文献情報
文献番号
200200408A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器系疾患治療のための次世代遺伝子導入ベクターの創製(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
田畑 泰彦(京都大学再生医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
- 岸田晶夫(国立循環器病センター研究所)
- 浅原孝之(東海大学医学部)
- 盛 英三(国立循環器病センター研究所)
- 永谷憲歳(国立循環器病センター)
- 清水達也(東京女子医科大学 先端生命医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
48,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、虚血性心筋症(心筋梗塞、心筋症)や慢性閉塞性動脈硬化症などの血管狭窄病変に対する遺伝子細胞療法のための両親媒性遺伝子ベクターを開発し、これを用いて①血管内投与による高効率なGene Therapyさらに②血管成長因子等の遺伝子を導入した血管内皮前駆細胞などによるハイブリッド細胞-遺伝子治療法を開発することである。
研究方法
次世代遺伝子キャリアの作製と性質の評価
ゼラチンのカチオン化反応を行い、これを用いて架橋度の異なるカチオン化ゼラチンハイドロゲルを得た。125Iラベル化によりプラスミドDNA含浸ハイドロゲルおよびハイドロゲルのddYマウスの背部皮下における残存放射活性の時間変化を調べた。次に、プラスミドDNA含浸カチオン化ゼラチンハイドロゲルをマウス大腿筋肉内に埋入後の筋肉内でのプラスミドDNA発現を評価した。
高分子-遺伝子複合体の新プロセス開発に関する研究
重合度、けん化度の違う三種類のPVA水溶液にDNA水溶液を添加後,密封し,40℃において10000atmで10分間処理した。高圧処理におけるDNAとPVAの相互作用を観察するために電気泳動を行った。
ヒト組み換えDNA生分解性物質の開発
培養した成人末梢血由来血管内皮前駆細胞(EPCs)にカチオン化ゼラチンハイドロゲルを用いてGFP及びVEGF plasmid遺伝子を導入した。遺伝子導入されたEPCsの増殖能・遊走能について検討した。さらに、ex vivo にて培養したEPCsを重傷下肢虚血マウスモデルに静脈内投与した後の血管新生を評価した。
細胞への遺伝子導入法の開発と循環傷害への応用
EPCsにカチオン化ゼラチンハイドロゲル?遺伝子(GFPおよびアドレノメデユリン(AM)遺伝子)複合体を貪食させ、細胞内での遺伝子発現をGFP遺伝子で検討し、肺高血圧モデル等で細胞-遺伝子ハイブリッド治療の効果を検討した。
遺伝子導入細胞を用いた肺高血圧治療法の開発
ヒト臍帯血から単核球細胞を分離培養し、EPCsを得た。カチオン化ゼラチンハイドロゲルにAM DNAを結合させ、EPCsと3日間の共培養を行った。モノクロタリン肺高血圧ラットに、AM遺伝子を導入したEPCsを静脈内投与して、3週間後の肺高血圧軽減効果および予後改善効果を検討した。
遺伝子導入細胞の組織移植用シートへの応用
温度応答性高分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を電子線照射により表面グラフトした培養皿を用いて、新生仔ラット心筋細胞を培養し細胞シートを作製した。低温処理により脱着した細胞シートを積層化、電気生理学的解析および組織学的解析を行った。さらに、積層化心筋細胞シートをヌードラット皮下組織に移植、皮膚表面電位を測定、さらに切開してその収縮弛緩、組織像を長期にわたり経時的に観察した。
ゼラチンのカチオン化反応を行い、これを用いて架橋度の異なるカチオン化ゼラチンハイドロゲルを得た。125Iラベル化によりプラスミドDNA含浸ハイドロゲルおよびハイドロゲルのddYマウスの背部皮下における残存放射活性の時間変化を調べた。次に、プラスミドDNA含浸カチオン化ゼラチンハイドロゲルをマウス大腿筋肉内に埋入後の筋肉内でのプラスミドDNA発現を評価した。
