疾患関連遺伝子の機能解明のための実験動物研究資源の基盤整備に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200407A
報告書区分
総括
研究課題名
疾患関連遺伝子の機能解明のための実験動物研究資源の基盤整備に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
松田 潤一郎(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 葛西孫三郎(高知大学)
  • 横山峯介(三菱化学生命科学研究所)
  • 中潟直己(熊本大学)
  • 鈴木治(国立感染症研究所)
  • 小倉淳郎(理化学研究所)
  • 加藤秀樹(浜松医科大学)
  • 山田靖子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトゲノム解析が急速に進展することにより、ゲノム情報に基づいた病気の発症機構の解明、治療法開発、予防医学などのゲノム医学、あるいは画期的な治療薬を開発するなどのゲノム創薬の発展が期待されている。これらを強力に推進するためには個体レベルの研究が必須であり、ヒトのモデルとなる疾患モデル動物を用いた研究が不可欠である。そこで本研究では、疾患モデル動物を中心として、ゲノム医学、ゲノム創薬などの研究にスムーズに有効に利用されるための実験動物研究資源の基盤整備を目的とし、実験動物研究資源の開発、維持管理、胚・配偶子等の保存、供給、遺伝学的及び微生物学的品質管理などに関する総合的研究を行った。また本研究では、マウスのみならずスナネズミ、マストミスなど各種動物についても疾患モデルとして貴重であることから、研究対象として積極的に取り上げた。これらにより、ヒトの疾患関連遺伝子の機能が解明され、予防法、治療法、治療薬などの開発に結びつき、国民の健康、福祉の一層の向上に寄与することが期待される。
研究方法
1)マストミス及びスナネズミ精子の凍結保存法の開発:マストミス及びスナネズミの精巣上体精子を用い、凍害保護剤としての各種糖、卵黄などの検討、凍結融解方法の検討を行った。2)水チャンネル発現による卵母細胞の凍結保存:凍結保存が困難な卵子などの凍結保存法の改良の一環として、卵母細胞にアクアポリン(AQP)3のcRNAを注入して発現させ、グリセロールによる凍結を試みた。3)マウス卵巣凍結保存法の開発:発光タンパク質GFPを全身に発現するトランスジェニックマウスの卵巣をマウス初期胚用の簡易ガラス化法を修正して凍結した。融解卵巣を野生型雌の卵巣嚢内に移植し、雄と交配させ産仔を得た。4)凍結マウス精子の形態的障害に関する研究:マウス精子における凍結融解後の受精能低下の原因を追求する目的で、受精能が極めて低いC57BL/6Jなど3系統の精子を凍結融解し、運動性、電子顕微鏡による形態学的観察、体外受精による受精能の検討を行った。5)卵巣内卵子の有効活用に関する研究:良質な卵子を得るための基礎研究として、マウス(BDF1)幼若期の卵胞発育を利用し、幼若期卵巣から得た卵子を体外成熟・体外受精させるとともに、採取日齢の異なる体外成熟卵子をディファレンシャルディスプレイ(DD)法により解析し差次的発現遺伝子を検索した。6)体細胞核移植クローン技術の開発:マウスクローン作製は、除核卵子へドナー細胞核を注入あるいは電気融合により移植し、卵子のストロンチウムによる活性化後に胚培養および胚移植を行った。ウサギクローン作製はマウスと基本的に同じ方法であるが、除核は卵子の遠心による可視化、活性化はIP3 により行った。7)遺伝性疾患動物の遺伝的品質検査:遺伝性疾患マウスとしてC57BL/6J-ob等6系統を用い、遺伝的背景の検査法ではAkp1等18項目の生化学マーカーを検査し、ob (obese)およびdb (diabetes)遺伝子は特異的なプライマーを用いたPCR法により、またfsn (flaky skin)遺伝子についてはマイクロサテライトDNAマーカーを用いた間接的な遺伝子診断を試みた。8)各種実験動物の血清抗体検査-ELISA法の確立:市販の病原体検出法がない動物種、ウサギ、モルモット、ハムスター、スナネズミのELISA法による抗体検出系を確立することを目的とし、各動物種にワクシニアウイルスを接種し感染血清を得、感染血清または過免疫血清(
ウサギ)を陽性コントロールとして、最適な2次抗体の検討を行った。
結果と考察
