新規ヒト人工染色体ベクター開発と応用(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200200404A
報告書区分
総括
研究課題名
新規ヒト人工染色体ベクター開発と応用(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
押村 光雄(鳥取大学)
研究分担者(所属機関)
  • 栗政明弘(鳥取大学)
  • 西川光郎(キリンビール(株))
  • 富塚一磨(キリンビール(株))
  • 花岡和則(北里大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト人工染色体(Human Artificial Chromosome: HAC)ベクターは、ヒト染色体を任意に改変しそれ自体を遺伝子導入に利用する。・宿主染色体に挿入されず(宿主遺伝子を破壊しない)、・一定のコピー数で安定に保持され(発現過剰、消失の懸念がない)、・導入可能なDNAの長さの制限がない(な発現制御領域を含む遺伝子や複数遺伝子を同時に導入可能)という特徴から、従来不可能であった多くの応用を可能にすると想像される。一方そのサイズ(数Mb以上)が従来の組み換えDNA技術で扱える範囲を超え、取り扱いが困難なことから、現時点で性能的に満足すべき基本ベクターは存在しない。本研究は既存のHACの問題点を解決した新規HACベクターの作製を目的とし、遺伝子治療、再生医療における将来利用を想定して、動物モデルを用いて実用性を検討する。
研究方法
<HACベクターの構築と挿入型クローニング系の確立>ヒト21番染色体から染色体工学の手法により短腕・長腕遠位を削除し、目的遺伝子のクローニングサイトとしてloxP配列を導入する。Cre/loxPシステムを利用した遺伝子の挿入と発現を検討する。
<HACベクターおよび受容細胞の高度精製法の確立>個体から単離できる有限の造血系幹細胞にHACを移入するには、体外に取り出した造血系幹細胞の造血系再構築能を損なわずに培養、増幅する必要がある。そこでsIL-6RとIL-6の融合タンパクであるFP6を用い、造血幹細胞を無血清培地において効率的に増幅する系を検討した。
<欠損型遺伝病(SCID)に対する遺伝子治療の試み>重症複合免疫不全を示すDNA-PKcs遺伝子欠損マウス由来の細胞に、DNA-PKcs遺伝子をcDNA強制発現ベクターで導入しても極めて少ない発現しか得られない。これは大量発現により増殖が抑制され、低発現の導入細胞のみが生存する為だと考えられる。この問題点を克服するため、テトラサイクリンによる発現誘導が可能なDNA-PKcs遺伝子をHACに組み込む。
<付加的遺伝子治療の試み>蛋白ホルモン欠乏性疾患では患者由来細胞に当該遺伝子を導入し、生体に移植することは有効な治療法となりうる。一方これらホルモンの過剰発現は副作用をもたらすため厳密な発現制御が要求される。そこでコピー数が厳密に維持されるHACベクターにより腎性貧血の治療薬ヒトエリスロポエチン(hEPO)の導入を試みる。
<欠損型遺伝病(DMD)に対する遺伝子治療の試み>デュシャンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子ジストロフィン(DMD)は全長2.4MBに及ぶ巨大な遺伝子である。そのサイズから通常の遺伝子操作で細胞に導入することは困難である。そこでDMD遺伝子領域を、ヒトおよびマウスの細胞において安定なヒト人工染色体HAC-SC20に転座させた。
結果と考察
<HACベクターの構築と挿入型クローニング系の確立>ヒト21番染色体の改変は、相同組み換えを高頻度に起こすニワトリDT40細胞を用いる。21番染色体近位に組換えの標的配列を設定し、薬剤耐性遺伝子、人工テロメア配列ないしloxP配列を含む組換えコンストラクトを作成する。コンストラクトを細胞に導入し、薬剤耐性細胞についてPCR、サザンブロット、FISH解析を行い目的の相同組み換え体を選別する。Cre/loxPシステムによる環状インサートの挿入法はGFP遺伝子を用いて検討する。