高分子-遺伝子複合体の新プロセス開発に関する研究
重合度、けん化度の違う三種類のPVA水溶液にDNA水溶液を添加後,密封し,40℃において10000atmで10分間処理した。高圧処理におけるDNAとPVAの相互作用を観察するために電気泳動を行った。
ヒト組み換えDNA生分解性物質の開発
培養した成人末梢血由来血管内皮前駆細胞(EPCs)にカチオン化ゼラチンハイドロゲルを用いてGFP及びVEGF plasmid遺伝子を導入した。遺伝子導入されたEPCsの増殖能・遊走能について検討した。さらに、ex vivo にて培養したEPCsを重傷下肢虚血マウスモデルに静脈内投与した後の血管新生を評価した。
細胞への遺伝子導入法の開発と循環傷害への応用
EPCsにカチオン化ゼラチンハイドロゲル?遺伝子(GFPおよびアドレノメデユリン(AM)遺伝子)複合体を貪食させ、細胞内での遺伝子発現をGFP遺伝子で検討し、肺高血圧モデル等で細胞-遺伝子ハイブリッド治療の効果を検討した。
遺伝子導入細胞を用いた肺高血圧治療法の開発
ヒト臍帯血から単核球細胞を分離培養し、EPCsを得た。カチオン化ゼラチンハイドロゲルにAM DNAを結合させ、EPCsと3日間の共培養を行った。モノクロタリン肺高血圧ラットに、AM遺伝子を導入したEPCsを静脈内投与して、3週間後の肺高血圧軽減効果および予後改善効果を検討した。
遺伝子導入細胞の組織移植用シートへの応用
温度応答性高分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を電子線照射により表面グラフトした培養皿を用いて、新生仔ラット心筋細胞を培養し細胞シートを作製した。低温処理により脱着した細胞シートを積層化、電気生理学的解析および組織学的解析を行った。さらに、積層化心筋細胞シートをヌードラット皮下組織に移植、皮膚表面電位を測定、さらに切開してその収縮弛緩、組織像を長期にわたり経時的に観察した。
結果と考察
次世代遺伝子キャリアの作製と性質の評価
カチオン化反応におけるエチレンジアミンと水溶性カルボジイミド濃度を変化させることでゼラチンへのアミノ基導入率は変化した。このカチオン化ゼラチンからなるハイドロゲルは時間とともに生体内で分解していくことがわかった。ハイドロゲルの生体内分解性はその架橋程度によりコントロールできた。ハイドロゲルに含浸させたプラスミドDNAの生体内残存の時間変化はハイドロゲルの生体内残存の時間変化とよく相関していた。
プラスミドDNA含浸カチオン化ゼラチンハイドロゲルのマウス筋肉内への埋入部位で遺伝子発現が見られた。この発現は水溶液プラスミドDNA投与に比較して、有意に高く、その発現期間も延長した。この遺伝子発現期間は、プラスミドDNAの徐放期間の延長とともに延長した。本徐放システムでは、ハイドロゲルが分解され、カチオン化ゼラチン分子が水可溶化して初めて含浸プラスミドDNAはハイドロゲルから放出される。プラスミドDNAはカチオン化ゼラチン断片とポリイオンコンプレックスを形成した状態で徐放されるため、徐放されたプラスミドDNAは遺伝子発現に有利である。
高分子-遺伝子複合体の新プロセス開発に関する研究
PVAの希薄溶液(1w/v%以下)を高圧処理することで、100~200ナノメートルの比較的粒径の揃ったナノ粒子が形成した。PVAハイドロゲルの生成メカニズムは、まず分子内での水素結合形成による分子の局所的凝縮と粒子形成、それに引き続く粒子間の架橋からなると考えられている。これによれば、溶液の濃度を下げることによって、粒子間架橋を抑制できれば、分子集合体レベルのサイズの微粒子が得られることが推測される。本研究では、この仮定が正しいことを示すことが出来た。
ヒト組み換えDNA生分解性物質の開発
GFP遺伝子のEPCsへの導入効率は、他のウイルス性ベクターと比し、同等以上導入効率であった。また、VEGF遺伝子導入EPCsの増殖能・遊走能は非遺伝子導入及びGFP遺伝子導入EPCsに比し有意に上昇していた。また、このモデルマウスに静脈内投与したところ、有意な血流の改善とアセチルコリン反応性の血管新生が認められた。
細胞への遺伝子導入法の開発と循環傷害への応用