1)マストミスとスナネズミの精子凍結には、ラフィノースと卵黄に界面活性剤を添加した保存液が有効であり、凍結融解精子の運動精子率は15-50%程度を示し、活発な運動性を示す精子が得られた。糖としてはラフィノースが有効であり、さらに卵黄を加えることで運動精子率の向上が得られた。2)水を注入した対照区の卵子は、凍結融解後全く生存しなかったのに対し、AQP3 cRNAを注入した卵子は約70%が生存し、体外受精により約40%の卵子が受精していた。AQP3 cRNAを注入することで卵子の耐凍性を向上させることが可能であることが明らかとなった。3)凍結保存した卵巣を移植した11匹のレシピエント雌のうち6匹(54.5%)で妊娠が成立し、合計で38匹の産仔が得られた。このうちの12匹(31.6%)が移植卵巣由来のGFP陽性個体であった。マウス卵巣凍結は、従来は2-3時間かけて緩やかに冷却する緩慢凍結法で実施されたものがほとんどであったが、本実験によって、簡易ガラス化法を修正した方法で、短時間で卵巣の凍結保存が可能であることが示された。4)凍結融解精子において、運動性は調べた3系統においてほぼ一定であったが、電子顕微鏡で観察した形態異常精子の割合が高いC57BL/6Jで体外受精率がもっとも悪かった。凍結融解後の形態異常精子の割合が、C57BL/6J精子で極めて高い値を示したことから、C57BL/6J凍結精子の低い受精能は、凍結融解過程による細胞障害に起因していることが強く示唆された。5)16日齢から24日齢の間で、卵巣卵子の発生能獲得が徐々に起きることが確認された。17日齢由来に比べ24日齢由来卵子でHepatoma-Derived Growth Factor (HDGF)が高い発現を示すことが新たに判明し、良質卵子の採取のためには、こうした成長因子の関与を配慮する必要があると思われた。6)マウスでは、実験条件の改善により体細胞核移植クローン技術の安定化に成功し、またドナーの細胞種と遺伝子背景を選択することより有意に出産効率が改善することを明らかにした。ウサギでは、核移植後の卵子活性化の方法を改良することにより、まだ効率は低いが、初めてクローン胎仔を得ることに成功した。7)遺伝的背景の検査の結果、fsn遺伝子のコンジェニック系統を除いて正しいことが証明され、obおよびdb遺伝子はPCR法により判定可能であった。fsn遺伝子はマイクロサテライトマーカーによる間接的遺伝子診断によりほぼ100%の確率で行え、他の遺伝子についても広く適用できると考えられた。常法により凍結精子1μlから核DNAが効率良く抽出できた。8)ELISA法の2次抗体の検討を行ったところ、ウサギではProtein G、ハムスターでは抗ハムスターIgG抗体、スナネズミでは抗マウスIgG抗体が最適であり、ELISA の条件が確立された。モルモットは今回は陽性血清が得られなかった。市販の病原体検査ELISAキットのない動物種、ウサギ、ハムスター、スナネズミについて、今回の研究によりELISA の条件が確立されたので、市販のHVJやTyzzer菌に対する抗原を用いて陽性血清コントロール無しでも抗体検出が可能であることが示唆された。
結論
本研究では、疾患モデル動物を中心とした実験動物研究資源の基盤整備を目的とし、各種実験動物の胚・配偶子等の保存、新規生殖工学技術の開発、遺伝学的及び微生物学的品質管理などに関する総合的研究を行った。(1)保存に関しては、(a)疾患モデルとして重要であるマストミス及びスナネズミの精子凍結保存法の開発を行った。(b)マウス卵母細胞に水チャンネルを発現させ、耐凍性を向上させることに成功した。(c)マウス卵巣の凍結保存に簡便なガラス化法が有効であることを示した。(d)凍結マウス精子の耐凍性に系統差があり、融解後の受精能と形態的異常精子の割合に強い相関があることを示した。(2)新規生殖工学技術として、(a)良質な卵子を得るために幼若期の卵胞発育の基礎研究を行った。(b)マウスおよびウサギの体細胞クローンの解析および技術改良を行った。(3)遺伝学的及び微生物学的品質管理については、(a)精子細胞の核DNAを用いたマイクロサテライトNAマーカーの検出が可能な
ことを示した。(b)ウサギ、ハムスター、スナネズミの病原体検査法について、2次抗体を選択することにより市販の抗原、抗体を用いてELISA法が可能であることが示唆された。以上によりゲノム医学等のための実験動物研究資源の基盤整備を進める上での各種技術開発、研究が前進した。

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