文献情報
文献番号
200200416A
報告書区分
総括
研究課題名
血栓症に関連する遺伝子の同定と多型解析に基づいた予防と治療の個別化
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
池田 康夫(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 棚橋紀夫(慶應義塾大学医学部)
- 小川聡(慶應義塾大学医学部)
- 渡辺清明(慶應義塾大学医学部)
- 村田満(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
生活習慣の欧米化や高齢化社会の到来など、社会環境の変化の中で今後ますます増加し続ける血栓性疾患へのシステマチックな取り組みは、医学のみならず医療経済の上からも、今、我が国が求められている最重要課題の一つである。動脈血栓症は死亡原因の第一位を占める心筋梗塞や脳梗塞など生活習慣病の直接の発症原因となる。血栓形成に関係する因子は血液凝固、線溶因子、白血球、血小板など多岐に渉っておりその病態は甚だ複雑である。血栓症の遺伝的リスクの評価には、動脈硬化に関する遺伝的危険因子と血栓性素因に関係する遺伝的危険因子の両面からのアプローチが必要である。個人個人の遺伝的リスクを評価することは、より効果的かつ経済的に疾患を予防することにつながる。そこで本研究は以下を目的とした。(A) 既知の一塩基多型single nucleotide polymorphism (SNPs)と血栓症の頻度、重症度、血栓形成部位特異性(脳、冠動脈、深部静脈など)の関係を患者ー対照試験で検討し、一塩基多型の血栓症リスクとしての意義と位置づけを知る。(B) 血栓形成能と関連する新たなSNPsの発見とその機能解析を行う。これは (a)ゲノムデータベースから得られるSNPと、(b)血栓の基礎的研究から得られた情報に基づく因子(candidate gene)のSNP、の双方を対象とする。(C)特定の治療がどの遺伝子型の患者に有効かについての前向き臨床研究を計画する。(D) 血栓形成能の個体差を評価するため、血栓形成と深い関係がある巨核球-血小板、血管内皮細胞などのRNAを解析し、新たなtranscriptを同定する。これにより膜受容体やシグナル分子のvariantを同定する。
これらにより、血栓症リスク予測のための遺伝子診断システムを構築する。平成14年度は特に以下の4点を具体的目標とした。
(1) 血栓症患者を登録し検体採取、臨床所見、検査値などのデータベースを構築する。
(2) 動脈血栓症に重要な役割を演じている血小板、血液凝固因子、血管内皮細胞の因子の多型(正常人)や病的変異(疾患)と血小板機能、凝固因子活性などとの関連を実験的研究にて検証することにより血栓形成と血栓症発症のメカニズムを分子学的に明らかにする。(3) 既知の遺伝子多型、特に SNPsについて遺伝子タイピングを体系的に施行し遺伝子-疾患関連研究を行う。(4) 血小板のRNAを解析し、splice variantを含めた新たなtranscriptを同定することによって血栓形成のメカニズムを探究する。
これらにより、血栓症リスク予測のための遺伝子診断システムを構築する。平成14年度は特に以下の4点を具体的目標とした。
(1) 血栓症患者を登録し検体採取、臨床所見、検査値などのデータベースを構築する。
(2) 動脈血栓症に重要な役割を演じている血小板、血液凝固因子、血管内皮細胞の因子の多型(正常人)や病的変異(疾患)と血小板機能、凝固因子活性などとの関連を実験的研究にて検証することにより血栓形成と血栓症発症のメカニズムを分子学的に明らかにする。(3) 既知の遺伝子多型、特に SNPsについて遺伝子タイピングを体系的に施行し遺伝子-疾患関連研究を行う。(4) 血小板のRNAを解析し、splice variantを含めた新たなtranscriptを同定することによって血栓形成のメカニズムを探究する。
研究方法
