有害反応の回避を目指した副作用原因遺伝子の同定とSNPの探索

文献情報

文献番号
200200414A
報告書区分
総括
研究課題名
有害反応の回避を目指した副作用原因遺伝子の同定とSNPの探索
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
千葉 寛(千葉大学薬学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 田中敏博(理化学研究所多型解析センター)
  • 白川太郎(京都大学大学院医学研究科)
  • 上田志朗(千葉大学薬学研究院)
  • 埜中 征哉(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 大江 透(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
  • 小川 聡(慶応大学医学部)
  • 橋本公二(愛媛大学医学部)
  • 伊崎誠一(埼玉医科大学総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品は有効性と有害作用の相反する二面性を有しており、現代の科学技術を持ってしても有害な面を全く持たない医薬品を創製することは困難である。このわずかに残された有害作用に一部の患者は敏感に反応し、予想できない反応を示し、死に至ることもある。本研究の目的は、このような有害反応の原因遺伝子とSNP (single nucleotide polymorphism)を明かにし、有害反応を未然に回避するための有効な方法を確立することにある。そのための具体的な目標として、重篤な場合は死に至ることもある、1)薬物誘起性横紋筋融解症2)薬物誘起性QT延長症候群、まれではあるが、致死率の高い全身性の皮膚障害を引き起こす3)Stevens-Johnson 症候群(皮膚・粘膜・眼症候群)を取り上げ、その原因となる遺伝子とそのSNPを明らかにすることを目的とした。
研究方法
遺伝子解析チームとDNA試料収集チームの連携により研究を遂行した。DNA試料収集チームは5人の分担研究者からなる組織で、横紋筋融解症は上田が、QT延長症候群は大江と小川が、Stevens-Johnson症候群は橋本と伊崎が担当した。遺伝子解析チームは5人の分担研究者からなる組織で、HMGCoA還元酵素阻害薬による横紋筋融解症のSNP及び機能解析を千葉が、患者及びモデル動物の病理解析を埜中が、薬物誘起性QT延長症候群は田中が、Stevens-Johnson 症候群は白川が担当した。ヒトゲノム検体の収集と解析にあたっては「ヒトゲノム解析研究に関する共通指針」を尊守し、研究の遂行にあたっては倫理委員会の承認を得た後、提供者の同意を必ず得て行った。また、研究対象者の不利益、危険性を可能な限り排除し、ゲノム情報及び個人情報を漏洩させない情報管理体制のもとで研究を遂行した。
結果と考察
研究1) 薬剤性横紋筋融解症初年度に決定した薬剤性横紋筋融解症の診断基準を満たす患者から得たDNA試料8例のうち、プラバスタチン及びアトルバスタチンの服用患者試料4例とプラバスタチン及びアトルバスタチンにより横紋筋融解症様症状をおこさなかったコントロール患者9例について、先天性横紋筋融解症の原因遺伝子(CPT II、VLCAD、PYGM、LDHA)、薬物動態関連遺伝子(MDR1、MRP2、OATP-C,CYP3A4)の149のSNPsについて解析を行った。その結果、MDR1、とOATP-Cに患者群に多く認められるSNPsが見出された。OATP-Cの場合、A388G (N130D)の変異のアレル頻度が100%と著しく高頻度なのに対し、コントロール群では66.5%となっており、この変異に関しても両群間で差が見られた。また、T521C(V174A)に関しても横紋筋融解症発症患者では62.5%に対しコントロール群では5.5%と著しい差異が認められた。また、今回症例3でみられたC1007Gは、コントロール群では全く見られず、さらにこの変異の日本人における頻度が1.2%と極めて低いことから、この変異に関しても横紋筋融解症の原因となる可能性が考えられた。次に、A388G とT521Cの変異をOATP-C遺伝子に導入しHEK293細胞に発現させたところ、estradiol 17 ? ?glucuronide、estrone 3-sulfateを基質に用いた場合のいずれにおいても、取り込み速度が著しく低下した。さらに、T521C (V104A) の変異をホモで持つ個体(n = 1)とヘテロで持つ個体(n = 9)を対象にプラバスタチンを投与し、体内動態を変異を持たない個体(n = 4)と比較したところ、ホモの個体ではプラバスタチンの非腎クリ