<HACベクターおよび受容細胞の高度精製法の確立>初めにsIL-6R、IL-6融合タンパク質FP6をCHO細胞にて発現・精製した。FP6の測定系として、IL-3依存性細胞株Ba/F3にヒトgp130遺伝子を発現させgp130シグナル依存的に増殖する細胞株(Ba/F3-gp130)を樹立した。FP6は濃度依存的にBa/F3-gp130の増殖を刺激し、20ng/mlで最大となった。次にFP6の造血細胞に対する作用を無血清培地でのコロニーアッセイにより検討した。FP6単独では造血細胞の増殖を刺激しないので、FP6の濃度を変えてSCF、TPO、FL等の因子との協調作用を検討した。FP6は100ng/ml以上で有効であり、CFU-GEM、CFU-Blast等の非常に未分化な細胞を生存、維持する活性を有した。さらにQBSF60無血清培地を用いて造血幹細胞の増幅条件を検討した。TPO+SCF+FP6+FLの4サイトカイン存在下でFP6濃度をふり、経時的にコロニー形成細胞の増幅を観察した。FP6 100ng/ml添加時では、1週、2週、3週でコロニー形成細胞数が約18倍、61倍、160倍に増加した。本培養系により造血細胞を効率的に長期にわたり増幅可能であることが示された。
<欠損型遺伝病(SCID)に対する遺伝子治療の試み>PCMVの制御下にrtTAを発現させ、DNA-PKcs遺伝子をtetOの下流に置いてDNA-PKcs遺伝子の発現をテトラサイクリンの投与により操作する。コンストラクトをCre発現ベクターと共にHAC保持CHO細胞に導入し、G418耐性クローンを得る。RT-PCRおよびウエスタンブロットにて、DNA-PKcsの発現を確認する。次にDNA-PKcsを含むΔqHACを、DNA-PKcs欠損チャイニーズハムスター細胞株V3とヒト神経膠腫由来M059J細胞に導入する。上記と同様にDNA-PKcsの発現を確認したのち、放射線感受性の補正を検討する。一方で先にΔqHACを V3細胞とM059J細胞に移入し後にDNA-PKcs遺伝子コンストラクトを導入する。得られたG418耐性クローンについてDNA-PKcsの発現を確認し、放射線感受性の補正を検討する。
<付加的遺伝子治療の試み>HACによるhEPO遺伝子の発現は、CHO細胞で検討する。ΔqHACを保持するCHO細胞にCMVプロモーター/hEPO遺伝子発現ユニットを含むベクターとCre発現ベクターを電気パルス法により導入する。出現したG418、Bsr二重耐性クローンについて、HAC上loxP部位への発現ユニット挿入をPCR法で確認し、さらに培養上清中のhEPO濃度をELISA法により測定する。同じ発現ユニットがランダム挿入されたCHO細胞株も対照として取得し、上清中EPO濃度を測定する。
<欠損型遺伝病(DMD)に対する遺伝子治療の試み>GK遺伝子内約3.2Kbを組み換え標的とし、ピューロマイシン耐性遺伝子および人工テロメア配列を連結したターゲティングベクターを作成した。これをヒトX染色体断片を保持するDT40細胞に導入し、ピューロマイシン耐性細胞を単離し、PCRおよびFISHによりGK遺伝子座遠位の削除を確認した。次にX染色体断片のTCTE1L遺伝子領域にLoxP配列とPGKプロモーターを挿入した。HAC-SC20にはLoxP配列とGFPが挿入されており、両染色体を保持したDT40細胞にCre酵素を発現させるとGFPが再構成される。GFP陽性細胞をFACSで分離し、 PCRおよびFISHで染色体相互転座を確認した。このHAC-SC20-dysをDT40細胞からCHO細胞を経由してマウスES細胞およびヒトDMD患者生検試料から分離した筋芽細胞に導入し、現在までにES細胞への移入に成功した。
結論
ヒト21番染色体の長腕および短腕を削除しloxPサイトを導入した挿入型HACベクターの構築を進めた。HAC受容細胞となる造血幹細胞の増幅系として、FP6を発現・精製する系を確立した。FP6により従来法に比べ造血幹細胞を未分化状態を保って培養可能であった。hEPO遺伝子発現ユニットのHACへの導入を検討した。テトラサイクリン応答性DNA-PKcs遺伝子発現ユニットのHACへの導入を検討した。転座型クローニング系により、DMD遺伝子をHAC-SC20にクローニングした。

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