ヒトの血液検体については「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に従って扱い、研究対象者からは厚生科学審議会によって作成された「遺伝子解析研究に関するガイドライン」に則り文書による同意を得た。(1)既知SNPsが蛋白発現/機能や疾患感受性に与える影響:血小板機能の測定は、健常者より得たクエン酸加血からのPRPを用いた。遺伝子多型の検討は、CVD患者234例およびコントロール群として検診受診者298例の末梢血を試料とした。
PTCA後再狭窄に関係する遺伝子多型については、冠動脈疾患を有していて、主要冠動脈枝の狭窄病変に対し経皮的冠動脈形成術を施行し、冠動脈の拡張に成功した患者50例を対象とした。全例に確認冠動脈造影検査を行い再狭窄の有無を確認した。脳血管障害における血栓形成の遺伝子的素因の解析については発症時70歳以下の虚血性脳血管障害患者(アテローム硬化性脳梗塞、ラクナ梗塞、一過性脳虚血発作) 235例と年齢、性別を一致させた健常者306例を対象に遺伝子多型を解析した。(2)新規SNPsの発見と遺伝子発現研究:血管内皮細胞上に発現し、血栓凝固及び動脈硬化病変形成に関与すると予想されるGタンパク質共役型受容体のうち、特にEdg-1、α2AR (α2-adrenergic receptor)、TP (thromboxane A2 receptor)、およびIP (prostaglandin I2 receptor)について、その遺伝子exon上のSNPsを各々50人の患者を対象に同定した。遺伝子発現研究ではヒト臍帯静脈血管内皮細胞HUVECを用いた。h-TERTの多型解析については発見された多型に対し、luciferaseassayにてその意義を検討した。脳性ナトリウム利尿ペプチドBNPについてはダイレクトシークエンスで発見されたSNPについて246例の健康診断受診者を対象に遺伝子型を決定した。(3)血栓形成におけるgain-of-function mutationの同定と蛋白立体構造予測のモデリング:血小板vWF受容体であるGPIbαに同定されたgain-of-function mutationの機能を解明するため、CHO細胞に5種類の可溶性組み換え蛋白を発現させligandの結合を観察した。(4)血小板RNAの網羅的解析:血小板RNAを純度よく分離するためには、全血から得られた乏血小板血漿から効率良く白血球を除去する必要がある。従ってまず、白血球除去フィルターによる白血球除去率を定量的に測定した。flow cytometryにてPRPのCD45をカウントするとともに、定量的PCRにてCD20のRNA量を測定した。
PTCA後再狭窄に関係する遺伝子多型については、冠動脈疾患を有していて、主要冠動脈枝の狭窄病変に対し経皮的冠動脈形成術を施行し、冠動脈の拡張に成功した患者50例を対象とした。全例に確認冠動脈造影検査を行い再狭窄の有無を確認した。脳血管障害における血栓形成の遺伝子的素因の解析については発症時70歳以下の虚血性脳血管障害患者(アテローム硬化性脳梗塞、ラクナ梗塞、一過性脳虚血発作) 235例と年齢、性別を一致させた健常者306例を対象に遺伝子多型を解析した。(2)新規SNPsの発見と遺伝子発現研究:血管内皮細胞上に発現し、血栓凝固及び動脈硬化病変形成に関与すると予想されるGタンパク質共役型受容体のうち、特にEdg-1、α2AR (α2-adrenergic receptor)、TP (thromboxane A2 receptor)、およびIP (prostaglandin I2 receptor)について、その遺伝子exon上のSNPsを各々50人の患者を対象に同定した。遺伝子発現研究ではヒト臍帯静脈血管内皮細胞HUVECを用いた。h-TERTの多型解析については発見された多型に対し、luciferaseassayにてその意義を検討した。脳性ナトリウム利尿ペプチドBNPについてはダイレクトシークエンスで発見されたSNPについて246例の健康診断受診者を対象に遺伝子型を決定した。(3)血栓形成におけるgain-of-function mutationの同定と蛋白立体構造予測のモデリング:血小板vWF受容体であるGPIbαに同定されたgain-of-function mutationの機能を解明するため、CHO細胞に5種類の可溶性組み換え蛋白を発現させligandの結合を観察した。(4)血小板RNAの網羅的解析:血小板RNAを純度よく分離するためには、全血から得られた乏血小板血漿から効率良く白血球を除去する必要がある。従ってまず、白血球除去フィルターによる白血球除去率を定量的に測定した。flow cytometryにてPRPのCD45をカウントするとともに、定量的PCRにてCD20のRNA量を測定した。
