循環器疾患関連遺伝子の解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200412A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器疾患関連遺伝子の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 力
研究分担者(所属機関)
  • 永井良三(東京大学)
  • 世古義規(東京大学)
  • 前村浩二(東京大学)
  • 林同文(東京大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、心筋梗塞、高血圧などに代表される循環器疾患の発症およびその予後、治療と関連する遺伝的背景について主として遺伝子多型の観点から検討を行い、循環器疾患に関連した遺伝子多型、変異、発現をプローブによって検出する遺伝子診断法の開発・実用化を目的としている。さらに患者の個性に合わせた個別化医療の実践が可能になるように汎用的で実地臨床に還元される遺伝子診断システム構築を目指すものである。
研究方法
東京大学循環器内科において心臓カテーテルを施行した全症例を対象として臨床データを網羅的にデータベース化を行う。遺伝子解析にあたり心臓カテーテル検査時に採血、採血検体よりDNA抽出を行い、冠動脈硬化・高血圧との関連性の示唆される遺伝子のSNPについて解析を既存の手法に加え日立製作所開発のBAMPER法と呼ばれる新しい遺伝子解析システムを活用しつつ解析し、それを臨床データベースと統合的に相関性を検討し、循環器疾患発症および予後、治療反応性を規定する遺伝子マーカーの同定を試みる。遺伝子多型解析については動脈硬化関連因子、特に増殖因子および増殖因子受容体およびそれらの発現調節を行う転写因子に着目し、アミノ酸変異を伴うエクソン領域のSNPおよび遺伝子発現量と関連するプロモーター領域を中心にSNP解析を施行する。また病態との関連性の高い遺伝子および遺伝子産物については分子生物学的、発生工学的に遺伝子機能の解析を平行して行い、循環器疾患の診断・治療における有用性を検証する。
結果と考察
2003年3月の段階で1800例の臨床情報収集が終了、遺伝子検体数は約1100例に達した。この臨床情報および遺伝子検体を活用し以下の結果を得た。
動脈硬化に代表される血管のリモデリングの病態に深く関与するマトリクスメタロプロテナーゼ(MMP)の遺伝子多型に関して心筋梗塞発症との有意相関を見いだした。各々の転写活性に関与するMMP-1プロモーター領域?1607 1G/2G多型、MMP-3プロモーター領域?1171 5A/6A多型には互いに強い連鎖不平衡を認め、MMP3の5AアレルおよびMMP1 1G-MMP3 5Aハプロタイプを保有することは有意に心筋梗塞発症のリスク因子となることを明らかとした。この遺伝子型は心筋梗塞を伴わない冠動脈硬化症(狭心症、無痛性心筋虚血)とは関連性が乏しいことから、粥腫崩壊に関連した病態に関連した遺伝的マーカーである可能性が示唆された。
またHDLコレステロール合成に関してlipid poor ApoA1 particleにコレステロールエステルを付与してHDLコレステロール生成に関与するATP-binding cassette A1 (ABCA1)の遺伝子多型に着目、Ile823Met, Arg291Lysの2つのエクソン領域のmissense多型について解析、両者に連鎖はなく前者の遺伝子多型がHDLコレステロールと有意に関連し、HDLコレステロール濃度を介して冠動脈疾患発症に関連する可能性が示唆された。
冠動脈硬化の治療である血管形成術後の再狭窄はこの治療の最大の障壁であるが、動脈硬化関連遺伝子が疾患の発症、進展および治療反応性に深く関連することが期待される。再狭窄の主たる病態である血管平滑筋の脱分化、活性化に関連するZnフィンガー型転写因子IKLF/KLF5に着目し、IKLF/KLF5が血管平滑筋の増殖および脱分化に関連したSMembおよびPDGF-A遺伝子のプロモーターを容量依存的に活性化することを示した。また発生工学の手法によりこの遺伝子のノックアウトマウスの樹立に成功、このマウスがホモ致死であること、また種々の心血管障害モデルに対して、ヘテロマウスでは野生型マウスに比較して組織修復反応が微弱であることが確認された。
動脈硬化の進展に伴って組織の灌流不全が生じる結果、虚血・低酸素という病態が生じるが、そのような虚血・低酸素状態において、VEGF、エリスロポエチンや解糖系酵素などの発現誘導に関わり、かつ内皮に発現が比較的限局している転写因子EPAS-1に着目して解析を進めたところVEGFおよびその受容体などの転写を低酸素下で活性化すること、また活性化ドメインを欠失させたtruncated EPAS1がdominant negativeに作用してEPAS1およびHIF1の血管新生促進作用を抑制することを明らかにした。また、心筋梗塞発症のメカニズムの一つとして血栓形成が重要であるが、凝固促進因子の一つPAI-1の日内変動が時計遺伝子でありかつ転写因子であるCLOCKとCLIF/BMAL2が関与していることを明らかにした。
結論
循環器疾患関連遺伝子の解明を目指し、(1)心筋梗塞、冠動脈硬化に代表される循環器疾患の発症に関わる遺伝子および多型性の同定、(2)循環器疾患の治療反応性に関わる遺伝子群の同定、(3)循環器疾患発症に寄与するマスター遺伝子群の機能解析と病態への関与についての検討 につき検討を行った。
(2)の治療反応性についてはデータベース集積が開始されてよりまだ2年前後と短く、現在のところ有効なデータが得られていない現状が存在するが、今後の時間経過とデータ集積により有用な知見が得られる可能性は非常にと期待される。(1)についてはMMP遺伝子多型群、ABCA1遺伝子Met823Ile多型の病態との関連性を示し、今後の実地臨床でのリスク評価の一指標として使用できる可能性があると考える。さらに50 以上の遺伝子多型検討が進んでおり、そこで選出された遺伝子多型についても大いに期待されるところである。(3)動脈硬化に代表される心血管病における病態修飾因子としてIKLF/KLF5およびEPAS, CLIF/BMAL2の機能解析の結果、血管リモデリングおよび血管新生また循環器疾患の発症に関与する液性因子の日内変動の分子メカニズムが明らかとなった。
以上のように、循環器疾患の発症に寄与する遺伝子多型および循環器疾患発症に関与する分子機序が本研究の推進により明らかとなり、本領域において十分な成果を挙げることが出来た。今後の研究の継続によりさらなる同領域における研究の推進が期待される。

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