを用いたゲノムワイド相関解析を行うための、多施設共同研究組織を立ち上げ、すでに100例以上の症例サンプルを蓄積した。
以上のように、慢性、難治性呼吸器疾患の多くは、多因子疾患であるが、主要疾患感受性遺伝子が限られ、相対危険度も高いのではないかと推測される。たとえば、本研究の主要テーマのひとつであるびまん性汎細気管支炎は、欧米人に同様の疾患が見られず、欧米においてはアジア系の移民が罹患することが多いという事実から、人類創世後、アジア系集団の形成時に生じた遺伝子変異の一つが、疾患感受性を規定する有力な因子ではないかと考えられる。本年度は、その有力な候補遺伝子として、新たな膜型ムチン様遺伝子をクローニングした。この遺伝子は気道上皮の分化に伴い、alternatively spliced formが出現する(未発表データ)ことから、気道の傷害、修復に密接な関連を持つ分子である可能性が示唆される。さらに既知のムチン遺伝子群と疾患との関連についても検討した結果、MUC5Bのプロモーター多型と有意な関連を認めた。これらの関連性の確からしさを最終年度で明らかにする予定である。
本研究では、このようにこれまで取り残されていた、呼吸器病の臨床に直結した疾患感受性遺伝子検索というテーマを掲げ、初年度、呼吸器病学の研究者と第一線のゲノム研究者が共同戦線をひき、次年度は、各疾患について、データを蓄積し、ここに有意な結果を報告することができた。
予測されたエクソン部位を中心にプライマーをデザインし、PCR増幅し、塩基配列を決定し、昨年同定したものと合わせて、100以上のSNPsを同定したため、引き続きタイピングを施行した。関連解析の結果、200 kbの候補領域のうち、前半の80 kbの複数のSNPsが疾患と関連性を示した。
2. 候補領域におけるSNPsの連鎖不平衡構造
200 kbの候補領域のうち、関連解析で疾患と関連性を示すSNPが多かった前半の80 kbは強い連鎖不平衡の島状構造を呈していた。
3. 候補領域における新規遺伝子の同定
80 kbの強い連鎖不平衡の島状構造の中に、遺伝子予測プログラムによって、エクソンと予測される部位に新規遺伝子がクローニングされた。気管支上皮細胞に発現しており、構造上、新規の膜型ムチン様遺伝子と推測された。
4. 既知のムチン遺伝子のプロモーターハプロタイプの直接決定法の開発と関連解析
SSCPを利用した方法により、1 kb以上のプロモーター領域にある5個のSNPsからなるハプロタイプを直接決定した。その特定のハプロタイプとびまん性汎細気管支炎との関連が示された。
5. 候補遺伝子周辺のマイクロサテライトマーカーを用いた候補遺伝子のスクリーニング法
昨年、サルコイドーシスの疾患感受性遺伝子検索のため、Th1免疫関連遺伝子座より、100 kb以内の領域にあるマイクロサテライトマーカーを同定し、疾患との関連性を検討したところ、STAT4のマーカーとサルコイドーシスとの関連を示した。そこで、本年は、さらに連鎖不平衡の及ぶ範囲について検討を加えることにより、STAT4遺伝子内に存在する、疾患関連SNPを同定した。
6. 多因子疾患の関連解析における階層化の問題を補正する方法と連鎖不平衡構造に応じたマーカーの立て方に関する理論的検討
多因子疾患の関連解析における疾患感受性変異同定の妨げとなる階層化の問題を補正する方法と、連鎖不平衡領域におけるマーカー設定の選択基準に関する検討を行った。
7. 非定型抗酸菌症の疾患感受性遺伝子同定のための多施設研究の進行
マイクロサテライトマーカーを用いたゲノムワイド相関解析を行うための、多施設共同研究組織を立ち上げ、すでに100例以上の症例サンプルを蓄積した。
以上のように、慢性、難治性呼吸器疾患の多くは、多因子疾患であるが、主要疾患感受性遺伝子が限られ、相対危険度も高いのではないかと推測される。たとえば、本研究の主要テーマのひとつであるびまん性汎細気管支炎は、欧米人に同様の疾患が見られず、欧米においてはアジア系の移民が罹患することが多いという事実から、人類創世後、アジア系集団の形成時に生じた遺伝子変異の一つが、疾患感受性を規定する有力な因子ではないかと考えられる。本年度は、その有力な候補遺伝子として、新たな膜型ムチン様遺伝子をクローニングした。この遺伝子は気道上皮の分化に伴い、alternatively spliced formが出現する(未発表データ)ことから、気道の傷害、修復に密接な関連を持つ分子である可能性が示唆される。さらに既知のムチン遺伝子群と疾患との関連についても検討した結果、MUC5Bのプロモーター多型と有意な関連を認めた。これらの関連性の確からしさを最終年度で明らかにする予定である。
本研究では、このようにこれまで取り残されていた、呼吸器病の臨床に直結した疾患感受性遺伝子検索というテーマを掲げ、初年度、呼吸器病学の研究者と第一線のゲノム研究者が共同戦線をひき、次年度は、各疾患について、データを蓄積し、ここに有意な結果を報告することができた。
結論
びまん性汎細気管支炎のHLA関連疾患感受性遺伝子候補領域 200 kb 内に、100個以上のSNPが同定され、タイピングを完了したことにより、80 kbの強い連鎖不平衡構造が明らかにされた。この強い連鎖不平衡の島状構造の中の複数のSNPsは疾患と関連していた。さらに、この中に、新たな膜型ムチン様候補遺伝子が同定された。さらにサルコイドーシスの疾患感受性候補遺伝子についても、症例対照研究の形をとりながら、新しい視点で検討を進め、成果を上げた。症例対照研究を進めていく上での、統計学的に多因子疾患の関連解析における階層化の問題を補正する方法と連鎖不平衡構造に応じたマーカーの立て方に関する理論的検討は、五大疾患など、さらに頻度の高い多因子疾患の候補遺伝子のマッピングにも重要な示唆を与えるものと予想される。
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