カチオン化ゼラチンハイドロゲル-遺伝子複合体によるEPCsへの遺伝子導入法を確立した。肺高血圧モデルで、AM遺伝子により機能強化したEPCsの有効性を確認した。カチオン化ゼラチンハイドロゲル?遺伝子複合体による遺伝子導入法は非ウイルス性でかつ導入効率が高いことがわかった。
遺伝子導入細胞を用いた肺高血圧治療法の開発
EPCsはゼラチン/DNA複合体を貪食し、EPCs自身への高率の遺伝子導入(76%)が可能であった。AM遺伝子導入EPCsはEPCs単独の10倍のAMを分泌し、2週間以上発現が持続した。経静脈的に投与したEPCsは肺動脈に付着して血管を形成した。AM遺伝子導入EPCsの移植は、コントロール群に比べて平均肺動脈圧を有意に低下させ(24±2 vs 34±1 mmHg, p<0.001)、生存率を改善させた(p<0.001)。EPCsは虚血や外傷によって血管内皮が障害されると、骨髄から末梢血へ動員され、血管内皮障害部位を感知、遊走して血管を再生させると言われている。血管拡張因子であるAMの遺伝子を導入したEPCsを体内への移植をした結果、肺高血圧ラットの平均肺動脈圧、全肺血管抵抗は著明に低下した。EPCsから分泌されたAMがパラクライン的に血管内皮、平滑筋に働いて、肺血管を拡張させた可能性がある。
遺伝子導入細胞の組織移植用シートへの応用
低温処理により脱着した心筋細胞シートを重層化したところ2枚の細胞シートは同期して拍動し、組織切片にて多数のコネキシン43の発現を認めたことより、重層化心筋細胞シート間の形態的および電気的結合が示された。さらに、4層まで積層化したところ、肉眼レベルで同期して収縮弛緩運動することが確認された。次に、重層化心筋細胞シートをヌードラット皮下組織に移植した結果、ホスト心臓とは異なるグラフト由来の皮膚表面電位が確認された。移植部を切開したところ心筋グラフトが肉眼レベルで自発的に収縮弛緩していた。グラフト内には2?3日のうちに多数の毛細血管網新生が確認された。組織切片上、伸展し横紋を有する心筋細胞ならびに細胞間にはデスモゾ?ムやギャップジャンクションを認め心筋様組織が再構築されていた。さらに長期にわたって観察したところ心筋組織がホストラットの成長に伴いその大きさ、厚さ、電気伝達速度、収縮力の増大を示す結果を得た。最終的には最長1年までその拍動を維持して生存することを確認した。
カチオン化反応におけるエチレンジアミンと水溶性カルボジイミド濃度を変化させることでゼラチンへのアミノ基導入率は変化した。このカチオン化ゼラチンからなるハイドロゲルは時間とともに生体内で分解していくことがわかった。ハイドロゲルの生体内分解性はその架橋程度によりコントロールできた。ハイドロゲルに含浸させたプラスミドDNAの生体内残存の時間変化はハイドロゲルの生体内残存の時間変化とよく相関していた。
プラスミドDNA含浸カチオン化ゼラチンハイドロゲルのマウス筋肉内への埋入部位で遺伝子発現が見られた。この発現は水溶液プラスミドDNA投与に比較して、有意に高く、その発現期間も延長した。この遺伝子発現期間は、プラスミドDNAの徐放期間の延長とともに延長した。本徐放システムでは、ハイドロゲルが分解され、カチオン化ゼラチン分子が水可溶化して初めて含浸プラスミドDNAはハイドロゲルから放出される。プラスミドDNAはカチオン化ゼラチン断片とポリイオンコンプレックスを形成した状態で徐放されるため、徐放されたプラスミドDNAは遺伝子発現に有利である。
高分子-遺伝子複合体の新プロセス開発に関する研究
PVAの希薄溶液(1w/v%以下)を高圧処理することで、100~200ナノメートルの比較的粒径の揃ったナノ粒子が形成した。PVAハイドロゲルの生成メカニズムは、まず分子内での水素結合形成による分子の局所的凝縮と粒子形成、それに引き続く粒子間の架橋からなると考えられている。これによれば、溶液の濃度を下げることによって、粒子間架橋を抑制できれば、分子集合体レベルのサイズの微粒子が得られることが推測される。本研究では、この仮定が正しいことを示すことが出来た。
ヒト組み換えDNA生分解性物質の開発
