老化疾患におけるKlothoの意義の解明とその臨床応用に関する研究(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200200415A
報告書区分
総括
研究課題名
老化疾患におけるKlothoの意義の解明とその臨床応用に関する研究(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 陽一(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 永井良三(東京大学医学研究科)
  • 倉林正彦(群馬大学医学部)
  • 川口 浩(東京大学医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は(1)血清Klotho蛋白測定キットの構築とKlotho蛋白の濃度測定による診断システムの開発、(2)血清中のKlotho蛋白の蛋白医薬としての可能性の検討、(3)Kotho蛋白が結合あるいは修飾する生体内分子の同定と医薬品開発への発展、(4)ヒトklotho遺伝子多型(SNPs)と老化関連疾患との連鎖解析(5)Klotho蛋白のカルシウム恒常性維持機構における役割の解析、(6)循環器疾患、腎疾患におけるKlothoの意義の解析を目的としている。
研究方法
(1)分泌蛋白を認識するサンドイッチエライザー系の構築、分泌型Klothoを免疫沈降するシステムを構築し、血清濃度を測定した。(2)抗Klotho抗体によりKlotho蛋白共沈分子を集め、電気泳動で分離し、質量分析により候補分子を同定し、候補分子に対する抗体により結合を確認した。(3)Klotho-Fcキメラ蛋白を発現するベクターを構築し、各種の人工基質を用いて酵素反応を解析し、ついで、至適反応条件、各種の阻害剤を用いて反応特性を解析した。
(4)一連のカルシウム代謝関連遺伝子の発現と機能の変化を解析した。また、変異マウスに老いて1alpha-hydroxylaseの発現亢進をもたらすシグナル回路について解析した。
(5)Klotho蛋白の蛋白医薬としての可能性の検討については、a.klothoの血管新生促進作用、
b.klothoの腎保護作用、c.klothoの細胞内シグナル、d. klotho遺伝子による動脈硬化抑制、e.腎不全モデルラットにおける腎不全の進行抑制を指標に解析した。(6)変形性腰椎症患者および脊椎靱帯骨化症患のDNA解析と患者のデータベースを基にassociation studyを行った。
結果と考察
研究結果及び考察=1)分泌型Klotho蛋白が血清中に存在すること、血清濃度の個人差がかなり高いこと、また、血清値が顕著に亢進している患者を発見し、その血清活性型ビタミンD、リン、カルシウムが低下していることが明らかとなった。2)Klotho蛋白と共沈する5個の結合蛋白を同定し、質量分析によりその分子構造を推定し、ついて、抗体によって推定された分子が共沈していることが確認された。3)Klotho蛋白は活性型ビタミンD合成の律速酵素である1a-hydroxylaseの発現を負に制御する回路の構成要素であることが明らかとなった。4)Klotho蛋白の糖鎖切断活性を測定し、beta-glukuronidase活性をもつことを明らかにした。5)klothoの外的投与による血管新生能の亢進の新規知見を得た。6)klothoがアンジオテンシンによる腎障害に対して保護的に作用すること、さらに、klothoが一酸化窒素の細胞内分子シグナル経路を介して作用すること等を明らかにした。7)高血圧性腎硬化症モデルにおいてklotho遺伝子の導入により,血管内皮機能障害は一部改善し,腎機能障害の進行の抑制が観察された。そのメカニズムはklotho遺伝子によるNO産生の増加や酸化ストレスの減少によると考えられる。8)ヒトklotho遺伝子プロモーター領域のSNPである-395G->Aが人種差を超えて高齢女性において骨密度と有意な相関を示すが、変形性脊椎症の重症度および脊椎靱帯骨化症とは有意な相関を示さなかった。
(1)血清Klotho蛋白の測定系の開発により、血清濃度が顕著に亢進した患者を見いだすことにつながった。引き続き、カルシウム、リン、ビタミンD濃度に異常を示す患者の解析を広く進める事を計画している。加齢に伴う減少や個体差を示唆するデータを得つつあるが、測定感度の向上、安定性など、キット化のための検討を進めることが重要である。(2)ビタミンDの合成制御は健康の維持にとって極めて重要なシステムであり、その分子機構解明を目的として、1a-hydroxylase遺伝子の転写制御因子の解析、1a-hydroxylase遺伝子の発現制御に関わるシグナル伝達経路の解析、Klotho蛋白が結合、あるいは修飾する分子の解析へと発展させることが重要である。(3)Klotho因子は液性因子であり、一酸化窒素のパスウエーを介した内皮機能の調節することを今までの検討で示した。今回明らかにした血管新生に関わる知見は極めて重要である。血管新生は虚血性血管疾患のみならず、癌、網膜の増殖性疾患等様々な疾患の病態に関わる。klotho欠損マウスにおける薬剤投与による血管新生能の制御は高齢者における血管新生能低下の治療法の開発、またセンダイウイルスによるKlothoの外的投与による血管新生能の亢進はklotho投与による新しい血管治療法の開発にそれぞれが糸口となる可能性がある。Klothoが血管新生の制御に関わるならば、klothoを用いた治療戦略はこれらの疾患の治療法の開発につながると期待される。一方、アンジオテンシン負荷に対する腎保護作用は現在現在重要な社会医学的な問題である腎不全の患者の治療、透析医療の医療費問題の軽減に結びつく可能性がある。すなわち、アンジオテンシンの過剰が病態発症・維持に関わる高血圧症・腎硬化症による腎不全の進行、透析医療への移行を防止・遅延する治療法として、Klothoの遺伝子導入あるいはタンパク投与を用いた治療法の開発が期待される。(4)循環器系の各種病態でklotho遺伝子の発現が低下していること、Klotho蛋白が血管内皮保護作用を持つ液性因子である可能性を明らかにし、現在そのメカニズムに酸化ストレスの減少が関与している。klotho遺伝子導入により腎障害の進行を遅らせることができればklothoが新たな腎不全に対する治療薬となる可能性がある。klotho遺伝子の病態生理学的役割を解明できれば、高血圧、心疾患ばかりでなく肺気腫、骨粗鬆症の病態解明や診断、治療に新たな展開をもたらす。(5)klotho遺伝子は加齢に伴う骨粗鬆化に関与しているものの、変形性腰椎症や脊椎靱帯骨化症など、他の老化関連骨軟骨疾患には関与していないことが示された。我々が既にヒトklothoマイクロサテライト多型の解析で示したように、変形性腰椎症や脊椎靱帯骨化症の発症・進展において慢性的・持続的な力学的負荷の蓄積などの環境因子の関与が重要であると考えられた。
結論
1)分泌型Klotho蛋白濃度測定系を開発した。血清値の個人差がかなり高く、また、血清値が顕著に亢進している患者が発見された。2)Klotho蛋白と共沈する5個の結合蛋白を同定した。3)Klotho蛋白は1a-hydroxylaseの発現を負に制御する回路の構成要素であることが明らかとなった。4)Klotho蛋白がbeta-glukuronidase活性をもつことを明らかにした。5)klotho遺伝子は、NO産生の増加や酸化ストレスの減少に働き、心血管系を保護する働きがあると考えられる。6)klotho遺伝子は腎保護作用を有する可能性がある。7)ヒトklotho遺伝子多型解析により骨密度の低下と関連することを明らかにした。

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