SLEを中心とした自己免疫疾患感受性遺伝子の解明(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200402A
報告書区分
総括
研究課題名
SLEを中心とした自己免疫疾患感受性遺伝子の解明(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
笹月 健彦(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小池隆夫(北海道大学)
  • 白澤専二(国立国際医療センター研究所)
  • 原田晴仁(国立国際医療センター研究所)
  • 三森明夫(国立国際医療センター)
  • 土屋尚之(東京大学)
  • 中村道子(東邦大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
免疫システムにおける“自己寛容"の破綻した状態としてとらえられる自己免疫病の病因はいまだに明らかにされていない。自己免疫疾患を広義にとらえるとその有病率は約4%にもおよび、ときには致死的経過をとる病態であること、難治性であり慢性の経過をたどること、QOLの著しい低下を伴うことを考慮すると、その病因の解明とそれに立脚した治療法の確立は現代医療に課せられた急務である。本研究では、全身性自己免疫疾患の代表である全身性エリテマトーデス(SLE)を中心とした自己免疫疾患の疾患感受性遺伝子とその遺伝子変異の同定を行い病因を解明し、それに立脚した病態の解明と先駆的診断・治療法の開発に資することを目的とする。この成果は、リウマチ、Graves病、橋本病なども含めた自己免疫疾患に共通の病因の解明にもつながり、国民の保険・福祉・医療の向上に貢献できると考えられる。
研究方法
SLEを中心とした自己免疫疾患患者の末梢血採取とゲノムDNA抽出・保存を行う研究グループとそれらのDNAを利用したゲノム解析による感受性遺伝子同定を行うグループにより研究を効率よく進行させる。
1)SLEの検体収集:
小池(北大)は、厚労省「自己免疫疾患に関する調査研究」班(代表:小池隆夫)の組織を活用することにより、“All Japan"の協力体制のもとに検体の収集に関わるシステムを構築し、検体収集を行い、DNAの抽出・保存を行う。三森および研究協力者の伊藤健司(国際医療センター)は、国立国際医療センターにおいて、SLEの罹患同胞対および弧発例の検体の収集のシステムを樹立し、サンプルの収集を行う。中村(東邦大)は、SLEの大家系の検体の収集を行う。
2)SLE多発家系の解析:
同胞4人中3人がSLEを発症し、患者の父方祖母と母親がはとこである近親婚の大家系の9人に対して全ゲノムに対する約400個のマイクロサテライトマーカーについて笹月・白澤・原田(国際医療センター)は解析を行う。
3)候補遺伝子からの解析:
土屋(東大)は独自に収集したSLE弧発例を利用して、複数の候補遺伝子について相関解析を行い感受性遺伝子の同定を行う。
4)ゲノム解析システムの構築:
笹月・白澤・原田は大量の検体を迅速に解析できるhigh throughputなゲノムシステムを国立国際医療センター研究所に構築する。
5)倫理面への配慮:
これらの研究では、研究対象者に対する人権擁護に関しては最大の配慮を行い、また、研究による不利益・危険性の可能性とそれらを可能な限り排除する方法等についても、十分の説明を行い、理解して頂いたのちにインフォームド・コンセントの書式で各説明事項にチェックと署名をしてもらう。全ての研究機関において、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成13年3月29日:文科省・厚労省・経済産業省告示第1号)にのっとった倫理委員会により、研究は承認されている。
結果と考察
1)SLE検体の収集:全ての研究実施機関において、研究課題について倫理審査委員会で承認を得た。小池(北大)は、厚労省「自己免疫疾患に関する調査研究班」(代表:小池隆夫)およびリウマチ学会員の協力を得て、既に弧発例を30症例/月のペースで収集するシステムを確立した。また、三森(国際医療センター)は、既に70例の弧発例の収集を行った。一方、中村(東邦大)は、近親婚において同胞4人中3人がSLEを発症している大家系で、3世代にわたる9人より末梢血液採取、血液・生化学的データの収集を行った。
2)SLE多発家系の解析:笹月・白澤・原田(国際医療センター)は、患者3人を含む9人の家系構成員に対して、400個のマイクロサテライトマーカーによりgenotypingを開始した。
3)SLE候補遺伝子の解析:土屋(東大)は独自で収集していたSLE弧発例を利用して、免疫系システムに重要な役割を果たすと考えられる複数の遺伝子の解析を開始した。
4)ゲノム解析システムの構築:笹月・白澤・原田(国際医療センター)は、マイクロサテライトマーカーのgenotypingを最大で1万genotyping/日可能な“high-throughputなシステム"を構築した。又、そのゲノムシステム構築の課程において、自己免疫性甲状腺疾患のゲノム解析を行った。
多因子疾患感受性遺伝子を同定するには、検体収集システムの樹立とゲノム解析システムの構築が必要である。検体収集に関しては、小池(北大)により"All Japan"の協力体制の下に弧発例が30例/月で収集できるシステムが樹立されたこと、及び、三森(国際医療センター)が国立国際医療センターにおいて既に70例の弧発例を収集したことは本年度の目標に充分に到達したと考えられる。又、中村(東邦大)がSLE多発家系の3世代にわたる9人からの採血および検査データを収集できたことも今後の解析が期待される。しかしながら、SLE同胞対に関しては未だ情報収集の段階であり、今後の一層の努力が必要となってくる。弧発例のDNA解析では土屋(東大)がCD19とFc?Rとの相関を日本人において報告したが、これからこの研究課題で収集される弧発例での解析で再現性を確認する予定である。
笹月・白澤・原田は国立国際医療センターにマイクロサテライトマーカーのタイピングが1万/日できる“high-though put"なシステムを構築し、既に多発家系の解析をスタートした。このタイピングセンターを樹立したことにより今後の解析を迅速に大量に行えるようになった点で評価できると思われる。
今後は、人種を超えた連鎖解析(多発家系・同胞対)によりSLE感受性遺伝子座として報告されている候補領域に対し、弧発例-対照群により解析をスタートさせる予定であり、その解析結果が待たれる。又、一方で同胞対収集を積極的に行い、罹患同胞対法による連鎖解析により日本人における候補領域の同定が非常に重要になってくると考えられる。3年計画の1年目としては、倫理審査承認後スタートとして考えると、検体収集の確立、及びゲノム解析システムの構築をした点で当初の目的は達成できたと考えられる。2年目から本格的にゲノム解析を開始することになる。
結論
各研究においてヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に基づいて、各倫理審査委員会での承認を得、以下のことを行った。
1)"All Japan"の協力体制が構築され、SLE弧発例に関しては30例/月のペースで検体収集が開始され、罹患同胞対に関しても情報収集と検体収集が開始された。
2)同胞4人中3人がSLEを中心とした自己免疫疾患を発症している近親婚の大家系のゲノム解析を開始した。
3)LIR1、BAFF-Rの相関解析を行った。
4)国立国際医療センター研究所に、DNA解析をhigh-through putで行えるゲノム解析システムが構築された。

公開日・更新日

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更新日
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