性的搾取及び性的虐待被害児童の実態把握及び対策に関する研究

文献情報

文献番号
200200400A
報告書区分
総括
研究課題名
性的搾取及び性的虐待被害児童の実態把握及び対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
北山 秋雄(長野県看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 内 山 絢 子(目白大学)
  • 奥 山 眞紀子(国立育成医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ禁止法」)」の施行(1999.11.1)に伴い、これまでより性被害を受けて保護される被害児童が増加することが考えられる。本研究は、潜在化しやすいといわれている性的被害の実態を司法(警察)、医療、福祉の領域および一般高校生と保護者に対する意識調査から明らかにするとともに、早期発見の方法、初期段階における効果的な支援方法を検討することをとおして、地域における関係諸機関相互の予防協力体制のあり方や初期対応の望ましいあり方に関するガイドラインを作成することを目的としている。
図 研究の枠組み
初期対応の
性的被害児童の実態調査  臨床的・治療的アプローチ      予防対策
一般高校生の潜在的被害
医療機関         性的被害児童の早期発見           行政的対応
福祉施設  →    被害児童に対する望ましい対応   →   教育的対応
警察           関係機関の連携方法           一般向け広報・啓発
女性受刑者       
↓                    ↓          ↓
短期的・長期的影響の調査  性的被害児童の早期発見アセスメント ガイドライン/
初期対応のアセスメント    マニュアルの作成
今年度の主な調査研究:Ⅰ.警察が検挙・補導・保護した少年(非行群)と一般高校生(一般群)の被虐待経験の比較研究 Ⅱ.A民間アルコール専門精神病院に入院歴があり、かつ性的虐待経験のある女性の転帰に関する比較研究
研究方法
調査法:Ⅰ.については、平成12年9月1日から平成12年10月31日までの間に全国の警察で検挙・補導・保護した少年(非行群)782名(男子531名:女子251名)と一般高校生(一般群)209名(男子100名:女子109名)に対して、予め用意した暴力的虐待・心理的虐待・ネグレクト・性的虐待項目に、父親と母親から受けた被虐待経験の有無を自記式で記入してもらった。性的虐待については、両親だけでなく家庭内の被害について報告を求めた。Ⅱについては、診療記録をもとに、性暴力の初被害年齢が18歳未満、A精神病院初診時10歳以上-30歳未満であって、被害状況・家庭環境・親の職業・退院後の心身の状態等が把握可能な25名を、「予後良好」(10名)、「治療中断」(5名)、「予後不良」(10名)の転帰別に分類し、諸要因の比較検討を行った。経過観察期間は5日~3年である。
用語の操作的定義
予後良好:退院後6ヵ月は再入院がなく、精神状態及び身体状態が安定をしている者
治療中断:入院加療が必要にもかかわらず本人の意志で退院した者
予後不良:退院後自殺または入退院をくりかえし、精神状態及び身体状態が安定しない者
結果と考察
Ⅰ.について
1)非行群の少年はいずれの種類の虐待経験も一般高校生に比べ多い
2)非行態様別では、男子の「凶悪粗暴」と「薬物」、女子の「福祉犯被害者」と「薬物」において、
虐待経験が多い
3)非行群の少年は両親の双方から虐待を受けていた
4)福祉犯女子被害者の性的虐待経験の割合は、一般女子高校生に比べて有意に高い
5)福祉犯女子被害者は、両親から「暴力」、「ネグレクト、「心理的」虐待を受けていた
6)小学生時までに性的虐待を受けていた女子の44%が中学生以降に再被害に遭っていた
Ⅱ.について
1)予後不良群と治療中断群では53%が小学校就学前に性暴力の初被害を受けていた
2)予後不良群では同一の加害者からの反復的性暴力被害が多い
3)性暴力が10年以上継続した事例(5名)ではすべて予後不良であった
4)原家族に絶望してもほかに援助を求められる被害者のほうが予後良好であった
「児童買春・児童ポルノ禁止法」の施行(1999.11.1)以来、児童福祉法や都道府県の青少年保護育成条例・迷惑条例による福祉犯被害児童として保護・補導される女子少年が減少傾向にあるにもかかわらず、「児童買春・児童ポルノ禁止法」によって保護される女子少年が増加傾向にある。専門家の中には、比較的法定刑が軽く(児童福祉法の淫行罪は10年、「児童買春・児童ポルノ禁止法」)」では3年)、立証要件も容易な「児童買春・児童ポルノ禁止法」の適用に流れていることを懸念する者もいる。また、「児童買春・児童ポルノ禁止法」では心身に有害な影響を受けた児童の保護 (第15条) とその体制の整備(第16条)を講ずることが明記されているにもかかわらず、保護児童の再被害・再々被害と加害者の再犯事例が増加している。特に、保護児童の再被害を防止するために司法(警察)、医療、福祉、保健領域の連携が焦眉の課題となっている。本研究では性的虐待を受けた児童のうち、およそ40%が小学生までに被害を受けていた。我々が1999年に全国調査したときも15.6%が小学生までに性的被害を受けていた。小学生とその保護者に対して、性的虐待とはどんなことか、性的虐待から身を守るスキルを伝えること、もし被害にあったら、どこの誰に相談すれば安心と安全が得られ適切な援助を受けられるかなどを伝える施策が予防教育や早期治療の視点から求められる。同時に、比較的被害児童を発見しやすい立場にある現場の警察官、養護教諭、主任児童委員等に対する初期対応の教育/指導が必要とされている。
結論
まとめ
「児童買春・児童ポルノ禁止法」)」の施行(1999.11.1)以来、「児童買春・児童ポルノ禁止法」による保護児童及び検挙者数が増加している。また、保護児童の再被害・再々被害と加害者の再犯事例も増加しており、特に、保護児童の再被害を防止するために司法(警察)、医療、福祉、保健領域の連携が焦眉の課題となっている。本研究は、潜在化しやすいといわれている性的被害の実態を司法(警察)、医療、福祉の領域および一般高校生と保護者に対する意識調査から明らかにするとともに、早期発見の方法、初期段階における望ましい初期対応のあり方に関するガイドラインを提示した。本研究の成果が、早期発見の方法、地域における関係諸機関の連携、援助者/専門家がとるべき望ましい初期対応のあり方とともに、今後の被害防止・再被害防止に資するための基礎資料となれば幸いである。
追記:本研究の平成12年度研究報告書(女性受刑者の性的被害の実態等)及び平成13年度研究
報告書(福祉犯被害児童の虐待体験に関する調査、民間アルコール専門精神病院入院患
者の性的被害の実態等)も併せてお読みいただきたい。

公開日・更新日

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