結果と考察
(1)既知SNPsが蛋白発現/機能や疾患感受性に与える影響:PAF-AH酵素活性をほとんど示さないPhe/Phe型が4%に認められた。野生型であるVal/Valの酵素活性に対し、Val/Phe型はほぼ1/2の活性を示した。野生型Val/Val型に比較し,Val/Phe型では低濃度PAFによる血小板の活性化が亢進していた。 CVD患者群ではPhe型を持つ群がコントロール群に比べ有為に高頻度に認められた。この関係は60歳以下や非喫煙者群など他の危険因子が少ない群で顕著であった(村田 満)。PTCA後再狭窄に関係する遺伝子多型については、多項ロジスティック回帰分析の結果メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素の多型のみが再狭窄発症の独立危険因子であった。(小川 聡)。脳血管障害における血栓形成の遺伝子的素因の解析では、有意差は見られなかった(棚橋紀夫)。(2)新規SNPsの発見と遺伝子発現研究:GPCRに新たに同定されたアミノ酸置換を伴うSNPは、Edg-1:S15L、α2AR:R16G、TP:R60L、IP:R212C、IP:R227Wであった(池田康夫)。h-TERTの多型解析のプロモータ領域に多型が見出された。この多型はh-TERTの発現に影響する可能性を示唆する成績が得られた(村田 満)。またBNP伝子において新たな3つのSNPを発見した。これらのうちにはBNP血中濃度と関連するものがあった(渡邊清明)。(3)血栓形成におけるgain-of-function mutationの同定と蛋白立体構造予測のモデリング:GPIbαの組み換え蛋白を作製し125I-vWFとの結合を検討した結果、患者で見い出された変異G233Sに加え、G233Aでも患者と同様のphenotypeが観察された(村田 満)。(4)血小板RNAの網羅的解析:血小板浮遊液における白血球除去フィルターを用いた場合の白血球除去率を、白血球特異蛋白を対象としてflow cytometryと定量的PCRにて測定した。白血球除去フィルターを2回通過させることによりPCRにおいてCD20 mRNAが測定感度以下のレベルに低下した。これによって作製した純度の高い血小板RNAをMPSS法で解析し、血小板RNA発現のprofileを構築した(池田康夫,村田 満)。
結論
既知のSNPsと血栓症の頻度、重症度、血栓形成部位特異性(脳、冠動脈、深部静脈など)の関係を患者ー対照試験で検討し、一塩基多型の血栓症リスクとしての位置づけを検討した。虚血性脳血管障害や冠動脈形成術施行後の再狭窄と関連する遺伝子多型を明らかにした。また血栓形成能と関連する新たなSNPsの発見とその機能解析を行った。特にGPCRやh-TERTに新しい多型を発見した。同定されたSNPのうち幾つかは当該因子の血中濃度や機能に影響することを示した。血小板機能の個体差に関与する可能性のある遺伝子変異や多型について、in vitro実験系で検索するとともに、蛋白立体構造モデリングを行った。さらに血栓形成と深い関係がある血小板のRNAを網羅的に解析を開始した。本年度は当初の計画がほぼ順調に実行された。遺伝子多型と機能の関連(実験研究)と遺伝子多型と疾患の関連(分子疫学的研究)については予定以外の新知見も得られた。血栓性疾患の遺伝子診断法に関する研究については、一つひとつの多型の重要性の評価と、複数の遺伝子多型の組み合わせの評価が血栓症リスクの遺伝子診断に重要であることは明白であるが、具体的な診断法の開発についてはプロジェクト後半の課題と考えている。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-