GFP遺伝子のEPCsへの導入効率は、他のウイルス性ベクターと比し、同等以上導入効率であった。また、VEGF遺伝子導入EPCsの増殖能・遊走能は非遺伝子導入及びGFP遺伝子導入EPCsに比し有意に上昇していた。また、このモデルマウスに静脈内投与したところ、有意な血流の改善とアセチルコリン反応性の血管新生が認められた。
細胞への遺伝子導入法の開発と循環傷害への応用
カチオン化ゼラチンハイドロゲル-遺伝子複合体によるEPCsへの遺伝子導入法を確立した。肺高血圧モデルで、AM遺伝子により機能強化したEPCsの有効性を確認した。カチオン化ゼラチンハイドロゲル?遺伝子複合体による遺伝子導入法は非ウイルス性でかつ導入効率が高いことがわかった。
遺伝子導入細胞を用いた肺高血圧治療法の開発
EPCsはゼラチン/DNA複合体を貪食し、EPCs自身への高率の遺伝子導入(76%)が可能であった。AM遺伝子導入EPCsはEPCs単独の10倍のAMを分泌し、2週間以上発現が持続した。経静脈的に投与したEPCsは肺動脈に付着して血管を形成した。AM遺伝子導入EPCsの移植は、コントロール群に比べて平均肺動脈圧を有意に低下させ(24±2 vs 34±1 mmHg, p<0.001)、生存率を改善させた(p<0.001)。EPCsは虚血や外傷によって血管内皮が障害されると、骨髄から末梢血へ動員され、血管内皮障害部位を感知、遊走して血管を再生させると言われている。血管拡張因子であるAMの遺伝子を導入したEPCsを体内への移植をした結果、肺高血圧ラットの平均肺動脈圧、全肺血管抵抗は著明に低下した。EPCsから分泌されたAMがパラクライン的に血管内皮、平滑筋に働いて、肺血管を拡張させた可能性がある。
遺伝子導入細胞の組織移植用シートへの応用
低温処理により脱着した心筋細胞シートを重層化したところ2枚の細胞シートは同期して拍動し、組織切片にて多数のコネキシン43の発現を認めたことより、重層化心筋細胞シート間の形態的および電気的結合が示された。さらに、4層まで積層化したところ、肉眼レベルで同期して収縮弛緩運動することが確認された。次に、重層化心筋細胞シートをヌードラット皮下組織に移植した結果、ホスト心臓とは異なるグラフト由来の皮膚表面電位が確認された。移植部を切開したところ心筋グラフトが肉眼レベルで自発的に収縮弛緩していた。グラフト内には2?3日のうちに多数の毛細血管網新生が確認された。組織切片上、伸展し横紋を有する心筋細胞ならびに細胞間にはデスモゾ?ムやギャップジャンクションを認め心筋様組織が再構築されていた。さらに長期にわたって観察したところ心筋組織がホストラットの成長に伴いその大きさ、厚さ、電気伝達速度、収縮力の増大を示す結果を得た。最終的には最長1年までその拍動を維持して生存することを確認した。
結論
生体吸収性のカチオン化ゼラチンからなる徐放キャリアとしてハイドロゲルを作製した。この徐放システムは、ハイドロゲルの分解にともなってプラスミドDNAが徐放化し、その発現レベルの増強、徐放化による遺伝子発現期間の延長が可能となった。また、超高圧を用いて超微細粒子を作製する新しいプロセスを開発し、微粒子状の加工に成功した。血管内皮前駆細胞などの貪食能を有する細胞がプラスミドDNAとカチオン化ゼラチン複合体を貪食し、細胞質内でその貪食した遺伝子の発現が見られるとともに、その発現レベルがウイルスベクターを用いた場合と同じレベルまで高まることを見いだした。この複合体を利用した遺伝子治療と細胞治療を評価できる動物モデルを確立を用いて、ゼラチン遺伝子複合体による治療実験を進め、その有効性を確認した。また、温度応答基材を利用した心筋細胞シートの重層化技術を完成し、得られた心筋細胞シートが期待通り、機能していることをin vitroで確認した。今後は、これらの研究成果を基に、微細化したプラスミドDNAを徐放する次世代の遺伝子キャリアシステムを完成すること、加えてその徐放期間をコントロールする。ゼラチン微粒子の超微細化(<1μm)と両親媒性であるPEGとゼラチンを結合させることで血管内投与に耐えうる遺伝子ベクターを開発する。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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