アランスがこの変異を持たない群と比較して約1/6に低下しており、ヘテロでは約1/2に低下している事が明らかとなった。以上より、OATP-Cの変異[T521C(V174A)]はプラバスタチンをはじめとする水溶性スタチンによる横紋筋融解症の原因の一つである可能性が強く示唆された。実際、 [T521C(V174A)]の変異をホモで持つ個体(健常成人)では経口投与後のプラバスタチンの最高血漿中濃度はこの変異を持たない個体(健常成人)の3.5倍になっており、この変異を持つ患者が高濃度のスタチンに継続的に被爆することが、横紋筋融解症発症の原因の一つとなるものと思われる。今後、OATP-C以外でスタチンの肝への取り込みを行っている可能性があるトランスポーターのSNPs解析を進めると共に、プラバスタチンとアトルバスタチンにより横紋筋融解症をおこした患者を中心に症例を増やしていきたい。2) 薬剤性QT延長症候群
2次性QT延長症候群と診断され,研究に同意した患者のゲノムDNAサンプル11例を用いて、KCNQ1, KCNH2, SCN5A, KCNE1, KCNE2, KCNA10遺伝子で同定されているアミノ酸変化を伴うSNPs計12ヶについて解析を行った。その結果、ピメノールにより著しいQT延長を引き起こした症例で,KCNQ1 遺伝子のアミノ酸バリアントがホモ接合体となっており,健常人でのアレル頻度が0.09であることを考えると興味深い結果が見出された。此の変異については来年度に機能解析を行い、QT延長症候群との関係を明らかにしていく予定である。他のSNPsに関しては,症例数が少ないこともあり,統計学的に有意差は認めなかった。しかし、来年度は国立循環器セが患者試料の収集に加わるとともに、今年度慶応でリストアップされたがまだDNA試料を採取していない患者が多く残っているため、これらの患者試料の解析を進めることにより患者群との差が確定できるものと思われる。
3)Stevens-Johnson症候群
2002年12月11日現在、理化学研究所で解析可能な薬剤応答遺伝子及びトランスポーターはゲノムサイズで7333.5Kbであり、そのうちSNPs は6825である。これらのSNPsのうち350を14例の患者試料について検討を行った(結果は未確定)。来年度は、埼玉医大総合医療センター、Stevens-Johnson症候群患者の会、Stevens-Johnson症候群研究大学グループ(横浜市立大学、杏林大学、愛媛大学等)を通じて最終的に50例の患者試料を収集し、現在解析中のSNPsに加えて可能な限り多くのSNPsをゲノムワイドに解析する予定である。
結論
1)薬剤性横紋筋融解症
プラバスタチン及びアトルバスタチンにより横紋筋融解症をおこした患者にはMDR1、とOATP-Cの特定のSNPsが対照群に比較して多く認められた。特に、OATP-Cの[T521C(V174A)]についてはin vitro及びin vivoの検討により、薬物の輸送活性が著しく低下することが明らかとなったことから、プラバスタチンをはじめとする水溶性スタチンによる横紋筋融解症の原因の一つである可能性が強く示唆された。
2)薬剤性QT延長症候群
ピメノールによりQT延長症候群を引き起こした症例でKCNQ1にアミノ酸置換を伴うSNPs
のホモ接合体が見出され、薬剤性QT延長の原因SNPである可能性が示唆された。来年度以降の機能解析によりこのSNPとQT延長症候群との関係を明らかにしていく。
3)Stevens-Johnson症候群
今回行った少数例の解析結果をもとに来年度はゲノムワイドのSNP解析を行う。

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